ドラッカーの黒字戦略』(藤屋伸二著、CCCメディアハウス)の著者は、ドラッカーの著書を200回以上読み、さまざまな角度からドラッカーについての理解を深めていったという第一人者。これまでにもドラッカーに関する多くの書籍を残していますが、本書には従来とは異なる大きな特徴があります。それは、「利益」に焦点を当てている点。ちなみにそうしたアプローチを「おもしろい」と感じたきっかけについては、次のように説明しています。

ドラッカーの理論を「利益」からとらえている「解説本」はありません(だからニッチ)。ましてや、「利益」からとらえている「ドラッカー活用本」はさらにないからです(超ニッチ)。(「はじめに」より)

そこで、「利益」すなわち「黒字」に焦点をしぼり、「すぐ黒字」「より黒字」「さらに黒字」「ず~っと黒字」という4つのステージからなる「黒字戦略」を解説しているわけです。

しかし、そのためにはまず「利益」について学ぶ必要があるはずなので、きょうは「序章 利益を再考する ~ドラッカーの利益のとらえ方~」に焦点を当ててみたいと思います。著者はここで、「利益には5つの役割がある」と説明しています。

その1:顧客満足のバロメーター

辞書によれば、「利益」とは「事業などで得られる儲け」。そして「儲け」とは、「売上げからコストを引いたもの」。その答えでも間違いないものの、利益を「顧客満足のバロメーター」と考えると、事業の本質が見えてくると著者は説明しています。ドラッカーが教えるように、事業目的を「顧客の創造」(利益をともなった売上げをつくること)と定義すれば、利益を上げることは、どれだけ顧客満足を得たかの「ものさし」として使えるということ。

もちろん、社内の努力によってコストを引き下げれば利益は増えますが、そもそも売上げがなければ、いくらコストを引き下げても利益を出すことは不可能。つまり、自社の望む価格で顧客に買ってもらうことによって利益は確保できるわけです。社内の業務効率が多少悪くても、自社の望む価格で買ってもらえれば利益は出せるもの。だからこそ、利益を顧客満足を計る第一の「ものさし」として間違いないそうです。(18ページより)

その2:事業の有効性と健全性を計るものさし

利益が出なくても顧客が満足することはありますが、会社である以上は、適正な利益を上げることが大前提。すなわち利益が出ない事業は「健全な事業」とはいえないと著者はいいます。逆に考えれば、利益は「事業がどれだけ有効か(顧客にとって価値があるか)」や「しっかり儲かる仕組みになっているか(健全性があるか)」を計る「ものさし」にもなっているということ。

社内から利益を見ていると、事業の有効性や、健全性といった視点から利益を見る機会には恵まれないもの。しかし、外部の視点(客観的なものさし)から見ることによって、以下の4点をを判断することが可能なのだそう。

1.成熟しきった市場かどうか

2.積極的に取り組むべき事業かどうか

3.商品のライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期の分類)のどの位置にあるか

4.自社に適した顧客かどうか

日々の仕事に埋没していると、事業の全体像が見えなくなってしまいがちですが、そんな中、利益には視野を広げる役割もあるというわけです。(19ページより)

その3:将来のリスクへの備え

経営は山あり谷あり。売上げが伸びた翌年に、環境の激変で赤字決算に転落することも珍しくはありません。そんなときにも、固定費は確実に発生します。たとえば人件費は、解雇や給料の一部カットなどで応急的に変動費化できますが、そのようなことを繰り返していると優秀な人材が逃げてしまいます。会社が会社の都合を優先すれば、社員も自分の都合を優先するようになって当然だということ。

そうならないために必要なのは、万が一に備えて資金を貯めておくこと。そういう意味で利益とは、将来のリスクへの備えであり、未来の費用でもあると著者は主張しています。(21ページより)

その4:将来の利益獲得のための準備

また、「投資」も未来の費用のひとつ。設備・施設・商品開発・市場開拓・人材育成など、今季に発生する費用の効果は将来にまでおよぶもの。つまり先行して発生する費用に対し、時間をおいて(タイムラグがあって)あとから発生するのが利益。

あるいは、投資が失敗に終わることもありますが、だからといって投資をしなければ、事業は衰退して当然。また、投資活動は継続的・計画的に行わなければ、投下したコストに相応した効果を上げることも難しくなります。そこで、失敗も充分にあり得る投資活動を支えるためにも、稼げる時に稼いで利益を貯めておく必要があるということです。(21ページより)

その5:資金を調達するための誘い水

お金を貸す大前提は、返してもらえる見込みがあること。銀行が利益の上がっていない会社に対してお金を貸さないのも、ビジネスとしては当然の理屈です。大切なのは、公的な制度や担保に頼るのではなく、決算内容(業務に裏づけされた信用力)に基づいて借入れを行うこと。(22ページより)

このように利益にはさまざまな役割があるわけですが、根底にあるのは「利益がなければ健全経営はできない」という考え。だからこそ経営者にとっては、黒字経営が必要不可欠の条件になるわけです。

ちなみに「利益」と「黒字」は限りなく同義ですが、プラスとマイナスがある利益に対し、プラスしかないのが黒字。また利益には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引き前利益」「当期(純)利益」などさまざまな段階がありますが、黒字は、当期利益がプラスのときだけに使われることば。プロセスがどうであれ、最終的に利益がプラスになったときだけに使われるのが「黒字」だというわけです。

本書は基礎的な部分からわかりやすく解説されているため、無理なく本質の部分を理解することが可能。ドラッカー理論を活用するための、大きな力となってくれるはずです。

(印南敦史)