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全国「精神病」者集団ニュース 1999.6


last update:20101204


全国『精神病』者集団ニュース 1999年6月
   ごあいさつ
 夏がやってきました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?「精神病」者にとっては魔の季節でもある春を無事にやり過ごせたでしょうか?
 精神保健福祉法の見直しがこのニュースがお手元につく頃は国会で成立していると思いますが、この国会での議論の過程で衆参両院の委員会において付帯決議として「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇のあり方については、幅広い観点から検討を行うこと」といった内容が決議されました。またすでにニュースで報告したように週刊朝日による保安処分推進キャンペーンもおこなわれました。このニュース版下制作以降ですが、5月末には日本精神神経学会総会においては「司法精神医学の現代的課題ーー日本の触法精神障害者対策の在り方を巡ってーー」というシンポジウムが開かれます。「対策」とは現象や敵に対して使う言葉であり、「触法精神障害者対策」という言葉は、違法行為をおこなった「精神障害者」を「共に生きる人」とではなく、敵として「対策」の対象にすることを意味しており、保安処分思想そのものです。学会は「反保安処分」の立場を転換し、保安処分思想を表明していると言っていいと思います。これに対して全国「精神病」者集団としては学会闘争で取り組みますが、詳しいご報告は次号で致します。
 また同封ビラにもありますように、精神保健福祉法見直しにおいて「強制的移送制度」が決定化されました。87年の精神保健法施行以降そして精神科救急の整備の中で新規措置入院が増加しましたが、この「強制移送制度」もどう運用されていくかを考えると恐ろしいことです。私たち「精神病」者は地域でもいつ逮捕強制入院されるか分からない現状が、さらに法的に強化されました。安心して地域で暮らす権利を私たち「精神病」者は法的に否定されたといってよいでしょう。今後さらに保安処分推進キャンペーンが続く中、私たち「精神病」者への人権侵害は止めどもなく拡大していくおそれがあります。
 こうした動きに対し全国「精神病」者集団としていかなる闘いを進めて行くべきか、多くの会員の皆さまの声を全国「精神病」者集団までお寄せ下さいませ。
 久しぶりのニュースとなりましたが、学会関係のビラのため、多くのご投稿を次号回しとしたことをお許し下さいませ。
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投稿
  山田和男
 胃カメラの際、注射を二本うたれたと先に書きましたが少し詳しく述べたいと思います。
 胃カメラの際、患者は胃の動きを押さえるために鎮痙剤(ちんけいざい)を一本打たれます。たとえばブスコパンです。しかし二本打たれることは全くないということです。私の場合、看護婦は「もう一本打つのよ。胃をふくらます注射よ」、こういう注射液は実は存在しないのです。当のI看護婦に問いただしましたが、答えられませんでした。その直後より起こった激しい口渇と体重の減少は急性の糖尿病でした。今、私は失明の危機に直面しています。私に与えられた寿命はこのようにして権力により縮められつつあります。次には死が待ちかまえています。いずれ権力の当事者には天罰が加えられるでしょう。
 また、拷問が始まった。頭が締め付けられ、鉄のように固くなり思考が停止する。私は一人、誰もいない部屋で「弱者をなめるな!」と叫んだ。するとたちまち締め付けは氷解した。何度繰り返される拷問だろう。
皆さんにはお分かりにならないと思いますが電子技術の高度な発達はこのような悪も可能なのです。
 いずれは天罰が下される。これは予言です。また、私のマイクロテープレコーダーが一回使っただけで破壊されました。証拠を録音するために買ったものです。そしてそのレコーダーが私のアパートから忽然となくなったのです。合い鍵を使って侵入したことは確かです。以前門扉の鍵が原因不明で壊された経験がありました。
 ここで私は宣言します。私に対する一切の悪をやめよ!禁止する。電子機器が電波で破壊できることはペルー人質事件で実行しようとしたが、熟慮の末やめたと関係者が語っていたことをメディアを通じて私は知っていました。つまり機能を破壊することは現在可能なのです。
投稿
  東京 T
 先に「自我について」を書いた中で「病者に今必要なのは愛であって、健康を語ることではありません」と書きましたが、ここで言う「愛」は「無償の愛」の意味で「愛欲の愛」ではありません。誤解される方のおると思いますので一言お断りいたします。「無償の愛」の具体例として大野さんの赤堀さんに対するケースが上げられます。
 ニュースを拝見していて、一、二気付いた点を挙げさせていただきます。「病者集団に望む」と題された「無名氏」の文中で「・・・・・これらは政治上の問題です。他の論文誌で議論すればよいのです。病者集団ニュースに必要ではありません。今後ナチ、スターリン主義・・・・・掲載は中止して下さい」とありましたが私は条件付きで賛成です。詳細は省きます。
 また厚生省の精神障害者に対する基本的姿勢とその思想的根底にあるものは弱者の囲い込みであり、ダーウィンの自然淘汰があるように思えますし、さらにはニーチェの強者と弱者のおよそ思想とはいえない論文(詳細は「権力への意志」という彼の論文を参照されたし)によっているように思われてなりません。ニーチェ論文から産まれたのがナチズムであることを知るだけで彼の狂った思想が知られます。現代の哲学者、池田昌子著「口伝哲学史」のニーチェの項でプラトンの口を借りて次のように言わせています。「ねぇ坊や(ニーチェのこと)何を言っているの」と。
全障連大会に参加しませんか?
