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「ロボトミー徹底糾弾 第1号 ロボトミー糾弾全国共闘会議 1979/10/25」

ロボトミー糾弾全国共闘会議 19791025

last update:20110625

9・30 ロ全共結成大会    ・南部労政会館
A氏S氏M氏から力強い訴え

 九月三十日、午前十時三十分から、南部労政会館六階講堂を会場に、ロボトミー糾弾全国共斗会議(以下、ロ全共とする)の結成大会が開催された。会場には、全国の斗う「障害者」・労働者・学生等百名近い仲間が集まり会場は、熱気につつまれていた。
 開催あいさつの後、大会はまず午前の部として、医師の吉田哲雄氏が「精神外科批判」と題して講演が行なわれ、日本国内の精神外科の歴史と現状、また諸外国の現状を説明した。講演の後十二時から十三時までの休憩時間を終え、本大会開会のあいさつの後、議長団を選出し、準備委員長の佐久間氏(Aさんを支援する会、以下、A支会とする)のあいさつがあり当日までのロ全共結成へ向けた準備過程の報告があった。続いて来賓の連帯アピールが行なわれ、全障連・大地の会など全国各地で日々、保安処分体制との斗いをくり広げている斗う団体、仲間からの熱い連帯のあいさつが寄せられ、この会議が、刑法―保安処分阻止戦線にとって重大かつ、待ち望まれていたかが、新ためて確認され、同戦線の重要は一翼を狙うであろうロ全共の結成大会にさらに熱気が吹き込まれた。
 次に、第一報告として準備委員会の活動報告、第二報告として準備委員会の財政報告がなされ、特に第二報告では、斗争現地が、横浜・弘前と遠方なこともあり財政難から斗争・活動に支障を来たす恐れがあり、活動強化のため、財政基盤を確立することが急務の課題であることが訴えられた。
 続いて、第一議題として、一九七九年度の運動方針案とスローガンについて検討された。第二議題では、会議の規約(案)と会計処理規定(案)が提出され、七九年九月三十日実施を満場の拍手で確認した。
 そして最後に、新役員の選出とあいさつがあり、伊藤議長以下七名が確認され、続く参加各団体の決意表明の後、ロボトミー被術者、A氏・S氏・M氏から力強い決意表明があり、最後に結成宣言、スローガンが読み上げられ、大会参加者の斗いへの決意の中閉会された。

ロ全共結成大会によせられたアピール
ロボトミー被術者の会(準)発起人A氏
連絡先 東京都葛飾区高砂三−二六−一六
     浅利 肖基方
TEL 〇三−六七二−九八三五
    (夜十時すぎ)
私の訴えたいこと
 すべてのみなさん!
 一九五七(昭和三二年、今から二十数年前、私は、ロボトミーされた被害者です。)
 ロボトミーされたことを知ったのは、今から数年前のことでそれまで知らなかった。
 何でもない体に、手術を受けてから、10数年苦しんできた。ロボトミーされてから、体が悪くなった。ロボトミーされたとも知らずに生きてきた。その後ロボトミーということがわかった。
 ロボトミー手術される前は、働くことができた。出稼ぎの仕事して、実家にかえり、またあちこち出稼ぎにいった。
 いま、国を相手どって裁判している。厚生省と今、斗っている。しかし、働けないので生活保護を受け、生活は苦しい。働きたくて、働けない体になってしまった。
 厚生省は、この責任をどうとるのか、はっきり答えてもらいたい。
 私の他にもロボトミーされた人は、日本にいっぱいいる。裁判の時効がすぎてしまって、裁判もできない人もいっぱいいる。日本の全国のロボトミー被害者は、「ロボトミー被術者の会」に参加して下さい!
 ロボトミー被術者の会(準備会)
 発起人  A氏

