仕事において、お昼ごはんのカタチはさまざま。でも、そこに活かせるハックやアイデアがもっとあるはず。ゲストを招いて、その場でごはんをつくって食べながら、「職と食の関係」を探るべくお話を伺う「ライフハッカーまかない食堂」。
雑誌『食べようび』編集長・花村哲さんをお迎えした第1回に続き、第2回は「ごはんを作る人」と「食べたい人」をつなぐウェブサービスを展開する「KitchHike」のみなさんとお昼をご一緒しました。
今回のメニューは「サラダフォー!」
KitchHikeはごはんを作る人(COOK)と食べたい人(HIKER)をつなぐ日本発のウェブサービス(詳しくは、KitchHikeの取り組みと展望を聞いたこちらの記事にてどうぞ)。「食」と「人」をつなぐパワーによって世界を変えようとしている彼らなら、料理が人々に与える影響について、良いヒントをもらえるのではと思ったのです。
今回も、まかないのメニューは「簡単すぎるレシピ本」こと雑誌『食べようび』からお借りしました。KitchHikeのみなさんが選んだメニューは「『追いパクチー』し放題のサラダフォー!」。米粉麺を使ったベトナム料理の定番「フォー」を、手に入りやすいビーフンでアレンジ。野菜も多めで、お鍋ひとつでつくれるのも魅力です。詳しいレシピは記事の後半で紹介しますので、参考までに!
では、続きはまかないを食べながら。
最近のブームは「7時からはじまる朝ごはんミーティング」
── 普段のお昼ごはん、どうしていますか?
山本さん:お昼ごはんは外で食べることが多いですね。 藤崎さん:移動中だったり、ランチミーティングだったり。ランチミーティングといっても、会議とまではいかないかな。関連のあるサービスをやっている人とご一緒して、根掘り葉掘り聞きながら食べるくらい(笑)。 山本さん:食事を人に会う理由にかこつけていることが多いですね。 藤崎さん:でも、それがいいよね。今日も朝ごはんはミーティングしながら食べたんですよ。最近、僕らの中では朝ミーティングが流行ってます。7時に集まって朝ミーティングすると、1日も長くなります。僕も山本も自転車でココ(拠点にしている渋谷のシェアオフィス「PoRTAL」)まで来てるんで、朝5時半とかに家を出ることも(笑)。── 朝ミーティング、いいですね! 気持ちよくスタートが切れそう。
藤崎さん:そうですね。僕は、誰かとごはんを食べながら話すのって、一緒に食べ始めて、一緒に食べ終わって、「ふー、おいしいかったねー」と共感できるのが重要なことだと思うんです。一緒に1曲を踊り終えたみたいな感じです。食べ終えて、じゃあコーヒーでも飲もうか、みたいのが好き。同じことを同じ時間にやるのがいいですよね。食事は、相手との小さなコラボレーションみたいなもの
── みんなで合わせて何かをするって、よく考えると仕事中でもそれほどない。
山本さん:たぶん、毎日ランチを一緒に食べているチームと、バラバラに食べているチームがあったら、チームビルディング的には前者のほうが良くなる気がする。いや、それはチームというより、もはやファミリーですね。 藤崎さん:科学的に解明したい気もしますね。効率的な面から考えれば、食事は絶対にひとりの方が早いじゃないですか。栄養を摂取するだけなら、人に合わせることもないし、食べながら話す必要もない。でも、一緒に話しながら食事をとることで、絶対に良いことが起きているよね、からだに。 山本さん:まず、なによりおいしいよね。 藤崎さん:うん、おいしい。栄養価が変わってるんじゃないかと思うよ(笑)。── 気の合う人と食べていると、特においしく感じるような。
藤崎さん:あ、そこは逆説的に、一緒にごはんを食べておいしい人は、仲良くなれるってことかもしれない。 山本さん:ごはんを食べている時って、いつもビシっとしている人でも、うっかりこぼしたり、歯に海苔を付けたりする。ある意味で「ダサい」くらいの人間っぽい無防備さ、それをお互いに見せ合うというのがいいですよね。あー、落としたよ、この人もかわいいとこあるじゃん、みたいな(笑)。── 気を許していければ、どんどん仲良くなれそうです。そういう「空間」にいることで、普通に会って話す時とは出てくる引き出しも変わりそう。
山本さん:ごはんを食べるって共同作業ですからね。相手の食べるペースに合わせたり、遠くにある醤油を取ってあげたり、小さなコラボレーションみたいなものが常に起きる。── KitchHikeはその共同作業、小さなコラボを世界中でやろうってことなのでしょうね。加えて、お互いに交流の意思があればあるだけ、そこで生まれる連帯感や達成感も、大きくなっていきそうです。
異文化コミュニケーションは胃袋から!
── 天気の話より、絶対に盛り上がりそう! でも、それだけ「食事」が人を引きつける、あるいは仲を取り持つパワーって、どこから来てるんでしょうね?
