永い言い訳
映画サイトfilmarksの試写会に参加しました。
しかも西川美和監督のティーチインつきというおまけもついていて貴重な時間を過ごせました。
実は別日で試写会が当選していたのですが、まさかのダブルブキングという悲しい事態になり泣く泣くキャンセルする羽目に。
そしたらまさかの別媒体での当選。この作品に呼ばれてるのか導かれてるのか募集人数が少なかったのかはわかりませんが、久々の西川監督作品を皆さんより少し早く堪能してまいりました。
あらすじ
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻(深津絵里)が旅先で不慮の事故に遭い、親友(堀内敬子)とともに亡くなったことを知らせを受ける。そのとき不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。
そんなある日、妻の親友の遺族――トラック運転手の夫・陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思い付きから幼い彼らの世話を買って出る。
保育園に通う灯(白鳥玉季)と 、妹の世話のため中学受験諦めようとしていた兄の真平(藤田健心)。子供を持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り虚しかった毎日が輝きだすのだが・・・(HPより抜粋)
監督・キャスト
監督は一貫してオリジナルのストーリーに挑み続けているという西川美和。
普通にキレイな方だと思います。っていきなり外見からかよ!とツッコミたい気持ちを抑えて写真をじっくり見て御覧なさいって。いい歳のとりかたしてると想いません?
デビュー作以外はすべて鑑賞していて、邦画では好きな監督の一人です。当時レンタルビデオ屋で働いていたときに同僚に薦められた「ゆれる」があまりにもよくて、スタッフたちとああでもないこうでもないと議論したのを覚えてます。
是枝裕和監督の下で学んだだけあって、彼が描く人間ドラマを受け継ぎ、内面を深く掘ることで人間たちが持つ薬と毒の両方を時に突きつけ時に笑わせる、そんな作風の持ち主なんじゃないでしょうか。
そんな監督がどんな作品を手がけてきたのかというと、雨上がり決死隊の宮迫博之を主演に迎え、祖父の葬式に音信不通だった長男の出現により一家のバランスが崩れ再生していく様をシニカルに描いた監督脚本作「蛇イチゴ」で監督デビュー。
その後監督した「ゆれる」で国内の映画賞でベストテンや大賞を取るなどし、女性ということもあり日本映画界に大きな収穫をもたらした。
長編3作目となった作品には笑福亭鶴瓶を主演に、小さな村で村民から慕われ信頼されていた一人の医師が失踪した謎と彼の秘密を描いた「ディア・ドクター」ではキネマ旬報ベストテン1位を獲得しています。
他にも火事により店をなくしてしまった小料理屋の夫婦が再び店を建てるべく結婚詐欺で資金調達するという大胆な計画を立てる「夢売るふたり」があります。
香川照之もオダギリジョーもいい演技してます。
自由奔放に生きる弟は母の一周忌に久々に帰郷、ガソリンスタンドを経営する兄と幼なじみの智恵子と3人で近くの渓谷に足をのばす。ところが、川に架かる吊り橋で、智恵子が渓流へと落下。橋の上には呆然とする兄の姿が。最初は転落事故と思っていたが兄の証言から事態は急変する。
都会に住むイケてる成功者の弟と田舎に住むイケてない兄という対照的な二人を軸に、閉塞感漂う田舎町のあらゆる場所や物が「ゆれる」描写を要所で放り込むことで、二人の思惑、嫉妬、軋轢、確執といった心の葛藤などが感じられるのが印象的な作品です。
ただ、椅子にくくりつけられた風船だけが「ゆれない」のはどういったことを表しているのか未だにわかりません。それはさておき終盤の裁判での緊張感MAXのシーン、ラストカットの香川照之が演じる兄の笑顔、ここは見ものです。
主演の衣笠幸夫を演じるのはモックンこと本木雅弘。
この人はいつから俳優でメシ食ってるのかよく知らないんですよねぇ。やはり「シブがき隊」のモックンのイメージのほうが強い。「おくりびと」くらいしか見てない自分にとっては彼の演技力を今回じっくり堪能できるとあっていい機会だと思っています。
そんなほとんど見てない彼の出演作を調べてみると、シブがき隊解散後すぐに俳優として頭角を現していたようです。
ロックバンドのボーカルをやっていた男が、実家のお寺を継ぐために奔走する青春コメディ「ファンシィダンス」で初主演、
監督を務めた周防正行監督と再びタッグを組み挑んだ作品で、廃部寸前の相撲部に入る羽目になった大学生の奮闘をコミカルに描いた「シコふんじゃった。」で作品とともに国内のあらゆる映画賞で賞賛され俳優としての地位を固めはじめます。
その後も、社会からはじかれた底辺の5人が一人生の一発逆転を賭けて暴力団の現金強奪を計画するバイオレンスアクション「GONIN」、納棺師という職業を軸に人生に迷った男が旅立ちのお手伝いをすることに意義を見いだしていく「おくりびと」では米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞するという快挙も成し遂げています。
去年は「天空の蜂」、「日本でいちばん長い日」などに出演したこともあり、各映画賞で助演男優賞を制覇しています。わーどっちも見てないw
他にも、幸夫の妻役に深津絵里、トラック運転手の陽一役には元「野狐禅」のボーカルで、ソロ歌手として活動の傍ら俳優活動もこなす竹原ピストル(最近では野太いしゃがれ声で「よぉそこの若ぇの~!♪」というフレーズが印象的な歌をCMで使われてます)、
その陽一の妻役に堀内敬子、
衣笠のマネージャー岸本役に池松壮亮、
衣笠の編集者・福永を黒木華が演じています。
おぉ意外に脇役が豪華。
というわけで、監督がみっちり時間をかけて小説からスタートさせたことで、完成度の高さがうかがえそうな今作。今回人を愛せない男が他人の子供と触れ合うことで何を見出すのか?それをどんな描写で監督は見せるのか?
