作成:
橋口 昌治(
立命館大学大学院先端総合
学術研究科)
◆
フリーター・ニート関連ニュース
2008年
■語源・定義
◆NEET=Not in Education, Employment or Trainingの頭文字をとった造語。
◇1998 年にイギリスのブレア政権によって新設された社会的排除防止局(Social Exclusion
Unit)の作成した調査報告書”Bridging the Gap”(1999)の中で最初に使われた。
報告書は、義務教育終了直後の16〜18 歳の若者の9 %にあたる16
万人が通学も仕事もせず職業訓練も受けていない状態(NEET)にあり、将来において「展望のない仕事、失業、貧困、病気やその他の排除された状態で一生
涯を過ごさなくてはいけない」可能性が高いと述べている。
◇Social Exclusion Unit =社会的排除局、社会的排除防止局などと訳される
http://www.socialexclusionunit.gov.uk/
◇”Bridging the Gap - New Opportunities for 16 –18 year olds not in
Education, Employment or Training”
http://www.socialexclusionunit.gov.uk/publications.asp?did=31
□以下、製作者による”Bridging the Gap”のFOREWORD BY THE PRIME
MINISTERの訳(間違いは適宜修正していきます)
◇FOREWORD BY THE PRIME MINISTER (首相による序文)
The best defence against social exclusion is having a job, and the best
way to get a job is to have a good education, with the right training
and experience.
(社会的排除から身を守るにはまず何よりも仕事を持つことであり、そして職を得るのに一番良い方法は、適切な訓練と経験を積める、良い教育を受けることで
す。)
But every year some 161,000 young people between 16 and 18 are not
involved in any education, training or employment. For the majority
these are wasted and frustrating years that lead, inexorably, to lower
pay and worse job prospects in later life.
(しかし毎年、16歳から18歳の若者およそ16万1000人が、いかなる教育にも訓練にも雇用にも加わることができていません。多くの人々にとって、そ
れは無駄で我慢を要する期間であり、またその後の人生において低賃金で劣悪な仕事に就くことになる厳然たる要因となっています。)
That is why I asked the Social Exclusion Unit to analyse what was
happening to so many 16–18 year olds and what could be done to prepare
them better for adult life.
(これが「16歳から18歳の若者の多くに何が起きているのか?」「大人になるためのよりよい準備を彼ら/彼女らにさせるために何ができるのか?」を私が
社会的排除局に分析するように依頼した理由です。)
The report sets out in detail both the scale and nature of the problem.
It shows that while most young people enjoy a fairly smooth transition
from school to work, often passing through A levels and university, a
large minority lack support or guidance, and clear pathways to take
them along the way to good jobs and career opportunities.
(報告書はこの問題について質・量ともに詳細に説明しています。ほとんどの若者がきわめて順調に学校から仕事への移行を果たし、しばしば学術資格であるA
レベル*を取得し大学教育を経験する機会があるのに対して、多くのマイノリティが援助あるいは指導を受けることができず、また良好な職とキャリアを築く機
会への道に沿って彼らを導く明確な道筋もないことが、この報告によってわかります。)
The report, along with David Blunkett’s White Paper Learning to Succeed
published last month, points the way to an ambitious, and radical,
modernisation of how we support teenagers, particularly the most
disadvantaged.
(この報告は、先月発表されたデイヴィッド・ブランケットによる白書『成功できるようになること』と同様、10代の若者、特に最も不利な状況に置かれた若
者を援助する方法の意欲的で抜本的な刷新への方向を指し示しています。)
It proposes establishing a much better support service, founded around
personal advisers, to guide young people through their teenage years
and help them get around the problems that might stop them from making
the most of learning.
(より改善された援助サービスの構築を提案しており、それは個人的なアドバイザーの輪によって支えられています。アドバイザーは10代を通じて若者を指導
し、教育機会の最大限の活用を妨げる恐れのある問題を克服できるように助けるのです。)
It proposes a clear goal for young people to aim for with a new
approach to graduation that would set a demanding, but achievable,
standard encompassing not only formal qualifications but also other
achievements in key skills and the community.
(また学位授与への新しいアプローチによって、若者が目的意識を持てるために明確な目標を提案します。それは正式な資格だけでなく他にも重要な技能やコ
ミュニティにおいて成し遂げたことも含む、求めるものは高いが十分に達成できる基準を設定する予定です。)
It proposes clear incentives for young people to stay in education
through the development of the planned Education Maintenance Allowance
pilots and a youth card at 16 that would offer access to leisure,
sports and transport – new rights matched by new responsibilities.