 〈全障連とは〉

 全障連の正式名称は、全国障害者解放運動連絡会議といいます。障害者への差別に反対して、いまから24年前に結成された組織です。そして「障害を克服」するのではなく、差別からの解放、つまり障害者の地域での自立と解放を一貫して主張し運動をやってきました。
 いまや、私たち全障連の主張は多くの人々に取り入れられてきましたが、たとえば政府ー厚生省のいう「自立」は、私たちが主張してきた、「押しつけでない、権利としての福祉」からはまだ遠いといわなくてはなりません。ですから、いまもなお私たちは、障害者が先頭で大いに運動をやっていく必要があると考えています。
 そして、障害者への差別もまた表向きでは「よくないこと」とされてきましたが、実際には根強いものがあります。「脳死立法」に見られるように、障害者を「価値を生まない生命」として抹殺しようという動きもあり、何よりも精神障害者をむりやり精神病院に閉じこめる「精神保健福祉法」が私たちの前に立ちはだかっています。こうした差別に反対して行く運動をみなさんと共にできれば、と考えています。
〈全障連大会の精神病者の分科会〉
 今年の夏、7月31日(土曜)と8月1日(日曜)の2日間にわたって、全障連は、全国交流大会を東京の地で開催します。交流大会は全障連の正式なメンバーに限定されたものではなく、全国から多くの障害者、支援者が駆けつけて日常の活動について報告・相互討論を行い、いろいろな課題での運動方式について意見をたたかわせます。もちろん堅い話ばかりではなく、夜の交流会など、「最近どうですか」といった文字どおりの交流もあります。
 大会は初日全体会と2日目分科会をおこないますが、分科会の中では、精神病者の分科会ももたれます。そこでは、普段の生活の中での差別の体験交流や、地域でどのような支える活動がやられているか、さらには「処遇困難者専門病棟」にあらわされるような保安処分ー強制医療に反対する取り組みなども話題になります。
 そして今年は、せっかく東京でやるのだから、ということで大会分科の余勢をかつて、翌日8月2日(月曜)に対厚生省交渉をもつ予定です。現在、精神保健福祉法の「改正」案が国会にかかっており、8月段階でどのような要求を掲げて闘うべきか今の時点ではまだ十分に分からないところもありますが、みなさんと共に分科会ー交渉を成功させていきたいと考えています。
 みなさん、ぜひご参加を!
//問い合わせ先//
全国事務局
〒537ー0021  大阪市東成区中本2ー3ー8 岩本コーポ705
 電話06ー6981ー1720 ファックス06ー6981ー6204
 参加費 3000円 詳しい場所等は上記にお問い合わせ下さい。
事務局報告
☆以下の文章を週刊朝日に出しました。

抗議文
 一九九九年一月二二日付文書を受け取った。
 しかしその内容はとうてい私たちには納得できるものではない。
 まず違法行為を行った「精神障害者」に対して起訴して裁判で「訴訟能力」や「責任能力」を問えと言う主張に対して私たちが反論した点について全く答えられていない。
 第一に近代刑法の原則は「罪刑法定主義」と「責任主義」であり、私たちの文章で主張したように、「ある行為が犯罪となる構成要件」は、行為があったこと、
 その行為に違法性があること、そして行為を行った人間に責任能力があること、この三つである。貴誌はこの近代刑法の原則を真正面から論じることなく、ムードとして不起訴が四割と数字を上げているが、これは大衆を愚弄するものであると指摘した。これについてあなたは一切回答していない。
 第二に起訴された違法行為を行った「精神障害者」に対する処遇の問題点について私たちは以下の指摘をしている。まず病人には取り調べ、裁判よりすなわち刑事手続きよりも「医療」を優先するべきであるという点について、あなたは一切答えていない。現状は「医療」は優先されず、取り調べや刑事手続きが優先され、「精神障害者」は不適切な処遇の中で症状悪化、あるいは懲罰までかけられている実態があり、「精神障害者」の防御権は著しく侵害されており、さらには生命の危険にまでさらされている実態を私たちは指摘した。
この実態についてあなたは一切答えていない。あなたはこうした「精神障害者」の獄中実態について調査したのか?
 第三に措置入院患者が措置解除の際に症状消退届けを出すこと、また措置入院患者の多くが長期入院していることは、「ご指摘の通りです」と文書にあるが、それではなぜ、「措置入院後はザル状態」という見出しについて撤回しないのか? あなたの文書の認識によれば「措置入院後はザル状態」は明確な誤りではないのか?
 第四に欧米のいわゆる「保安処分施設」の実態について私たちの主張は述べたとおりだが、それに対してあなたは調査したのか? この点についてもあなたの回答は一切ない。
 以上あなたの文章にわれわれが納得できない理由を述べたが、貴誌はさらに二月一二日号において「刑法三九条責任能力なし不起訴者と隣人の苦悩 治療施設に押しつけられる矛盾」と題し、さらに保安処分施設新設を主張する記事を掲載した。
 違法行為を行った人間が健常者であれば、受刑後社会復帰するのは当然である。殺人事件の「前科」があっても社会復帰している人は大勢存在する。しかるになぜ、「精神障害者」は違法行為を行ったあと社会復帰することが問題になるのか? ここには明確な「精神障害者」差別が存在する。
 八一年に法務省が導入しようとした刑法改悪=保安処分新設、および九〇年頃の「処遇困難者専門病棟」新設が反対されとん挫したことが書かれているが、この反対論がいかなる理由であったのか、そしてなぜ「精神障害者」を始め、弁護士、労働組合、精神科医の多くの声で阻止されたのか、それについては一切説明されていない。一方的に保安処分推進論を掲載する記事でしかない。
 あなたはなぜ、こうした反対運動を行ってきた側の意見を取材しようとせず、一方的保安処分新設論のみを紹介したのか、あなた方のジャーナリストとしての姿勢に誤りはなかったのかをまず問いたい。
 また「措置問題の議論はタブー」なる見出しを掲載しているが、これは事実に反している。日本精神病院協会は違法行為を行った「精神障害者」に対する「特別措置制度」導入を提言しており、これは昨年の日本精神神経学会総会においてシンポジウムの中で議論されており、又山上晧氏の「触法精神障害者をめぐる諸問題」もセミナーとして同総会において開かれている。厚生省においても公衆衛生審議会の下での「精神保健福祉法に関する専門委員会」は計一〇回の審議の内一回を「触法精神障害者問題」に充て議論している。
 「議論はタブー」どころか、保安処分新設に向けた意見が活発に交わされているのが現状である。
 貴誌の記事は「精神医療は、歴史的に『社会政策』に影響されるという」と言っているが、これはまさに正しく、現在違法行為を行った「精神障害者」の問題が活発に議論されている背景は病院経営上の観点によるものである。措置入院中の患者が脱院し事件を起こし、その遺族が巨額の賠償金取った「北陽病院事件」が引き金となり、病院経営の観点から私立精神病院が一致団結して措置入院患者の問題、違法行為を行った「精神障害者」の問題を取り上げ、保安処分推進を論じているのが実態である。
 また新規措置入院数について、一九七九年には一万六千八二〇件であったのが、九六年には三千四三〇件と激減している点について、この理由をあなたたちは調査したのか? これは確かに「医学的理由」ではない。
