考古学:初期のヨーロッパ人がアルプスを越えた時期
Nature Ecology & Evolution
2024年2月1日
現生人類が約4万5000年前にアルプス山脈の北側に拡散したことを示唆する証拠を示した複数の論文が、NatureとNature Ecology & Evolutionに掲載される。この知見は、初期人類の先駆的な集団が北ヨーロッパに急拡大したことを示唆している。
ヨーロッパにおける中期/後期旧石器時代移行期(約4万7000~4万2000年前)は、ネアンデルタール人の地域的絶滅と現生人類の拡大に関連している。後期ネアンデルタール人は、現生人類が東ヨーロッパに到達してから数千年わたり西ヨーロッパで生き残っており、現生人類との交雑も起きていた。考古学的証拠から、この移行期にいくつかの異なる文化が勃興したことが示されているが、そのために特定のヒト族集団と行動適応の関連性が複雑化し、理解することが難しくなっている。例えば、北西ヨーロッパと中央ヨーロッパの石器産業の一種であるリンコンビアン・ラニシアン・エルツマノウィッチ(LRJ)の担い手が誰だったかが正確には分かっておらず、その候補としてネアンデルタール人と現生人類の両方が挙がっている。LRJは北ヨーロッパ(ドイツから英国まで)に広く分布していたため、LRJの担い手を解明することは、人類の移動を解明する上で重要な意味を持っている。
Natureに掲載される論文で、Jean-Jacques Hublinらは、ドイツのラニスにあるイルセンヘーレ洞窟で出土したLRJの遺物に直接関連する4万5000年前のものとされるヒト遺骸を調べたことを報告している。これらのヒト遺骸は、直接的な年代測定が行われたユーラシア大陸の後期旧石器時代の現生人類の遺骸の中でも最も古い年代のものとされる。解析の結果、LRJに関連した初期現生人類は、南西ヨーロッパで後期ネアンデルタール人が絶滅するよりもずっと前から、中央ヨーロッパと北西ヨーロッパに存在していたことが判明した。これらの知見は、中期/後期旧石器時代のヨーロッパが異なるヒト集団と文化のパッチワーク状態だったとする説を裏付けている。
一方、Nature Ecology & Evolutionに掲載される論文では、Geoff Smithらが、ドイツのラニスで出土した遺骸を分析したことを報告している。ラニスの遺跡は、寒冷なステップ・ツンドラ地帯に位置しており、移動生活をしていた現生人類の先駆的な小集団が、短期間の滞在のために便利な場所として使用して、ウマ、ケサイ、トナカイなどの大型陸生哺乳類を食べていたという見解が示されている。また、Nature Ecology & Evolutionに掲載される別の論文では、Sarah Pederzaniらが、この時代を生きた現生人類が異なる気候や生活環境に適応する能力を有していたことを示す証拠を調べたと報告している。Pederzaniらは、現生人類が4万5000~4万3000年前の極寒期においてもこの遺跡の場所を使用していたことを発見し、現生人類が初期の数回のヨーロッパへの拡散において厳しい寒さの中で活動していたことを明らかにし、特に寒冷環境に適応する能力を有していたという見方を示している。
doi:10.1038/s41586-023-06923-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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