(若者を教育につなぎとめておくための明確な誘導策も提案します。それは教育生活扶助の計画的な運用を指導する制度とレジャー、スポーツ、および移動手段
へのアクセスを提供する16歳でもらえる若者カード、つまり新しい責任に即した新しい権利です、の開発を通して行います。)
Getting this right offers the prospect of a double dividend. A better
life for young people themselves, saving them from the prospect of a
lifetime of dead-end jobs, unemployment, poverty, ill-health and other
kinds of exclusion. A better deal for society as a whole that has to
pay a very high price in terms of welfare bills and crime for failing
to help people make the transition to becoming independent adults.
(この権利を得ることによって2つの効果が期待できます。まずは若者たち自身にとってのよりよい人生。つまり展望のない仕事、失業、貧困、病気やその他の
排除された状態で一生涯を過ごさなくてはいけないという見通しを持たなくてすみます。つぎに社会全体にとってもよりよい政策であるということです。なぜな
ら人々が自立した大人へと移行することを助けられなかったことによって起こる福祉予算や犯罪への膨大な対価を支払わなくてはいけないからです。)
A few decades ago only a minority stayed in education until 18 or 21.
But as we move into an economy based more on knowledge, there will be
ever fewer unskilled jobs. For this generation, and for young people in
the future, staying at school or in training until 18 is no longer a
luxury. It is becoming a necessity.
(20年から30年前までは18歳や21歳まで教育を受けている人は少数派でした。しかしより知識を基盤にした経済へと移行するにつれて、低技能の仕事は
ますます少なくなってきています。現代の人々にとっても、将来の若い人々にとっても、18歳まで学校教育や職業訓練を受けることはもはや贅沢ではありませ
ん。むしろ必要不可欠になります。)
We are now moving into an important phase of further policy
development, consultation and implementation, which will be led by
David Blunkett but involve the whole Government. But we are now clear
about the goal – higher standards of education for all, support for
those who need it most, and an end to a situation in which thousands of
young people are not given the chance to make a better life for
themselves and a bigger contribution to society.
(いま私たちはこの政策をさらに発展させ、協議し、実施するための重要な段階に来ており、それはデイヴィッド・ブランケットに導かれながらも政府全体を巻
き込んで進められるでしょう。しかしいま私たちの目標は明確です。より高い水準の教育をすべての人に行うこと、最も必要とする人々に対して援助をするこ
と、そして自分自身の手によって人生をよりよいものにして自己実現し、社会に対して更なる貢献を行う機会を与えられていない多くの若者がいる状況を終わら
せることです。)
Tony Blair (トニー・ブレア)
*「(…)イギリスにおいて学歴とは,その人が保有する公的な学歴資格によって表され,主要なもので一般教育証書(General
Certificate of Education :
GCE)がある。このGCEは、16歳時の義務教育終了時に受験するOレベル(Ordinary
Level)試験と,16歳以降の2年間を「シックス・フォームス」で学んだのちに受験するAレベル(Advanced
Level)試験に区別される。通常大学進学のためには,このAレベルを,三つ合格レベルで取得する必要があるといわれている。また,公的学歴資格取得の
ために,Oレベル試験を簡単にした中等教育証書(Certificate of Secondary Education :
CSE)がある。」(伊藤大一20020800「イギリス労働市場における経済非活動者の動向」,p.5)
◆日本における定義
◇厚生労働省