しかしこの理由は明白であり、経済的困窮を理由としたいわゆる「経済措置」が見直され、かつては「措置要件はないが経済的に貧しいから措置入院」となっていた仲間が措置入院を適用されなくなったからに過ぎない。
 私たち全国「精神病」者集団は上記の趣旨に基づき再度以下の要求をするものである。
�@この記事を書いた日垣隆氏および週刊朝日編集長は私たちとの確認会に応じること。
�A確認会に応じ、それに基づき自己批判を明らかにして週刊朝日誌上に自己批判書を掲載すること
�B私たちの「精神障害者」違法行為者の救援活動に基づく私たちの書いた記事を週刊朝日誌上に掲載すること
一九九九年五月一七日
週刊朝日編集長殿
       全国「精神病」者集団
☆厚生省精神保健福祉課へ専門委員会議事録につき抗議した件
前回ニュースでご報告した議事録上の誤りにつき、以下のように精神保健課の補足がつきました。
○委 員
 歯切れが悪くて申しわけありませんが、実は、この道下レポートが出ました後、道下先生に対する非難攻撃が集中的にまいりまして、そして個人的に身の危険を感じられるくらいのことがございました。それから、私たちの仲間では焚書事件と言っているんですが、その報告書を患者さん側の一部の代表、プラス精神科医側の一部の代表の人たちが徹底的に攻撃いたしまして、その報告書を目の前で焼けというふうなことがありまして、実際お焼きになったといううわさを聞いております。そういった非常に情緒纏綿たる歯切れの悪いお話でございました。
(補足・・上記発言中「報告書」は、「調査票」の誤りでした。  精神保健福祉課)
☆事務局入手資料
精神保健福祉法「改正」案関係
国会上程の改正案、参院委員会での訂正案、参院および衆院での委員会の付帯決議、など
 以上は私書箱までお申し込み下さい。コピー代送料実費を送付の際にご請求いたします。
☆例会日程
六月例会
六月二六日(土)夕食を食べながら交流
  二七日(日)会議
八月例会
八月二一日(土)夕食を食べながら交流
  二二日(日)会議
場所はいずれも京都事務所です。例会は偶数月の第四日曜日で、その前の土曜日が交流会です。
出席なさりたい方は私書箱までご連絡下さい。詳しい場所時間等お知らせいたします。担当者の体調で休会となる場合もありますので、必ずご連絡の上いらして下さい。
いまなぜ触法精神障害者問題なのか
日本精神神経学会は反保安処分の姿勢を今一度明らかにせよ
保安処分攻撃の現状

 1983年宇都宮病院事件告発以降、日本精神病院協会及び一部の精神科医の中では、「日本には保安処分制度がないから悪徳病院における患者虐殺・虐待が起こる」、「処遇困難者が私立精神病院に押しつけられているから患者虐待が起きる、処遇困難者は特別病院に入れる制度を新設すべき」、「ヨーロッパ諸国等で精神病院開放化や患者の人権擁護が進んでいるのは保安処分制度があるおかげである」といった意見が声高に叫ばれるようになった。また、「ノーマライゼーション」や「社会復帰」を盛んに主張する専門家の中には「触法精神障害者」が「精神障害者」の「ノーマライゼーション」や「社会復帰」の足をひっぱっており、こうした部分を手のかかる部分として排除すべきと主張する部分も存在する。そうした流れは「処遇困難者専門病棟」新設策動として結実したが、私たち「精神病」者はじめ多くの専門家団体、労働組合等の反対によって「処遇困難者専門病棟」新設は今のところとん挫している。
 しかし、「措置入院制度の強化を、違法行為を行った精神障害者に対し特別な対応・施設を」といった動きは今回の精神保健福祉法見直しにおいても各医療従事者団体より主張されており、見逃すことはできない。以下羅列すると、
※措置入院の解除については指定医2名で行うことにする
  (国立精神療養所院長協議会、日本精神神経科診療所協会)
※措置入院に関して、保健所、精神保健福祉センターなど精神保健関連行政機関が有効に関与できるシステムにするとともに、措置入院全体の経過に関して責任を明確にすること。
 (全国精神保健福祉センター長会)
※措置入院の措置解除に際し、6ヶ月間の通院義務を課すことができることとする。
 (国立精神・神経センター)
※措置入院を、特別措置(触法精神障害者ー犯罪を犯した者、検察官、保護観察所の長等の通報による入院)と一般措置に分ける。特別措置については、国・都道府県立病院及び国が特別に指定した病院に入院することとする。
 (日本精神病院協会)
※触法行為のケースの治療、措置解除時の司法の関与を明確化
 (精神医学講座担当者会議)
などである。
 全国「精神病」者集団としては昨年こうした意見提起に対し危機感を持って緊急声明を出し、同時に日本精神神経学会に対して、「措置入院制度強化に反対する意志表示」を要請したが、この要請は理事会において拒否された。今回の精神保健福祉法見直しにおいてはこうした意見に基づく法改悪は行われなかったが、こうした動きの中で、参議院国民福祉委員会では、付帯決議として「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇のあり方については、幅広い観点から検討を行うこと」が決議された。一方日本精神病院協会は98年9月25日付で定期代議員会および定期総会声明として「触法精神障害者の処遇のあり方に現状では重大な問題があり、民間精神病院としても対応に限りがあることから、何らかの施策を求めたい。こうした問題に対して全く対応がなされない場合、止む(ママ)なく法第25条(検察官の通報)、第25条の2(保護観察所の長の通報)、第26条(矯正施設の長の通報)等患者の受け入れについては、当分の間協力を見合わせることもありうる」と恫喝している。また週刊朝日が「危険な精神障害者野放し、新たな対策、施設を」といったキャンペーンを昨年末から今年にかけて行っている。
 こうした動きの背景にあるのは北陽病院に対して多額の民事賠償が決定されたことだ。これは措置入院中の患者が脱院し横浜で警視を刺し殺した事件において、北陽病院の責任が追求されたものである。こうした多額の賠償責任への恐怖から日本精神病院協会は上記の方針を出している。日精協の本音は「いままで精神医療を担ってきたわれわれとしては、これ以上の既得権侵害は許さない。医療だけではなく保護でも金を取りたい、福祉でも儲けたい。
そのためには扱いやすい、儲かる患者だけを入院させたい」ことにある。
 こうした動きの積極的「科学的」支持者、同盟者が日本精神神経学会「法と精神医療に関する委員会」委員長山上晧医師である。そして消極的支持者は日本の精神医療が治安に奉仕してきた側面、精神保健福祉法の治安的側面を無視し、「社会復帰活動」やら「ノーマライゼーション」を唱えさえすれば、「精神病」者の利益になると錯覚している専門家の大群である。
 かくして今総会において「司法精神医学の現代的課題ー日本の触法精神障害者対策の在り方を巡ってー」というシンポジウムが法務省、厚生省、警察庁、日弁連を招き開催され、当事者である触法精神障害者抜きの意見交換がされようとしている。この当事者抜きのシンポジウムを私たちは弾劾する。
私たち「精神病」者はなぜ保安処分および触法精神障害者への特別な施策・施設に反対するのか?
