ツイッター社が赤字経営を脱却したという話が最近マスコミを賑わせています。先日もブルームバーグ・ビジネスウィークが表紙で「ついに危機を脱した」と宣言し、経営陣はもうこの勢いは止められない「まるでジャガーノートだ」と語っていますが、ゴーカーが入手した同社の財務データにあるのは、そんなターンアラウンドとは程遠い実態...。
ツイッターの財務に詳しい人物が編集部にリークした同社の最近の収益や利益なんかの数字を見てみると、事業はそれほど上向いてないようなのです。
今のようなバブル期でも、ハイテク系スタートアップを黒字に乗せるのは大変なことです。一応、ツイッターにはツイッターという技術的プラットフォームの足場があるぶん事業もだいぶ進めやすくはあるわけですが...昨秋には世界のアクティブユーザー数が1億人の大台を突破してますしね。でも数はあっても、それが会社にどれだけの広告収入をもたらしてくれるユーザーなのか、という質が「?」なのです。
Twitterにはセレブの無料コンテンツも山ほどあります。オバマからロシア大統領、トム・ハンクス、スティーブ・マーティン、オプラ、アシュトン・カッチャーのような映画・TV界のトップスターから、ゴシップの女王リンゼイ・ローハン、キム・カーダシアンまで、大黒字経営のFacebookもうらやむ品揃え。
しかも投資も尋常じゃなくついてて、累計なんと7億6000万ドル(925億円)!
創業から早6年。こうしたコンテンツの金脈から金を採取する試行錯誤の時間はたっぷりあったはずです。なのに、未だに結果を出せていないのです。
今の赤字
一例を挙げますと... 同社の2010年収益、これは2850万ドル(23.4億円)あります。が、この収益をあげるのにコストがその3倍以上かかってるので、結果として6780万ドル(55.7億円)の純損失を出してしまってるんです。
また、2011年は駆け出しから不調で、4月30日まで4ヶ月は収益2380万ドル(19.6億円弱)に対し、純損失は2580ドル(21.2億円)。因みに同時期のFacebookを見てみると収益はツイッターの26倍もあって、その3分の1近くは利益―しかも3月末までの3ヶ月でこれですから、この差は一体...。
今回入手したのは2011年4月までの数字ですが、その後もツイッターの経費は膨れ上がる一方なのだとか。例えば社員の頭数も2011年中盤の450人から900人近くまで増えてる、と我々のソースは話してます。
本稿の数字についてツイッターに確認を取ってみましたが、コメントはいただけませんでした。
もしこの数字が本当ならツイッターの歴史には「メディア、テック業界最大のビジネスチャンスを掴みそこねた会社」という章が加わってしまうんでしょうかね...。前にTechCrunchにリークした2009年2月財務予測では「2009年上半期の収入見通しはゼロ」とあり、それまでの3年まったくビジネスプランゼロできちゃったんだな、ということを内外に強く印象付けました。そこには「2010年には1億4000万ドル(115億円)の売上達成を目指す」とあったんですが、今回入手した数字を見ると、その約5分の1どまりだったことが分かります(あの社内資料が仏人ハッカー経由でTechCrunchにリークした際、ツイッター側は「あれは練る前の数字で、プライムタイムにお出しできる数字ではない」と説明してましたけどね)。
企業カルチャーで健全性アピール
では今はどんな風にマスコミに健全な経営体質を演出しているのか? というと、真っ先にアピールするのは、企業カルチャーです。3年で3人、めまぐるしくCEOが交代した後に就任し、17ヶ月なんとか踏ん張ってるディック・コストロ(Dick Costolo)現CEOはビジネスウィークに「長続きする企業をつくろうとがんばってるところです」と言い、チームワーク構築のため社内で連続開講したワークショップのことをエグゼクティブと一緒になって紹介してます。エグゼクティブ向けの6時間のリーダーシップ養成コースを開いてみたり、140日で140人のチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を訪ねたり、企業理念10箇条(「誇れる会社に育てろ」とか)をこしらえたりの――要はどうでもいい会社のカスみたいな話ですね...。
いざ肝心の業績指標の話になると途端に口が重くなるのか、ビジネスウィークのブラッド・ストーン記者には「うちのエンゲージメント・レート(広告を見てクリックする人の割合)は3~5%であるのに対し、普通のバナー広告は0.5%」と話したりしてます。
で、利益、収入はどうなのよ? その点についてビジネスウィークには、eMaeketerというコンサルタント会社が出した2012年収益予想の2億6000万ドル(214億円)という数字が出ているだけです。 これは2010年収益の10倍近い数字!
