考古学:古代エジプトの書記官の職業上のリスク
Scientific Reports
2024年6月28日
古代エジプトの書記官(文字を書く能力を持ち、行政職に就いていた身分の高い男性)が繰り返し行っていた作業と、作業をする際の座る姿勢のために、骨格の変性変化が起こっていた可能性があることを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。
今回、Petra Brukner Havelkováらは、紀元前2700~2180年にエジプトのアブシール遺跡の共同墓地に埋葬された69人の成人男性(うち30人は書記官)の遺骨を調査した。その結果、他の職業に就いていた男性よりも書記官に多く見られる関節の変性変化が判明した。変性変化が見つかったのは、下顎と頭蓋骨をつなぐ関節、右鎖骨、右上腕骨の上部(肩と接する部分)、右手親指の第1中手骨、大腿骨の下部(膝と接する部分)、および脊椎全体(特に上部)だった。また、上腕骨と左寛骨にも、反復使用による身体的ストレスを示唆する変化が見られた。これらの部位の反復使用も、他の職業の男性に比べて書記官に多く見られる。この他にも書記官に多く見られる骨格の特徴として、両方の膝蓋骨(膝頭)のへこみと、右足首下部の骨の表面が平らになっていることが明らかになった。
Havelkováらは、書記官の脊椎と肩に観察された変性変化の原因として、書記官が頭を前方に傾けて、背骨を曲げ、腕を支えずにあぐらを組んだ姿勢で長時間座っていたことである可能性を指摘している。一方、膝、臀部、足首の変化は、書記官が左足を膝立ちにして、あるいは左足であぐらをかき、右膝を曲げて膝を上に向ける姿勢(しゃがんだ姿勢か、うずくまり姿勢)を好んでいたことを示すものである可能性がある。Havelkováらは、墓で見つかった彫像や壁の装飾に、これら2つの姿勢で座って仕事をする書記官が、立った姿勢で仕事をする書記官と共に描かれていることに注目している。顎関節の変性は、書記官がイグサの茎の先を噛んで筆のような先端を作り、それを使って字を書いたことに起因している可能性がある。一方、右手親指の変性は、ペンを繰り返し指先でつまんで持っていたことが原因かもしれない。
今回の知見は、紀元前3千年紀の古代エジプトにおける書記官の生活をより深く洞察する手掛かりになる。
doi:10.1038/s41598-024-63549-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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