川崎協同病院筋弛緩剤事件
2002年 4月19日 毎日 安楽死 家族の前で気管内チューブ抜く 神奈川県警が捜査
2002年 4月19日 毎日 安楽死 「延命忍びない」と主治医 患者の同意なく
2002年 4月20日 朝日 病院側、組織的もみ消し認める 川崎の「安楽死」事件
2002年 4月20日 毎日 筋弛緩剤投与 事実を知りながら管理会議開かず もみ消し図る
2002年 4月20日 毎日 筋弛緩剤投与 死亡診断書にも「無酸素性脳症」と虚偽 川崎協同病院
2002年 4月20日 毎日 筋弛緩剤投与 際立つ特異な面 搬入から2週間 自発呼吸取戻す
2002年 4月20日 毎日 安楽死 主治医、カルテに病死と記載 神奈川県警事情聴取
2002年 4月21日 共同 「お父さん殺されたの?」 浮かび上がった真相 「安楽死」
2002年 4月21日 毎日 筋弛緩剤投与 「注射2本、父は冷たく」 患者の長男が証言
2002年 4月22日 毎日 筋弛緩剤投与死 致死量の鎮静剤投与確認 川崎市立ち入り
2002年 4月22日 毎日 筋弛緩剤投与死 真相究明委設置も内容公表せず 川崎医療生協
2002年 4月22日 毎日 筋弛緩剤投与死 遺族への補償費減額の可能性
2002年 4月22日 毎日 筋弛緩剤投与死 前院長が関与否定
2002年 4月23日 毎日 筋弛緩剤投与 病状を実態以上に深刻に説明 主治医が家族
2002年 4月23日 毎日 筋弛緩剤投与 「家族の希望」 弁護士に女性医師話す
2002年 4月23日 毎日 筋弛緩事件 ずさんな薬剤管理 ICUからの持ち出し記録
2002年 4月24日 毎日 筋弛緩剤投与 同じ女性医師ら、別の医療事故訴訟で被告に
2002年 4月25日 共同 医療事故対策の強化要請 弛緩剤事件で神奈川県
2002年 5月08日 毎日 川崎筋弛緩剤事件 「家族の希望」か、「医師の暴走」か
2002年 5月11日 共同 死との因果関係が焦点に 川崎の筋弛緩剤、医師立件めぐる捜査
2002年 5月14日 読売 川崎の筋弛緩剤、医師指示受け経験浅い看護師が注射
2002年 5月15日 読売 筋弛緩剤の女医、カルテに「汚れないうちに…」
2002年 5月15日 毎日 筋弛緩剤事件 診療明細に薬記載なし 主治医が隠す?
2002年 5月18日 共同 積極治療せず 主治医、当初から絶望視 川崎協同病院
2002年 5月25日 共同 医療生協理事長らを指導 筋弛緩剤事件で神奈川県
2002年 5月28日 共同 死亡患者数を病院に質問 筋弛緩剤事件で川崎市
2002年 6月17日 毎日 筋弛緩剤投与 経験浅い准看護士が静脈注射
2002年 6月17日 読売 川崎の筋弛緩剤事件、病院が脳死状態否定の中間報告
2002年 6月17日 朝日 「家族への説明不十分」と中間報告書 川崎の「安楽死」
2002年 6月18日 朝日 主治医の独断止められず 川崎「安楽死」調査委中間報告
2002年 8月03日 共同 院長と副院長が引責辞任 川崎の筋弛緩剤事件
2002年 8月05日 共同 患者死なせるため管抜く 内部調査委が最終報告 川崎協同病院
2002年 8月05日 読売 川崎筋弛緩剤事件「許される安楽死でない」外部評価委
2002年 8月21日 共同 主治医、独りよがりの暴走か 「気持ち分かったつもり」
2002年 8月21日 共同 抜管が死因の前提条件 川崎の筋弛緩剤事件
2002年 8月21日 共同 殺人で主治医を立件へ 神奈川県警、川崎の筋弛緩剤事件
2002年 8月22日 読売 川崎の筋弛緩剤事件、医師指示で「家族希望」と記載
2002年 9月10日 朝日 主治医を事情聴取 川崎「安楽死」事件
2002年12月04日 毎日 筋弛緩剤投与 問われる重篤患者への医療のあり方
2002年12月04日 毎日 筋弛緩剤投与 女性医師を殺人容疑で逮捕 神奈川県警
2002年12月05日 毎日 筋弛緩剤投与 「最期の説明」聞いてない 容疑者の主張否定
2002年12月05日 毎日 筋弛緩剤投与 死亡患者のカルテの主な内容判明
2002年12月05日 毎日 筋弛緩剤投与 主治医逮捕で医療関係者に衝撃
2002年12月06日 毎日 筋弛緩剤投与 「当時は犯罪性の認識なかった」 元院長が会見
2002年12月07日 毎日 筋弛緩剤投与 容疑者、薬剤投与量も争う構え
2002年12月12日 朝日 「家族からの要求」 筋弛緩剤投与の医師が改めて主張
2002年12月21日 共同 川崎医療生協が再生プラン 筋弛緩剤事件受け
2002年12月26日 毎日 筋弛緩剤投与事件 主治医を殺人罪で起訴 横浜地検
2002年12月26日 共同 真相解明の舞台法廷へ 捜査と食い違う被告供述
2002年12月26日 朝日 「本人の意思確認せず」元主治医供述 川崎協同病院事件
2002年12月27日 共同 殺人で起訴の医師保釈 川崎の筋弛緩剤事件
2003年 3月27日 朝日 川崎協同病院事件初公判 被告、殺意を否認
*以上
http://www4.airnet.ne.jp/abe/news/kanagawa.htmlより
◆2002/12/04 川崎の筋弛緩剤事件、女医を逮捕
『読売新聞』2002/12/04 他
◆2002/12/05 <社説>筋弛緩剤事件 何が医師の独断を許したか
『毎日新聞』
◆2002/12/06 社説(2)[筋弛緩剤事件]「医師の独断を許した医療の体質」
『読売新聞』2002/12/06
◆2002/12/06 医師逮捕―独断は医療ではない
『朝日新聞』
◆2003/03/18 川崎協同病院が安楽死の指針
NHKニュース速報
……
◆2005/03/25 「殺人罪認め医師に有罪=川崎の筋弛緩剤投与事件」
共同通信 他
◆2005/03/25 「<川崎筋弛緩剤事件>有罪判決の元医師が控訴」
毎日新聞ニュース速報
◆2007/02/28
「家族の治療中止要請認定 川崎協同病院事件で高裁」(別ファイルに掲載)
2007年02月28日 19:59 共同通信
http://www.kitanippon.co.jp/contents/kyodonews/20070228/73736.html
2007/03/01 「川崎・筋弛緩剤事件:殺人は認め減刑 「治療中止、家族の要請」――東京高裁判決」
『毎日新聞』2007年3月1日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20070301ddm041040053000c.html
◆矢沢 �f治(昇治)編 20081114
『殺人罪に問われた医師 川崎協同病院事件――終末期医療と刑事責任』,現代人文社,202p. ISBN-10: 4877983937 ISBN-13: 978-4877983932
