多摩市落合
多摩中央公園
Visited in April 2005
(本頁の内容には現況と異なる部分があります)
多摩ニュータウンには公園が多い。子どもたちのための小さな遊び場的な公園はどこにでもあるし、ある程度の規模の公園もそれぞれの町に用意されている。そもそもが自然の溢れる多摩丘陵であったところを造成したニュータウンであるため、そうした公園の中にはかつての多摩丘陵の名残を感じるものも少なくない。その多摩ニュータウンの数々の公園の中でも代表的存在と言えるのが
多摩センターのすぐ南に位置する多摩中央公園だろう。
多摩中央公園はその中央部に大池を抱え、その南側を芝生の広場が囲む開放感溢れる公園だ。東側の外周部には都市緑化植物園や古民家を移設して和風庭園のように設えた一角もあり、なかなか充実した公園といってよい。多摩センター駅と多摩中央公園の間にはホテルや大型スーパーなど、さまざまな商業施設も建ち並び、休日には買い物客で賑わうが、買い物ついでに公園でのんびりと過ごすという人も多いのだろう。スーパーの食品売場などでお弁当を仕入れて公園でランチタイムにする人の姿も見かけるし、それもなかなか気の利いた過ごし方ではないかと思う。
【追記】
多摩中央公園は2023年(令和5年)6月20日から2025年(令和7年)3月31日までの期間、公園全域で改修工事が行われている。工事が完了した場所から部分開園するとのことである。
多摩中央公園の特徴と言えば、やはり中央部に位置する大池と、その南側に広がる芝生の広場だろう。池の南側の芝生の広場は池に向かって緩やかに傾斜を伴っており、常に池を見下ろすような雰囲気を持っている。池に近い部分には花壇もあって花々が池の辺の散策の目を楽しませてくれる。池の北側のデッキ部分にもベンチなどが設置されていて、そこでのんびりと過ごす人の姿も多い。大池の中央には噴水が設置され、噴き上げられる水の表情も涼しげだ。
芝生の広場は外周部を木立が取り囲んでおり、木陰にはベンチが設置されていてのんびりとしたひとときを過ごすのには最適の場所だ。芝生の上にシートを広げてランチタイムを楽しむ家族連れなども休日には多いし、平日には小学校や幼稚園などの遠足の場所となっていることも少なくないようだ。やはりこうした芝生の広場には走り回って遊ぶ子どもたちの歓声が似合う。今では多摩センター駅周辺にさまざまな高層の建物が建ち並び、芝生の広場からも大池の向こうにそれらの建物が見えてしまうが、それだけに緑に溢れた公園は「オアシス」のような印象をもたらしてくれる。
大池の北東側には「きらめきの広場」と名付けられた一角がある。ここは多摩センター駅から南へ伸びる舗道を辿ってパルテノン多摩の階段を登ったところに位置しており、大池や芝生の広場からは一段高くなっている。「きらめきの広場」は極めて人工的、現代的な造形の場所で、池とその周りに設置された金属光沢のオブジェから構成されている。オブジェの表面に周囲の景色が映り込む様子はなかなか面白いが、のんびりと過ごすのに適した場所とは言い難く、時折通り抜けつつ散策する人の姿があるくらいだ。
「きらめきの広場」のさらに北東側、一段下がって公園の北東の端にあたる部分に「グリーンライブセンター」という施設がある。多摩市立の施設で、多摩市民のための「緑の相談所」という役割を担う施設だ。正面の建物はガラス張りの三角形の意匠が特徴的だが、これは「ピラミッドギャラリー」と名付けられた温室で、パンフレットに依れば「育て方が容易な身近なグリーンを中心に展示」しているとのことだが、亜熱帯性の植物なども見ることができてなかなか興味深い。この「ピラミッドギャラリー」は、1998年10月から12月までフジテレビ系で放送されたドラマ「眠れる森」で、中山美穂演じる主人公実那子の勤める植物園として登場し、話題になったことがある。
「ピラミッドギャラリー」の奧にはホールや事務所が置かれている。ホールはさまざまな市民講座なども開催されているようだ。一角には図書コーナーが設けられ、植物関連の書籍を自由に閲覧することができる。また「相談コーナー」もあり、花や緑に関する相談にのってくれる。ガーデニング趣味の人などには見逃せない施設ではないだろうか。
建物の横手には「ロマンティックガーデン」と名付けられた庭園があり、花壇を彩る花々が美しい。人形なども置かれた花壇はその名のようにまさに「ロマンティック」な雰囲気を漂わせており、ひととき俗世を離れて妖精の国に迷い込んだような気分に浸ることができる。季節毎に種々の花々が植えられるようだが、やはり春から初夏にかけての花々がもっとも魅力的であるような気がする。この花壇の花々を楽しむために多摩中央公園へと足を運ぶ人もあるようだ。
「グリーンライブセンター」から南に向かって、公園の東側外縁部を都市緑化植物園が占めている。一見するとただの雑木林が昔のままに残されて散策路の脇に続いているという印象だが、さまざまなエリアに分かれており、それぞれのテーマで木々が植栽されているようだ。一角には「梅の谷」と名付けられた場所もあり、
早春には梅の花を楽しむことができ、花の時期には雛壇型になった梅林を散策する人の姿を見かけることも少なくない。
散策路は「県木の道」と名付けられ、道沿いに都道府県の木が植えられている。宮崎県木のフェニックスと香川県木のオリーブだけは、この地方の気候では寒すぎるということで、グリーンライブセンターの温室内に植えられているということだが、これらを除くすべての都道府県の木が、この「県木の道」に植えられているという。のんびりと散策を楽しみながら、自分の故郷の木を、あるいは旅行で訪れたことのある地方の木を探してみるのも一興かもしれない。