赤堀政夫さんからのアピール
ロボトミー糾弾斗争の皆さん方には、お変わりありませんですか。伊藤さんからは、家族の皆さん方はじめとして、患者会の皆さん、支援してくれて、大ぜいの仲間の人達には、赤堀にかわってよろしくいって下さい。お礼をいって下さい。つつしみて忘れずに伝えて下さい。お願いします。
毎月毎月、貴重なるニュースを送ってくれましてありがとうございます。御支援を送ってくれて光栄です。協力をしてくれましてありがとう。お礼申し上げます。感謝しています。
日増しに寒くなるから、皆さん方は体を大切にして下さい。病気をしないように気をつけて下さい。私達はお互いにです。障害者であります。その為にはお互いに協力をするのです。そして、手をとりあってゆきましょう。
手紙の力です。文通するのです。話し合うのです。わたくしは現在はとらわれの身体です。
シャバへでられませんのです。わたくしのかわりにです。仲間の人を皆さんのところに派遣します。皆さんのところには、仲間の人をやります。会って下さい。
伊藤彰信様、家族の皆様、支援して下さる仲間の皆さん、さようなら。
無実の死刑囚の人間であります赤堀政夫五十才、裁判斗争の力でしっかりと斗いなさい。
勝利をするまでは、断乎として皆さん方は、いっしょに力を合わせて下さい。団結をすること、協力をすることが大事です。
会って、いっしょに集まって、話し合って下さい。相談をしなさい。
病院側のドクターの人達を相手にするのです。
院長・ドクターの人達と会って話をしなさい。
つっこんだ話し合い、皆さんからするのです。
相談してゆきながら、うまく話の方、まとめてゆきなさい。交渉をつづけるのです。
ねばり強くやりなさい。かならず、頭をさげて、おわびするために、皆さんのところへゆきます。ドクターの人達が悪いからです。
責任を取らせるのです。頑張って下さい。
たのみます。

救援連絡センターよりのアピール
本集会に結集された、すべての皆さんに救援連絡センターより、連帯のあいさつを申し上げます。
本集会に結集された皆さんを中心とした刑法改悪阻止・保安処分粉砕戦線の斗いの前に、法務省・国家権力は、刑法の全面改悪・保安処分新設の強行路線を、一旦中断し、弁護人抜き裁判法の強行に転じました。
弁護士会の自主規制に成功をおさめた法務省は、いま再び刑法全面改悪・保安処分新設にのり出そうとしています。
また、部落解放斗争・障害者解放斗争の前進にもかかわらず、腐り切った現体制はくり返し差別の構造を再生産し、部落大衆障害者への苦しみを増加させています。
また法務省は、監獄法改悪をもって獄中の仲間たちの権利斗争を抑圧せんとしています。
私たち救援連絡センターは、少数者の人権をぬきにして全人民の人権はありえないという立場から、個別の事件を斗い、また刑法改正粉砕・死刑制度の全面廃止等の斗いを斗いぬく決意です。
本日の集会の成功を祈り、私どものあいさつと致します。

9・30大会開会の基調報告を述べる伊藤議長
「精神外科批判」の講演を行う吉田哲雄先生
全障連のアピールをのべる八木下氏
被術者の会(準)としてアピールするAさん
被術者Sさん
A支会のアピール
弘前現地から決意表明