[amazon]/
[kinokuniya] ※ et. et-2008
◆2002/12/04 川崎の筋弛緩剤事件、女医を逮捕
読売新聞 社会ニュース - 12月4日(水)14時54分
「川崎協同病院(川崎市川崎区)に入院中の男性患者(当時58歳)が1998年、筋弛緩(しかん)剤などを投与され死亡した事件で、神奈川県警捜査1課は4日午後、主治医だった須田セツ子容疑者(48)を殺人容疑で逮捕した。
県警は、当時の看護記録やカルテ、看護師らの証言などから、男性患者には余命があったにもかかわらず、須田容疑者が気管内チューブを抜いたこと(抜管)で呼吸困難に陥らせ、最終的に筋弛緩剤を投与し死亡させたと判断。家族へのインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)もなかったとみて動機などを追及する。
調べによると、須田容疑者は98年11月16日午後6時過ぎ、気管支ぜんそくの発作で入院中の男性患者に挿入されていた気管内チューブを抜き取ったうえ、鎮静剤、筋弛緩剤を立て続けに投与、約1時間後に死亡させた疑い。
男性患者は同月2日、気管支ぜんそくの発作で同病院に運ばれ、一時、心肺停止状態に陥った。心肺蘇生(そせい)を施したところ、心拍は再開したが、その後も重度の意識障害が続いていた。
須田容疑者は同月8日、家族に「9割9分9厘は脳死状態」と説明。抜管前、「チューブを抜くと最期になる。家族の皆さんの確認が必要」と家族の希望を確認した上で抜管し、筋弛緩剤の投与を行ったとしていた。須田容疑者はその理由について、県警の任意の事情聴取に対し、「筋弛緩剤の投与は苦しそうな呼吸を楽にするため」「死なせることが目的ではなかった」と話していた。」
[12月4日14時54分更新]
◆川崎の筋弛緩剤事件、女性主治医を殺人容疑で逮捕
5日(木)2時4分
川崎協同病院(川崎市川崎区)に入院中の男性患者(当時58歳)が1998年11月、筋弛緩(しかん)剤などを投与され死亡した事件で、神奈川県警捜査1課は4日、主治医だった須田セツ子容疑者(48)を殺人容疑で逮捕した。県警は、当時の看護記録やカルテ、看護師らの証言などから、須田容疑者が気管内チューブを抜いたこと(抜管)で男性患者を呼吸困難に陥らせ、最終的に筋弛緩剤を投与して死亡させたと判断した。家族へのインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)もなかったとみている。須田容疑者は容疑について、「だいぶ違う」と否認しているという。
医師が医療行為を逸脱したとして殺人容疑で逮捕されるのは極めて異例。
調べによると、須田容疑者は同月16日午後5時半ごろ、気管支ぜんそくの発作で入院中の男性患者に挿入されていた気管内チューブを抜き取ったうえ、鎮静剤、筋弛緩剤を立て続けに投与し、同日午後7時10分ごろ、筋弛緩剤の投与による呼吸筋弛緩で窒息死させた疑い。男性患者は同月2日、気管支ぜんそくの発作で同病院に運ばれ、一時は心肺停止状態に陥った。心肺蘇生(そせい)で心拍は再開したが、その後も重度の意識障害が続いていた。
これについて、須田容疑者は同月8日、家族に「9割9分9厘は脳死状態」と説明。抜管前、「チューブを抜くと最期になる。家族の皆さんの確認が必要」と家族の希望を確認したうえで抜管し、筋弛緩剤を投与したとしていた。その理由について、須田容疑者は県警の任意の事情聴取に「筋弛緩剤の投与は苦しそうな呼吸を楽にするため」「死なせることが目的でなかった」と説明していた。
しかし、県警が当時の担当看護師らから事情聴取するとともに、専門医に依頼して看護記録やカルテなどを鑑定した結果、〈1〉男性患者は入院後、自発呼吸が可能なまでに回復しており、自発呼吸をしている状態であれば脳死とはいえない〈2〉家族は、抜管や筋弛緩剤の投与でどうなるか「説明を受けていない」と話している――ことなどが判明。さらに、医師ならば抜管したまま筋弛緩剤を投与することで患者が死ぬことは当然予見できたとして殺意を認定した。
東海大病院の医師が、末期がん患者に塩化カリウムなどを注射して殺人罪に問われた事件で、横浜地裁は95年、安楽死が許容される4要件を示したが、県警は、今回のケースは「安楽死」のいずれの要件にも当たらないとしている。
◆筋弛緩剤 脳の中枢神経からの刺激を遮断し、筋肉の収縮を抑制する効果がある。手術の麻酔時や気管内に管を挿入する際などに使われるが、用法を間違えると心停止や呼吸停止を起こす恐れがある。(読売新聞)
[12月5日2時4分更新]
◆主治医を殺人容疑で逮捕=患者に筋弛緩剤投与−川崎協同病院事件で県警
川崎市川崎区の川崎協同病院で1998年、入院中の男性患者=当時(58)=が筋弛緩(しかん)剤を投与され死亡した事件で、神奈川県警捜査1課などは4日午後、殺人容疑で主治医だった医師須田セツ子容疑者(48)を逮捕し、同病院を家宅捜索した。
調べに対し、須田容疑者は「(逮捕容疑は)いろいろ違うところがある」と否認。捜査1課は川崎臨港署に捜査本部を設置、動機などを本格追及する。
調べによると、須田容疑者は98年11月16日午後5時半ごろ、重い気管支ぜんそく発作によるこん睡状態だった男性患者に対し、殺意を持ち、自発呼吸を確保する気管支内に入れたチューブを抜いた上、鎮静剤を投与。さらに、呼吸が停止しなかったことから、筋弛緩剤を投与し、同7時10分ごろに呼吸筋弛緩・窒息で死亡させた疑い。(時事通信)[12月4日20時5分更新]
◆12月5日(木)6時5分
「殺意」の解明など急ぐ=主治医を本格追及−川崎安楽死で神奈川県警
川崎市川崎区の川崎協同病院で1998年、入院中の男性患者=当時(58)=が筋弛緩(しかん)剤を投与され死亡した事件で、神奈川県警川崎臨港署捜査本部は5日、殺人容疑で逮捕した元主治医の医師須田セツ子容疑者(48)に対し、殺意を持った経緯などについて本格的な追及を開始した。
須田容疑者は逮捕直後の調べに対し、男性患者の気管支内に挿入されたチューブを抜いた上、鎮静剤や筋弛緩剤を投与したことは認めたが、逮捕容疑については「だいぶ違うところがある」と否認している。」(時事通信)[12月5日6時5分更新]
「遺族と賠償交渉を進める」=川崎協同病院院長が会見
「須田セツ子容疑者(48)の逮捕を受け、川崎市内の川崎協同病院の佐々木秀樹院長は4日、同市役所で記者会見し、「事件を長期間公表せず、遺族の不安を増大させた病院の責任は大きい。大変申し訳ない」と述べるとともに、「遺族側への賠償交渉を進めていきたい」と話した。
同院長によると、賠償交渉ではこれまで遺族から額の提示はないが、同容疑者の逮捕を受け、今後はより具体的に賠償内容を詰めていく方針。」(時事通信)