…非労働力人口のうち、年齢15〜34歳、卒業者、未婚であって、家事・通学をしていない者。この定義によるニート人口は2003年平均で52万人であ
り、2002年平均の48万人より4万人増加している。
(『平成16年版・労働経済白書』(2004)
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/04/index.html)
◇内閣府
…「�@高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、�A配偶者のいない独身者であり、�Bふだん収入を伴う仕事をしていない15歳以上
34歳以下の個人である」若年無業者(2002年時点で213万人)のうち、就業を希望しながら仕事を探していない「非求職型」(43万人)と、就業希望
を表明していない「非希望型」(42万人)の合計がニート(85万人)である。
(内閣府「若年無業者に関する調査(中間報告)」(2004)
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/shurou/chukan.pdf)
*「解説 労働経済白書における若年無業者「52 万人」との違い」
「本報告で示された非求職型と非希望型の合計85 万人は、若年層の無業者数に関する統計として引用されることも多い『平成16
年版・労働経済白書』の試算結果である「52 万人」(2003
年)という数値と異なる。白書では若年無業者数を総務省『労働力調査』について特別集計し、「非労働力人口のうち、年齢15〜34
歳、学卒、未婚者であって、家事・通学をしてない者」を求めたものである。なお、非労働力とは、就業者及び失業者以外の人々を指す。
両結果の違いの一つは、「家事」の取り扱いである。白書では非労働力の現状として、主に家事をしていると回答した人々が除かれているのに対し、本報告で
は
収入となる仕事をしない理由として家事をしていると答えた人々を含む。本報告の非求職型と非希望型の合計85
万人のうち、仕事をしていない理由として「家事をしている」ことを挙げた人々が、2002 年時点で非求職型では12 万人、非希望型では9
万人に及ぶ。」(「若年無業者に関する調査(中間報告)」より)
◇UFJ総合研究所(玄田・曲沼『ニート』が依拠、p.29〜53)
…インターネットによる調査に回答した18歳以上35歳未満の無職独身者のうち、進学準備も求職活動もしておらず、ケガや病気・休養中のわけでもなく、
「特になにもしていない」と答えた人々。
(『若年者の職業生活に関する実態調査――個人「無業者」調査』
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/09/h0919-5g18.html)
「イギリスでは、生活保護、病気、不登校、失業などを含め、教育も、就業も、訓練も受けていない状況にある16歳から18歳の人々を、すべてニートとし
て
いた。それに対して、ここでみようとするニートには、職につこうとして活動している失業者や、仕事につきたくても病気やケガでつけないために無職となって
いる人は、含まない。」(玄田・曲沼2004,p.30)
◇小杉礼子編『フリーターとニート』での定義
…「社会活動に参加していないため、将来の社会的なコストになる可能性があり、現在の就業支援策では十分活性化できていない存在」
「一五〜三四歳の非労働力(仕事をしていないし、また、失業者として求職活動をしていない)のうち、主に通学でも、主に家事でもない者」(小杉編
2005,p.6)
「ここで、三四歳以下と範囲を広げたのは、最近の若年者就業問題では、三〇代前半までを視野に入れていることが多く、それとの連続性のためである。
また、年齢層を高くとると、家事に主に従事する専業主婦層が非労働力の多くを占めることになる。社会活動への非参加から社会のコスト化するという議論で
は、こうした専業主婦層をはずして考えることが妥当なので、「主に家事」に従事する者を排除することにする。」(同、p.6)
「この定義によれば、二〇〇三年にはおよそ六四万人で、同年齢人口全体の一.九%ぐらいを占める存在となっている。その数および同一年齢に占める比率は九
〇年代前半からやや上昇傾向にあったが、ごく最近の増加が大きい。」(同、p.7)
■ニートについて参考になる資料・論文など
◇20020800伊藤大一「イギリス労働市場における経済非活動者の動向」『立命館経済学』51-3
http://ritsumeikeizai.koj.jp/all/all_frame.html?stage=2&file=51304.pdf
◇20030122「第11回 JIL労働政策フォーラム『欧州は若年失業・無業とどう戦ってきたか』―わが国の若年政策へのインプリケーション―」
http://www.jil.go.jp/kouen/ro_forum/ro_fo_11_gijiroku1.htm
◇20030300日本労働研究機構編『資料シリーズ131 諸外国の若者就業支援政策の展開 ―イギリスとスウェーデンを中心に―』
(概要版)
http://www.jil.go.jp/institute/chosa/documents/131g.pdf
◇20030300日本労働研究機構『学校から職業への移行を支援する諸機関へのヒアリング調査結果―日本におけるNEET問題の所在と対応―』
