疫学:どの動物が新たなコロナウイルスの発生源になり得るのか
Nature Communications
2021年2月17日
野生動物と家畜動物における新たなコロナウイルスの発生規模に関する想定が、大幅に過小評価されていた可能性があることを示唆する機械学習研究について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。今回の論文では、コロナウイルスの新規株の宿主候補の哺乳類が特定されており、過去のコロナウイルス感染症の集団発生に関係したと考えられている動物種(キクガシラコウモリ、パームシベット、センザンコウなど)に加えて、数種の新規候補が含まれている。将来のコロナウイルスの発生源になる可能性のある動物を予測できれば、ヒト集団においてコロナウイルスが出現するリスクを低減する手法の指針になると考えられている。
2種類のコロナウイルス株が動物に同時感染すると、ウイルスの遺伝物質の組換えが起こり、新たなコロナウイルスが出現する場合がある。これまで、さまざまなコロナウイルスに対する感受性が、哺乳類種によってどう異なっているのかはよく分かっていなかったが、そうした情報があれば、組換えがどこで起こるのかを解明する手掛かりが得られる可能性がある。今回、Maya Wardehたちは、機械学習の手法を用いて、コロナウイルス株411種と宿主となり得る哺乳類876種の関係を予測し、知識の空白を埋めようと試みた。
Wardehたちは、異なるコロナウイルス株が同時感染する可能性が最も高く、そのため新たなコロナウイルスの出現をもたらす組換え宿主となり得る哺乳類種を予測した。分析の結果、哺乳類種とコロナウイルス株の関連が、過去の経験的観察によって実証されていたよりも少なくとも11倍多く見られることが示唆された。また、Wardehたちは、4種類以上のコロナウイルス株を保有する哺乳類種が、これまでに観察された数の40倍以上存在すると推定している。例えば、パームシベット(Paradoxurus hermaphroditus)とキクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)は、それぞれ32種と68種のコロナウイルスの宿主と推定された。Wardehたちはまた、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の組換えが起こり得る宿主を特定し、SARS-CoV-2の新規株を保有する可能性のある宿主種が、現在知られているより30倍多い可能性があるという見解を示している。今回の予測でSARS-CoV-2と他のコロナウイルスが組換えを起こす可能性のある宿主として新たに加わった注目すべき動物種としては、ナミハリネズミ(Erinaceus europaeus)、アナウサギ(Oryctolagus cuniculus)、ヒトコブラクダ(Camelus dromedaries)などが挙げられる。
Wardehたちは、今回の結果がコロナウイルスのゲノムとコロナウイルス–宿主の関連に関する限られたデータに依拠していること、特定の動物種への研究バイアスがあること、そして、これらの点が今回の予測に不確実性をもたらすことを認めている。しかしWardehたちは、コロナウイルスの新規株の発生に関してハイリスクの動物種候補を特定することは、サーベイランスの取り組みを支援すると考えられ、予防・緩和戦略の策定にとって有益な情報を提供するのに役立ち、今後の新たなコロナウイルスに対する早期警報システムをもたらす可能性があると結論付けている。
doi:10.1038/s41467-021-21034-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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