[12月4日22時5分更新
◆<筋弛緩剤投与>女性医師を殺人容疑で逮捕 神奈川県警
川崎協同病院(川崎市川崎区)で98年11月、気管支ぜんそくで入院中の男性患者(当時58歳)が気管内チューブを抜かれた後、筋弛緩(しかん)剤を投与され死亡した事件で、神奈川県警捜査1課と川崎臨港署は4日、主治医だった横浜市港北区太尾町、医師、須田セツ子容疑者(48)を殺人容疑で逮捕した。須田容疑者はこれまでの事情聴取で、一連の行為について「患者の家族の希望を受けての医療行為」と主張し、刑事責任を否定していたが、県警は「死に至らしめる意図的な行為」として違法性があると判断した。
県警は、事件が発覚した今年4月から、任意提出を受けたカルテなどを分析する一方、遺族や病院関係者から事情聴取を進めてきた。また須田容疑者に対する数回の事情聴取で、遺族側の言い分との食い違いを把握。自らの正当性を主張する態度なども踏まえ、強制捜査が必要と判断した。
調べでは、須田容疑者は98年11月16日午後5時半ごろ、同病院の病室で、家族立ち会いのもとで患者の気管内チューブを抜管。呼吸困難に陥り苦しみ始めた患者に鎮静剤「ドルミカム」「セルシン」と筋弛緩剤「ミオブロック」を静脈注射し、間もなく死亡させた疑い。県警は、患者に自発呼吸があり死期が迫った状態ではなかったことなどから、患者の死は安楽死に当たらないと断定した。
逮捕後、須田容疑者は容疑について「内容がだいぶ違う」と供述しているという。
須田容疑者はこれまでの事情聴取に「気管内チューブを抜いてほしいという患者の家族からの要望を受けて、医師として重い決断をし、治療を続けることを断念した」などと供述していた。一方、患者の遺族は「患者を死なせてほしいと頼んだことはない」と証言している。
鑑定結果から、患者への筋弛緩剤投与で呼吸筋が弛緩し、呼吸停止になったのが直接の死因とみられるが、県警は、気管内チューブを抜いた時点で始まる一連の行為が殺人容疑に当たるとみている。県警は、須田容疑者が家族との病状や治療方針についてのやり取りの結果、なぜチューブ抜管など死に至る行為をしたのか、動機を追及する。
須田容疑者は、今年2月に川崎協同病院を依願退職し、その後、横浜市港北区で診療所を開業していた。」【渡辺創】(毎日新聞)[12月4日20時25分更新]
◆<筋弛緩剤投与>川崎協同病院の院長が会見「悲しい気持ちだ」
「川崎協同病院(川崎市川崎区)の医師、須田セツ子容疑者(48)が殺人容疑で逮捕された事件で、同病院の佐々木秀樹院長は4日夜、記者会見した。須田容疑者の逮捕について「2年半近く同じ病院で仕事をした人が、こういうことになったのは残念。悲しい気持ちです」と伏し目がちに答えた。」(毎日新聞)[12月4日21時46分更新
◆2002/12/05 須田容疑者、同意なく「余命奪った」と断定
読売新聞ニュース速報
「男性患者(当時58歳)の死は治療行為の結果ではなく、余命を奪った殺人行為にあたる――。川崎協同病院(川崎市川崎区)での筋弛緩(しかん)剤投与事件で、神奈川県警は4日、主治医だった須田セツ子容疑者(48)を殺人容疑での逮捕に踏み切った。遺体がなく、関係者の主張が食い違う中、県警は、数少ない客観証拠を積み上げ、当時の病室の様子や死因を特定していった。
男性が死亡したのは1998年11月。死亡診断書に書かれた死因は「気管支ぜんそくの重積発作による無酸素性脳症」。遺体は解剖されず、火葬された。
今年4月、病院が内部調査を公表して事件が発覚した時には遺体がなく、捜査のポイントは〈1〉死因をどう特定するか〈2〉死因と筋弛緩剤投与との因果関係をどう裏付けるか〈3〉殺害したとすれば動機は何か――だった。
「遺体なき捜査」にあたり、県警は、医療過誤事件などを手がける捜査1課特殊班の捜査員らを投入し、担当看護師らの証言、カルテや看護記録などを詳細に検討。当時の病室内の状況を再現して現場検証するとともに、意識障害などの症例に詳しい専門医に死因などの鑑定を依頼した。
須田容疑者は男性の家族に「9割9分9厘、脳死状態」と説明したが、鑑定結果は男性が自発呼吸していた点を挙げ、「(脳死と判断する)客観的な検査もしておらず、死が切迫していたと断定できる状況にはなかった」と指摘。気道確保のための気管内チューブを抜いた行為(抜管)についても、「正当性はなく、治療の断念」とした。
さらに、抜管後に男性の呼吸が荒くなり、再挿管などの必要な措置を行わず、筋弛緩剤を投与した点を重視。「投与によって呼吸を完全に停止させ、窒息死させた」と結論づけた。
県警は、抜管を「殺害行為の着手」と判断。その理由が殺人の立証に不可欠な動機につながるとみて、9月に須田容疑者から3回にわたって任意で事情聴取した。須田容疑者は「男性の家族から頼まれた」「抜管は正当な医療行為」と主張したが、「抜管を頼んだことはない」とする男性の家族の説明も一貫していた。
県警が、須田容疑者に詳しい説明を求めたところ、矛盾点も浮上した。その一つが看護記録。「ファミリー(妻)より希望あり。チューブを抜管してほしいとのこと」と書いた看護師は家族から直接、この言葉を聞いておらず、須田容疑者が指示して記入させていたことが判明した。
県警は須田容疑者が家族に十分な説明をしていなかった疑いが強いとみて、動機の解明に全力を挙げる。
◆「言い出したこと曲げない」と同僚医師◆
「優しく、面倒見のいい先生」と診療所で評判だった須田容疑者。余命のあった患者をなぜ、死亡させたのか。
1979年に横浜市立大学医学部を卒業した須田容疑者は、川崎協同病院で呼吸器内科部長などを務め、公害病患者やぜんそく患者などの治療に数多くあたった。今年2月に依願退職した後は、横浜市港北区に診療所を開業。所長として循環器、小児、内科の診療を続けてきた。
女性看護師の1人は「患者の前では不安や不機嫌な様子を見せず、明るく振る舞っていました」。近くの自営業男性(60)も「治療や薬の内容を1つ1つ説明してくれた。事件を起こした人とは思えない」と話す。
しかし、川崎協同病院の男性医師の評価は「チームの一員としては組みづらい医師だった」と異なる。内科の研修医を指導した際、須田容疑者は数日のうちに「あの子はダメ」「この子は優秀だ」と決め付け、同僚の注意を聞き入れる様子はなかったという。男性医師は「即断即決で、1度言い出したことはまず曲げない。この性格が患者にとっていい方向に働くこともあったが、取り返しのつかないことをしでかす危険性はあった」と指摘した。
須田容疑者はこの日、午前中だけの診察を終えたところを捜査員に任意同行を求められ、車で川崎臨港署へ。車内で逮捕状を執行された際も、落ち着いた様子だったという。
◆病院が「おわび」◆
