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[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

「知的財産推進計画」への意見

2003年4月18日
(社)日本経済団体連合会

政府においては、昨年7月の知的財産戦略大綱(以下「大綱」という)および11月の知的財産基本法により、知的財産に関する基本戦略を明らかにするとともに、不正競争防止法、民事訴訟法など、基本戦略の具体化に向けた関連改正法案を今国会に提出しており、日本経団連としても、これらの取り組みを高く評価するところである。
わが国産業が国際競争力を維持・強化していくためには、企業自らが独創性が高い研究開発と、事業化のための技術開発の双方を進め、戦略的に知的財産権を取得・管理していくことが不可欠であるが、政府においても、こうした企業の真摯な努力をさらに引き出すための制度改革や支援が期待される。
日本経団連では、政府における検討に際して、産業界の視点から意見を表明してきたが、今般、知的財産推進計画(以下「推進計画」という)がとりまとめられるにあたり、取り組みをさらに進めるべき課題について意見を述べることとしたい。以下の提言が、今後の推進計画の策定にあたって、参考になることを期待したい。

1.大綱に沿って取り組みが行われている課題

(1) 産学官連携における知的財産の扱いについて事前の取り決めをより一層柔軟に行えるようにすべき。

産業競争力の強化のためには、わが国の大学などにおいて独創的な研究開発がより一層進み、技術力、研究能力のある産学官が連携して、基本的な特許と事業化につなげるための特許の双方を国際的な市場で確保し、これを企業が柔軟に活用できる仕組みが求められる。
産学官連携にあたっては、大綱に沿って、柔軟な事前契約の締結に向けた取り組みがなされているが、例えば、企業が自社で実施した場合の大学側の持分に応じた実施料の支払いや第三者への許諾など共有特許の扱い、グローバル市場を視野に入れた海外出願の扱いについて、ケースバイケースで事前に柔軟な取扱いがより一層行えるようにすべきである。また、大学等における研究成果について的確に権利化が進められるように国として十分な支援を行う必要がある。

(2) 審査官を増員し、審査の充実を図るべき。

審査の質を維持しつつ、審査期間の長期化を防ぎ、短縮化に向けた取り組みについては、大綱に沿って、総合的な対策が進められているが、特にわが国の将来にとって重要な技術分野においては、先行技術調査と審査の双方の経験を通じて審査能力を高めるとともに、審査官を増員し、審査の充実を図るべきである。

(3) 知的財産高等裁判所を設置すべき。

知的財産訴訟については、大綱に沿って、民事訴訟法の改正による東京高裁の専属管轄化と5人の合議制の導入に向けた取り組みが行われているが、これをさらに進め、わが国においても、知的財産高等裁判所を設置すべきである。
技術と法律の双方がわかる人材を育成しつつ、知的財産高等裁判所において、技術裁判官が活躍し、大法廷の導入などによる裁判例の統一機能を通じて判決の予見可能性が確保されることが期待される。
なお、大綱で指摘されている証拠収集手続の拡充については、訴訟対象物の内容を明らかにする限度において、営業秘密であっても開示させるとともに、第三者に漏れないような手立てを講じるべきである。侵害訴訟における無効の判断と無効審判の関係などに関しては、侵害訴訟において特許権の無効の主張を認め、紛争の一回的解決を図るべきである。

(4) 模倣品・海賊版対策をさらに強化するなど、知的財産外交を進めるべき。

模倣品や海賊版への対策強化については、大綱に沿って、官民連携のもとに、二国間交渉などを通じた働きかけを進めているが、今後も、民間が自ら模倣品対策、海賊版対策に積極的に取り組むとともに、政府の働きかけも継続的に進めるべきである。また、海外における模倣品対策強化のため、意匠権に関する国際的ハーモナイゼーションを推進すべきである。
これらの模倣品や海賊版対策を含め、わが国の知的財産が諸外国で十分に保護、活用されるような環境の整備を、知的財産外交として諸外国に働きかけるべきである。

