『イングランド労働者階級の形成』
Thompson, Edward Palmer 1980 THE MAKING OF THE ENGLISH WORKING CLASS, Harmondsworth: Penguin Books
=20030530 市橋 秀夫・芳賀 健一訳『イングランド労働者階級の形成』,青弓社,1368p.
■Thompson, Edward Palmer 1963
THE MAKING OF THE ENGLISH WORKING CLASS, London: Victor Gollancz
Thompson, Edward Palmer 1980
THE MAKING OF THE ENGLISH WORKING CLASS, Harmondsworth: Penguin Books
=20030530 市橋 秀夫・芳賀 健一訳『イングランド労働者階級の形成』,青弓社,1368p. ISBN-10: 4787232134 ISBN-13: 978-4787232137 20000+
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■内容紹介
産業革命期という近代資本主義の政治・経済システムの確立過程で、イングランド民衆は労働者としての階級意識をみずからのものとしてどのように形成して
いったのか。民衆の対抗的政治運動の歴史=下からの歴史を多面的に分析した社会史研究の記念碑的労作。
■著者紹介
トムスン,エドワード・P.[トムスン,エドワードP.][Thompson,Edward Palmer]
1924年、イギリス・オクスフォード近郊に生まれる。『ニュー・レフト・レヴュー』の創刊メンバーとしてイギリス新左翼の活動に従事。65年にウォー
リック大学のリーダー(准教授)になるが、72年に辞職。1970年代末から80年代半ばまでは、急速にエスカレートした核兵器による軍拡競争に反対する
市民運動に参加、その代表的なスポークスマンとなって核戦争の危機の回避に多大な貢献をした。文学研究と歴史研究における未完のプロジェクトを多く残した
まま、93年8月26日に死亡
市橋秀夫[イチハシヒデオ]
埼玉大学助教授、専攻はイギリス社会史
芳賀健一[ハガケンイチ]
新潟大学教授、専攻は経済政策論・金融論
■目次
序文
一九八○年版への序文
第1部 自由の木
第1章 会員に制限なし
第2章 クリスチャンとアポルオン
第3章 「悪魔の砦」
第4章 自由の身に生まれたイングランド人
第5章 自由の木を植える
第2部 アダムの罪
第6章 搾取
第7章 農場労働者
第8章 職人とそのほかの労働者
第9章 織布工
第10章 生活水準と経験
1 財
2 住居
3 生命
4 子供時代
第11章 十字架の変形力
1 道徳装置
2 絶望の千年王国説
第12章 コミュニティ
1 余暇と人間関係
2 相互扶助の儀礼
3 アイルランド人
4 永遠なる無数の人びと
第3部 労働者階級の登場
第13章 急進的ウェストミンスター
第14章 世直し軍団
1 黒きランプ
2 不透明な社会
3 団結禁止法
4 剪毛工と掛け枠編み工
5 シャーウッドの野郎ども
6 職種の秩序に従って
第15章 煽動政治家と殉教者
1 人心の離反
2 指導者の問題
3 ハムデン・クラブ
4 ブランドレスとオリヴァー
5 ピータールー
6 カトー街の陰謀
第16章 階級意識
1 急進的文化
2 ウィリアム・コベット
3 カーライル、ウェイド、ガスト
4 オウエン主義
5 「一種の機械」
一九六八年版へのあとがき
文献に関する注記
原注
訳注
役者解題 市橋秀夫
文献一覧
索引
■引用
「人びとが[…]経験を同じくする結果、自分たちの利害のアイデンティティを、自分たち同士で、また自分たちの利害とは異なる(通常は敵対する)利害をもつほかの人びとに対抗するかたちで感じ取ってはっきり表明するときに、階級は生じる。[…]階級の経験は、主として、人びとが生まれながらにして入り込む[…]生産関係によって決定される。」(p12)
「階級意識とは、これらの経験を、伝統や、価値体系や、思想や、さまざまな制度に具現されている文化的な範疇で取り扱う様式である。経験はあらかじめ決定されているようにみえるとしても、階級意識はそうではない。」(p12)
「無数の経験をもつ無数の個人がいるだけだ。しかし、こうした人びとをある適切に区切られた社会変動の期間にわたって観察するならば、彼らの関係、思想、制度にいくつかのパターンが現れるのである。階級は自分自身の歴史を生きる人びとによって定義されるのであり、結局のところ、これがその唯一の定義なのである。」(p14)
「成功者(次に起こる進歩を先取りするような熱望をいだいていた人びとという意味での)だけが記憶される。状況の袋小路や、敗れ去った大義、敗北者自身は忘れ去られている。/私は、貧しい靴下編み工や、ラダイトの剪毛工や、「時代遅れ」の手織工や、「空想主義的」な職人や、ジョアンナ・サウスコットにたぶらかされた信奉者さえも、後代の途方もない見下しから救い出そうと努めよう。彼らの熟練と伝統は死に絶えつつあったかもしれない。新しい産業主義にたいする彼らの敵対行為は退嬰的であったかもしれない。彼らの共同社会主義の理想は幻想であったかもしれない。彼らの反乱の謀議はむちゃであったかもしれない。しかし、こうした激烈な社会的動乱の時代を生きぬいたのは彼らなのであって、われわれではない。彼らの熱望は彼ら自身の経験からみれば正当なものであった。だから、彼らが歴史の犠牲者だったというのであれば、彼らは自らが生きた時代のなかで犠牲者だと判決がくだされたから、いまもなお犠牲者なのである。/ある人間の行動がそれにつづく進歩の見地から正当化されるか否かをもって、われわれの唯一の判断基準とすべきではない。つまるところ、われわれ自身が社会的進歩の果てにいるわけではないのである。敗北を喫したとはいえ、産業革命期の人びとの大義のなかには、こんにちなお正さなければならない社会悪への洞察をみてとることができる。」(p15-16)
「ひきこもりにもかかわらず保持されたもの」(p38)=「まどろみ状態の急進主義」(p38)
「抑圧者がいずれ受けるだろう拷問を想像しながら抑圧者にたいするなんらかの報復を楽しむことが可能」(p43)=「政治的急進主義の眠れる胚種」(p45)。
「比喩的描写で自分たちの経験を表現し、自分たちの熱病を投企してきたのである。[…]それは、人間がどのように感じ、希望をもち、愛し、そして憎んだのか、また人間が特定の価値観を自分たちの言語という織物そのもののなかにどのように保存したのかを表す徴なのである。[…]われわれは、黙示的ではあっても言葉のなかに蓄積され――解放されている――心理的エネルギーと、実際の精神に異常とを区別するように努めなければならない。」(p61)
「われわれは、居酒屋世界の犯罪者や兵卒や船員たちの社会的態度をもっと研究する必要がある。また、われわれは道学者流の立場からではなく[…]ブレヒト流の価値観、つまり民衆の宿命論や、イングランド国教会のお説教をものともしない皮肉や、自己保身の強さなどを見抜く目をもって史料にあたるべきである。さらにわれわれは、バラッド歌手や定期市会場といった「ひそかな伝統」も記憶しておかなくてはならない。[…]「意志表明せぬ the inarticulate」人びとは、治安判事や工場所有者やメソジストたちの禁止しようとする圧力にもかかわらず、一定の価値観――娯楽や連帯の自発的能力――を保持したのだった。」(p72)
*作成:
橋口昌治・
大野光明