川崎協同病院(佐々木秀樹院長)は4日、外来患者らに向け、「患者さまに医療に対する不安、不信を呼び起こしたことについて、改めておわびします」「病院の欠点を克服し、人権を尊重する医療を実践するため、職員一丸で取り組む」とのコメントを配った。
また、須田容疑者の弁護団の岡田隆志・主任弁護士は事務所を通じ、「事実関係が分からず、今は何も言えない」とコメントした。
◆終末医療のあり方に、一石◆
「医師の個別の判断や死生観、経験をベースに終末期医療が行われていた」。川崎協同病院が事件発覚を受けて設けた「内部評価委員会」(座長・佐々木秀樹院長)がまとめた最終報告書は、事件が起きた背景の一つをこう結論づけた。今回の医師逮捕は、終末期医療のあり方にも大きな一石を投じそうだ。
安楽死は、日本では医療行為として認められていない。ただ、例外的に容認される場合として、1991年4月、東海大病院(神奈川県伊勢原市)で末期がん患者に医師が塩化カリウムなどを注射して死亡させた事件で横浜地裁が示した4要件があるだけだ。〈1〉耐え難い苦痛がある〈2〉死期が迫っている〈3〉苦痛を緩和する方法がない〈4〉患者本人の意思が明らか――の4点。
この裁判に証人出廷した星野一正・京大名誉教授(生命倫理学)は、「須田容疑者にそうした医療の法的な限界に対して誤解があったのではないか。ほかの医者に意見を聞くべきで、自分だけの判断でやりすぎた」。『安楽死と尊厳死』などの著書がある中山研一・京大名誉教授(刑法)は、「なぜ医師がそのような(法的限界を越える)行動をとったのかを明らかにしなければならない」と話す。
一方、「こういった事件はどこでも起きうる」と指摘する医師もいる。末期患者の苦痛緩和などに取り組む山王病院(千葉市)の水口公信医師は、「終末期医療は結局、各医師の判断に委ねているのが、わが国の病院の現状だ」という。東海大病院事件でも、同病院は「チーム医療が機能せず、『治療の中止』について主治医の独断専行を許した」と分析した。
気管内チューブを抜くなどの「治療の中止」については、医療行為と見なして刑事事件にはならないとの考え方が医療現場では現在も一般的。上智大の町野朔(さく)教授(刑法、医事法)は、「今回の逮捕は医学界へのメッセージなのでは。(『治療の中止』など)一連の行為で、何が殺人行為として認定され、起訴されるか注目すべきだ」と話している。
[2002-12-05-01:02]
◆2002/12/06 社説(2)[筋弛緩剤事件]「医師の独断を許した医療の体質」
『読売新聞』2002/12/06
医療の原点は患者の命を守ることだ。それができなければ、医療への信頼は失われる。
川崎市の川崎協同病院で四年前に起きた筋弛緩(しかん)剤投与事件をめぐり、主治医だった女性医師が殺人容疑で逮捕された。
警察は、医師が医療行為を逸脱して、患者を死に至らしめたとしている。
「優しく面倒見もいい」とされた医師がなぜ、治療を放棄し、暴走したのか。医療現場のチェック体制にどんな問題があったのか。解明すべき点は多い。
医療界も、単に「一人の医師の暴走」と片付けてはならない。終末期医療に対する重大な警鐘と受け止め、医療現場の改善に生かしてもらいたい。
今回の事件では、どこまでが医療行為として許されるかが問われている。
医師は家族に説明して、患者の呼吸を確保する気管内チューブを抜き、筋弛緩剤を投与した、としている。「正当な医療行為」との主張だ。
だが、医師であれば、抜管した上で筋弛緩剤を投与すると、患者が死に至ることは予見できたはずだ。また、家族は十分な説明を受けていないとしている。
そもそも、日本では安楽死は医療行為とは認められていない。例外的に容認されるのは、東海大病院の事件で横浜地裁が示した〈1〉耐え難い苦痛がある〈2〉死期が迫っている〈3〉苦痛を緩和する方法がない〈4〉患者本人の意思が明らかである――の四条件が満たされた場合だ。
今回のケースは、患者の意思確認がなく、死期が迫っていたとも言い難い。安楽死に当たらないのは明らかである。
医師の暴走を許した病院の責任も重大である。終末期医療では、複数の医師や看護師らが参加するチーム医療が基本とされる。だが、肝心のチーム医療は軽視されがちだった。
他の医療従事者に相談していれば、筋弛緩剤の投与も避けられたに違いない。一人の医師の独断が何のチェックも受けずに通ってしまう体質が問題なのだ。
チーム医療の欠如は、この病院だけではない。日本では「医師の裁量」が強調され過ぎてきた。医師を頂点としたヒエラルキーや医師相互の連携の希薄さが、医療現場の風通しを悪くしている。
「医師の裁量」は、きちんとした医療技術と医療倫理が土台にあってこそだ。その土台を欠いた「医師の裁量」は、身勝手な「医師の独断」に過ぎない。
事件の背景には終末期医療が個々の医師の判断に委ねられている現実がある。医師の独断を防ぐには、患者・家族を尊重した終末期医療のあり方について、議論を深めることも必要だ。
[2002-12-05-22:12]
◆2002/12/05 <社説>筋弛緩剤事件 何が医師の独断を許したか
『毎日新聞』
「98年11月に川崎協同病院(川崎市)で起きた筋弛緩(しかん)剤投与事件で、主治医だった女性医師が4日、神奈川県警に殺人容疑で逮捕された。県警は医師の独断で「患者を意図的に死に至らせる行為をした」疑いが強いとみている。どうして医師の独断が見逃されたのか。病院側に責任はないのか。背景に何があったのかまで解明する捜査を期待したい。
死亡したのは、気管支ぜんそくで入院していた当時58歳の男性患者だ。調べによると、医師は気道確保のための気管内チューブを抜き取り、鎮静剤と筋弛緩剤を投与、患者は死亡している。
医師は調べに対し、「チューブを抜いてほしいという患者家族からの要望を受けて、治療を続けることを断念した」と述べているという。しかし、患者の遺族は「死なせてほしいと頼んだことはない」と否定している。
専門家の鑑定で、直接の死因は筋弛緩剤の投与による呼吸停止と判明。県警は患者には自発呼吸があり、死期は迫っていなかったと判断し、逮捕に踏み切った。
医師は「安楽死」と主張したいのだろうか。もちろん、わが国では、安楽死は医療行為として認められていない。ただ、神奈川県の東海大医学部付属病院の事件で、横浜地裁は95年の有罪判決で、安楽死を「緊急避難」ととらえ、違法性が問われない要件として、次の4点をあげている。
(1)患者に死期が迫っている(2)耐え難い苦痛がある(3)苦痛を和らげる方法がない(4)患者の明らかな意思表示があった。逮捕された医師の措置は、四つの要件のどれにも当てはまらない。
今回のできごとは当初から、死期の近い患者に延命治療をしない「尊厳死」や「事故」ではなく、「事件」の疑いが濃かった。病院も調査報告書で「本件は医療事故ではなく、重大な医療倫理上の問題と法的な問題を有する事案であった」と指摘している。