10・1要求書提出
厚生省闘争の報告
ロ全共結成大会が行なわれた翌日の十月一日、厚生省に対して、要求書提出行動を行なった。
霞ヶ関一帯に「ロボトミーを禁止せよ!」とビラまきを行なったあと、厚生省にのりこむ。
「ロボトミー糾弾!」のゼッケンを着けた一団に驚いた守衛は、それでもスモンなどの大衆行動に慣れているのか、「どちらへ用事ですか」と聞く。「保険局保険課と公衆衛生局精神衛課だ」と答えるうちに、官房総務課と名乗る男があらわれ、「私どもが陳情を受けつけ、担当部局と相談して対処するようにしています。」という。運良く応接室が空いているということで応接室で話し合うことになった。
応接室で待っていると、公衆衛生局精神衛生課総務係長の浜崎と名乗る男があらわれた。
「我々は公衆衛生局だけでなく、保険局にも用事がある。保険局からも出席するように」と要求すると、浜崎は応接室を出て、しばらくして戻ってくると「保険局とも相談したが、都合で出席できない。保険局と公衆衛生局を代表して、私が承まわります」と述べた。
そこで我々は、別紙の通り、�@精神外科を公認したきたことを反省し、謝罪すること�A精神外科被術者の恒久的な医療・生活保障のための処置を講ずること、などの要求書を読みあげ手渡した。そして、交渉については、十月六日までに返事をすると確認したのである。
十月三日に精神衛生課に電話をしてみると、「保険局とも協議したが、現在東京地裁と係争中であり、交渉する必要は認めない」という返事がかえってきた。「スモンでも裁判とは別に患者団体と交渉しているではないか」というと、「あれは和解交渉ですよ。あなたも和解するということなのですか」という。勿論我々は、和解をするつもりはない。「厚生省の回答は、第一に、我々を訴訟当事者であると判断しているが、それは誤りである。我々は、Aさん以外の複数のロボトミー被術者とそれを支援するものであること。第二に、裁判で争っている昭和三二年当時の国の責任を問題にしているのではなく、要求書は現在の国の責任、そして今なお治療指針に精神外科をのせていることを問題にしているのだ。裁判をしているから交渉しないということには納得できない。」と突きつけた。
「精神外科については、学会で禁止決議がされほとんど行なわれていないのではないか」というから「治療指針とは当時の治療方法を広く紹介したものと国は裁判でいっておきながら、すたれた精神外科を今でものせているのはなぜか」と質問すると、「とにかくあなた方とは話し合うつもりはない」と逃げる。「それを返事として受取ることはできない。もう一度考え直せ」といって電話を切った。
このように我々の最大の斗争目標である厚生省は、最初から門前払いをかけてきた。これを打破る斗い、体制を着実につくりあげ、厚生省を攻め落とそう!

あとがき
ようやくにして、待望のロ全共結成大会をかちとることができました。昨秋より、オルグ、準備をすすめてきた準備委の活動の成果ですがこれはまだ出発点であるにすぎません。刑法改「正」保安処分粉砕に向けた一戦線としてのロボトミー糾弾闘争はまだまだ弱体なものであり、一人でも多くの労仂者・学生・市民諸君のロ全共加入を訴えるものであります。
ロ全共に加入していない方は、会費(一口=五〇〇円・月額)をそえて事務局へ申し込み下さい。(半年・三〇〇〇円、一年・六〇〇〇円一括払込みでお願いします。)会費の払込みは「振替口座番号東京四−一六七八六」もしくは、横浜市港南区野庭町六一九野庭団地二一〇一二 伊藤彰信あてに、現金書類で送って下さい。

闘争スケジュール
一一月六日(火)AM10時 東京地裁
A支会ロボトミー公判
11月23日(金・祝日)  於 横手
横手現地闘争(予定)
12月14日(金)AM10時 名古屋地裁
M支会ロボトミー公判

機関紙 ロボトミー徹底糾弾
第一号(通巻5号)
発行者 ロボトミー糾弾全国共闘会議
発行日 一九七九年一〇月二五日
連絡先 神奈川県横浜市港南区野庭町六一九
野庭団地二一〇一二 伊藤彰信
TEL 〇四五・八四三・三七六五
振替口座 東京 四−一六七八六
定価 一〇〇円