ここから鑑賞後の感想です!!!
人間の愛らしさと醜さがあふれる西川監督流ホームドラマ!
以下、核心に触れずネタバレします。
丹精こめてできた別離からの再生
今まで「ゆれる」や「夢売るふたり」のような、徐々に壊れていきながらも新たな道を歩んでいく過程を描いていた印象が強い監督作でしたが、今作は最初で人間関係が壊れたところから始まり新たな道を歩むことになる主人公が、偽りの家庭のなかで育んでいくことで再生する姿が強く表れていました。
ティーチインで監督は今作を手がけるにあたって「『夢売るふたり』の撮影中に起きた震災で感じた、目の前にいる人が突然いなくなった時の、あの時一言声をかけてれば、ひと目あっていれば、といった後悔を背負いながら生きていく人たちの人生を描きたかった」というようなことをおっしゃっていた通り、
妻が死んでも何も感じなかった彼が、子供たちと触れ合うことで徐々に気づいていく描写や、それとは対照的にずっと妻の死を引きずっていた陽一がその悲しみを乗り越えて前に進んでいくといった成長を、時代に逆らって約1年もかけて16mmフィルムですべて撮影したというだけあって、非常に細やかに丁寧に作られた作品だったと思います。
監督の目指したホームドラマ。
一番の見所は幸夫と子供たちの掛け合いでしょうか。
妻をなくした後でも不倫相手の体を求めHしてるときに「バカな顔」と嘆かれ(この顔をあえて見せないという演出がグッド!!)、出版社の社員に言いたい放題愚痴り殴り合い、本能のまま動いているとしか思えない中で出会った、妻の親友の夫・陽一と子供たち。
最初こそ人見知り感MAXなんだけど、長距離トラック運転手である陽一が留守の間、仕事の傍ら子守をすることで彼の中の精神的な部分が安定し満たされていく描写が非常に微笑ましかったです。
母がいなくなり、家のことも妹のことも父がいない間全て自分がやらなければいけないと強い責任感を持ちながらも、自らが目指す中学受験も頑張らなければいけない、その圧力を解放すべく、アドバイスや親身になって寄り添ってくれる幸夫に信頼感を持ちはじめる長男の真平。
決まった時間に見るアニメを欠かさないきっちりしたところもあれば、夕食で駄々をこねるといった子供らしい一面を見せ、幸夫に子育ての楽しさ幸福感を与えることになる妹の灯。
この二人と過ごしている幸夫がほんとに幸せそう。
今までの自分大好き野郎はどこへ行った?一緒にアニメを見たり、国語の勉強を教えたり、お兄ちゃんの送り迎え、あーちゃんと自転車で買出しの後の地獄の坂道、たたみ方を知らない洗濯物をあーちゃんから教わったり、駄々をこねるあーちゃんをなだめ二人で食べるひよこちゃんカレーや野菜炒め、とどれもこれも幸夫の目が輝いている。
でも、お父さんと呼ばれて悦に浸り、自分が呼ばれていると勘違いしちゃう場面が何か悲しく感じます。そこは監督の演出が非常にうまいんですけどね。
ちゃんと幻だって画で表してる。
陽一もめちゃめちゃ絵に描いたような不器用。
何度も何度も留守電に入った妻の声を聞きながら泣き喚き、思い出話をしても泣き喚き。ある種奥さん愛されてたんだなぁとも思いますが、なかなか前に進めない陽一。
この作品は、この四人がうまくバランスを保っていることで、歪で奇妙だけど一時非常に楽しい家族構成になるんですよね。
でも、外部から誰かが加わることでまたバランスが崩れていく。
幸夫は陽一たちに出会う前の幸夫に戻るし、真平は無理がたたってグレていく。
この後の修復の仕方に注目して見ていただけたらと思います。
ちょっと変わってるけどこんなホームドラマもいいんじゃないでしょうか。
津村啓から衣笠幸夫へ
