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 Opinion : 日本の政治は北欧を目指すべき、と聞いて思ったこと (2009/8/10)
 

しばらく前、某所で

日本の政治は北欧を目指すべきです !
と書き込んでいる人がいて吹いた。

北欧というと、私がお気に入りのライ麦食パンを売っているお店… ではなくて、もちろん「北部ヨーロッパ諸国」のことなんだろうけれど。

該当しそうなのは、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランドあたりか。そのうち 3 ヶ国が NATO 加盟国で、スウェーデンとフィンランドは中立政策を掲げているといっても武装している (ついでに書くと PfP : Partnership for Peace に参加しているし、NATO とともに大型輸送機の共同運用も始めた)。でもって、アイスランド以外は兵器輸出国でもある。そういえば、「冬戦争」のときのフィンランド軍の抵抗ぶりといったら、もう…

つまり、日本の政治が北欧を目指すべきということは、「NATO に加盟して兵器輸出国になって、外的に侵略されたら死力を尽くして抵抗するべき。非武装中立なんて、トンでもない」と主張したかったのか ! …なんてことはないだろう、多分。


おそらく件の発言の主は、北欧というと真っ先にスウェーデンあたりのことを想定して、「福祉が充実していて、中立政策をとっていてステキ !」というところしか見ていないのだと推測してみた。
どう見ても、陸上自衛隊でスウェーデン製の無反動砲を制式採用している、なんて話は御存知あるまい。ついでにいえば、スウェーデンもフィンランドも徴兵制があるし、フィンランドはクラスター爆弾の禁止に抵抗していたし、といった具合。

福祉の充実にしても、それと引き替えの税金の話については、きれいさっぱりスルーしていそうではある。スイスやコスタリカにもいえることだけれども、「平和的な○○国」を信奉する人はたいてい、都合のいいところだけつまみ食いして、都合の悪いところは無視している。

ついでに書けば、第二次世界大戦の前夜、あるいは大戦中に、これら諸国が独立を守るため、あるいは独立を取り戻すために、どんな艱難辛苦を経験したか。それこそきれい事ばかりでは済まされないわけで、そのことまで踏まえた上で「北欧を目指すべき」っていってます ? そんなことはなさそうだけれど。

以前にも何回か同じようなことを書いた記憶があるけれども、歴史、国民性、地政学的条件、経済基盤など、置かれている状況が異なる他国を単純に理想化して持ち上げて、「日本も○○国に倣うべき」なんて主張をしたところで、ろくなことにはならない。しかも、都合のいいところだけ見て勝手に理想のアイドルに仕立てているような主張を、そのまま持ってきたところで、消化不良を起こすだけ。

そういえば先日、「マイコミジャーナル」の連載で、アメリカの議会における国防予算の策定プロセスについて書いた。興味深い制度ではあるけれども、それをそのまま日本に持ってきても、まともに機能するとは思えない。えてしてそんなものである。

先日にスタートした裁判員制度にしても、始めてみたらいろいろと、想定していなかった問題が露見する可能性はあり得る。それをひとつずつ軌道修正しながら消化していって、それで初めて日本に根付いた制度になるわけで。ひょっとすると、根付かずに消える可能性もあるけれども、それはそれ。


冒頭で兵器輸出の話について書いたけれども。実は、スウェーデンやスイスの兵器輸出には、注目したいところもある。

ちょうど先日、スウェーデンがベネズエラ政府に、兵器輸出がらみで物言いをつける事件があった。スウェーデンがベネズエラに輸出した対戦車兵器 (AT4 対戦車ロケットらしい) が、なぜかコロンビアの反政府組織・FARC の拠点で発見されたため。コロンビアで発見された AT4 はベネズエラからコロンビアに流れたのではないか、として事情の説明を求めた次第。

意外と知られていない話で、兵器輸出には「最終使用者証明」というものがついて回る。つまり、輸入元は最終使用者証明を提出して、「勝手に他国に転売や横流しをしません」と約束する。今回の件は、ベネズエラがそれに違反したのではないかということで、スウェーデンが事情説明を求めた。

似たような例で、スイスがチャドに物言いをつけたこともある。チャドに輸出した練習機が、「練習機として輸出したはずなのに、勝手に武装化されて対反乱戦に使われた」という理由による。こちらは、最初に申告した用途と違うことに使ったのが問題になった。

ちょうど、日本では武器輸出三原則の見直し論議が出ているけれども、原則を何らかの形で緩和することになれば、武器輸出管理制度もそれに合わせて手直しする必要があるはず。そういう場面で、スイスやスウェーデンの兵器輸出ポリシー、あるいはその後の態度は参考になると思う。逆にいえば、そこまでやる覚悟もなしに、安直に輸出解禁なんていうなと。

もっとも、それとは反対に「武器輸出三原則を解禁すれば、日本製の兵器が世界を席巻してしまう」なんて与太を吹く人もいるのがこまりもの。自動車や家電製品と違うんだから :-p
現実問題、今すぐ世界を席巻できるのはタフブックとランドクルーザーぐらいじゃなかろうか。って、どちらも民生品ですがな。

そんなこんなで、どこか特定の国について一面的な先入観から作り上げたイメージによって神格化 (?) して、「日本の政治は○○国に倣うべき」なんて安易な主張をする人は、無視する方が良いと思う次第。

そういうアイドル崇拝みたいなのじゃなくて、プラスの面もマイナスの面もあること、日本との国情の違いが厳然として存在することを踏まえた上で、「それでも、○○国のこういうところは参考になるんじゃないか」といったところまで踏み込んで、かつ現実的な主張をするのでなければ、相手にする価値はないんじゃないかと。

P.S.
市販のライ麦食パンはいろいろ食べ比べてみたけれど、北欧トーキョーのはガチ。密度感でも、しっとり・もっちりした食感でも、自分が試した中では最高。

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