「エレベーターピッチ」とは、エレベーターに乗っている15秒から30秒の時間内にプレゼンテーションをし、ビジネスチャンスをつかむテクニック。上司への報告や自己アピールにも有効な手段として注目されており、その起源は米サンフランシスコのシリコンバレーにあるいわれています。

きょうご紹介する『15秒で口説く エレベーターピッチの達人――3%のビジネスエリートだけが知っている瞬殺トーク』(美月あきこ著、祥伝社)の著者は、企業・団体向けの接客・接遇研究講師を専門とする人財育成コンサルタント。「最近特に人気だと痛感している」というエレベーターピッチについて、これまでに累計900人の前で説明してきたのだそうです。つまり本書は、そんな活動の集大成。

第3章「こうすれば、エレベーターピッチを今日から使える」を見てみたいと思います。

全体→詳細へ

エレベーターピッチは、ノウハウを理解すれば、誰にでも(たとえ口下手だったとしても)できるようになると著者は断言しています。上手に話せることよりも大切なのは、ことばの選び方と話の構成。重要なポイントは、「全体→詳細へ」という話の流れ。冒頭に、これから始める話の要点を簡潔にまとめて話すというわけです。営業マンが顧客に会った際、「いい天気ですね」「景気はどうですか?」などの世間話を抜きにして、挨拶を済ませたらすぐに「本日はお勧めの新商品の紹介にまいりました」と本題に入るようなイメージだそうです。難しそうにも思えますが、「的確に用件を伝えるには、細かいことは省略して核心からズバッと切り出したほうがいい」と著者は断言しています。

短時間で多くの情報を伝えようとすると、どうしても収まりきらない部分が出てくるもの。そこで無理に情報を詰め込もうとせず、大まかに話の全体像がわかるように伝えるべきだという考え方。最初に興味を持ってもらえれば、続きの話も聞いてもらいやすくなるため、話の切り出し方が大切だということです。

ただし、ダイレクトに話す習慣のあるアメリカとは異なり、日本では「失礼ですが」「差し支えなければ」などのクッションことばを使ったり、やや遠回しないい方をすることで相手を気遣う姿勢を表すことがマナーとされています。ですからシリコンバレーの方法論をそのまま使うと、失礼だと感じられてしまう危険性も。そこで、まず名刺を出して名乗り、「失礼ですが、30秒ほどよろしいでしょうか」と短く前置きをするなど、日本人流のエレベーターピッチにアレンジすることが必要だといいます。(78ページより)

時系列はマナー違反

「上司に進捗状況を報告するときは、時系列で話すこと」という意見は、以前にくらべて少なくなってきたと著者。なぜなら時系列で話すと、「午前中」「午後」「夕方」といった、話の本筋とは関係のないところに聞き手の意識が向いてしまうから。重要な部分を伝えるためには、必ずしも時系列で報告する必要はないというわけです。

さらにいえば、時系列で話していいのは、相手から「もっと話して」といわれてからだとか。ただしその場合でも、ただダラダラと事実を並べるのではなく、必要ない情報は省略するなど、なるべくコンパクトにまとめることが大切。「残す」「捨てる」の判断が求められるということです。たとえ1分であったとしても、相手にとっても自分にとっても時間は大切。お互いの1分を無駄にしないためにエレベーターピッチを駆使することが、成功への近道だと著者は記しています。(81ページより)

いきなり話さず、GTCメモを

エレベーターピッチにも、準備は不可欠。そこで著者が勧めているのが、「GTCメモ」です。

G(GOAL):自分のゴール

T(TARGET):ターゲット(相手)の欲しいもの

C(CONNECT):2つをつなぐアプローチ

「たった15秒のためにメモが必要なのか」という問いに対しては、たった15秒だからこそ、1秒も無駄にできないと著者。短い時間を最大限に活かす工夫をするために、GTCメモは必要だというわけです。

ちなみに著者はGTCメモをつくることを「地図をつくる」と表現しているそうです。話が脱線して行き先が不明にならないよう、目的地をしっかり定めるためにGTCメモをつくるということ。たとえば「広告代理店に仕事を頼みたい」「でもコストが心配」「いくらぐらいならOKなのか」とGTCメモに書き出すうちに、伝えたいことがすっきりまとまるそうです。そして伝えたいポイントが決まったら、緊張していてもしっかり話せるといいます。GTCメモがあるという安心感が余裕を生み、必要以上にあがることを防げるということです。(84ページより)

GTCメモのつくり方

エレベーターピッチを考えるときの第一段階は、自分のゴールを設定すること。たとえば、著者がエレベーターピッチの本を出したいと思っているとしたら、「本を出すこと」がゴール。そこでメモには、「エレベーターピッチの本を出すこと」と書くわけです。

そして次に必要なのが、エレベーターピッチのターゲット(聞き手)が欲しいものを想定すること。ただ「本を出したいんです」と自分の望みを伝えたところで、相手にとっては他人事。そこで相手を動かすためには、自分のこととしてとらえてもらえるような仕掛けが必要になってくるというわけです。そこで、相手が欲しいものをこの段階で考える。

この場合、著者が本を出したいとしたら、アプローチすべきターゲットは出版社。そしてターゲット(出版社)が欲しいものは「おもしろくて売れる本」であるはずです。そこで、GTCメモにもそう記入。そしてそのうえで、この2つをつなぐ(C)アプローチを考える。なおCにあたる部分はひとつとは限らないため、考え付くだけ書き出してみるといいます。

たとえば、上記の流れに沿ってGTCメモをつくると、次のようになるのだとか。

G:エレベーターピッチの本を出したい

T:出版社はおもしろくて売れる本が欲しい

C:アメリカでは主流になっているプレゼンの方法なので話題性がある

C:プレゼンの本は最近もよく売れている

C:メルマガでエレベーターピッチを紹介したら好評だった

C:メルマガの読者は1万人→この人たちは買ってくれると想定できる

C:ブログで紹介したらユーザーの反響があった

(89ページより)

こうしたGTCメモをつくっておけば、いつでもどこでも、どの出版社の編集者に会ったときでも売り込みができるというわけです。逆にGTCメモがないと、エレベーターピッチはなかなかうまくいかないのだとか。GTCメモをつくっても思い通りのゴールを得られないのなら、CやTの設定の仕方が間違っていると考えられるそうです。(88ページより)

このようにエレベーターピッチについてわかりやすく解説されているため、そのノウハウを無理なく身につけることができるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。

(印南敦史)