1979年10月1日
厚生大臣
橋本 龍太郎 殿
ロボトミー被術者の会(準)
発起人 A
ロボトミー糾弾全国共闘会議
議長 伊藤彰信
要求書
 精神外科とは、人脳に不可逆的に侵襲を加えることを通して人間の精神機能を変化させることをめざす行為である。一度破壊された脳組織は二度と再生することはない。精神外科は、人間が人間として生きていく積極性、可能性を奪い取り、人間に個有な人格を暴力的に改造する行為であり、人権の全面的な否定である。
 精神外科は断じて医療ではない。
 精神外科は、戦後の一時期、日本でも広汎におこなわれ、数万人といわれる被術者にさまざまな悲惨を残した。
 厚生省は、精神外科による人格変化に重大な警告が発せられていわぱ反省期に入っていた1957年3月20日「精神病の治療指針」を通達し、精神外科を「治療法」として公認した。
 日本精神神経学会は、1975年5月13日の総会において、「精神外科を否定する決議」を採択し「かかる行為は医療ではない」とした。また1977年11月23日の評議会において「精神外科廃絶に向けての決議」を採択した。さらにそれにもとづき1978年8月30日には、理事長名で厚生大臣にあてて「厚生省治療指針より精神外科の現削除に関する要望書」を提出している。
 このように精神外科への批判が強くさけばれているにもかかわらず、厚生省は、今なお精神外科を公認しつづけているばかりでなく、刑法を改「正」し、保安処分を新設して精神外科を重要な「治療法」として位置づけようとしている。
我々は、厚生省のこのような態度にたいして怒りをこめて抗議するとともに、その責任を追及するものである。
 我々は精神外科廃絶へ向けて次のことを要求する。
1、精神外科を公認してきたことを反省し、謝罪すること。
2、治療指針から精神外科を削除すること。
3、精神外科被術者の恒久的な医療・生活保障のための処置を講ずること。
4、以上の点について、我々と継続的に交渉をおこなうこと。
以上

ロボトミー糾弾!弘前精神病院糾弾!
弘前精神病院に再度自主交渉要求
 一九七九年、十月六日、ロボトミー糾弾全国共斗会議に結集する被術者S氏・A氏を先頭とした東北・関東各県の労働者、学生約五十名は、弘前精神病院前において、再度病院側に対し自主交渉を開くよう強く要求した。
 今回の現地斗争は、前回九月八日に確認した第一回目の自主交渉としてあったにも拘わらず、それに先き立ち病院側は、手紙で自主交渉の破棄、法廷における斗争方針といった全く許さざるべき回答を示してきた。我々ロ全共は、そうした病院側の居直り的態度を断固糾弾し、なにがなんでも自主交渉を開かせるため斗争を展開していったのである。
我々は、受付で事務長小田切に、今日、自主交渉を開きその席に院長も着くよう強く迫まった。これに対し小田切は、九月八日と同様に院長の不在を主張し、病院ぐるみで我々の追求を逃がれようと図った。こうした病院側の不誠奥極まりない態度にとりわけ、S氏・A氏の怒りは、推し計るべくもないものであったろう。事務長小田切は、両氏のこの激しい怒りに恐れをなしたのであろうか。しぶしぶ我々との交渉に応じる気配をのぞかせた。
 交渉の影としては、ロ全共の代表数名との話し合い、院長抜きで我々の意向を後程、小田切が伝えるといった。非常に我々としては、不満足なものであったが、自主交渉が一歩でも二歩でも進めばよいと考え、この話し合いの条件をのんだ。我々は、代表S氏・A氏、ロ全共事務局長浅利氏それに弘前現地から、一名を加えての計四名で交渉に臨んだ。約一時間の激しいやりとりの後、認識されたことは、次のことである。
 今回話されたことは、責任をもって事務長小田切が、院長に伝える。
 数日中に、病院側は理事会を開き、再度、ロ全共との自主交渉をもつかどうか前向きに検討する。といった内容である。
 その後、昼近くより市役所の記者クラブで、記者会見、さらに午後一時頃から土手町、駅前付近で、情宣活動を中心に斗争を展開していったのである。
我々があくまで、自主交渉を基本にして斗うのは、医師や弁護士などの専門家による代行主義を非し、「やられる側」の怒りを斗いへと組織してゆくためだからである。
裁判で決着をつけようとする病院側の意図を粉砕し、断固自主交渉を克ち取っていく斗いを今後とも、Sさんと共に強力に差し進めて行こうではないか。