海外では、オランダが安楽死を合法化している。しかし厳しい条件をつけている。最も重視しているのは、患者の意思の確認とともに、主治医が判断する時、他の医師との相談を義務づけていることだ。判断の客観性を担保するためで、主治医の独断は許されていない。逮捕された医師は、重大な過ちを犯したことになる。
終末期医療は欧米では、チーム医療が常識になっている。主治医が受けるプレッシャーが大きく、これを支え、冷静な判断ができるようにする意味もある。日本の病院では、この体制が大きく遅れている。この遅れを象徴するような事件でもある。
川崎協同病院は事件発生当時、医師に注意しただけで、隠していた。内部告発でようやく調査をし、明らかにしたのは今年の4月である。病院の隠ぺい体質は、医療事故や事件を起こした多くの医療機関に共通するものだ。
こうした体質が、医師の独断を許した大きな要因ではないか。今回の逮捕を、他の医療機関は警鐘と受け止めてほしい。
[2002-12-05-01:41]
◆2002/12/06 医師逮捕―独断は医療ではない
『朝日新聞』
川崎協同病院にぜんそく発作で入院した患者に対し、呼吸を助ける管を気管から抜いたうえ鎮静剤と筋弛緩(しかん)剤を投与して死なせた疑いで主治医が逮捕された。
4年前に起きたこの事件は、今年4月に病院側から公表された。神奈川県警は殺人の疑いで任意捜査を続けてきた。
だが、主治医が「家族の要請を受けた正当な医療行為だ」と容疑を否認しているため、強制捜査に踏み切った。
東京女子医大病院の心臓手術ミス事件で医師2人を逮捕したのに続き、医療事件に対する警察の積極性が目立ってきた。
立証の難しさを理由に警察は従来、医療の世界にあまり立ち入らなかった。医療を例外視しない姿勢は評価したい。
病院がまとめた調査報告によれば、58歳の患者は呼吸停止状態で病院にかつぎこまれた。だが、その後容体は持ち直し、呼吸も戻ってきていた。主治医は「家族が管を抜くよう希望した」と診療録に記載している。だが、病院側の聞き取り調査に対し、家族は「管を抜くことがどういうことか知らなかった」などと答えている。
主治医から家族にどんな説明があったのかは記録がない。ただ、家族が理解できるような十分な説明はなく、熟慮する時間もなかったことが報告からうかがえる。
そうした中、主治医はほかの医師に相談もせず、死に直結する行為に踏み切った。こんな独断を「正当な医療行為」と言われては、患者も家族もやりきれない。
意識のない患者がスパゲティのような多くの管につながれて生かされる。回復の見込みが立たない延命治療は見るに忍びない、と感じる人は少なくない。半面、千に一つの可能性といわれても回復にかける人もいるだろう。
終末期の医療をめぐっては、何が倫理的で何が非倫理的なのか、簡単には答えが出ない。例えば、オランダは安楽死を認める国として知られている。認める場合の要件は、法律で定められている。
日本には法律はなく、安楽死を認めない考えが主流だ。しかし、95年の「東海大安楽死事件」判決で、横浜地裁は例外的に安楽死が認められる要件を示した。
「死期が迫っている」「耐え難い肉体的苦痛がある」「苦痛を除く手を尽くした」「患者本人の意思が明確に示されている」の四つである。
オランダでは、「医師が詳しく説明する」や「ほかの1人以上の医師と協議する」も要件に入っている。これらの要件によって、医師が独断に走ることを防ごうとしているのである。
厚生労働省は、終末期医療のあり方についての検討会を設け、大規模な意識調査をもとに来年度内に報告書をまとめる。
国民意識の変化を把握するのは大事だ。しかし、医師たちに独断を排するよう意識の変化を促すことこそ急を要する。」
[2002-12-06-00:07]
◆2003/03/18 川崎協同病院が安楽死の指針
NHKニュース速報
「筋弛緩剤事件が起きた川崎市の川崎協同病院は、末期ガンなどの患者が治療の打ち切りを希望した場合、回復の見込みがないと複数の医師が診断することや本人の意思を確認したことなどの条件を満せば「安楽死」と定義付けた上で治療の打ち切りを認める指針をまとめました。
川崎市の川崎協同病院は、医師の須田セツ子(スダセツコ)被告(四十八)が患者に筋弛緩剤を投与し殺人の罪に問われた事件を受けて、倫理委員会を設け去年十二月に再発防止策をまとめたのに続いて、終末期の医療のあり方についても指針をまとめました。
それによりますと、末期ガンなどで自ら死を希望する患者に薬物を投与し死亡させる行為を「積極的安楽死」と定義し、法律的にも倫理的にも問題があるとして禁止することになりました。
これに対して死を希望する患者に対する延命治療をやめる行為を「消極的安楽死」、苦痛を取り除くため薬の投与だけ続ける行為を「間接的安楽死」と定義し、回復の見通しがないと複数の医師が診断することや患者本人の文書による意思確認や家族の十分な理解を得ることなど十一の項目が守られていることを条件に認めるとしています。
このうち患者の人工呼吸器を停止する時と呼吸を助けるために気管に通している管を抜く時には倫理委員会に申請し、病院長の許可が必要だと定めています。
今回の指針について患者の尊厳や安楽死の問題に詳しい京都大学医学部の星野一正(ホシノカズマサ)名誉教授は「安楽死が我が国の法律で認められておらず、その定義についても議論がある中で医療機関が実施を認める形の指針をまとめるのは行き過ぎではないかと思う」と話しています。」[2003-03-18-11:11]
◆2005/03/25 「殺人罪認め医師に有罪=川崎の筋弛緩剤投与事件」
共同通信 =差替 [ 03月25日 10時31分 ]
http://www.excite.co.jp/News/main/20050325103157/Kyodo_20050325a006010s20050325103208.html
「川崎市の川崎協同病院で1998年、昏睡(こんすい)状態の男性患者=当時(58)=が気管内チューブを抜かれた後に筋弛緩(しかん)剤を投与され死亡した事件で、殺人罪に問われた元主治医の医師須田セツ子被告(50)に、横浜地裁(広瀬健二裁判長)は25日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。
終末期医療をめぐり医師の刑事責任が裁かれるのは、1995年に1審の有罪が確定した東海大「安楽死」事件以来。
主な争点は(1)患者は死が差し迫った末期状態だったか(2)筋弛緩剤投与の量や死亡との因果関係(3)家族が延命治療中止を要請したか−−など。」(全文)
◆2005/03/25 「殺害を認定、須田医師に有罪判決 川崎協同病院事件」
『朝日新聞』
