社内で立ち回りがうまいタイプではなく、自分の功績に興味のない率先して協力ができるタイプ。アップルは今そんな人物を新しい仲間として迎え入れたいのです。
AppleのCEOであるTim Cook氏が最近言った言葉です。
これはつまり、今スティーブ・ジョブスがAppleの採用面接を受けに行ったとしてもすぐにつき返されてしまうということではないでしょうか。Cook氏は母校であるデューク大学Fuqua School of Businessの第25回同窓会で、Appleが今欲しいと思う人材はどんなタイプなのかについて話していました。
どうやら、かつてジョブス氏が好ましいとした人材とCook氏が今日求める人材の特性には共通点が少ないようです(もちろん知性が最重要事項であることは一緒ですが)。
Cook氏はAppleが求める人材の特徴について、「ハードウェアとソフトウエア、そしてサービスの全てを一体にした圧倒的な製品戦略を立てられる、魔法のような力を持つ人」と伝えてた上で、「グローバル企業において一人きりで何かを成し遂げてしまうような驚くべき人間にこれまで一度も出会ったことはない」とも言っています。
Appleでは社員は協調してプロジェクトを進め、共同作業をし、一人だけが突出して功績を称えられるのではなく、関わった者皆のものとして功績を分かち合うことを求められているのです。
ジョブス氏はかつて、他者のアイディアの中から選りすぐりを選んで自分の功績にしてしまうことで知られていました。しかしそれは彼の一つのスタイルであり、「現実歪曲フィールド」と親しみを込めて呼ばれたカリスマ性そのものでした。
Cook哲学のあらわれとも言えるのが、ジョブズ氏のお気に入りだったScott Forstall氏の解任劇が挙げられるのではないでしょうか。Forstall氏は同社の地図情報サービス「マップス」の欠陥に関する謝罪文への署名を拒んだことに対し、退職するよう言い渡されました。彼はいわゆる「気難しい」タイプだったのです。
社内政治など意に介さないタイプ、そうした人々は誰が功績を得ようがそんなことは気にしていません。
Cook氏自身こそがこの条件を満たした人材であるのは疑う余地もありません。同社の社内行事などでよく見る光景ですが、彼は喜んで他の役員たちと並んで壇上に立ち、下手すれば過度に見えそうなくらいに謙虚な姿勢を保っています。
Webメディア「AllThingsD.com」の最近の彼へのインタビューからは、人をワクワクさせるような熱意ある輝かしい経営者というイメージではなく、むしろ穏やかで控えめで落ち着いた印象を与えていました。そして、そのせいで非難を浴びてもいました。
彼は、「例え名前を挙げて賞賛されることが無くても、己の成功を自身で称えることができる人間、そんな人材が必要なのではないでしょうか」と伝えています。ジョブズ氏はこうではありませんでしたが...。
問題はAppleにとって、こうした人材が会社の舵取り、言わば経営の中枢に必要なのかどうかという所です。精力的、競争的で開拓精神旺盛な人間のほうが、長く会社経営をしていくには良いのかもしれません。それはまさにApple創業者であり、精神的な指導者でもあったジョブズ氏が持ち合わせていた情熱的な人格そのものです。
もし、今後ジョブス氏の信奉者が社員からリーダーになり、ゆくゆくは部を統括をする立場になり、さらにその後役員やCEOにでもなったとしたら。現在Appleが求めているような人材が締め出されるなんてこともあるかもしれません。
If Steve Jobs applied for a job at Apple today, there's no chance in hell he'd get hired. |venturebeat.com
John Koetsier(原文/訳:椎野陽菜)
Photo by MATEUS_27:24&25 (Flickr)