 保安処分とは違法行為を行った「精神障害者」を、その危険性を根拠に、一般の精神病院とは別の特別な施設に予防拘禁し、その「危険性」除法のために強制医療を施すものである。
 そもそも山上医師も言うように、「精神障害者」の違法行為者であろうと健常者の違法行為者であろうといずれも再犯の危険性は存在する。たとえば大和川病院院長は何度も患者虐殺・虐待を繰り返してきたではないか(明るみに出ただけでも1978年、1980年、1993年)。しかし「危険性」のみを根拠に人を拘禁することが許されるだろうか? 健常者の違法行為者に対しては「累犯者に予防拘禁を」という声はとりあえずはない。「殺人」を犯そうが受刑後出所して社会生活を送っている健常者はたくさん存在するし、その中で再犯を犯す者も存在する。しかしなぜ「精神障害者」に対してのみ「危険性」のみをもって拘禁することが正当化されるのか? 合理的根拠は存在しない。そこにあるのは「精神障害者」は「犯罪を犯しやすい」とする「精神障害者」への偏見と、「精神障害者」の予防拘禁による人権侵害は仕方ないと容認する「精神障害者」差別しかない。
 いかなる危険性も排除しようとする社会は恐るべき危険な社会である。完全に人民が支配され、日常生活の隅々までそして内心の自由まで管理された全体主義的社会である。現在日本はこうした方向に突っ走っている。ガイドラインの成立、組織的犯罪対策法の上程、国民総背番号制の導入がなされようとしている。これらは戦争に向け国民を動員し、そしてそれに反対するいかなる団体も弾圧し、通信や結社の自由を侵害し、全国民を管理しプライバシーを侵害していく法律である。こうした中で「精神障害者」への治安的な弾圧が強化されるのは必然である。歴史的に治安が問題になるとき、常に「精神障害者」への弾圧が強化されてきた。私たちはこうした歴史が繰り返されること、そして「危険のない社会」「全体主義的社会」を断固として拒否する。
 私たち「精神障害者」は「発病」と同時に、「厄介者」「危険な者」として、家庭から、地域から、学園から、職場から追い出され精神病院への強制入院させられてきた。こうした排外を私たち「精神障害者」全員が体験している。だからこそ私たちは一部の仲間を特別な施設に追放した上での、「社会復帰」や「ノーマライゼーション」、「精神病院の開放化」を決して望まない。私たち自身が体験した排外を一部の仲間に押しつけていては、私たちは1分1秒でも自由ではあり得ない。「触法精神障害者」あるいは「犯罪を犯した精神障害者」をいけにえにした自由など私たちは欲しない。「精神障害者」への予防拘禁を許すことは、先に述べたように「精神障害者」への偏見と差別を認めることであり、これは即座に私たち「精神障害者」全員に向けられる偏見と差別の容認につながる。私たちは「精神障害者」に対する一切の分断攻撃を許さない。
保安処分および触法精神障害者への特別な施策・施設を許せば何が生まれるか?
 保安処分あるいは特別病院・病棟を許すと、そこに拘禁される「精神障害者」はどうなるか? まずこうした施設は財政的理由から数少ないものとなることは当然予想される。したがってそこに入れられた「精神障害者」は家族や友人地域から隔離され遠くの施設に強制的にみられることとなる。また第三者機関か裁判所命令で拘禁されるとしたら、本人はもちろん家族、主治医が反対しても強制的に拘禁されることとなる。そしてこうした「特別施設送り」は強烈な烙印となって、「危険な精神障害者の中でさらに危険な恐ろしい者」とされ、対象者は地域から隔離追放されることとあいまって社会復帰など不可能になる。かりに一般の精神病院に戻ってもこの烙印ゆえにほかの「精神病」者や精神科医はじめ医療従事者から差別され特別扱いされることとなるだろう。現実にイギリスの特別施設からの釈放者はそこにいたことを決してあかすことができない実態があり、むしろ刑務所にいたと言った方が地域で受け入れられるそうである。
 また特別施設で行われる医療は、本人の利益ではなく「危険性の除去」を目指した医療であり、当然強制医療となる。そこではかつて中山宏太郎医師が発言したように「違法行為を行った精神障害者に対して自殺をせまるような濃厚な治療」が強制されることになる。「再犯・危険性の除去」は自由な意志を持つ人間存在の否定であり、人間としての尊厳への医学・医療の介入、冒涜である。こうした思い上がった医学・医療の存在は倫理的荒廃を生み出し、医療従事者の退廃を生み出すことは必至である。対象者にとっては特別施設の拘禁と強制医療は、いわば「刑罰」であり、医療提供者と本人の間での対等な関係は破壊され医療的関係は存在しえない。そしてその傲慢な医学・医療は、当然にも電気ショックや精神外科手術、不妊手術や性的能力を奪う手術等の実質的強制につながる。そこでは本人の治癒などあり得ないしむしろ障害の重度化が生ずる。
 また精神保健福祉法見直しにおける意見にあったように、対象者には施設に収容されていなくても、地域での監視制度や強制通院制度の対象とされることが予想され、ここでもその圧力による症状の悪化が生ずる。
 そして「危険性の除去」を目的とした予防拘禁や地域での監視は、そこからの「釈放」や対象者からの除外にあたっては「安全の保証」を要求される。そうである以上責任追及を恐れる当局および医療従事者は「釈放」や制度対象からの除外にあたって極度におびえ、「釈放」や「除外」は例外的となり、対象者は永久に監禁されるか監視対象となる。
 いったんこうした特別施設を容認すると、一般の精神病院は開放化され、改善されるだろうか? 断固として否と言わざるをえない。民事訴訟による賠償責任を恐れる精神病院経営者・医療従事者は少しでも「厄介」と判断した患者を特別施設に移送することに汲々とすることになり、また特別施設からの患者の受け取りを拒否することになる。また政府も「厄介者は特別施設で引き取ったから、一般精神病院は現状でいいだろう」ということで、差別的特例の撤廃など永久に不可能となるだろう。こうした状況下で一般の精神病院における医療技術は低下し、医療提供側にとって「扱いやすい患者」にしか対応できない状況が固定化されていく。現実に特別施設や保安処分制度のある国では「少しでも厄介な患者は特別施設に送る」、「特別施設からの患者は拒否する」という状況が生まれ、特別施設が満杯になるという実態がある。
