「時間管理」は難しいものです。ふと気付いたら終業時間が過ぎていた、なんてことはよくあります。『RescueTime』は、パソコンを使っているときに、どのサイトをどれくらい閲覧していたか、どのアプリケーションをどれほど使っていたかを管理できるアプリケーションです。そのデータを元に、時間の使い方を見直せます。

今回は、RescueTimeの開発者であるRobby Macdonell(ロビー・マクドネル)さんに、アプリケーションの開発ストーリーを伺いました。

罪悪感からオーバーワークをする日々がきっかけに

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── RescueTimeのアイデアは何がきっかけで生まれたのでしょうか。あなた自身が直面していた問題の解決策としてか、それとも何か別のきっかけがあったのですか?

マクドネル:一日中がんばって働いた気がするのに、終業時間になって、その日に何をやったか思い出せないことってありませんか? 私たちは、そのように感じることがあまりに多くて、イライラしていました。一日のうちの何時間もが、まるでブラックホールのように感じられたのです。自分がやった、いくつかのことは思い出せても、8時間の労働の内容を事細かに話そうとすると、うまく説明できない部分が本当にたくさんありました。そのことに、罪悪感を抱くようになりました。何をやっていたか思い出せない時間は、Twitterやブログを見たりして無駄に使っていたんじゃないかと思って。

私は仕事中毒気味なので、そうした罪悪感があると、「今日はいい仕事をした」と感じられるまで、夜遅くまで働いたり、週末も返上して働いていました。残念ながら、そうしたパターンには陥りやすいのです。こうした働き方は、私の職場では日常的なことだったので、共同創業者と一緒に、自分たちが使っているアプリケーションのログを記録するプログラムを作りました。それによって、私たちは実際に自分たちがどのように時間を使っているのか、正確に細かく把握できるようになりました。

「何に時間を使っているか」がわかると本当の課題が見える

マクドネル:すると、すぐにすばらしい事がわかりました。たとえば、私は何よりもEメールに時間をかけていたのです。何をやっていたか思い出せない時間の原因は、そこにありました。つまり、私は時間を無駄に使っていたのではなく、社内のコミュニケーションの問題があることがわかったのです

私たちは、時間を正確に記録することで、時間の使い方についてより現実的に考えられるようになることを発見しました。罪悪感は少なくなり、1週間に60時間も働くように自分にプレッシャーをかけることもなくなりました。

時間の使い方に関するデータを得たことで、生産性を向上するために改善をして、それが具体的にどのような変化を生むか、計測できるようになりました。そして、自分たちが開発した、このちょっとオタクなアプリケーションのことを、周りの人にも話し始めました。すると予想外に、多くの人が「とてもクールだ、自分たちも使いたい」と言ってくれました。こうした反応がきっかけで、このアプリケーションが他の人のためにもつくるに値する、面白いプロダクトかもしれないと思い始めたのです。

機能の拡張と選択のサイクルをひたすら繰り返す

── アイデアを思いついたあと、次にとった行動はなんですか?

マクドネル:短期間で繰り返し開発し、新しいアイデアを試しました。開発に取り組み始めたころは、RescueTimeのようなプロダクトはあまり他にはありませんでした。なので、試行錯誤を繰り返して、多くを学ばなければなりませんでした。どのような情報を取り出せるのか、追跡できるのか、情報をどのように表示させるべきか...理解するのに、多くのことを試しました。一日の中でどのアプリケーションを使っているのかを把握してみると、仕事のほとんどはブラウザ上で行っていることがわかりました。そこで、アプリケーションの情報を追うのと同様に、ウェブサイトの情報も追跡し始めたのです。

コンピュータ上で費やす時間の全体像がわかると、次に明らかになったのは、会議や電話対応などに費やす時間です。なので、コンピュータを離れる時間の記録をとる機能も追加しました。次に、スマートフォンに縛られる時間はどんどん増え、使い方にも大きな影響を与えていることがわかったので、スマートフォンの対応も必要になりました。機能が多すぎて使うのを尻込みしてしまうほどではない、ちょうど良いバランスに近づくまで、何度も機能の拡張と選択のサイクルを繰り返しました。

── ターゲットとするプラットフォームをどのように選びましたか?

マクドネル:メンバー全員が、デスクトップ用のアプリケーションよりもウェブアプリケーションをつくるスキルを持っている状況でした。ですから、アプリケーションのコンピュータ上で動作する部分は、出来るだけ少ない仕事量に留めました(初期バージョンのMac用アプリケーションは、AppleScriptだけでした)。そして、他の部分はサーバーを使って情報の処理と表示をするようにしました。

当時は、ちょっと怠け過ぎな気もしていました。単にデータを、自分たちがより快適に使える環境に入れていたのですから。ですが、他のプラットフォームにも対応するようになって、自分たちのやり方がもっとも賢明な方法だったことがわかりました。今では、新しいプラットフォームを開発するときには、ゼロから全てを書き直す必要がないため、多くの工程を省くことができます。

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セキュリティに対するユーザーの不安をどう克服するか?