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/shakai/20050325/K2005032501200.html
「ぜんそくの重症発作で入院していた男性患者(当時58)の気管内チューブを抜いたうえ、筋弛緩(しかん)剤を投与して死なせたとして殺人罪に問われた川崎協同病院の元呼吸器内科部長・須田セツ子被告(50)に対し、横浜地裁は25日、懲役3年執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。広瀬健二裁判長は「家族の依頼がないのに抜管し、患者が苦しみ出したため筋弛緩剤で窒息死させようと決意した」と殺人罪の成立を認定。「医師として許される一線を逸脱した」と述べた。須田医師側は控訴した。
執行猶予は判決主文が懲役3年までの場合に最長5年間つけられる。今回の量刑は、実刑に次ぐ重い判断となった。一方、判決は「チーム医療を確立していなかった病院の管理体制には相当な問題があり、被告1人を責めることはできない」と酌量の理由を述べた。
広瀬裁判長は、男性の余命について「治療に最善を尽くし、回復を待つべき段階だった」と判断。「(須田医師は)自分が考える『自然なかたち』で看取(みと)りたいとの気持ちを抱いた」と抜管の動機を指摘した。
そのうえで「抜管に際し家族から異論が出なかったので了承していると誤解して行ったうえ、筋弛緩剤で窒息死させた」と死因を認定した。
須田医師側は抜管に関し、東海大「安楽死」事件の横浜地裁判決(95年3月)が示した「治療行為の中止(尊厳死)」の3要件を満たすと主張したが、判決は「治療を尽くしていない時点での早すぎる治療中止で非難を免れない」と退けた。
争いがあった筋弛緩剤の投与量については、「須田医師に指示され3アンプルを静脈に注入した」とする准看護師の証言の信用性を認め、投与量を致死量の3アンプルと認定。1アンプルとした被告側の主張は「須田医師がカルテに虚偽記入した」と判断した。
治療の中止を決断するに当たっては「本人の事前の意思や、患者をよく知る者による意思の推定が有力な手がかりになる」と指摘。「真意が確認できなければ、生命保護を優先させるべきだ」と述べた。
事件は、男性の死から約3年後の01年10月、須田医師と患者の治療方針をめぐり対立していた医師の内部告発で問題化。須田医師は病院の退職勧告を受け02年2月末で退職。同年12月、殺人容疑で逮捕され、起訴後の同月下旬、保釈された。
◇
閉廷後、須田医師は弁護人を通じコメントを出し「家族の証言のみに依拠し、抜管要請がなかったと真実に反する認定をした」と判決を批判、「医師が臨床現場で患者さんや家族と向き合いながら行った延命治療の中止が事後的に殺人罪で処罰されることになれば、延命治療を施すこと自体に抑制がかかりかねない」と指摘した。「現場の医師として、生命の可能性の追求をおろそかにしたことは一度もない」とも記した。
◇
〈川崎協同病院の話〉事件が起きたことの重みを改めて真摯(しんし)に受け止め、亡くなられた患者様の冥福をお祈りする。事件後、再発防止と抜本的な改革のため、終末期医療やインフォームド・コンセントについて指針を作り、職員に徹底してきた。安全で信頼できる医療の提供に向けて、着実に前進しているものと自負している。」(全文)
◆2005/03/25 「病院の管理体制も指弾 筋弛緩剤投与 医師有罪 “チーム医療”不在 家族の意思「取り違え」招く」
『読売新聞』
www.yomiuri.co.jp/e-japan/kanagawa/news001.htm
[写真]判決後、裁判所を出る須田被告(横浜地裁で)
「1991年に起きた東海大安楽死事件以来、医師が医療行為に関して殺人罪に問われた川崎協同病院事件で、横浜地裁は25日、元主治医の須田セツ子被告(50)に、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。検察側の主張をほぼ全面的に認めた内容に、須田被告は「判決が臨床現場の医師を萎縮(いしゅく)させることを恐れる」とのコメントを出し、即日控訴した。論争の場は東京高裁に移されるが、終末期医療のあるべき姿を巡って、医療現場では葛藤(かっとう)が続く。
川崎協同病院は25日、判決を受けて、「改めて事件の重みを真摯(しんし)に受け止め、患者の冥福(めいふく)をお祈りするとともに関係者の方々に深くおわび申し上げます」とのコメントを発表した。
判決では、病院の管理体制に「相当な問題」があったと指摘された。須田被告が外来、出張診療、往診などを担当し、「極めて繁忙な状況」だったことが、家族の意思の取り違えにつながったとし、重大な判断を迫られる終末医療の現場にチーム医療体制がなかったことが、事件の背景となったと、厳しく指弾した。
同病院は2002年4月にこの問題を公表後、内部と外部の二つの調査委員会を設置。インフォームドコンセント(医者の十分な説明と患者の同意)についての指針を作るなど、再発防止策を進めてきた。
事件当時、患者側への病状説明は、個々の医師に委ねられ、記録は医師がカルテに残すだけだった。このため、患者側の同意が確認できず、今回の裁判でも、須田被告が家族に十分な説明をしたのかどうかが争点の一つとなった。
指針では、医師が患者の意思や家庭環境などに応じて病状を説明。治療法の選択肢を推薦順位とともに示すことを基本概念としたほか、重要な内容を説明した時は、記録したカルテの複写を患者に渡し、手術などの際は同意書に署名をもらい、意思決定の確認をするとしている。
また、職種、担当科間の縦割り体制の弊害をなくすため、病棟別会議を週1回開き、患者情報の共有化を図っているという。
◇無言で地裁を後に
須田被告は、2時間半に及ぶ判決の言い渡しを、時折ため息をついたり、傍聴席を見たりしながら、うつろな表情で聞いていた。最後に裁判長から、立つよう促されると、大きくため息をついて、うつむき加減で裁判長の前に進んだ。
閉廷後、裁判長に深々と一礼すると、傍聴席の知人に軽く会釈し、小走りで出口へ。報道陣の問いかけにも、硬い表情を変えることなく、無言のまま車で地裁を後にした。」
◆2005/03/25 21:04 「<川崎筋弛緩剤事件>有罪判決の元医師が控訴」
毎日新聞ニュース速報
入院中のぜんそく患者(当時58歳)の気管内チューブを抜き、筋弛緩(しかん)剤を投与して死亡させた殺人罪で25日、横浜地裁に懲役3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡された川崎協同病院(川崎市)の元医師、須田セツ子被告(50)は即日控訴した。