 私たち全国「精神病」者集団は国際的に患者会との交流を通して各国の保安処分体制の情報収集につとめている。イギリスの「精神病」者団体で「精神障害者」の違法行為者の救援も行っている、サヴァイヴァー・スピーク・アウトのルイーズ・ペンブロック氏は道下医師に対してどう思うか、と質問したところ、「なぜ!?」という悲鳴と共に、そこに入れられている仲間は満足どころか人権侵害状況に苦しめられていると説明してくれた。そして彼女は自分たちがイギリスでセキュリティ・ユニットの存在を許しているので、道下医師はじめ日本政府がそれを日本に導入しようとしているのでは、と言って日本の「精神障害者」に申し訳ないと謝罪した。もっともこれに対しては、日本の「科学者」や政府は常に自分たちがやりたいことについて、「諸外国では・・・」と言って都合のいい情報だけをつまみ食いして合理化するのが常であると言っておいてが・・・・・。また私たち全国「精神病」者集団は一昨年会員2名をオランダに派遣し、オランダの保安処分施設TBS施設の一つである、ユトレヒトのドクター・ヘンリ・ヴァン・フーヴェン・クリニックを訪問し、職員抜きで入所者と交流した。オランダにおいては患者の権利擁護制度や治療拒否権が一般精神病院では確立しているが、TBSにおいてはこれらは一切なく、TBSは一般精神医療から隔絶されている。もちろんTBSは一生出られない可能性もあり拘禁期間は不定期である。クリニックでは職員とほかの患者との委員会によって、外出許可その他すべてのことが討論されていくことになっており、巧妙な相互監視と密告制度により、入所者には一切プライバシーは存在しない。もちろん最終的決定権は職員にある。常に職員に対して「進歩」を見せていくことが求められ、当局の望む操り人形になることでしか釈放の望みを持つことはできない。これらについては外でパンフを販売しているのでぜひ読んで欲しい。
 私たちは国際的な情報からも保安処分施設や特別施設を日本には決して作らせてはならないと決意している。山上晧医師はじめ医療従事者の繰り返す、諸外国の保安処分施設特別施設は素晴らしい、という発言は入れる側の論理でしかなく、入れられる側の認識についての調査がない一方的評価に過ぎない。
山上晧医師の誤り
 刑法は本来「犯罪者のマグナカルタ」であり、犯罪者への恣意的刑罰権を否定するために生まれた法律である。そしてその手続き法が刑事訴訟法である。近代刑法の原則は責任主義と罪刑法定主義であり、ある行為が「犯罪」となる構成要件は行為があったこと、その行為に違法性があること(=刑法条文上にあげられた行為であること)、責任能力があること、の3つである。この要件があって初めて検事はその人を起訴できる。したがって現行刑法において、責任能力がない者すなわち心神喪失の者の行為は犯罪でない以上起訴され公判にかけられないことになるのは当然である。
 この前提の上で精神保健福祉法25条において検察官通報が義務としており、「検察官は、精神障害者叉はその疑いのある被疑者叉は被告人について不起訴処分にしたとき、裁判(懲役、禁固叉は拘留の刑を言い渡し執行猶予の言い渡しをしない裁判をのぞく。)が確定したと
 その他特に必要を認めたときは、すみやかに、その旨を「都道府県知事に通報しなければならない。」となっている。こうして不起訴あるいは心神喪失により無罪等になった者は精神保健福祉法の精神鑑定を受けさせられ、措置入院のルートにのせられる。
 この精神鑑定は公判とは違い、違法行為を行ったという事実を立証する責任も持った検察官は存在せず、それを要求する弁護人も存在しない。証拠が反対尋問されることすらない。
鑑定医は検察、警察の言い分を鵜呑みにし、本人の訴えに耳を貸そうとしたいことはわれわれの精神科医との診察場面から当然想像できる。この場合違法行為を行ったという事実が警察、検察の誤認の場合もありうる。違法行為があったとしてもたとえば傷害、殺人でも正当防衛という場合もありうる。これらの場合起訴公判になれば当然無罪となるのに、不起訴であるがゆえに「違法行為を行った精神障害者」というラベリングをされ、長期あるいは一生措置入院される可能性がある。仮に保安処分新設や特別施設が作られれば、このラベリングによってそうした施設に送られ一生監禁される可能性もある。
 いったん措置入院となれば、とりわけ「殺人」を犯したとなれば、健常者が判決で受ける刑期以上、多くの場合は一生精神病院に監禁されることになる。現実に1997年6月30日現在において厚生省の統計によれば全措置入院患者数は4772名、その内10年以上20年までの措置入院患者は16.3%、さらになんと37.7%が20年以上の入院となっている。すなわち全措置入院患者の54%が10年以上措置入院されていることになるのだ。
 さらに精神保健福祉法29条の4によれば、措置入院の解除にあたっては都道府県知事の指定する指定医による診察の結果、自傷他害のおそれがなくなったと見なされることが条件となっており、単に主治医や家族の都合で措置入院が解除される訳ではない。また同法29条の5においては措置を解除した際には措置入院者の症状消退届けを最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出ることになっており、その書式には措置年月日、本人の氏名、生年月日、住所、病名、症状の経過、入院継続か通院医療か、転医か、その他か、さらに退院後の帰住先住所、保護者の住所氏名、生年月日まで書くことになっている。いったん措置入院となればこれだけの個人情報が行政に把握されることになっている。
 山上晧医師の主張とは異なりいったん措置入院となった違法行為を行った「精神障害者」は健常者以上に過剰に長期拘禁され、監視されているのが実態である。少数の例外をあげつらう前にこの広範な人権侵害の実態、すでに現存する保安処分体制=「危険性をもって人を予防拘禁している実態」について問題にすべきである。また歴史を振り返れば、有名な事件の実行者とされた「精神障害者」は全て自殺に終わっている。ライシャワー刺傷事件の人、現天皇の結婚パレードに石を投げた人、近くは西口バス放火事件の丸山さん、そして故山村議員の娘さん、全て自殺に終わっている。この事実に山上晧医師はどう答えるのか? 再犯を繰り返す事例よりはるかに多いのではなかろうか? その統計すらないことに私たち「精神障害者」の悲劇がある。