 弘前精神病院内で、自主交渉を申し入れる。
 Sさんから自主交渉開始せよとの申し入れ書を受けとり、あわてる病院側事務長小田切信吾。
 記者会見後、弘前市内でビラまき、情宣を行う。
(写真 10月6日)

病院側自主交渉を拒否
昭和54年9月18日
ロボトミー糾弾全国共闘会議
事務局長 伊 藤 彰 信 殿
財団法人 愛 成 会
理事長  三 浦 昌 武
弘前精神病院
院長 桜 田 富
回答書
去る、昭和54年9月18日に申入れのあった自主交渉の要求について、当方で協議の結果、応じないことに決定したので回答致します。
病院前でシュプレヒコール
(写真 10月6日)

1979年10月6日
東北精神神経学会
会長 江島達憲殿
ロボトミー糾弾全国共斗会議
議長 伊藤彰信
抗 議 文
 ロボトミー糾弾全国共斗会議は、去る9月30日、ロボトミーを糾弾し精神外科の廃絶をめざす全国のたたかう仲間によって結成された。まず我々は、1977年10月3日、ロボトミーを糾弾しAさんを支援する会が、貴学会にあてた要求書をひきつぐことを結成大会で確認したので、ここに貴学会に通知するものである。
 さて、我々の要求は、�@杉田孝は、2・26確認書を遵守し、自主交渉を再開すること、�A厚生省の治療指針から精神外科を削除するよう要求すること、�B精神外科被術者の追跡調査をおこない、その自覚的決起に協力すること。以上三点を学会総会で決議することというものであった。貴学会は、一昨年の総会において「誠意をもって検討する」と答え、昨年の総会では、「精神外科被術者の追跡調査をするため委員会を設置する。�@�A項についてはさらに誠意をもって検討する」という会長報告を3承したにすぎなかった。
我々は、このような貴学会の態度に不満は述べたものの貴学会の誠意を信じ今年の総会に期待を宅したのであった。
 しかし、貴学会は、9月29日に緊急評議会を開催し、10月7日弘前大学において開催される予定になっていた総会を中止することを決定した。その理由たるや「総会を開催すれば学内問題をひきおこす恐れがあり、混乱のため総会の正常な運営ができない可能性がある」というものである。我々は緊急評議員会が開かれる前日の9月28日、貴学会にたいして、「我々は総会を混乱させることを目的としない。前回同様我々の発言を保障してほしい」と電話で申入れ、「当事者は我々と貴学会であり、弘前大学の学生は我が会議に結集している部分は、我々と共に行動してもらい、勝手な行動をさせないように責任をもつ」と明言したのである。
 にもかかわらず、貴学会の総会中止理由は我々がいかにも総会を混乱させるような行動をとるかのような印象を貴学会の会員に与えていることはきわめて心外である。問題の正しい解決は、我々の要求にどう応えるかを真剣に討論し総会で決議をあげるべきであるのに、貴学会は、自らなすべきことをタナにあげ。いかに逃げるかしか考えていないと判断せざるをえない。また聞くところによると追跡調査の進展ははかばかしくなく、ある病院ではカルテを焼却したという。我々は増々貴学会の誠意を信じるわけにはいかない。
ここに我々の要求に背を向けて学会総会を中止したことに厳重に抗議する。
ただちに総会を開催せよ。我々の要求に応えよ。
以上

