東京電力福島第一原発事故を受けて県の18歳以下の医療費無料化制度が10月1日、始まる。比較的軽い病気やけがでも医療機関で受診するケースが増えると予想され、財源や医師の不足が懸念されている。限りのある基金を財源とするため予算増額は厳しく、避難区域の住民が集まるいわき市や南相馬市などでは医師不足がさらに進む見方も出ている。県は学校を通じて適正な受診を呼び掛けるが、健康不安を抱える県民の利用を制限することは難しく、国に追加支援を強く求める。
■ジレンマ
県内全市町村が小学3年生までの医療費を無料化しているため、県は小学4年生から18歳以下を対象とし全額補助する。費用は、これまでの医療費の実績から年間約40億円と試算するが、県児童・家庭課の担当者は危機感を募らす。少しのけがや、軽い風邪でも救急診療などを受ける、いわゆる「コンビニ受診」の増加が見込まれるためだ。
県によると、市町村が医療費の助成対象年齢を段階的に引き上げてきた過程で医療費は増える傾向を見せた。市販薬を服用し自宅静養していた症状でも、夜間の救急外来を利用したり、複数の医療機関で診察を受けたりしたためと分析する。
ただ、医療費無料化は原発事故で子どもの健康不安が高まったことを受けてスタートするだけに、県児童・家庭課の担当者は「保護者は子どもの健康状態に敏感になっている。少しの異変でも、病院に連れていきたい気持ちは分かる」と苦しい立場を口にする。
今回の18歳以下の医療費無料化は国の財政支援で県が設けた「県民健康管理基金」を充てる。
除染対策費を除く平成23年度末の残高は、東京電力からの賠償金約250億円を含めて約1020億円だった。しかし、県民健康管理調査費約85億円、今年度の医療費無料化事業費約13億円などで約150億円を取り崩したため、24年度末の残高は約870億円となる見込み。
基金は医療費無料化事業の他、健康管理調査や除染など使途が決まっているため、取り崩しには限りがある。医療費無料化分は東電賠償金を充てる予定で、計算では6年で底を突く。県保健福祉部幹部は「基金への財政支援を明記した福島復興再生特別措置法、福島復興再生基本方針を根拠に、国にさらなる予算措置を求める」と強調する。
■拍車
医療費無料化に対し県内の医師会関係者にも新たな不安が出ている。原発事故以降、県内で医師不足が深刻になっているためだ。
県の8月1日現在の調査では、県内の常勤医師は1866人で、震災前の昨年3月1日時点より79人減った。県医師会などによると、若い世代の勤務医の減少が目立つ。県によると、相双地域は著しく、震災前に120人いた医師が震災後には半減した。いわき市でも大幅に減っており、医師が極端に少ない診療科目もあるという。
中通りの医師会関係者の1人は、18歳まで医療費が無料化されれば、医師は多忙を極め県外に転出するケースが増えるのではないかと懸念する。無料化開始まで残りわずかとなり県と県内の医師会、歯科医師会、薬剤師会は広報に力を入れ学校を通して子どもや保護者らに適正な受診を呼び掛けている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)