散策路沿いに植えられた樹木はもちろん「県木」だけでない。丁寧に見てゆくと「薬になる植物」や「生活に役立つ植物」、「油がとれる植物」、「紙になる植物」といったテーマに基づく一角があることに気付く。「薬になる植物」のコーナーではエンジュやクコ、サンザシといった十二種の樹木が集められている。エンジュは夏に小さな白い花を咲かせ、街路樹などでも身近な樹木だが、花になる前のつぼみを乾燥させ、止血や消炎、鎮痛剤として用いたという。クコの実は強壮剤、根の皮の乾燥させたものは解熱剤、サンザシの果実を乾燥させたものは消化、整腸薬として用いたなど、それぞれに解説が添えられている。さまざまな樹木の果実や樹皮などを薬や油、紙などとして利用してきた先人の知恵に改めて驚嘆する。
「くつろぎの広場」の裏手にあたる辺りに、「生垣見本園」がある。10メートルにも満たないほどの長さの生垣が並んでおり、一見すると何だろうかと思ってしまう。まさに生垣の見本が並べられているのだ。生垣の樹木は10種類あるそうで、ピラカンサ、ドウダンツツジ、ムクゲ、ウツギ、シラカシ、ベニカナメモチなどといった名が添えられている。一般には生垣に使われない樹木も、ここでは敢えて用いてあるという。昔はこうした樹木の生垣を造って花や実を楽しんだのだと、案内板に記されている。確かに昔はどこの家にも生垣があったものだが、最近では、特に都会の住宅地ではすっかり見られなくなってしまった。並べられた「見本」の生垣を眺めながら、その向こうに古き佳き日本の風景を思い浮かべてみる。
「県木の道」を南に歩くと、公園の南の端にあたる一角、「くつろぎの広場」に辿り着く。かつての連光寺村の名主であった富澤家の住宅を復元移築し、周囲を和風庭園として整備したものだ。ここは文化財の保全という目的もあってか、公園内ではまた別の位置づけとなっているようで印象も異なっている。芝生の広場からは木立に遮られて、公園の外周部を取り巻く散策路からでなければ入ることができないためか、あまり訪れる人も多くはないようだが、池を配した日本庭園と重厚な旧富澤家住宅との取り合わせはなかなか良い趣があり、静かで落ち着いた散策を楽しめるところだ。
「くつろぎの広場」に移設された旧富澤家住宅はかつての連光寺村にあったもので、富澤家は古く戦国時代から続く名家として江戸初期の検地から明治初期の名主廃止まで村の名主を代々務めてきたのだという。名主が廃止された明治期になっても、神奈川県の県会議員なども務めるなどして名家として続き、明治天皇をはじめ、皇族の方々が兎狩りなどの行幸の際に「御小休所」としてこの家を利用したのだという。1990年(平成2年)に富澤氏より寄贈された建物を多摩市が移築復元して公園内の広場として整備したものがこの「くつろぎの広場」で、1993年(平成5年)に開園している。富澤家の歴史や住宅の移築に関しては多摩市教育委員会発行のパンフレットに詳しい。
「くつろぎの広場」と旧富澤家住宅ともに自由に見学することができ、旧富澤家住宅の奥の間は有料で団体の利用に貸し出されてもいる。「くつろぎの広場」は移築復元された旧富澤家住宅をメインに据えて、その正面に池を配し、和風庭園として整備されている。開放的な公園の中の一角だが、木立に囲まれてひっそりと落ち着いた雰囲気が魅力で、池の周囲の散策路などを巡って、ひととき喧噪から離れた静かなひとときを過ごすことができるだろう。春の新緑の頃も清々しく魅力的だが、秋の紅葉の景観も落ち着いた佇まいが素晴らしい。
多摩中央公園は子どもたちのための遊具類はなく、のんびりとくつろぐための公園だと言ってよいだろう。遊具類はなくても、芝生の広場は子どもたちにとっても魅力的なものだろうし、陽気の良い休日に家族で過ごすのにもなかなか良い公園だろうという気がする。公園の北側にはパルテノン多摩も併設され、名実ともに多摩ニュータウンの中心となる公園と言って良いだろう。夏には大池のほとりに特設ステージが設けられて、野外コンサートなどが行わることもあるようだ。また前述の「眠れる森」の例にもあるように、テレビドラマなどの撮影に使われることもあり、撮影現場に出くわしたこともあった。
多摩中央公園から南へウェルサンピア多摩の横を抜けて住宅街の散策路を辿れば
宝野公園に近く、その周辺にもさまざまな公園が点在する。宝野公園から西へ
桜並木の舗道が延びており、春には見事な景観を見せてくれる。桜の季節にはぜひ足を延ばしたい。それらの公園の周辺は街並みも美しく、点在する公園を巡りながらゆったりと散策を楽しむのもよいだろう。
公園は
多摩センター駅から至近で、駅周辺の繁華街に隣接していると言っていいから、食事などにも困らない。ウェルサンピア多摩やパルテノン多摩の喫茶室を利用してのんびりとしたひとときを過ごすのも悪くない。公園の駐車場は用意されていないが、パルテノン多摩の駐車場の他、近隣にはそれぞれに有料ではあるが買い物客用にいくつもの駐車場があるので、車でのアクセスにもそれほど困ることはないだろう。
【追記】
多摩中央公園東側には2008年春に「クロスガーデン多摩」というショッピングモールが開店した。多摩中央公園南側に隣接していた「ウェルサンピア多摩」は2010年3月31日をもって閉館している。