ツイッター自身は、うちが厳しく吟味して出した数字ではない、と言っており、記事について尋ねたら広報からは「我々は財務状況についてオンレコでもオフレコでもバックグラウンドでもコメントは一切しないんです」、「ですから、eMarketerのことも[ビジネスウィークに]うちから指導したわけではありません」とのお答えでした。ストーン記者からはノーコメントでした。
都合の悪い真実
で、ビジネスウィークが伝えなかったパッとしない財務シナリオの方に話を戻しますと...Twitterのビジネスはずっと冗談のような有り様で、これはもう一から建て直さないとまずいんじゃないの...? と心配してしまうような状況なのです。
我々が入手したのは2011年4月までの数字ですが、CEO就任から7ヶ月経った(つまりCOOとして会社に迎え入れられてから20ヶ月経った)あの時点でも、コストロCEOは収入1ドルあげるのに2ドルの経費(損金処理)を払っていたんです。あれから10ヶ月。ツイッターの経営改善を示す確かな証拠は何も出てきていません。社員の数が1年で900人に倍増した話が本当なら、改善どころか悪化しててもおかしくない... ですよね...。
...と、ツイッターの過去を思うと、どうしても暗く考えてしまうのですが、もしかして今は上向いてるのかもしれませんね...。ガンホーみたいに勇ましいTwitterプロダクト担当VPのサティヤ・パテル(Satya Patel)氏はビジネスウィークに、2011年は「広告事業の...拡大が始まった年で...2012年はうちがジャガーノートであることを示す年だ」と頼もしいコメントを出してます。つまりここからが本領発揮なんだよ、と。まあ、それと似たようなことはコストロCEOも2010年10月CEOに就任したとき言ってた気もしますけどね。今そのときの声明を見たら、「過去4年でやり遂げたことを今後2年で達成する、その準備も整った」と書いてました...。
その2年の年限まであと8ヶ月。それまでに達成できる方向にハイテク投資家は賭けてます。昨年8月にはロシアのDSTが中心となって84億ドル(6907億円)のバリュエーションで4億ドル(329億円)もの追加投資をし、さらに4億ドル(329億円)分の既存株を購入、「史上最大のベンチャー投資ラウンド」と報じられました。直後にはサウジのアル=ワリード・ビン・タラール王子が3億ドル(247億円)分のTwitter株を購入してますもんね。これだけ湯水のごとくお金が銀行に入ってくるのだから当分は安泰でしょう。増収確保の問題は、今すぐ会社の生死に関わる課題というわけでもありません。
それにツイッターには巨大なユーザーベースという、大きなアドバンテージがあります。大々的な抗議活動のあるところツイッターあり。無料セレブコンテンツあり。強敵もこの6年現れていません。大体のユーザーは何の抵抗もなく自分の考え、興味、関係を公に共有しており、お金儲けに繋げられる露出の高さはフェイスブックも羨むほどです。
というかFBに限らずハイテクのスタートアップなら誰もが羨む財産ですよね。メディア企業も。Twitterは昨年10月、NY支社を開設し、ゴタム(NY)の巨大な広告業界に足場を築いたばかりです。迎え撃つ老舗メディアはというと、近年は新しい技術のプラットフォームに合わせて自己変革し、旧いビジネスから最後の一滴までドルを絞りとろうと必死。新聞、雑誌、出版、楽曲、映画、TV――どこもデジタルメディア革命で自分たちのビジネスモデルがひっくり返されてしまい、なんとか船をたて直そうと、もがいてる最中ですからね。
こうして大枠で眺めるとツイッターには勢いがあるし、ひょっとして今から10年後、20年後には未曾有の富と名声、栄光を手にして、最初5年間の冗談みたいな業績のことは笑い話になっているかもしれません。でも今のままだと「お金と有名人と投資家が寄ってくるに越したことないけど、それが全部揃ったからって本物の長続きする会社になれるかっていうと、そうでもないのね」ということを恵まれない起業家に教える貴重な事例で終わっちゃいそうで心配です。
数字で見るツイッター
2011年1月~2011年4月収益: $23.8 million(19.6億円弱)
コスト: $18.7 million(15.4億円)
R&Dコスト: $13.1 million(10.7億円)
営業マーケティング経費: $5.4 million(4.4億円)
一般管理費: $12.0 million(9871万円)
総費用・経費: $49.2 million(40.5億円)
営業損失: $25.4 million(20.9億円)
利息その他の損失: $404,000(3323万円)
純損失(non GAAP): ($25.8 million[21.2億円])
2010年1月~2010年12月収益: $28.5 million(23.4億円)
純損益: ($67.8 million[55.8億円])
アセット: $221.5 million(182億2059万円、2010年12月現在)
負債: $221.5 million (182億2059万円、2010年12月現在)
所有権5%以上の所有者(2011年中期現在)は以下の通り:
Benchmark Capital Partners V.I., LP
Institutional Associates Fund, LLC
Institutional Venture Partners XII, LP
Jack Dorsey, Trustee of Jack Dorsey Revocable Trust(2010年12月8日付け契約上)
Obvious LLC
Spark Capital II LP
Union Square Ventures 2004 LP
[Source: Twitterの財務状況に詳しい人物から得た情報]
Illustration by Jim Cooke.
RYAN TATE(原文/satomi)