http://www.jil.go.jp/institute/discussion/documetns/dps_03_001.pdf
◇20030600伊藤大一「イギリスにおける「アンダークラス」の形成」『立命館経済学』52-2
http://ritsumeikeizai.koj.jp/all/all_frame.html?stage=2&file=52204.pdf
◇20030800伊藤大一「ブレア政権による若年雇用政策の展開」『立命館経済学』52-3
http://ritsumeikeizai.koj.jp/all/all_frame.html?stage=2&file=52303.pdf
◇20030900厚生労働省職業能力開発局「若者の未来のキャリアを育むために 〜若年者キャリア支援政策の展開〜」(若年者キャリア支援研究会報告
書)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/09/h0919-5e.html
◇20040219「第2回労働政策フォーラム『教育から職業へ− 欧米諸国の若年就業支援政策の展開 −』」
(講演録)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/giji/g20040219.html
◇20040226「第3回労働政策フォーラム『先進諸国の雇用戦略―福祉重視から就業重視への政策転換―』」
(講演録)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/giji/g20040226_mokuji.html
◇20040608労働政策研究・研修機構編『移行の危機にある若者の実像―無業・フリーターの若者へのインタビュー調査(中間報告)―』
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2004/006.html
◇20040900厚生労働省編『労働経済白書〈平成16年版〉雇用の質の充実を通じた豊かな生活の実現に向けた課題』
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/04/index.html
◇20041000第一生命経済研究所『NEET人口の将来予測とマクロ経済への影響』
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/news/pdf/nr2004_19.pdf
◇20041117「第7回労働政策フォーラム『ニート―若年無業者の実情と支援策のあり方を考える―』」
(講演録)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/giji/g20041117.htm
◇20050622労働政策研究・研修機構編『若者就業支援の現状と課題―イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から―』
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2005/035.html
■ニートについて扱っている著作
◇玄田有史・曲沼美恵 20040710 『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』
幻冬舎,271p. ¥1500+税 ISBN: 4344006380
◇和田秀樹 20050400 『ニート脱出―不安なままでもまずやれる事とは』
扶桑社,217p. ¥1260 ISBN: 4594049400
◇斎藤環 20050410 『「負けた」教の信者たち―ニート・ひきこもり社会論』
中央公論新社,253p. ¥798 ISBN: 4121501748
◇小杉礼子編 20050415 『フリーターとニート』
勁草書房,216p. ¥1995 ISBN: 4326653043
◇喜入克 20050500 『叱らない教師、逃げる生徒―この先にニートが待っている』
扶桑社,p.235 ¥1,575 ISBN: 4594049591
◇浅井宏純・森本和子 20050601 『ニートといわれる人々 自分の子供をニートにさせない方法』
宝島社,207p. ¥1600 ISBN: 4796645861
◇二神能基 20050602 『希望のニート 現場からのメッセージ』
東洋経済新報社,218p. ¥1500+税 ISBN: 4492222626
◇玄田有史・小杉礼子・労働政策研究・研修機構 20050700 『子どもがニートになったなら』
日本放送出版協会,253p. ¥714 ISBN: 4140881526
◇鳥居徹也 20050630 『フリーター・ニートになる前に読む本』
三笠書房,111p. ¥788 ISBN: 4837921515
◇沢井繁男 20050700 『「ニートな子」をもつ親へ贈る本』
PHP研究所,239p. ¥1365 ISBN: 456964399X
◇小島貴子 20050700 『我が子をニートから救う本―ニート或いはニートの予備軍の親たちへ』
すばる舎,215p. ¥1,680 ISBN: 4883994678
◇牟田武生 20050800 『ニート・ひきこもりへの対応―だれにでも起きる!?』
教育出版,174p. ¥1,764 ISBN: 4316801082