(5) 特許権侵害品を迅速に判断し、水際で輸入を差止められるようにすべき。

知的財産権侵害品に対する水際措置については、大綱に沿って、関税定率法の改正により、特許権、意匠権などに関する輸入差止申立制度が導入されたが、これをさらに進め、税関は輸入者や輸出者などの侵害品に関する情報を権利者に開示していくべきである。このことにより、侵害品の流通を防ぐための自発的な措置を、権利者自身が早い段階で講じることも可能になり、さらには、こうした権利者の行動を通じて新たな情報の提供が図られ、税関での侵害品の取り締まりの強化につながることが期待される。
また、関税定率法の改正により権利の範囲について税関から特許庁への照会手続が規定されたところであるが、さらに、特許権侵害については、司法または行政において、技術と法律の双方がわかる人材を活用し、当事者の主張をもとに侵害か否かについての判断を迅速に行う仕組みを導入し、その結果をもとに、税関がその侵害品を輸入者にかかわらず差止めるようにすべきである。

(6) 医療特許全般について特許権を付与すべき。

医療特許については、大綱に沿って、先端医療分野について、医療行為関連発明への特許権付与の方向が打ち出されているが、これを早急に実現するとともに、さらには、医療関連行為発明全般についても、医師の医療行為に影響を及ぼさないよう十分に配慮しつつ、審査ならびに知的財産訴訟における医療特許関連の人的基盤の整備、さらには、国民のコンセンサスの確保も行いながら、特許権を付与していくべきである。

(7) 世界特許システムの実現を目指すべき。

世界特許システムの構築については、大綱に沿って、日米特許庁間で、先行技術調査結果の相互利用に関する検討作業を進めているが、審査結果の相互承認の検討、さらには、欧州、アジアとの共同作業の検討など、世界特許への取り組みを加速すべきである。その際、審査の質においても、国際的に調和の取れたものを目指していくべきである。
あわせて、米国に対して、公開制度の全面導入を強力に働きかけるとともに、先発明主義の見直しなど国際的なハーモナイゼーションを推進すべきである。

(8) 知的財産に関する情報開示や知的財産価値の評価にあたっては、企業の判断や創意工夫を尊重すべき。

知的財産に関する情報開示については、大綱に沿って検討が行われているが、知的財産の評価が技術の内容や事業の状況によって大きく変わるものであることから、数値のみの開示は、かえって誤った情報が金融市場に伝わるおそれが強い。知的財産に関する情報開示にあたっては、強制的な開示とせず、金融市場に企業の技術戦略や知的財産戦略を理解させることを目的として、企業の判断や創意工夫を尊重するとともに、あわせて、金融市場においても知的財産に関する理解が進むようにすべきである。
また、知的財産価値の評価については、知的財産の流動化の過程で行われることが考えられるが、その方法は、ケースバイケースで判断すべきである。

2.大綱に沿って改革を具体化すべき課題

(1) 職務発明の対価の額の決定は、企業において定められた取り決めに委ねるべき。

職務発明については、国際競争力の維持、強化のため、企業自らが優秀な人材を集めるべく、インセンティブを高めるよう努めるとともに、職務発明の対価の額の決定については、世界的な潮流に合わせ、特許法第35条により裁判所が決定するのではなく、企業において合理的なプロセスのもとで定められた取り決めに委ねるべきである。
例えば、(1)職務発明の扱いが個別の雇用契約において位置付けられている場合、(2)労働協約上位置付けられている場合、(3)就業規則上位置付けられており、かつその内容へのアクセスが事前に可能となっている場合のいずれかが満たされていれば、プロセスが合理的と考えるべきである。

(2) ライセンス契約を結んだ相手方の倒産などにより、通常実施権の効力などライセンシーの立場に影響が出ないようにすべき。

知的財産ライセンス契約については、米国と同様、ライセンサーの倒産時や知的財産権の譲渡時においても、包括的クロスライセンス契約を含めて、通常実施権の効力などライセンシーの立場に影響が出ないようにすべきである。
大企業がベンチャー企業と安心してライセンス契約を結ぶことができるようにするためにも、契約の保護が必要である。