── もっとも難しかった点は? それをどのようにして乗り越えましたか。

マクドネル:プライバシーに関する議論はとても興味深かったです。自分のためにトラッキングツールを開発するのであれば、プライバシーは大きな問題になりません。自分のデータは、だいたい完全にコントロールできているからです。ですが、自分以外の人がRescueTimeを使い始めると、事情は全く変わります。RescueTimeは、ユーザーがコンピュータの前に座っているときの時間の使い方を毎秒、記録にとるのですから、当然その情報がどう扱われるのか不安に感じます。

私たちは、ユーザーから得たフィードバックを元に、快適かつ安心に使えるプラットフォームをつくるのに全力を注ぎました。多くのプライバシー設定を追加し、いくつかの設定においては、デフォルトではなく自分で選択するようにしました。そして、ユーザーにとって本当に価値のある情報だけを記録するように努めました。これは今でもしばしば議論になるテーマですが、一定のプライバシーと管理権をユーザーに与えているので、多くのユーザーはプライバシーに関してかなり前向きに捉えています。

── ローンチした時はどのような感じでしたか?

マクドネル:良かったです。何年ものあいだ、堅調に成長しています。最近、アプリを上から下まで見直したのですが、その作業は個人的にずっとわくわくするものでした。最初のローンチ時において、最悪なのはユーザーの反応がまったく得られないことです。逆にユーザーの怒りを積極的に招くことはほとんどありえません。

一方で、既存のユーザー層に対して、デザインを大幅に変更するのは、本当に大変なことです。以前実施した変更は、プログラムの基礎に関わるものだったので、本来望んでいたよりも、大幅な変更が必要になりました。私たちの変更方法には満足しているのですが、気がおかしくなるほど神経を使うものでした。

RescueTimeのサイトには、毎週何万人ものユーザーが訪れます。私たちは、多大な時間をつかって、ユーザーエクスペリエンスが悪くならないように、考えつくしました。私たちは、加えようとしている変更の有効性を確かめるために、ローンチ前にはユーザーとのコミュニケーションを多くとりました。そして、変更前に、できるだけ多くのつくりの荒い箇所を強化しました。こうした準備作業は、結果的にやる価値がありました。新しいバージョンは今のところ、とても好意的に受け止められています。

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RescueTimeの職場

── ユーザーの要求や批判にはどのように対応していますか?

マクドネル:サポートが必要なユーザーに対しては、しっかり対応するように心がけています。サポート業務を率いているロジャーは、その点に関しては我が社のヒーローです。メンバー全員がサポートには関わっていますが。小さいチームなので、時に自分の主な業務以外のことも対応する必要が生じるのです。同時に、顧客が重要に感じているニーズを理解するのにとても有効な方法でもあります。RescueTimeのユーザーと直にやり取りをすることで、真摯な姿勢を保てますし、間違った推測をすることを避けられます。

批判に関しては、できるだけ建設的に対応するようにしています。批判の多くは本当に正直なもので、私たちにとっては、足りない機能を改善する上でのよいプレッシャーになります。同時に、アプリケーションをシンプルなものに留めたいので、リクエストの全てに応えることはできません。ですが、アプリケーションをつくる上での楽しみのひとつには、全てのフィードバックを俯瞰して、リクエストの大部分をカバーするような改善方法を見つけることにあると思います。

── 現在は「新機能」と「既存機能」の開発に割く時間の比率はどれくらいですか?

マクドネル:小さな変更を数回のラウンドで繰り返すことで、新しい機能を生み出すようにしています。それはたいていの場合、既存の基本的な機能を元に変更するものです。ですので、改善と新しい機能の境界線があいまいになりますが、それはある意味で良いことです。何が機能するか、機能しないかをすばやく見極められますし、長いサイクルで開発に取りかかる必要がないので、仕事が調整しやすくなるのです。ただし、例外は最近実施したデザイン変更です。多くの新しい機能を追加するのには、多大なエネルギーが必要になりました。

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ユーザーに感情移入することは、とても重要なスキル

── 同じような挑戦をしたいと考えている人に対して、どのようなアドバイスをしますか?

マクドネル:ユーザーに感情移入することは、とても重要なスキルだと思います。なので、そのスキルはぜひ伸ばすようにするべきです。ユーザー第一ではなく、マーケットやトレンドに合わせてデザインするというのは、簡単に陥りやすい罠です。自分が求めているものだけを欲しいのであれば、構わないのですが。

他人に共感を呼び起こすアイデアを思いつけば、周囲から簡単に、あなたが正しい方向に進んでいるかどうかアドバイスをもらうことができます。自分の推測が正しいかどうかを確認しないまま、自分のビジョンにとらわれないことです。

ユーザーサポートからも多くのことを学べますが、ユーザーがいる場所を探して、できる限り多くのユーザーにプロダクトについて聞いてみてください。たとえば、私たちは積極的に、地元のセルフトラッキングツールのミートアップであるQuantified Self に参加しています。このミートアップは、生産性の分析方法を模索している人にとっては、すばらしい場です。

前に進めば進むほど、多くの発見があるはずです。なので、ブログはあなたが取り組んでいることに関心のある人々と対話をする場所として最高の場になります。私たちは、過去に何度か「**をやってみたら、どうだろう?」といった記事をブログに投稿したことがあるのですが、デザインや開発に進む前に、速い段階でユーザーの反応を得ることのできるすばらしい方法です。

Alan Henry(原文/訳:佐藤ゆき)

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