判決で「(被告の行為は)許される一線を逸脱している」と広瀬健二裁判長は須田被告の独善をとがめた。その一方、終末医療で主治医が複数の医師らと治療方針を話し合うチーム医療が確立していなかった当時の同病院の体制を事件の遠因にあったとも指摘した。
同病院は02年4月の事件公表後、医師や看護師に弁護士ら第三者を加えた医療倫理委員会を設け、終末医療についての指針をまとめた。指針では筋弛緩剤やカリウム製剤を投与する「積極的安楽死」を禁止した。末期状態の患者の苦痛を緩和した結果、死期が早まる「間接的安楽死」や「尊厳死」は容認したが、容体の判定や患者の意思確認の方法を厳格に定めた。
具体的には▽主治医や主治医と科、グループの異なる複数医師による判定▽患者の文書か口頭による意思表示を原則とし、家族や友人など信頼できる証言も認める▽看護師や医療ソーシャルワーカーも積極的に関与する――など。さらに、人工呼吸器の停止、気管内チューブの抜管は医療倫理委に申請して病院長の承認を得ることを定めた。
同病院の佐々木秀樹院長は「現在は医師や看護師が積極的に意見を交わし、指針に沿って判断している」と改革の成果を語る。一方、須田被告は同病院を退職後、横浜市内で開業。有罪が確定するまでは、医師免許取り消しなどを審議する厚生労働省の医道審議会には諮られず、医師として活動することができる。【内橋寿明】」(全文)
[2005-03-25-21:04]
◆2003/03/27 <筋弛緩剤投与>須田医師側、起訴事実を否認 横浜地裁で初
毎日新聞ニュース速報
川崎協同病院(川崎市川崎区)に入院中のぜんそく患者に筋弛緩(しかん)剤を投与
して死亡させたとして、殺人罪に問われた元同病院呼吸器内科部長の医師、須田セツ子
被告(48)=横浜市港北区=の初公判が27日、横浜地裁(広瀬健二裁判長)で開か
れた。須田被告側は「(患者の)家族の要請を受けて治療を中断し、自然の死を迎えさ
せようとした。殺意はなかった」と述べ、起訴事実を否認した。
検察側は冒頭陳述で、須田被告は気管内チューブを外す際、家族に「では抜きます」
と言っただけで何の説明もしなかったと指摘。独断による殺人だったと強調した。また
、「被告は、将来の介護による家族の経済的負担を除去しようと考えた」と動機を明ら
かにした。
弁護側は、「投与したミオブロック(筋弛緩剤)は1アンプル(2ミリリットル)を
生理食塩水100ミリリットルで薄めたもの。呼吸停止の時点で中止したため、投与量
は1アンプルの4分の1から3分の1だけだった。この量で(直接死因の)呼吸筋弛緩
が起きたとは考えられない」と、筋弛緩剤と患者の死の因果関係を否定した。
また弁護側は、検察側が証拠として提出した供述調書をすべて不同意とし、検証調書
についても被告本人の立ち会いのもとで再度行うよう求めた。
須田被告は98年11月16日午後6〜7時ごろ、川崎協同病院の病室で、気管支ぜ
んそくに伴う低酸素性脳症で入院中の男性患者(当時58歳)に、看護師に命じてミオ
ブロック3アンプル(6ミリリットル)を投与させるなどして死亡させたとして起訴さ
れた。患者は、筋弛緩剤を投与された直後に、呼吸筋弛緩による窒息で死亡した。 【
鮎川耕史、木村光則】
[2003-03-27-11:35
◆2003/03/27 「延命は負担と思い込む 浮かぶ独断、特異な死生観 冒頭陳述」
共同通信ニュース速報
回復見込みがないのに延命治療をすれば家族の負担になる―。二十七日開かれた川崎協同病院の筋弛緩(しかん)剤投与事件の初公判。検察側は冒頭陳述で、医師須田セツ子被告(48)が男性患者=当時(58)=の入院後わずか二週間で治療を打ち切った経緯を詳述し、「独断」と「特異な死生観」を浮き彫りにした。
冒頭陳述によると、患者は一九九八年十一月二日、気管支ぜんそくの発作から心肺停止状態で入院。一命を取り留めたが意識は戻らなかった。
「(退院すれば)介護しなければならないが、できますか」。回復困難と判断し「九分九厘植物状態」と説明した須田被告は家族に尋ねた。患者の妻が「できます」と答えると、須田被告は「あっ、そう。大変よ」。
「寝たきりでも生き続けてほしい」「集中治療室から一般病棟に移ったので回復に向かっていると思った」との家族の願いをよそに須田被告は延命治療の打ち切りを決意。カルテに「あまり汚れないうちに終わりにしてあげたい」と書いた。
「皆さんお集まりになりましたか。では抜きますね」。入院十五日目。集まった家族の前で須田被告は何の説明もなく気管内チューブを抜いた。「頑張らなくていいのよ。今、楽にしてあげるからね」。筋弛緩剤の投与前後に須田被告は患者に声をかけた。
検察側は「延命治療の中止は自分の倫理観で行っていた」「回復困難な患者の治療を早期に打ち切る考えが強かった」と事件の根底にある須田被告の個性を指摘した。(了)」
[2003-03-27-13:09]
読: 川崎の筋弛緩剤事件初公判、医師側は無罪主張
読売新聞ニュース速報
川崎協同病院(川崎市川崎区)に入院中の男性患者が筋弛緩(しかん)剤を投与さ
れて死亡した事件で、殺人罪に問われている元主治医の須田セツ子被告(48)の初
公判が27日、横浜地裁(広瀬健二裁判長)で開かれた。
須田被告は罪状認否を弁護人に一任。弁護人は、気管内チューブを抜き、筋弛緩剤
を投与した事実は認めたが、投与量は0・5ミリ・リットル程度と少なく、投与方法
にも争いがあるとし、「投与と死亡との間に因果関係はない。家族の要請で自然な死
を迎えさせるため、治療行為を中断した」と無罪を主張した。
1991年に東海大病院(神奈川県伊勢原市)で起きた安楽死事件の横浜地裁判決
で、「患者本人の明確な意思」など安楽死が許容される4要件が示されているが、横
浜地検は「今回の事件はいずれの要件にも該当しない」として須田被告を起訴した。
医療行為を逸脱したとして、医師が殺人罪に問われるのは極めて異例。
一方、弁護側は、遺族をはじめ関係者の供述調書をすべて不同意とするなど、検察
側が提出した証拠の大半を不同意とし、対決姿勢を鮮明にした。
検察側は冒頭陳述で、「須田被告は、もともと患者の延命治療を中止するかどうか
は自己の倫理観のもとで実施していた」と指摘。事件の動機については、「回復の見
込みが極めて低いと判断し、家族にとって患者が人的、経済的負担になるとも考え、
犯行に及んだ」と述べた。
さらに検察側は、須田被告が、患者から気管内チューブを抜き(抜管)、窒息死さ
せることを決意した後、せめて遺族には患者をみとらせる機会を作ってあげようと考
え、遺族に「このままでは手足が曲がったり、ばい菌が付いたりするので気管内チュー
ブを抜きたい。家族全員が集まれる日はないか」と指示したと指摘。当日も「抜きま
すね」などと言ったが、それ以上の説明はなかったという。
◇
逮捕後保釈され、横浜市港北区で診療所を開業する須田被告は、弁護士に囲まれる