3.推進計画で新たに取り上げるべき課題

(1) 国際競争力の維持・強化に向けて、技術戦略、国際標準化戦略と知的財産戦略を一体的に推進すべき。

欧米やアジアに対して競争力上優位に立つには、技術開発とともに、その技術の国際標準化が不可欠である。さらに、こうした技術の知的財産権を保有することで、競争力を高めることができる。
政府においても、情報通信技術や先端解析機器の分野など、国際競争力の強化を目指したプロジェクトにおいて、技術戦略、国際標準化戦略、知的財産戦略を一体的に進めるとともに、技術、国際標準、知的財産を一体的に捉えた企業の取り組みを支援すべきである。
また、標準関連知的財産権のパテントプールにおける特許ライセンスのあり方や第三者特許の扱いについても検討を行うべきである。

(2) グループ会社全体の知的財産権を一元的に管理できる仕組みを作るべき。

連結経営が進む中で、知的財産権の総合的かつ効率的活用を図るため、親会社やグループ内の知的財産管理会社がそのグループ全体の知的財産権を一元的に管理できるようにすべきである。
知的財産権について、信託業法の対象とすべく検討が進んでいるが、これをさらに進め、親会社や知的財産管理会社が知的財産権の信託を受け、グループ会社の一定の費用負担のもとで、グループ全体の知的財産権を管理でき、それらの知的財産権について、権利行使を通じた活用を行えるようにすべきである。

(3) 国境を越えたインターネット関連特許の実施について、国内法の扱いや国際ルールを検討すべき。

インターネットを通じて取引が行われる場合、パソコンは日本にあるが、サーバーは外国にあるなど、その実施が国境を越えて行われることが少なくない。属地主義にもとづくインターネット関連特許の国境をまたがる実施について、国内法の扱いや国際ルールの検討を積極的に進めるべきである。

(4) 技術と法律の双方がわかる知的財産関連人材を養成すべき。

技術と法律の双方がわかる人材が、技術裁判官として活躍できるよう、技術の素養を有する者が、ロースクールにおいて学べる機会を増やすとともに、司法試験の選択科目に、知的財産法とともに、技術の科目を加えるべきである。
また、これらの人材が育成されるまでの間は、特許庁の審判官・審査官や民間の技術系弁理士のような技術と法律の双方について一定の素養をもった者を活用し、少なくとも裁判所の合議の場で意見を述べられるような制度を導入すべきである。

4.大綱の趣旨実現に向けて産業界で特に自主的に取り組むべき課題

(1) コンテンツ産業とIT産業の協調による産業競争力の強化の観点から、違法コピー問題やコンテンツの流通拡大に、関係産業が協力して取り組むべき。

映画、アニメ、ゲームソフト、音楽といったコンテンツ産業は、わが国の経済活性化の一翼を担う重要な産業であるが、これらの産業が扱うコンテンツは、違法コピーの増大や、ブロードバンドで配信する場合の著作権処理という課題に遭遇している。こうした課題の解決には、技術的保護手段や契約の活用、さらには著作権教育の推進など総合的な対応が必要である。また、コンテンツ産業だけでなく、IT産業との協調によって、解決策を見出していくべき課題であると考える。一方、コンテンツの法的保護や利用のあり方をめぐっては、権利者と利用者による適切なバランスを見つけるための話し合いも重要である。
今後、違法コピー問題やコンテンツ流通の拡大、さらには著作権のあり方をめぐり、コンテンツ産業とIT産業の間での話し合いを積極的に推進し、両産業の協調による産業競争力の強化を進めるとともに、政府もこうした取り組みを支援することが期待される。

(2) 海外展開によって生ずる意図せざる技術流出の防止に、産業界が積極的に取り組むべき。

企業がグローバル戦略のもとで、海外展開を進めることは、市場の確保やコスト競争力の向上の面から、不可欠となっているが、海外展開から収益を多くあげていくためには、自社の技術、他社の技術を問わず、海外展開によって生ずる「意図せざる技術流出」を防止していくことが重要である。各企業において、意図せざる技術流出防止のための積極的な取り組みが求められる。

以上

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