 山上医師はさらに保安処分制度、特別施設がないために違法行為を行った「精神障害者」が精神病院において過剰な行動制限を受け生命の危険にまでさらされていると主張するが、これこそまず精神保健福祉法の撤廃と、精神医療の実態の底上げをもって解決すべき問題である。厚生省の統計(1996年)によれば都道府県立以外の措置入院指定病院において医療法特例の医師や数が配置されていない病院は約29%、医師以外の職員配置でも医療法上に非適合な病院は約34%をもしめている。措置入院という形で強制的に予防拘禁しておいて適正な医療を保障する最低限の物理的条件である医療法特例の人員配置すら満たさない実態こそをまず問題にすべきである。
 また再犯を繰り返す「精神障害者」が存在するという論文を山上医師は書いているが、その根拠となっている資料は全て法務省、検察、警察の資料である。自白調書も含め警察検察の資料は全て公判において反対尋問にさらされていないものである。事実かどうか検証されていない資料を根拠に山上医師がいかに論理を立てようとも砂上の楼閣に過ぎない。昨年の日本精神神経学会の沖縄での山上晧医師のセミナーにおいて、こうした追求と共に、「あなたは自分の論文の根拠となった事例の当事者に取材しているのか?」と質問したところ、山上晧医師の回答は「一切当事者には聞いていない」と回答している。まさに山上晧医師の論文は内面的な根拠なき論文に過ぎない。
 さらに山上医師は被害者感情について強調する。被害者の窓口、セルフヘルプグループへの援助は当然であり、また被害者に対する経済的保障は国家の法として交通事故並みに保障すべきである。被害者への経済的保障や援助については私たちも死刑廃止運動の中で主張しているところである。しかし被害者感情を慰めるために、「精神障害者」への保安処分を認め、人権侵害を認めろという主張を私たちは決して認めることはできない。
 迂遠な道であろうとも、精神医療が医療の名にふさわしいものとして再生することにしか、精神医療への信頼回復の道はない。
私たち「精神病」者は日本精神神経学会に保安処分反対の旗を再度掲げることを要求する
 全国「「精神病」者集団は日本精神神経学会に対し、刑法改悪=保安処分新設に反対し、いかなる保安処分策動も許さず、保安処分を導入する思想と対決し、その思想を徹底的に医療現場から放逐することを要求する。これなしには私たち「精神病」者は安心して精神医療を受けることはできないし、また精神医療が医療の名にふさわしいものとなることはあり得ない。
1999年5月
第95回日本精神神経学会総会に向けて
 全国「精神病」者集団
 精神保健福祉法撤廃!
 強制移送制度新設弾劾!
一貫して「精神病」者を治安対象としてきた「精神病」者対策

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下精神保健福祉法とする)の改定案が今国会で成立しようとしている。私たち全国「精神病」者集団はその結成以来一貫して、精神衛生法の撤廃、すなわち強制入院制度の撤廃、行動制限の撤廃(すなわち閉鎖病棟保護室の撤廃等)を主張してきた。この国の精神医療の実態は、「精神病」者本人のための医療を保障する体制にはほど遠く、「精神病」者を「危険な者」「犯罪を犯しやすい者」と規定した上で、そうした「危険」から「社会を防衛するため」「患者の介護から家族を解放して家族を労働力市に復帰させるため」に「精神病」者を「精神病院」という名の収容所にひたすら監禁するものでしかなかった。
 こうした「精神病」者への排外と強制収容を合法化し、刑法上の逮捕監禁罪を免責するのが精神衛生法であり、精神保健福祉法である。精神保健福祉法はまさに「強制収用法」に他ならない。医療提供側の精神病院にしてもひたすら入院患者を「閉じこめて放置、薬漬けにすれば自動的に医療費の儲かる固定資産」として搾取の対象としてきた。
 1983年に暴露された宇都宮病院事件を契機に、精神衛生法は精神保健法に改正され、患者の人権擁護と社会復帰を進める体制となったというのが、厚生省の宣伝である。国際的にもこのことが評価され当時の精神保健課長である小林はピネル賞を受賞した。しかしこの宣伝を私たちは一切認めることはできない。厚生省は宇都宮病院事件告発以前から省内で精神衛生法の改正に向け研究を行っていた。その目的は医療費削減と治安であった。
すなわち医療費削減の視点から、精神病院入院医療費の削減、そして開放医療や社会復帰に向けた精神医療改革の流れがあるが、その中で健常者社会にとって「迷惑」「危険」と一方的にラベリングされる「精神障害者」をいかに管理していくかという対策づくりである。それゆえに精神保健法上程に合わせ1983年に厚生科学研究として道下研究「精神科医療領域における他害と処遇困難性に関する研究」が開始されたのである。1990年12月23日に道下医師が率直に全国「精神病」者集団に対し語ったように、「人権に配慮し社会復帰を進める精神保健法案を国会に通すためには、精神障害者の他害事件の被害者の問題に対して何らかの対策をしておかなければ、この法律も国会でつぶされる」だから、厚生省としても「精神障害者の他害事件に対策をしようとしていることを示す必要がある」のでということで、厚生省から道下医師に研究協力の依頼があった。また精神保健法施行後に顕著に新規措置入院が増加している事実も学会委員会調査で明らかになっている。つまり厚生省の一貫した姿勢として、精神医療における治安目的の貫徹を策動してきたのだ。
 したがって精神保健法成立も決して私たち「精神病」者の人権の復権、そして私たち「精神病」者が地域で生きていくことを保障するものではなかった。事実精神保健法成立後も、大阪大和川病院事件、長野栗田病院事件、高知山本病院事件、新潟屬潟病院事件と、患者虐殺、虐待事件が次々と起きている。厚生省も医療提供側もこうした実態につき真剣に取り組み、私たち「精神病」者の人権の復権に向けた具体的な精神病院対策、精神医療改革の方針を一切明らかにしていない。
今回の精神保健福祉法の改悪点
 今回の精神保健福祉法見直しにおいても、私たち「精神病」者の人権回復、そして私たち「精神病」者の主張は一切無視された。今回の見直しについてはさまざまな問題点があるが、最大の問題点は強制移送制度の新設である。