昭和54年10月7日(日曜日)
自主交渉で解決を
ロボトミー手術の損害賠償
共闘会議が再び要求
病院側 「再検討を」と事務長
 「人権無視のロボトミー手術を行ったことに謝罪し、損害賠償支払いなどについて自主交渉で解決せよ。」十九年前、弘前市北園一丁目の弘前精神病院(桜田瀬院長)でロボトミー手術を受け、その後遺症に悩む東京都足立区千住柳町、無職Sさん(四一)を支援しているロボトミー糾弾全国共闘会議(伊藤彰信議長)は六日、去る九月上旬に同会議が病院側に申し入れた要求書が拒否されたことについて抗議、再度「自主交渉を開け」と申し入れ書を提出した。また、きょう七日に弘前大学医学部で開かれる予定の第三十四回東北精神神経学会(会長・江島達憲宮城県精神衛生センター委員長)の総会が、同問題で混乱が予想されることから中止したという異例の事態にまで発展した。
 Sさんを支援するロボトミー糾弾全国共闘会議(去る九月下旬、準備会から組織変更)を当初、民事訴訟での解決の方向で闘争を進めていたが、裁判の長期化など不利な点が予想されるところから当事者間双方の自主交渉に変更。去る九月八日には、病院側に「自主交渉のテーブルにつけ」とする要求書と九項目にわたる質問事項を漏らした質問状を手渡していたが、病院側では同月十六日付の文書で「自主交渉の要求について―応じない」旨の回答を出していた。これに対して共闘会議側では反発。
 「あくまでも自主交渉で解決を」とこの日の病院側への再度の申し入れ書提出となった。
 同日午前十時半、病院を訪れたSさんを含む同会議メンバーら約十五人は、桜田院長が出張中で不在のため小田切信吾事務長と応対。五十二年に日本精神神経学会総会で決議された「学会員は、精神外科被術者の要求に対しては最低限誠意をもって応ずるべきである」に基づき�@この場で自主交渉を開始すること�A不可能なら次回の交渉日時を明らかにせよ―と二点を要求した。
 これに対して、小田切事務長は、九月十八日付の回答書が「理事会決起で動かせない」ことを報告。しかし「再検討する」旨を同会メンバーらに約束。今月末までには理事会決定を再検討、同会議側に連絡することを確認してこの日の交渉を終えた。
 ロボトミー手術問題は、昨年九月に札幌地裁で同手術を行った病院が敗訴。現在全国各地で裁判闘争などが繰り広げられているが、東北地方でも弘前のほか、秋田県横手市で係争中で、関係者の間に種々の波紋を投げかけている。きょう七日に予定されていた第三十四回東北精神神経学会中止―もそのあおりを受けた形だが、同会議側では六日付で�@精神外科被術者の追跡調査を再開せよ�A精神外科被術者の問題を討論すべく学会議会を速やかに開催せよ―などの内容を漏らした抗議文を江島会長あてに発生した。

=神経質過ぎる?不測の事態=
紛争発展恐れ中止
東北精神神経学会総会 弘大が強く要請
 弘前市弘大医学部を会場に、きょう七日開かれる予定だった東北神経学会(江島達憲会長)の第三十回総会が、急きょ中止される事になった。中止理由は同議会の達憲委員長である弘大医学部神経医学の佐藤時治郎教授が同学会評議会に「開催すれば大学粉砕の火ダネとなる恐れがあり、通常の責任を持てない」と中止を要請したためだが、江島会長は六日午後「学会と大学内部の問題は全く無関係。こうしたことで三十四年目を迎えた議会を中止したのは前代未聞であり、会長として大変な失意であると同時に、責任を適切に感じている」と語った。
 弘前での総会開催は、昨年の福島大会で決定。以来弘大の佐藤教授が運営委員長として戦術を強め、きょう七日には、同大医学部会議を主会場に開催予定で、会員三百余人のうち約百人が出席することになっていたもの。
 当初、評議会内部にも大学構内への会議設定は、ロボトミー問題が全国的にも高まっている折だけに懸念する声もあったが、弘大闘は楽観的な態度だったという。ところが九月中旬になって佐藤委員長から「自分たちが責任を持って会議できそうにもない」との連絡が入り、同二十九日の評議会の席上、改めて県議員でもある佐藤委員長から開催地返上の要請が出されたもので、三時間に及ぶ論議の末、「混乱が起きるかもしれないという予測に基づく中止は問題があるが、不測の事態が発生してからではむしろ会員たちに迷惑がかかる」との結論に達したもの。
 しかし現在、仙台市の精薄施設「総本園」園長の江島会長は「弘前大学では学生紛争を中止理由としているが、ロボトミー糾弾全国共闘会議(伊藤彰信議長)メンバーとは、一昨年の山形大会、それに昨年も会っており、総会を中断させるような、かつてのはねかえり分子でなく、紳士的で節度のあるメンバーと知っている。過去の総会でも混乱はなかった。中止を決めた総会では、会場変更、延期といった提案も出された。弘前の内部事情の犠牲になったことは残念でならない」と語っている。
 一方、佐藤委員長は「学会は自分にとり自分の子供みたいに手塩にかけて育ててきたもので、中止は残念でならない。しかし当事者として、弘大紛争に発展する火ダネになる心配がある以上、重大な決断をせざるを得なかった」と語っているが、同会議メンバーには同大医学部生も加わっており、中止により反発が高まっているときだけに今後に尾を引きそうな情勢下にある。
 なお桜田高弘前精神病院長は、去る三十二、三十三年に弘大医学部神経精神医学講師を選任。今次議会では「同意入院」をテーマとしたシンポジウムの司会をすることになっていたが、同病院に対する損害賠償請求問題が起き、司会を辞退していた。

