ネット選挙運動を即刻解禁せよ! 第4回
これまでの連載で触れたように、ホームページ(HP)やメールによる選挙運動が禁止されているのは、公職選挙法が配布を制限する「文書図画」にあたるからだ。
しかし「音声なら合法だ」と、選挙期間中に音声メールを配信し、みごと当選を果たした議員がいる。
愛知県安城市の永田あつし市議(37・民主党)だ。
現職として活躍すると同時に、自らのHPで音声メールによる選挙運動の展開を呼びかけるメッセージも発信する。その永田議員に、音声メールを呼びかける意味と、ネット選挙運動の必要性について語ってもらった。
文書は違法でも、音声は合法?
永田議員は、今年の市議選で3選目を果たしたばかり。安城市役所にある民主党の会派室で取材に応じてくれた。さっそく記者が音声メールについて質問を始めると、やや照れくさそうに、「音声メールはあくまでもパフォーマンス」と語った。
── そもそも、音声メールを始めたきっかけは?
「もともと私は、元衆議院議員の島さとし(民主党)の秘書をしていました。私が独立して市議になってからのことですが、島さんが2000年の衆院選で、HPを真っ白にして音声だけ流すという形で選挙運動をしていました。その後、私が03年の市議選で、その手法をアレンジしたのです」
── 永田議員が行った音声メールは、具体的にはどのようなものなんでしょうか。
「音声ファイルを添付したメールを支援者などに配信するというものです。ただし、10~15秒間の音声で、内容も『本日立候補しました。7日間頑張ります』『今日で中日(なかび)です。残りの期間も頑張ります』という程度。長い演説をメールで送りつけられても、おそらく聞いてくれる人はいないでしょうし」
── その程度の内容でも、あえてやろうと思った理由は?
「ネット選挙の解禁を訴えるためのパフォーマンスです。世論を盛り上げなければ解禁は実現しませんから」
── 反響はいかがでしたか?
「『面白いですね』というメールが数十件きました。おそらく得票数にはあまり影響していないと思いますよ。ただ、選挙の雰囲気はよく伝わったのではないでしょうか。街頭演説のせいで、選挙戦が進むにつれて私の声がかれていく。当然、音声メールの声もかれていくので、その変化が自分でも面白かった」
── そのような選挙運動は公職選挙法違反にはならないのですか?
「違反にはなりません。2002年に、島さんが国会で質問したところ、違法性はないと総務省が答えています。もともと、文書の配布は制限されていても電話は無制限。音声での選挙運動であれば、法的には何も問題がありません」
── 確か、国会質問では、総務省が「メールアドレスや送信者名に候補者の名前が入っている場合は、文書図画にあたり違法となる恐れがある」と答えていたと思います。
「法律にはとくだん規定がありませんから、総務省としてはそう答えるしかないでしょう。『疑わしければやめろ』というのが総務省の見解。
文書関係の選挙違反では、通常はまず警察が警告を出して、従わなければ摘発される。まずは『イエローカード』が出されるだけ。しかし私は一度も警告は受けていません」
── “グレーゾーン”である以上、警告が来たらやめればそれでいい、ということですね。
「候補者に関して言えば、そのとおりです。しかし一般の有権者が『違反の恐れがある』と言われれば、誰だって萎縮してしまう。だから、誰も何もできない」
「ネット解禁は、候補者ではなく有権者のメリット」
── チノパンのブログが問題になった際(第3回参照)も、報道を見ると警察の警告ではなく、選挙管理員会の「見解」が出ただけでブログの記事が削除されたようですね。
「そういった事例は、ほかにもあります。ミクシィでも、候補者の演説日程などを載せていた応援コミュニティが閉鎖されたことがありました」
── 問題の投稿を削除するのではなく、コミュニティごと閉鎖してしまったんですか。
「そうです。候補者だけではなく有権者も、どこまでやったら違反なのかよくわからないまま萎縮させられている。そのことが、政治に対する市民の関心の芽を摘みとってしまっているように思えます」
── ネット解禁は、候補者ではなく市民のために必要だということですか。
「そうです。マニフェストの配布が解禁されたことで、政策本位で政治家を選ぶという、本来あるべき姿の選挙ができるようになってきました。ネットでも、こうした情報を伝えられるようにすべきです。
既存のマスメディアは、相当大きな事件や災害に関するものでない限り、地方の政治問題を細かく報じてはくれません。候補者が発信する情報は、マスコミ報道では補えない部分をカバーできるという利点もあります。
ネットが解禁されれば、候補者からの情報発信だけではなく市民同士の情報発信もしやすくなりますし、ネット上での市民と候補者・政治家の交流も活発になる。面と向かっては言いにくいこともメールや掲示板なら言えるということもあるので、ネットの方がむしろ互いの距離が近づくことすらあります」
── ネット解禁論への反論としては、HP作成費用の問題のほか、サーバーへの攻撃に対する対策などセキュリティ上の課題も挙げられています。
「それは重要な課題ですが、解禁しない理由にはなりませんよ。なぜなら、すでに政党や政治家のHPが存在していて、費用やセキュリティの問題はあるからです。公選法改正によるネット解禁は、たった1週間の選挙期間中についての話にすぎません」
── 今後、ネットを解禁させるためには、何が必要でしょうか。
「必要なのは世論です。地方からそれを発信していくには、地方議会に陳情書や請願書を送り、それを元に国に対して請願してもらうという方法もあります。地元の声が大きければ議員も無視できません。地方の声が全国から集まれば、与党も逃げられないでしょう。市民が声を上げていくのがいちばんです」
── ネット解禁の必要性が、改めて実感できました。ありがとうございます。
◇ ◇ ◇
ネット解禁によってもっとも大きなメリットを受けるのは有権者。だからこそ、議員・政党主導ではなく、有権者が声を上げて公選法改正をリードすべきなのだ。
インタビュー後、永田議員から「あなたも地元で立候補したらどうですか?」と言われた記者。おかしな規制だらけの公選法をぶっ壊すためにも、自分で立候補して“グレーゾーン”を攻めまくるのも手かも、と思ったり思わなかったり。
次回、立候補表明はしないが、文字はダメなのに音声は無制限というトンデモ公選法の仕組みを解説。あまりのトンデモなさに記者はビビったが、果たして“ヤツらはビビる”か?