 具体的には「1都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、直ちに入院させなければそのものの医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であってその精神障害のため本人の同意に基づいた入院が行われる状態がないと判定された者につき、本人の同意がなくても、医療保護入院をさせるため、都道府県知事が応急入院を行うために指定した病院(以下「応急入院指定病院」という。)に移送することができるものとすること。(第34条第1項及び第2項関係) 2都道府県知事は、1の要件に該当する者につき、急速を要する場合には、保護者の同意を得ることができない場合であっても応急入院させるため、応急入院指定病院に移送できるものとすること。(第34条第3項関係)となっている。この指定医とは入院先の応急指定病院の指定医と同一人物でもよいとされている。また民間警備会社による移送も認められる。
 もちろん今までも強制入院にあたっては、私たち「精神病」者は強制的に拉致され精神病院へ放り込まれてきた。またいわゆる「精神科救急制度」においては発病した「精神病」者は各県一つの公立病院や、当日の当番病院へと強制的に送り込まれ、地域から遠く離れた精神病院への監禁されてきた。こうした実態は私たち「精神病」者にとっては医療どころか、誘拐と監禁でしかない。まるで高熱に苦しむ病人を嵐の荒野に丸裸で放り出すようなものであり、強制的入院によって私たち「精神病」者は治癒への流れを著しく阻害され、医療提供側との信頼関係を二度と持つことができない状態に追い込まれてきた。こうした背景では医療提供側と患者の対等な関係による、信頼関係は成立しがたい。また現実の「精神科救急」は私たち「精神病」者自身の苦痛をいやし生命を守る目的ではなく、「周囲が困ったとき」「周囲のために」行われているのが実態だ。私たち「精神病」者が「苦しいから助けてくれ」といっても入院拒否しかされないのが「精神科救急」である。放置すれば死しかなくても入院拒否するのが「精神科救急」である。
 今回の移送制度は、今まで法的に保障されなかった強制的移送を合法化し、現状を認めるものでしかない。民間警備会社等による「精神病」者の逮捕権の合法化である。憲法、および国連人権規約、国連人権宣言に反し、「精神障害者のみを恣意的に逮捕する」という「精神障害者」差別条項、「精神障害者」の人権侵害条項の新設である。
 また移送先を応急入院指定病院としているが、応急入院指定病院はその基準が厳しく、応急入院指定病院は全国に53病院しかなく、12県には存在しない(1997年現在)。その他はあったとしても県に1つが22県、2つのところが6県と北海道、3つのところが3県と東京都、5つのところが大阪府(いずれも1997年度)。
 いずれにしろ身近なところではなく地域から切り離された遠くの病院へ強制的に連行強制入院されることになる。もちろん私たちは応急入院制度および強制入院制度そのものを否定しているので、応急入院指定病院の存在そのものを否定し増設を求めない。今回の法見直しに基づき応急入院指定病院の基準緩和と応急指定病院の増設の動きも見逃すことはできない。
 この移送制度の新設により、私たち「精神病」者はいつでもどこでも逮捕監禁されることが合法化されたのである。ここに先行的保安処分体制として精神保健福祉法体制は完成した。法は行政の指導により動(ママ)でも運用実態が変わる。精神保健法後厚生省の通知や救急制度の確立で新規措置入院が増加した事実を見るならば、この移送制度はいかようにも拡大、運用できるものである。私たちの地域社会での生活権はここで完全に否定されてといっても過言ではない。精神保健福祉法における通報制度とこの移送制度の下では私たち「精神病」者は安心して地域で暮らすことはもはや不可能である。こうした強制力の強化をしながら、社会復帰やノーマライゼーションを語られても、私たちは一切信じることはできない。
 なお今回の法見直しにおいては見送られたが、違法行為を行った「精神障害者」に対する措置入院制度の法や特別な施策が日本精神病院協会はじめ、精神科医の団体から提案された。これらの意見は精神医療が医療として成り立っていない現状を一切省みることなく、矛盾を全て触法精神障害者や措置入院患者に押しつけて、何らかの「解決」を図ろうというものに他ならない。この「解決」とは強制力の強化であり、「嫌な患者」と医療者側が一方的に決めつけた患者の一般精神医療からの排除と特別な施設への排外と隔離、である。そこには医療者としての誇りを捨て去り、法律や司法に患者をゆだねて点として恥じない精神科医の姿勢しかない。
 こうした動きの中で、参議院国民福祉委員会では付帯決議として「重大な犯罪を犯して精神障害者の処遇のあり方については、幅広い観点から検討を行うこと」が決議された。「犯罪」となっているので、起訴・有罪確定した「精神障害者」を指しているのか、あるいは違法行為を行った不起訴・措置入院の「精神障害者」まで指しているのか不明確ではあるが、いずれにせよ健常者の犯罪者とは別に「精神障害者」に対してのみ、何らかの特別な対策を要求している。特別な対策をもって特定の「精神障害者」を隔離、監視していく体制につながる動きであり、保安処分体制作りであり見過ごすことができないものである。
精神保健福祉法撤廃と、私たち当事者の要求に基づく抜本的精神医療改革を
 現在精神病院における長期入院患者がクローズアップされ問題となっている。こうした長期入院患者は、国際的潮流に反した国の1960年代の精神病院増床政策によって強制入院させられ、そのあげくに地域を生きる場を失い、また閉鎖的精神病院の管理主義により地域で生きる生活能力を奪われてきた人々である。長期入院の原因はこれらの仲間の病状や障害にあるのではなく、彼らこそがまさに国の政策の被害者であり、私立精神病院の経営のために長期入院させられてきた営利主義の犠牲者である。したがって長期入院患者の仲間に対しては、これらの失政に対する謝罪、私立精神病院業界の謝罪がまず第一にされるべきである。
 それにも関わらず、現状では長期入院患者は「慢性期」とラベリングされ、病棟機能分化の下「慢性期病棟」に収容され、きめ細かな治療を受ける権利を奪われている。差別的精神科特例を糊塗した傾斜的人員配置である病棟機能分化を私たちは弾劾する。慢性期とラベリングされて絶望しない仲間がいるだろうか? こうした治療悲観論によるラベリングを私たちは認めることはできない。
 また長期入院患者に対して、「対策」として新たな施設構想が語られている。これはあくまで長期入院患者を客体とした「対策」であり、その構想の過程では一切長期入院患者の意見は聞かれていない。それゆえに「対策」は一方的に長期入院患者を「社会復帰の困難な者」と規定し、そうした人々の社会復帰を困難としている社会のありよう、地域での支援システムの欠如には触れようとしていない。