桜庭さんを支援しよう [cf.ロボトミー殺人事件(1979)

 「九月二七日、東京都小平市の精神科医、藤井きよし(桜ヶ丘保養院勤務)の家へ桜庭なる人物がおしいり、藤井医師の妻と母を殺す」という事件がおきた。
 詳しくは、同日の新聞を読んでほしいが、「桜庭の犯行の理由は、一五年前に藤井医師にやられた精神外科を恨んでのことである」という。
 この精神外科は、チングレクトミー(前帯回切除術)という術式で、前頭葉の下部(脳の中心に近いところ)を吸いとってしまう手術であり、「凶暴性」をなくすために「効果」があると、一部の学者の間でいわれていたものである。
 我々は、殺人を肯定するわけではないが、桜庭さんの怒りは正当であり、その怒りこそロボトミー糾弾斗争の原点だと考えている。
 ロボトミーの創始者であるポルトガルのモニッツも、被術者にピストルでうたれるという事件があり、人の頭にメスを入れたやつらの血塗られた運命は、このようなものかと今さらながら思うものである。
 もちろん、ロボトミー糾弾斗争は、医師を殺せばよいというものではない。
 個別の怒りを普遍化し、ロボトミーを頂点とする保安処分攻撃をかけてくる国家権力との斗いへ向かわなくてはならないが、あまりにも医師の身勝手な対応ばかりみせつけられると、本当に「殺してやろうか」という気もおこるというものである。
 ともあれ、精神外科に対する怒りを動機として、医師に直接的に制裁を加えようとする行為がはじめて明るみにでた。我々は、この行為の正当性を主張する。且つまた、裁かれるべきは、医師であり、精神外科を許してきた国であると主張する。
 とりわけ、桜庭さんを手術した桜ヶ丘保養院は、東京で精神外科をさかんに行なったところであり、警察と最も緊密な関係をもつ精神病院である。我々は、この機会に、桜ヶ丘保養院に対する糾弾斗争を展開すべきだと考える。
 桜庭さんは、一〇月一八日に殺人罪等で起訴され、身柄は八王子拘置所へ移された。
 桜庭さんは、自分ひとりで裁判を斗かうといっているが、我々は彼の意志を尊重しつつ、彼の決起の意味を広く訴え、ともに桜庭さんを支援することを訴える。

パンフ近刊予告
ロ全共結成大会報告集
(内容)
吉田哲雄 「精神外科批判」
ロ全共  「運動方針・規約」
A支会  「横手闘争の報告」
M支会  「守山十全病院闘争の報告」
ロ全共  「弘前精神病院闘争の報告」
被術者会(準)「私の訴えたいこと」
ゴスタ・リーランダー著 「ロボトミー手術前治精神状態の分析」
佐藤忠彦訳 (本邦初訳!迄御期待!)


*作成:桐原 尚之
UP:2011528 REV:20110625
精神外科:ロボトミー  ◇ロボトミー糾弾全国共闘会議(ロ全共)  ◇全文掲載 
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