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NAKAHARA-LAB.net

2020.12.21 07:55/ Jun

「民主的な話しあい」をむしばむ「いいね・いいね症候群」と「すぐに多数決病」にはご注意を!

 自分たちの学びは、自分たちでデザインしなさい!
   
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 これは、中原ゼミ(学部)の運営方針のなかで、もっとも根幹をなす考え方です。
  
 他人がデザインした「学び」を押し付けられ、強制されて学ぶのではなく、自分たちが「学びのイニシアチブ」をもつこと。これをもっとも重視しながら、ゼミを運営しています。
  
 このことを実現するために必要になってくることは「民主的な話し合い」です。
  
 ゼミメンバーは一学年20名おりますので、彼らが話し合って、民主的に決断し、「自分たちの学びを、自分たちでデザインしなくてはなりません」。僕は、びっくりするくらい「介入」はしません。ほとんど何もいいません。カオスに落ち入ったら介入するかもしれませんが、それ以外は何もしません。「で、どうなった?」「で、何やりたい?」ほとんど、これしかいいません。
  
 要するに求められているのは
  
1. 自分たちの学びを、
2. 民主的な話し合いを行い
3. 自分たちで自己決定して
4. 自ら実践すること
  
 です。
  
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 しかし・・・・ここに大きな問題があります。
  
 学生には、大変申し訳ないのだけれども、「民主的な話し合い」というものが、本当に「苦手」なのです。
  
 今では、もう、慣れてしまいましたが、彼らがおこなう話し合いの様子を「はじめて見たとき」は、びっくりするくらい「学生って、民主的な話し合いが苦手なんだな」と思いました(ごめんね・・・最近はうまくなっていると思います)。
  
 例えば、こんな症候群が、学生のあいだにすぐに発露します。
  
【いいねいいね症候群】
 話し合いを放棄して、すぐにノリと雰囲気で「いいね、いいね」を連発して、ちゃっちゃっと決める。しかし、まったく心から検討していないので、困難にぶち当たると、すぐに頓挫する。
  
【すぐに多数決病】
「民主的な話し合い」=「多数決」と考え、議論が円熟していないのに、すぐに「多数決」に持ち込む。しかし、議論を尽くしていないので、安易な結論しか得られない。すぐにあとになって頓挫位する。
  
【秘技・蒸し返し症候群】
 いったん決まったことを「すぐに蒸し返して」、いつまでたっても、物事が決まらない。自分の意見がとおらないことは、負けたことと考えてしまう
  
【わたしは知らんもんね病】
 自分の提案に沿わない意思決定がなされた場合には、「わたしは知らない」と放棄したりする。
  
 こういう症候群や病が、すぐに見て取れます。
  
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 ただ、しばらく見ていて、ここで学生を責めるのはお門違いかもしれないなと思うようになりました。
  
 むしろ、彼・彼女らが「民主的な話し合い」を苦手としているのは、学生が悪いというわけでなく、おそらくは「民主的な話し合いの実践」を、これまで「学んでこなかった」か、ないしは、「教えてこなかった」のかもしれないと、感じたからです。
(心ある現場の皆さんは実践なさっていると思います。十把一絡げに、初等中等教育のことをのべているわけではありません・・・ただ、なかなか難しいのです)
  
 わたしが彼らに実践してほしい「民主的な話し合い」というのは、シンプルなものです。
  
【民主的な話し合いの原則】
1. すべての学生が参加する話し合いであること
  
2.自分たちの未来を、自分たちがオーナーシップをもちつつ話し合いの機会によって決めること・・・そのことの価値を信じること
  
3. 話し合いのなかで生じる「対立」や「葛藤」も、話し合いをよくするためには「必要」であることを信じること
  
【民主的な話し合いのプロセス】
1. オープンに、フラットに議論をすること。意見を表明し合えること
  
2. 議論をとおして「考えの分かれ道」をさぐりあうこと。「わかりあえないもの」が、どの地点から生じるか、その「分岐点」を明らかにすること
  
3. 議論を通して、いまは「わかりあえない」「相手の主張に見るべきところはないか」をさぐりあうこと
  
4. オープンに意思決定をすること
  
5. 意思決定した内容には、自発的に従うこと。よきフォロワーになること
  
6.意思決定した内容に、少数派の意見をまじえた運営を行えないか、何か反映するべきところはないかを、さぐること
  
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 こう書いてみると、なかなか難しいのかなぁ・・・。
 ま、大人も、僕自身も苦手かもしれないよね。自戒をこめてだな、こりゃ。ごめんね。
  
 ただ、学生たちが【いいねいいね症候群】とか【すぐに多数決病】にすぐにはまっていくのを見ていると、そもそも「民主的な話し合い」を経験していないのかな、と思ったりもしました。
  
 ちなみに、彼らは吉野作造は「民本主義」をとなえたこと、ルソーは「社会契約論」を唱えたこと、ベンサムが「最大多数の最大幸福」を唱えたことは、民主主義の基礎の「知識」としては知っているのです。
  
 ここに「Knowing – Doing gap(知識として知っていることと、実践することのあいだにあるギャップ)」があるわけですね。
  
  ▼
  
 今日は「学生は、民主的な話し合いが苦手だね」という話をしました。しかし、これは、学生だけではなく、大人もまったく同じかもしれない。もしかすると「民主的な話し合い」の実現は「みんなの課題」なのかもしれません。
 
 そして、苦手だから、学ぶ必要がありますね。ゼミ運営というプロセスを通して、学生が「民主的な話しあいの作法」を学んでくれることを願っております。
  
 あなたは「民主的な話し合い」を経験してきましたか?
  
 あなたの周囲では【いいねいいね症候群】や【すぐに多数決病】が流行していませんか?
    
 そして人生はつづく
   
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