買い物客は店舗の中をどのように行動し、それは何を意味しているのか。米国ショッパー・マーケティングの第一人者の著書を、同書の翻訳者が解説します。
スーパーが出店場所を決める際、候補地点周囲の人の流れを分析するのは定石です。しかし、自店内の人の流れを分析する店主はどのくらいいるでしょうか。買い物客が店内のどこを歩き、何を買い、またそれを買うと決めた決断の源は何なのでしょうか。今回「Inside the Mind of the Shopper」(邦題:「買う」と決める瞬間)を翻訳する機会をいただきましたので、そこで得た米国の買い物客の行動実態とそこから分析される内容を紹介いたします。
『「買う」と決める瞬間』は、ショッパー・マーケティングの第一人者であるハーブ・ソレンセン(Herb Sorensen, Ph.D)氏が、米国の小売店(主にスーパーマーケット)での買い物客の行動データを集め、分析し、店主に売り上げを伸ばす秘けつを説いている本です。
ソレンソン氏が買い物客の精算内容と、カートに取り付けた「PathTracker(※1)」という装置から得た行動データを分析したところ、買い物客の行動は大きく分けて3つのタイプに分かれることが明らかになりました。
行動タイプ | 行動特性 |
---|---|
1 急ぎの買い物(Quick) | 1品を買ってサッサと帰っていくタイプ。歩き回る範囲(回遊範囲)は狭く、滞在時間は短く、歩く速度は比較的遅いが、お金を使う速度は速い。 |
2 買い足し(Fill-In) | 店内の回遊範囲は店全体の約5分の1程度。歩く速度はゆっくり、お金を使う速度は平均的。 |
3 まとめ買い(Stock-up) | 店内の回遊範囲は広く、歩く速度は速いが、お金を使う速度は遅い。 |
この3つの中で、人数が多いのはどのタイプでしょうか?
自分自身の経験から、あるいは、米国のテレビや映画の登場人物の行動を見ても、当然3の「まとめ買い」が多いとわたしは思っていました。しかしソレンソン氏が精算データを分析した結果、米国での1回の買い物における最も一般的な購入品数はなんと1品だったのです。しかも、買い物客の半数の購入商品数は5個以下であり、まとめ買いの買い物客は意外と少ないことが分かりました。
そう指摘されると、スーパーの5品以下専用レジ「Express Lane」は、買い物客がするする動いていたことを思い出します。急ぎの買い物客はすぐさま店からいなくなり、まとめ買いをする客は店内に滞留するので、急ぎの買い物客よりまとめ買いの客の方が多いと錯覚していたのです。感覚だけにとらわれず、データに基づいた分析が重要です。
ではスーパー側は、買い物客の行動についてどう考えているのでしょうか。実は上記の事実に気がついているスーパーは意外と少なく、店舗設計が「まとめ買い」向けにデザインされた物が多いそうです。
なぜ、このような食い違いが起こっているのでしょうか。
ソレンソン氏は、スーパーでは「まとめ買いをする顧客を重視する方が経済的だ」という理屈がまかり通っており、これまで店内にいる個々の買い物客の行動にほとんど注意を向けてこなかったからだと結論づけています。
この買物客の行動とまとめ買いを重視する店舗設計のミスマッチから、何が起きているのでしょうか。PathTrackerで得た電子データから、次のような事実があぶり出されました。
来店客が買い物にかける時間のおよそ80%は、商品を見たり購入するためでなく、単に売場から売場への移動に使われている。
出典:「買う」と決める瞬間 ダイヤモンド社
つまり店内で過ごす貴重な時間と注意の大半は、買い物以外のことに注がれているということです。この膨大なロス・タイムを、いかに購入に結び付けていくかが店舗の売り上げ増加のキーなのです。
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