ようにして地裁に入った。法廷内では終始、硬い表情を崩さず、起訴状朗読の間は、
じっと検事の方を見据えていた。
[2003-03-27-14:18]
続
20 03/27 12:39 NH: 川崎の筋し緩剤事件初公判 女性医師 無罪を主張
NHKニュース速報
川崎市内の病院で筋弛緩剤を投与された患者が死亡した事件の初公判が横浜地方裁判所
で開かれ、殺人の罪に問われている女性医師は無罪を主張しました。
検察側は「医師は日頃から回復が困難な患者には早期に治療を打ち切る傾向が強かっ
た」と指摘しました。
川崎市の川崎協同病院の医師だった須田セツ子被告(四十八)は平成十年十一月、ぜ
ん息の発作で意識不明になった五十八歳の男性に対し気管に通していた呼吸を助ける為
の管を抜いた上、筋弛緩剤を投与し死亡させたとして殺人の罪に問われています。
初公判で須田医師は「弁護士を通じて述べさせて頂きます」と述べ、弁護団は「須田
医師は家族に頼まれて治療を中断し自然な死を迎える過程で患者が苦しんだため筋弛緩
剤を投与したもので、筋弛緩剤の投与によって患者が死亡したわけではない」と述べ、
殺意を否認し無罪を主張しました。
検察側は冒頭陳述で「須田医師は男性の意識が回復しない可能性が高いと判断し家族
がずっと看護しなければならない負担を考え窒息死させることを決意した。須田医師は
日頃から患者の延命治療をやめるかどうかについて自らの倫理観のもとで決めていたが
、回復が困難な患者には早期に治療を打ち切る傾向が強かった」と指摘しました。
初公判で被告側は検察側が示した証拠の大半に同意せず、争う考えを示したため裁判
は長期化する見通しとなりました。
今後、病院関係者や家族などが証人として出廷し、筋弛緩剤を投与した経緯などが法
廷で明らかにされる事になります。
[2003-03-27-12:39]
◆2007/02/28 「家族の治療中止要請認定 川崎協同病院事件で高裁」
2007年02月28日 19:59 共同通信
http://www.kitanippon.co.jp/contents/kyodonews/20070228/73736.html
「川崎協同病院(川崎市川崎区)事件で、殺人罪に問われた医師須田セツ子被告(52)に有罪を言い渡した28日の東京高裁判決(原田国男裁判長)は「家族からの要請に基づき、死亡することを認識しながら気管内チューブを抜いたが、死期は切迫していなかった」と認定した。
その上で、殺人罪の刑としては当時最も軽い懲役1年6月を選択し、執行猶予(3年)を付けた理由について「尊厳死の法的規範がない中、事後的に非難するのは酷だ」と述べた。さらに「尊厳死の問題は、国民が合意する法律制定やガイドライン策定が必要だ」と指摘した。
判決によると、患者は1998年11月2日、気管支ぜんそくの発作に伴う低酸素性脳損傷で意識が回復しないまま川崎協同病院に入院し、須田被告が治療に当たった。
須田被告は同16日午後6時から7時すぎにかけ、回復をあきらめた家族からの要請で、気道を確保していたチューブを外した。しかし患者が苦しみ始めたため、同僚医師の助言を得て、看護師に筋弛緩剤を注射させ、患者を窒息死させた。」(全文)
◆2007/03/01 「川崎・筋弛緩剤事件:殺人は認め減刑 「治療中止、家族の要請」――東京高裁判決」
『毎日新聞』2007年3月1日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20070301ddm041040053000c.html
「川崎協同病院(川崎市)で98年11月、気管支ぜんそくで入院中の男性患者(当時58歳)に筋弛緩(しかん)剤を投与して死なせたとして、殺人罪に問われた元同病院医師、須田セツ子被告(52)に対し、東京高裁は28日、懲役3年、執行猶予5年とした1審・横浜地裁判決(05年3月)を破棄し、懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。
原田国男裁判長は、1審同様に殺人罪の成立を認め、減刑理由を「呼吸を維持する気管内チューブを抜く際、家族の意思確認を怠ったという1審の認定は誤り」と述べた。懲役1年6月は、事件当時の殺人罪の量刑としては最も短い。
控訴審では(1)筋弛緩剤投与が死因か(2)患者の死期が切迫し、家族の要請に基づき管を抜いたか−−が争点となった。
判決は(1)について、1審と同じく死因と認定。(2)については「死期が切迫していたと認められない」としながら、家族の要請がなかったとした1審判断を「合理的な疑いが残る」と指摘した。
一方で「治療中止について法的規範も医療倫理も確立されていない状況で、家族の要請に決断を迫られた。それを事後的に非難するのは酷な面もある」と情状を酌んだ。
尊厳死の考え方にも触れ「尊厳死の問題を根本的に解決するには法律かガイドラインの策定が必要。司法が抜本的解決を図るような問題ではない」との見解を示した。
判決後、須田被告は「素晴らしい判決。(上告については)筋弛緩剤投与の部分に事実誤認があり、検討したい」と述べた。
判決によると、須田被告は98年11月16日、ぜんそく発作で入院から15日目の患者の気管内チューブを抜き、准看護師に筋弛緩剤を投与させて窒息死させた。【篠田航一、野口由紀】
■解説
◇法整備の必要性強調
筋弛緩剤事件を巡る28日の東京高裁判決は「尊厳死」を規定する法律がない中、終末期医療の現場での出来事を裁く難しさを改めて示した。
判決は、随所に苦慮がうかがえる。チューブを抜いたことについて「家族の要請」があったことを減刑理由としながら「家族の明確な意思表示があったとまでは認められない」と言及した。
一方で、有罪の「決め手」となった筋弛緩剤の投与について「患者の苦しそうな呼吸が止まらず、心ならずも投与に及んだとみることもできる」と述べた。最後は「法律上最低限の刑を科した上で、執行猶予することが相当」と判断し、最小限の刑事責任を科した。
また、1審が「家族の真意が不明の場合は生命の利益(延命治療の実行)に」との原則を示したのに対し、高裁判決は「尊厳死についての考え方」との項を立てて言及。治療中止を適法とする根拠として、過去の司法判断に基づき▽患者の自己決定権▽医師の治療義務の限界−−を挙げたうえ、問題点を検討。「いずれの根拠にも解釈上の限界があり、抜本的な解決には、法やガイドラインの策定が必要」と強調した。
終末期医療を巡っては、06年に発覚した富山県射水市民病院の例などトラブルが絶えない。判決は、法整備の必要性を強くにじませたと言える。【篠田航一】」(全文)
UP:20050329 REV:0330 20050719 20070313 20081126
◇
安楽死・尊厳死