地球科学:グリーンランド南西部にある水銀放出のホットスポット
Nature Geoscience
2021年5月25日
グリーンランド氷床の南西端には大規模な水銀源があり、その氷河流域から流れ出る融解水の河川において極めて高濃度の溶存水銀が検出されたことを報告する論文が、今週、Nature Geoscience に掲載される。この水銀源は、全球の水銀収支には含まれておらず、極域の地域生態系や沿岸生態系に大きな影響を及ぼす可能性がある。
水銀の汚染は、この元素が高い毒性を持つために、世界的に懸念されている問題である。これまでにも極域の生物で、高濃度の水銀が見つかっている。しかし、グリーンランド氷床が水銀源なのかどうか、そしてそれが極域の下流地域にどこまで大きな影響を及ぼしているのかは分かっていなかった。グリーンランド氷床が気候温暖化により加速度的に融解しているため、このような情報は緊急に必要とされている。
今回、Jon Hawkingsたちの研究チームは、夏季の融解時期に、グリーンランド氷床の南西端の3か所の氷河流域からの融解水の水銀濃度を測定した。その結果、グリーンランド南西部の融解水が、大量の水銀を下流のフィヨルドへと運んでいることが見いだされた。この地域から流出する溶存水銀は、全球的にも大きなものであり、最大年間約42トンと推定され、これは全球で河川から海洋に運搬されると見積もられている水銀のおよそ10%に相当する。融解水に含まれる溶存水銀の濃度は、これまで自然界で記録された中で最高値の部類だった。また、下流のフィヨルドにも高濃度の水銀が残留しており、沿岸の食物連鎖の中で生物濃縮が起きる潜在的なリスクにつながっている。
人間と生態系が水銀へさらされる可能性が高まっていることから、グリーンランド全域で氷床流出による水銀の動態を理解するためのさらなる研究が必要である。
doi:10.1038/s41561-021-00753-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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