山本さん:人と仲良くなる時に、「自分が大切にしているものを分け与える」というのが根幹の原理にあるわけです。縄文時代とかの昔なら、下手したらもう来週イノシシが採れないかもしれないっていう状況で肉を差し出すんですよ。その行為には、相手への大きな思いやりの気持ちがありますよね。だから、もらう方にしても「いいんですか!?」と相手に近づかざるを得ない。 藤崎さん:わかりやすい愛情表現の行為ですよね。さっき言った「ひとりで食べると効率がいい」っていうのも、現代だからこそ。昔は狩りをしていたから、グループで行動しないと食いっぱぐれる可能性も高いわけで。ひとりでサクッと、牛丼屋に入って280円で食べられるようになったのなんて、ここ30年くらいの話なわけですし。 山本さん:そうそう、食はそもそも「集団でするもの」ですもんね。── もともとグループで行っていたものが、個人活動でも可能になった。でもそれをまたグループに「あえて戻す」というのは、人間の根幹に帰るというか、大前提に立ち返るという感じがあります。
気が合う人とのごはんは「本能」が気持ちいいと言っている(のかも)
── 今日話すまで、「働くこと」と「食べること」はどうつながるんだろう、どんな影響を与え合うんだろうと考えていたんですが、そもそも「働くこと」は「食べること」の上に成り立つものなので、横並びに考えるものでもないのかなと思いました。当たり前なんですが、「働くこと」を考える上で「食べること」の影響はそもそも大きいんだなと。
藤崎さん:ほんの少し前まで、「働く=食べ物を得ること=狩り」だったわけですからね。それ以外の目的ないですもん。 山本さん:生き延びるだけだからね。食べ物を得る能力が高い人ほどえらかったでしょうし。── まず間違いなくモテますよね(笑)。
藤崎さん:すごいモテると思う。みんな食べたいもん、ごはん。食に関する職業って昔はもっとたくさんあったんでしょうね。毒キノコ見極める人とか。 山本さん:そういうのは動物に手伝ってもらったりもしてたのかもね。あ、ふと思ったんだけど、犬とかの動物は食事ってどう考えてるんだろう。 藤崎さん:「群れを作るか」どうかで変わるんじゃない? 群れをつくった方が効率はいいですもんね。それぞれ得意不得意もあるでしょうし。俺は倒すのが得意で、あいつは追いかけるのが得意だ、みたいな。 井上さん:そっか、群れをつくるのは、食を通したチームプレーなんですね。 藤崎さん:そう! チームプレー。囮とかいるし。 井上さん:食べ物がきっかけになって群れをなすとしたら、食べ物がすでにあれば群れをなすこともないんだ。 藤崎さん:それがいまの人間だよね。もしかしたら、人と食べた方がおいしいのは、群れる時代の本能を思い出しているのかな。「あぁ、そういえば1千年前はみんなで食べてたな」って本能があるから、誰かと食事をとるのは達成感もあるし、気持ちいいのかもしれない。── 「その人と一緒に狩りをして食べる」と考えたら、自分のおいしいところばかりを持っていくような人とは組みたくない。だけれど、タイミングがあって倍の狩りができたら、その人とは「気が合う」ってことになる。「群れの強さ」ということまで落として考えると、今で言う「チームワーク」ともつながる部分がありそうです。
日本にいるからKicheHikeを作ろうと思えた
── やっぱり、食って普遍性のあるテーマですよね。
藤崎さん:過去からずっと受け継いできたものですもんね。そして、確実に未来へ渡すものでもあるし。食はバトンみたいなものですね。── 「食のバトン」の新しい形を作ろうとしているところに、KitchHikeの良さがあるなぁと感じます。
山本さん:でもさ、すごいよね、食物が一応無限に手に入ることになっている世の中って。まぁ、本当は違うんだけど。日本でいえば奇跡的にそういう状況に近いわけで、そりゃ個食にもなりますよね。 藤崎さん:僕らは日本にいたからKicheHikeを作ろうと思ったのはあるかもしれないよね。日本って食文化も豊かなのに、かつ個食も起きるという国。そこをちょっとどうにかしたいって気持ちがあったのかも。いや、みんなで食べた方がおいしいじゃんっていう。 山本さん:ひとりで食ってても味気ないなって気づけた、逆に。それはあるかも。── 食に対してそういう思いが出てくると、毎日の付き合い方から変わってきますよね。食事に興味を示さないと、なかなかそうはなれない。
山本さん:食に興味のない人っていますよね、本当に。 藤崎さん:「点滴でいい」なんて人とかいますもんね。 山本さん:あ、でも、一時期は自分がそうだったかも。3年前くらい、前職の時は「食べるのめんどくさいな、腹が減るのめんどくさいな」って。いやぁ、不健康ですね(笑)。── いやいや(笑)、でも、今のほうがいいですか?
山本さん:全然いいですよ! 藤崎さん:全然いいよねー。たしかにお金は前より少ないけど、自転車こいでお腹すいて、ごはんたべて、夜も眠くなって。 山本さん:こうやってみんなで食べながら、笑って話せるし。本日のまかない「『追いパクチー』し放題のサラダフォー!」
ごちそうさまでした
前回は「料理をすること」が持つ価値や魅力を見つめました。片や、今回は「世界中のキッチンをオープンにすること。料理を通して人が仲良くなれるような場を提供して、文化そのものを生むこと」を目標とするKitchHikeのみなさんらしいというべきか、「誰かと食べること」をテーマにして話せました。
食事を交えてのミーティングの良さはもちろん、想像の域ではあっても、「群れ」の話からは食事がチームワークを高めてくれる理由が見えたような気がします。
また、「日本だからこそKitchHikeは生まれた」という言葉も印象的。新たなヒントは決して飛躍したところにあるのではなく、日常という足元にこそ落ちているものなのかもしれません。
これまでに「料理をすること」「誰かと食べること」についてを考えてきました。次は「働くこと」へ活用している人ともお話できたらいいなと思っています。まかないを作っている人や、仕事で食のパワーを活用なさっている方などもいいかもしれません。もし、良いアイデアなどあれば、コメントやFacebookページで教えてくださると嬉しいです。
(長谷川賢人)