「(自民案のように)国が指導するのは踏み込みすぎ」
インターネット上の「有害情報」対策を検討してきた、民主党の「違法・有害サイト対策プロジェクトチーム(PT)」(座長・松本剛明衆議院議員)は、法律の骨子案を完成させた。すでに自民党は法案の条文化作業を終えて、さらなる議論に入っている。一方、民主党の条文化作業はこれからだ。自民党案とはどのように違うのか。PTの事務局長・高井美穂衆議院議員に、衆議院第一議員会館内の事務所で話を聞いた。
「次の内閣」の了承を得た段階。条文化の作業へ
民主党の法案名は「子どもが安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案」。骨子案によると、法律の目的は、インターネット上の有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくすることと、子どもが安心してインターネットが利用できること、としている。
「今は中間報告が出て、党の政策決定機関『次の内閣(NC:Next Cabinet)』で了解を得たところです。これまでPTは13回開いていて、その政策に関心がある人はそこで言うことになっています。また、各省庁や業界団体、学識経験者のヒアリングは済ませました。そのため、当初の私案よりはだいぶ変わっています。今後は条文化をする作業になります」
骨子案では「有害情報」について以下のように定義している。
- 性又は暴力に関する情報であって人の尊厳を著しく害するもの、著しく差別感情を助長する情報その他人の尊厳を著しく害する情報
- 子どもに対し、著しく性的感情を刺激する情報
- 子どもに対し、著しく残虐性を助長する情報
- 子どもに対し、著しく自殺又は犯罪を誘発する情報
- 特定の子どもに対するいじめに当たる情報であって当該子どもに著しく心理的外傷を与えるおそれがあるもの
自民党案との違いは?
民主党・骨子案の「有害情報」と自民党案の「青少年有害情報」とは、「有害情報」となる項目や範囲、表現の程度が違っている。
「自民党案とはずいぶん違います。自民案には『性に関して価値観の形成に影響を与えるもの』とありますが、ちょっとそぐわない。どういう価値観を持て、と押し付けることになる。ただ、最近では昔ではなかなか手に入らなかったエロ本のような性情報が簡単に入ってくる。あまりにも心身ともに未熟な子どもの場合、初めて見たアダルトサイトがその人の性の価値観形成に影響がある場合があるじゃないですか。その危険性をできるだけなくしたいだけ。表現の自由との兼ね合いもあるが、そこはギリギリ許されるんじゃないでしょうか」
これらの「有害情報」に関して、子どもが「閲覧する機会をできるだけ少なくすること」を目的に、まず、携帯電話会社、インターネットサービスプロバイダ(ISP)、コンテンツプロバイダ、サイト開設者の自主的な取り組みを尊重しつつも、携帯電話会社にはフィルタリング稼働義務、ISP にはフィルタリングのオプションを提供する義務、PCメーカーにはフィルタリングソフトのプレインストール義務─などを課す。
行政指導する権限は持たせない
こうした「有害情報」についてどのように通報を受理し、措置していくのか。自民党案と同様に、民主党案も民間の第三者機関を設置することにしている。その第三者機関が有害情報の発信に関する情報を収集し、その情報をフィルタリングソフト事業者等に提供したりする。
さらに、その第三者機関では、フィルタリングに関しての民事紛争を扱う裁判外紛争解決(ADR:Alternative Dispute Resolution)機関としての機能を負うことにしている。ただし、自民党案とは違って、国家が行政指導をする権限を持たせない。罰則もない。
「どこかの機関が削除したり、国が指導するのは踏み込みすぎだと思います。民主案ではフィルタリングソフトの精度向上の支援を想定しています。あくまでも閲覧防止処置であって、削除を想定はしていません。また、フィルタリングで『あまりにも健全な情報が入っている』ということになれば、ADRで取り扱います。ある情報がどのカテゴリに入るかは、見る人が見ればそんなに難しいことではないと思う」
そして、この骨子案の目指すべきところは、消費者のリテラシー能力を高めることにもある、という。
「ある情報を削除しろ、という権限は誰にもない。ISPがフィルタリングソフトを準備するように義務づけて、そのフィルタリングを契約する・しないはユーザーの問題です。PCメーカーもフィルタリングソフトを標準にするようにします。今もなっている場合もあります。いずれにせよ、事業者にも投資が必要になる。そのため、国が後押しします。なかには、親と子どもが話し合って、フィルタリングを外す場合もあるでしょう。最終的には消費者が決めるという仕組みです。どんな犯罪が起こっても、最後は本人の責任。それに帰するしかない。子どもの場合は親の責任。それを国家の責任にして、すべての情報を遮断して、家から出ないで生きていければ、ずっと安全かもしれません。しかし、それは根本的な解決にはならない。結局、情報を選びながら、自分で判断するようにリテラシー能力をつけることが最終的な目的なのです」
劇的な変化はないが、社会の理解は深まる
見たい情報にアクセスする権利と、見たくない情報をアクセスしない権利という概念があるが……。
「まさにそうです。大人の場合はそれでいい。ただ、子どもの場合は見たい情報と見たくない情報とを区別する知識がないという前提に立つ必要があります。子どもの権利条約では、子どもに表現の自由とあらゆる情報へのアクセス権があると定めています。それと同時に、あまりにも有害な情報にさらされる環境はさけるべき、とされています。そのバランスが求められています。理想的には、フィルタリングも、20段階ぐらいあって、自由に選べるのがいい。そして、法案ではその選択をする大きな枠組みの指針があればよく、あくまでもフィルタリングの精度をあげるためのバックアップです」
民主党案では、自民党案とは違って、国家が行政指導をする権限は持たないが、いったい何が変わるのか。
「規制強硬派の人たちは、これで何が変わるのだ、と言うでしょう。意味ないじゃないかと。たしかに、この法案で劇的に変わることはありえないです。ただ、今はこうした法律はない状態ですから、法律ができれば、少なくとも有害情報から子どもを守ることに社会が理解を示すことになる。また、悪質業者を問題に思いつつ、何もできなかった業者もあります。そういう意味で、悪質な業者を減らしていくといった抑制効果があると思います」
高井議員はどうしてこの問題に取り組んだのだろうか。それは、2006年10月の第165回国会の青少年問題特別委員会で、「犯罪から子どもを守るための対策」について質問したことが関係している、という。この際、携帯電話の契約の際にフィルタリングが必要かどうかのチェック欄を設けることなどを提案している。
「2年前に青少年特別委員会で、当時の高市早苗大臣(少子化・男女共同参画担当)に質問をし、提案したんです。そこから動き始めたんですよね。もともと私が質問したこととはいえ、行政指導がかかり過ぎてしまったんです。フィルタリングの精度が低いのに、フィルタリング重視になってきている。増田寛也総務大臣は原則義務化をうたっています。最初に提案したものとしての責任もあります」