◇不登校情報センター編 20051000 『不登校・引きこもり・ニート支援団体ガイド』
子どもの未来社,226p. ¥1,995 ISBN: 4901330667
■ニートについての書かれていること
◇第11回 JIL労働政策フォーラム「『欧州は若年失業・無業とどう戦ってきたか』議事録(2003年1月22)」より
「「参加しない」という選択肢はない
次の労働党政権になりますと、EUの考え方に従いまして、新しいニューディール政策が若年者向けに導入されました。それは、6カ月以上失業している25
万
人の若年者を職場に復帰させようということです。
当初、4カ月間の期間が設けられました。それはコンサルテーションを受ける期間で、個人アドバイザーと相談ができ、そこで仕事を探そうと試みます。4カ
月
間でもだめですと、4つの選択肢が提示されます。「補助金を与えられ、雇用に6カ月間つく」というのが1つの道です。2つ目は「フルタイムで学校教育な
どの訓練を受ける」。3つ目が「ボランティアの仕事を6カ月間やる」、4つ目が「環境タスクフォースに参加して、6カ月間環境の仕事をする」です。
もう1つの選択肢も提供されました。それは自分で起業する、ビジネスを始めるということです。しかし、どの選択肢にしても、「参加しない」という選択肢
は
ないということを政府は打ち出したわけです。
NEETと呼ばれる人たち
しかし、この給付を受けない、あるいは、こうしたものに申し込みをしない、参加しなくてもよいと考えるような人たちがいました。この制度を一定期間利用
し
た後で病気になり、また最初からやり直すというように、制度を悪用する人も出てきました。
訓練が真の就職に結びつくとは考えない人もいました。あるいは、低い賃金にあまり魅力を感じず、非公式、インフォーマルな経済から得られるお金のほうが
い
いと考える人、または、経験上、使用者、雇用者をよくないと考え、彼らの下で働くのが嫌だと思う人もいたようです。つまり、いろいろな理由がありました。
人によっては、新しいニューディール政策に参加しない、しようともしない、あるいは、それをずっとやろうとしないのです。
どの国でも、一定の比率の若い人は仕事をせず、訓練を受けていない、あるいは、学校にも行っていません。イギリス政府はこういった人をNEET
(not in employment, education, or
training)と呼んでいます。つまり、就労も就学もせず、訓練も受けていない者をそう呼んでいます。イギリスでその比率は9%と推定されています。
しかし、都市部によっては15%以上、NEETのカテゴリーの若者がいるところもあります。」
◇伊藤大一20030600「イギリスにおける「アンダークラス」の形成」(p.8〜9)
「この労働市場の二極化が進行する中で,これまで製造業に雇用されていた男性がまず失業者として企業外に排出され,代わって増大したサービス業に吸収され
たのは,かつて製造業種に雇用されていた男性ではなく,これまで非労働力化していた女性であった。ここからこれまで製造業に雇用されていた男性は,失業の
長期化を通して,「アンダークラス」へと転落していったのである。
しかし,仮に「アンダークラス」がこの1980年代に生じた製造業種から排出された男性失業者に限定されていたのならば,結局は一時的な問題であり,
20年たつ現在のイギリスにおいて,熱心に議論されることはなかったであろう。つまり一旦成立した「アンダークラス」は,20年たつ現在も,「アンダーク
ラス」として再生産されているのである。言葉を換えるならば,労働市場の分極化は,製造業種から失業者を生み出しただけではなく,景気循環に関わりなく,
「アンダークラス」を新規に,そして継続的に流入するルートを作り出したのである。この新規に「アンダークラス」へと流入するルートが,「ニート
(NEET : Not in Education, Employment or Training)」や「ステイタス・ゼロ(Status
Zer0)」とよばれる新規学卒無業者である。
この「ニート」や「ステイタス・ゼロ」と呼ばれる若年層は,16歳時の義務教育終了後に,「継続教育(Further
Education)」過程へ進学もせず,労働市場へ参加もせず,そして各種訓練制度へ参加しない若年層のことであり,現在では16―18歳の年齢層の約
一割を形成しているとされる。しかし,この「ニート」や「ステイタス・ゼロ」と呼ばれる若年層は,教育関連統計にも,労働関連統計にも補足されにくく,そ
の実態をめぐっては議論があり,またこの問題は,特定の地域や学校,エスニックマイノリティーなどの特定のグループに集中的に生じる問題であること,さら
に16―18歳時点で「ニート」や「ステイタス・ゼロ」を経験したものは,21歳時点でも失業状態になりやすいことが報告されており,深刻な問題とされて
いる。」
◇玄田有史・曲沼美恵 20040710 『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』幻冬舎(p.25)
「1999年にイギリスの内閣府が作成した“Bridging the
Gap”という調査報告書によって、ニートの存在は広く知られるようになった。16歳から18歳の青年に限っても、じつに9パーセント、数にして16.1
万人が毎年ニートになっていると、報告したからだ。