テレビのバラエティにも出演するほどの人気小説家津村啓。それとは裏腹に多忙からくるものなのか温厚ながらも尖った口調で愚痴る幸夫に対し、柔らかな物腰で口撃をかわす妻とのやりとり、BGMが流れない状態のなか零れ落ちる生活音から感じ取れる冒頭。
潜んでいる夫婦の嫌悪感と、「衣笠幸雄」という偉人と同姓同名が故に、常に比べられて生きてきた彼の劣等感によって形成された人格が透けて見える場面から、幸夫が妻への敬意がない薄情な奴というのが読み取れます。
その後も不倫相手に対しワイン片手に博識を雄弁に振る舞ったり、身なりや小物、趣味や料理など。何から何までブランド志向な、富と名声を得たことによってできてしまったスカした野郎が画面を覆います。
メディアやマスコミ、妻の同僚の前で事故死してしまった妻の夫として悲しみにくれる津村啓を演じ、勢いからなのか妻が死んだときに別の女と寝ていたという罪の意識からなのか妻の親友の子供二人の面倒を見ていきます。
序盤での傲慢で傍若無人な幸夫とは打って変わって、子供がいないこともあり、2人と接することで徐々に幸せを感じていくわけですが。
2浪して大学に入り妻と知り合うも気がつけば授業に顔を出さなくなり、就活中に偶然入った美容室で再会した妻は大学を辞めて美容師としてすでに自立し立派な社会人になっていた。
鉄人と同じ名前、大学2浪、就職先も決まらない、未来の妻は自立して活躍。とにかく彼は劣等感の塊だったに違いない。立派になりたいという飢えからなのか反動からなのか、妻のアドバイスにより作家を目指し、名前への過剰なコンプレックスにより今までの彼ごと捨てたかのように本名を伏せペンネームで活動し、見事富と名声を得た幸夫。
ひょんなことから子供たちの留守番をすることになった幸夫は、送り迎えや買出し、炊事洗濯など家事を子供たちしながら少しずつ距離を縮め、家族というものに幸せを見出していきます。
その時間が長くなってくることで、今まで独占していた子供たちとの時間を奪われる危機感からくる嫉妬や、血が繋がっていないのに父親ヅラしていき実際の父親をたしなめたりすることで優越感に浸る、消えかかっていたスカした野郎の「津村啓」が顔を出し始めていく。
ようやく自分の前からなくなってしまう喪失感が彼の中で芽生えていくわけです。
このように幸夫のハングリーさによって作り出されてしまった薄情なスカした野郎「津村啓」が妻を失い、新しい家族と触れ合うことで少しづずつ衣笠幸夫へ行ったり戻ったりすることで成長する物語なんだなと感じました。
また、妻との欠かせないやり取りであった散髪がなくなったことで伸びきった髪がまた哀愁を感じます。
表向きには平静を装っていた「津村啓」として振舞っていましたが、やはり中身は悲しみを抱えており他人に頼めず伸ばしきった髪がそれを表しているんだなぁと。
1年間かけてたどり着いた幸夫の答えと、このタイトルがラストにじわぁ~っと胸に染みます。そしてラストカットの幸夫のあるシーン。冒頭去り際に妻が言う一言を忘れないでください。
またまたまとまりのない感想になってしまいましたが、さら~っと読んでいただければ幸いです。じっくり読まないでww
今回不満をあげるとしたら是枝監督色が強いといったところでしょうか。
1年かけて撮影した、海の淡い感じ、そして何よりホームドラマであり、人と人が育んでいく過程を描いたという点がまさにそうであり、今までの監督作と比較するとシニカルな面というかブラックさが足りなかったなぁという。
弟子なんだからしょうがない!
もちろんこれはこれでいい映画なんですけども。
私も独り身。私が私であるのは私のおかげなどではなく、私と関わってくださる方がいてこその私である。生かされてるんですね~なんだかんだで。そんなことを教えてくれる映画でした。
というわけで以上っ!あざっした!!