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    • Dots Press 日本
    • 元オリコン編集長が語る 「創業期はランキング操作をしていた」

データの正確性、今後の裁判の争点に

 4月3日、「オリコン vs 烏賀陽訴訟」は第2回公判を迎えた。『サイゾー』編集部のインタビューに答えて、ランキングデータ「オリコンチャート」の信憑性に疑問を投げかけるコメントをした烏賀陽弘道氏に対し、オリコンは名誉棄損であると5000万円の損害賠償を求めた。

 フリーランスを中心に注目されているが、ランキング情報に敏感な音楽業界からは、この事件について論評らしいコメントはない。「オリコンの原型をつくった!」という元オリコン編集長の渡辺正次郎氏(ジャーナリスト)は、メディアも音楽業界も沈黙する「オリコン裁判」について語り始めた。

■渡辺氏が「適当につくった」データ

――オリコンの裁判について、メディアも音楽業界も沈黙をしています。これをどう思われますか?

 誰も彼(烏賀陽弘道氏)の味方をしないよ。音楽業界の連中がランキングに関わっているからね。

――なぜメディアが書かないのか?

 オリコンはランキング操作をしているからだよ。

――もともとそういう会社なんですか?

 業界紙なんだから! 業界紙は業界からお金をもらっているわけだから。一般広告は入らない。だから当然ですよ。

――「芸能市場調査」を編集していたときは、渡辺さんがレコード店を足でまわって、この店で何枚売れたのかをきちっと確認して出していますよね。

 いやいや。あのランキングだって、ぼくがみんな適当につくったんだから。その当時のレコード店なんか在庫調べなんかしていなかった。

――あらまぁ。

 「データ出てます?」と聞くと、「忙しくてやってないよ。渡辺さん」「まいったなぁ。今日が締め切りなんだからちゃんとしてよ」「じゃあ渡辺さん、勝手につくってよ」と言うんだもの。

 こうやってオリコンは創業期に渡辺正次郎氏の力で音楽業界紙「総合芸能市場調査」(現在の「OC オリジナルコンフィデンス」誌)を立ち上げて、上場企業になるまで成長していく。しかし、渡辺正次郎氏は、故・小池聡行氏と袂(たもと)を分かつことになる。

――渡辺さんはなぜオリコンを辞めたんですか?

 レコード会社とプロダクションの接待が連日だから嫌になっちゃってね。僕はいっさい接待をうけなかった。すると出てくるのはコーヒーだけ。コーヒーを1日20杯くらい飲んでましたよ。

 当時、大手音楽プロダクションから相談が来て、「わが社で渡辺さんのことが会議にかかりました」と言う。なんで「オタクの会社で僕のことが会議にかかるの?」と聞くと、「渡辺正次郎を買収するにはどうしたらいいのか?という話になったんです」と言う。あははは。

 渡辺を買収するには「酒か、女か、金か、男か」と議論になったというわけ。それくらい僕は買収に応じなかった。僕はビシビシ書くからね。

 昔の音楽番組プロデューサーはランキングを見なかったですね。自分が発掘した歌手が売れていくのが嬉しいという人ばかり。テレビの草創期のプロデューサーはみんなそうでしたよ。

 彼らが、僕の書いた記事と、レコード売り上げランキングを見て、赤ペンで印を付けていった。「この歌手をうちの番組に出演させる!」と僕の前で決めていくわけ。

■連載記事「ヒット予想」で仕入れが決まった

 渡辺正次郎氏によれば、「オリコン創業期のレコード売り上げデータの信頼性はまったくない」。音楽業界ではそれは周知の事実であるという。

 渡辺氏が「芸能市場調査」で連載していた「ヒット予想」という連載ページがあった。

 渡辺氏は、レコード会社の人間がもってくるレコードを全部聴いて「これは売れる、これは売れない」と、直感をもとに執筆していった。「僕は新しいものを発掘する感性が昔からあった。パッと見て『これはいける!』と分かった」と渡辺氏は証言する。

 「レコード店はそれを見て仕入れをしてましたよ。当時のレコード店は、みんな僕の書くことを信じていたから」と言うのだ。

 つまり、オリコン創業期は、オリコンの出したレコード売り上げデータは、レコード店主と、渡辺正次郎編集長による「共作」だったのである。

 当時のレコード店には、売り上げデータをコンピューターですばやく記録集計するPOSシステムはなかった。中小のレコード店が、売り上げデータをきちんと出すことは煩雑な作業だったのだ。

 オリコン創業者の故・小池聡行の著作『オリコンデータ私書箱』(1991年 オリジナルコンフィデンス発行)がオリコンチャートの算出方法について詳述されている。レコード売り上げ枚数に「季節変動などの要素を加えながら」「オリコン独自の係数をかける」作業をしてチャートができるという。POSシステムが普及した現在、この記述は客観性に欠けるという印象がぬぐえない。

 いま2代目の小池恒社長は、創業者・聡行氏の息子。この小池社長がジャーナリスト烏賀陽弘道のオリコンチャートの信頼性に疑問を投げかけるコメントが名誉棄損であるとして訴えてきた。

 オリコンの歴史を知っていれば、オリコンチャートの信頼性には一定の限界があることは明らか。時代が違うとはいえ、オリコンが烏賀陽氏を提訴することには無理はないか。音楽業界では周知の事実をコメントしたにすぎないからだ。

 オリコンチャートはどこまで正確なデータなのか?それが今後の裁判で明らかになっていくだろう。次回の法廷は6月12日(火)11時から東京地裁709号法廷で開かれる。