報告書はデータにもとづく綿密な調査と共に、イギリス(正確にはイングランド)に生きる多数の若者から直接話を聞き、その状況をつぶさに調べあげた。報告
書を作成したのは、内閣府のなかでも「社会的排除防止局(Social Exclusion
Unit)」という部局だった。1997年にブレア労働党政権の成立をきっかけに設けられたこの部局の名前、「社会的な排除」という認識は、ニート問題の
深刻さを物語っている。」
◇小杉礼子編 20050415 『フリーターとニート』勁草書房(p.4)
「そのなかでイギリスでは、学校に行っていない、仕事もしていない、職業訓練を受けているわけでもない若者をニートNEET(=Not in
Education, Employment or Training)と呼び、政策対象として特段の注意を払っている。
すなわち一九八〇年代前半に若年失業率が二〇%近くにもなっていたイギリスでは、政府は職業訓練政策に力を入れ、義務教育就業後に、上級学校に進学せ
ず、就職もしない場合は、職業訓練を受けるように誘導する政策をとりつづけてきた。にもかかわらず、九〇年代末の調査では、一六〜一八歳人口の九%(一六
一、〇〇〇人)が、学校にも、雇用にも、職業訓練にも参加していない「NEET」の状態であることが指摘された。さらに、イギリスでは、近年、若年失業問
題は大幅に改善しているが、一六〜一八歳でNEET状態にあった者は、その後も教育訓練に参加せず、長期的キャリア形成の可能性は低く、税金納入者ではな
く様々な社会福祉給付受給者になる可能性も低くない。また、薬物乱用者や刑法犯、ホームレスになる可能性も低くないなど、彼らは、将来の社会的排除に結び
つきやすい存在であることが指摘されている。」
◇二神能基 20050602 『希望のニート 現場からのメッセージ』東洋経済新報社(p.22〜23)
「そもそもニートという言葉は、1997年にイギリスで生まれた言葉です。その年に誕生したブレア政権が、当時深刻だった若年層の失業問題に取り組む中
で、「ニート」という言葉が生まれ、ヨーロッパ全体に広がったと言われています。「Not in Education, Employment or
Training(学業にも、職業にも、職業訓練にもついていない人たち)」の、それぞれの頭文字をとって「NEET(ニート)」と名づけられました。
ここで重要なのは、ヨーロッパでは「ニート」という言葉が生まれる以前から(すなわち若年失業が増えた1980年代以降)、すでに各国政府によって若年
失業が雇用問題として取り組まれてきたという事実です。日本のように若者個人やその家族の責任として、この問題が放置されてきたのとは大きく違います。
もっとも、ニートの定義にはいくつかの説があります。ニートという言葉を生んだイギリスをはじめ、ヨーロッパでは周辺的フリーターや失業者、無業の若者
をふくむというのがニートの定義です。
周辺的フリーターとは、週40時間以上継続的に働くフリーターと違い、頻繁に離退職を繰り返すフリーターのことです。彼らは無業者や失業者にもなる可能
性があるため厳密には区別できないという考え方から、彼らもひとくくりにして「ニート」と呼ばれているのです。
一方、日本では、フリーターや失業者は働く意欲があるからという理由では除かれ、15歳から34歳までの純粋な無業者だけを「ニート」と呼んでいます。
この日本式定義のために、「働く意欲がない若者=ニート」という、ヨーロッパとは違った「ニート」観が広がってしまいました。」
◇玄田有史20050800「「家事手伝い」はニートである」『中央公論』2005.8
「現在、政府としてもニート人口に関する統一見解を策定しようとしているときく。そこでは家事手伝いを除外した無業者を、日本版ニートと定めようとしてい
るらしい。
しかし、ニートから家事手伝いを除くのは誤りである。あるべき政策の姿から、明らかに逸脱している。」(p.28)
「それにもし介護を理由に働けないのであれば、それは現在の介護保険制度の不十分さをこそ問題にすべきである。介護の負担を強いて個人から就業の機会と自
由を奪っている現実を直視しなければならない。そして家事手伝いのニートを減少させるべく、方策を練るべきなのだ。家事手伝いからの解放は女性就業率の向
上という日本の長年に渡る懸案事項の解決とも軌を一にする。
さらにニート問題を解決する上で重要なのは、ニートからの脱却を本人や家族の力のみで遂げねばならないという呪縛からの解放である。言いかえれば、働け
ない状況に陥ったとき、安心して外部の支援者や支援機関に頼ることができる社会環境を整備することなのだ。
もし家事を続けていれば独身無業者はニートでないという世論が形成されれば、家事という名目の下、無業女性を家庭に囲い込んでしまっている事実の正当化
に必ずや繫がる。親は「ウチの娘は家事手伝いなのでニートではない」と、無業者を家に抱え込んだまま、外部からの支援を受けることすら拒絶してしまう。そ
れが結局、働きたくても働けないでいる状態を長期的に恒常化させることになってしまうのだ。
断じて言う。家事手伝いの独身無業者は、ニートである。」(p.29)
*このファイルは文部科学省科学研究費補助金を受けてなされている研究(基盤(B)・課題番号16330111 2004.4〜2008.3)の成果/の
ための資料の一部でもあります。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/p1/2004t.htme