 どんなに障害が重くても、あるいは病状を抱えていても、普通に地域で暮らすことがわれわれ「精神病」者の願いである。そしてそれがノーマライゼーションの理念のはずである。ところが「長期入院患者の療養のあり方に関する検討会」の出した中間とりまとめ骨子は長期入院患者を対象とした新たな施設を作り、そこに長期入院患者を収容していこうとするものでしかない。
 現在も私立病院資本はその生き残りをかけて、いわゆる「社会復帰施設」を経営し、そうした「社会復帰施設」から「デイ・アンド・ナイトケア」に通わせ、「精神病」者の生活ぐるみを医療資本の収奪の対象としている。
 この上さらに長期入院患者の施設が作られれば、長期入院患者は私立精神病院の「固定資産」として一生収奪の対象となって収容されたままとなることは火を見るよりも明らかである。
 厚生省の「社会復帰施策」は医療費削減を目的とした精神病院病床削減に対して、私立病院への賠償としてたてられているといって過言でない。そこには本来主体であるべき長期入院患者の利害は一切無視されている。だからこそ厚生省は家族や医療機関の声をアンケートしても、本人自身の声に耳を傾けようとしないのだ。
 このまま長期入院患者対象の「施設」を容認すれば、単に見せかけだけの長期入院率の減少、精神病院病床の減少が生まれるだけであり、長期入院患者は精神病院空き病床の看板を掛け替えられた「施設」に移動させられるだけである。
 精神保健福祉法見直しに際する全国「精神病」者集団と厚生省との交渉において中村課長補佐は「社会復帰施設は善意に基づきよかれと思って作られ運営される」と述べたが、「善意に基づく」限り精神病院における人権侵害、患者虐待と同様に「社会復帰施設」における人権侵害、虐待は今もありそして今後も起きることは火を見るより明らかである。行き場がないから栗田病院の「患者寮」で無賃金の奴隷労働に甘んじている仲間のことを想起せよ。「自由意志」に基づき「患者寮」にいるのだから人権侵害でないと放言するつもりか?
 病院から施設に仲間を移動させるだけの欺瞞な「社会復帰施策」を私たちは弾劾する。
 精神医療において当たり前の医療が保障されるため何が必要か? まず精神医療を医療の名にふさわしいものとするため、精神保健福祉法を撤廃しなければならない。その上で当事者「精神病」者の声を結集して、長期的な抜本的精神医療改革を行うことである。最低限の施策としては差別的精神科特例の撤廃、長期入院患者が地域で生きていくために住居の保障、個人の懐に入る金の保障(生活保護の障害加算の増額、生活保護の個人単位の支給・親族扶養優先原則の撤廃、障害年金の増額、無年金者の解消等々)、1日24時間1年365日強制医療・強制入院におびえることなく駆け込める場所・飛んできてくれるサービス、小学校の学区に一つの集える場所の保障などが求められている。
 私たち当事者の意見をもとに以上の政策要求を行っていくことを、私たちは日本精神神経学会に求める。
1999年5月
第95回日本精神神経学会総会に向けて
 全国「精神病」者集団
 夏期カンパアピール

 精神医療の「近代化」「洗練化」のため、新規措置入院が増加しています。また精神保健福祉法見直しにおいて強制的な移送制度の合法化により、地域の「精神病」者の生存権は侵害されようとしています。
 日本精神神経学会およびマスコミ、国会議員の中で保安処分推進論があからさまにキャンペーンされています。こうした状況下で、全国「精神病」者集団は「一人の仲間も排外しない。保安処分の対象者を内包する」という姿勢で闘いを繰り広げなければなりません。
 全国「精神病」者集団の基盤である獄中者、精神病院入院者、そして地域で孤立した仲間にとって、ニュースと手紙電話での交流は命綱です。この命綱を守るためにも全国「精神病」者集団は存続し続けなければならないと決意しております。しかし会計報告にありますように全国「精神病」者集団は大幅な赤字に苦しんでおります。5月27日現在赤字は約15万円でこれは一会員からの借金でしのいでいます。このままではニュース発行もままならない事態となります。今後も助成金申請や有料ニュース購読者の拡大などの自助努力を重ねていく決意でおりますが、なにとぞカンパ要請にお応えいただけますようお願いいたします。
 また今回ニュース購読料請求の用紙の入っている方は、なにとぞ継続してニュース購読いただきニュース購読料をお振り込みいただけますようお願いいたします(「精神病」者は原則としてニュース購読料無料ですのでご心配なく)。資料代未納の方もお振り込みをお願いいたします。郵便局に行くのが面倒な方は切手で送っていただいてもかまいません。なお経費節減のため領収書はニュース発送時に同封させていただきますのであしからずご了承下さいませ。
1999年6月
  全国「精神病」者集団
振込先 郵便振替口座 00130ー8ー409131
    口座名義   絆社ニュース発行所
現金書留
〒923ー8691 小松郵便局 私書箱28号 絆社ニュース発行所
 会計報告
1998年4月1日から1999年3月31日まで
収入                     支出
ニュース代      84,500円  家賃    720,000円
一般カンパ     198,590円  水道代    17,580円
資料代その他    109,567円  光熱費電話代  44,117円
98年冬カンパ   241,100円  事務所更新料 120,000円
99年夏カンパ   177,020円  印刷費コピー代 18,400円
分会分担金     150,000円  通信費    159,955円
貯金利子           21円  文具代      5,303円
                    その他      9,466円
                    身定協分担金  14,706円
                    反組対法分担金  2,000円
収入合計      960,798円  支出合計 1,111,527円
前期繰り越し      5,608円  次期繰り越し?145,121円
          966,406円         966,406円


*作成:桐原 尚之
UP: 20101204 REV:
全文掲載  ◇全国「精神病」者集団 
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