揺れるミクシィ、SNSの「老舗」はなぜ間違えたのか
ブロガー 藤代 裕之
国内最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mixi」を運営するミクシィが揺れている。5月には突然の幹部異動発表にともない、身売り報道さえあった。昨年末には「ネット視聴率調査」で訪問者数が急減したように見える「騒動」があり、成長のかげりまで指摘された。同じSNSの「フェイスブック」の勢いが加速するなか、国産のmixiはライバルを意識するあまり、自らのメリットを放棄しているように思える。
国内SNS市場では依然として大きな存在だが…
ゴールデンウィーク明けの5月11日、ミクシィのホームページに副社長の原田明典氏の取締役降格と、取締役の小泉文明氏の顧問就任が掲載された。原田氏は2008年にNTTドコモからミクシィに入社し、メディアなどの取材でも前面に立つなど、ミクシィの最近の施策をけん引する中心的な存在と見られていた。
ミクシィが同日行った決算発表によると、12年3月期の売上高は133億3400万円で前年横ばいだったが、営業利益は34.9%減の21億9400万円、純利益も45.8%減の7億4900万円と落ち込んだ。さらに方針説明の発表でも、友人とのコミュニケーションは「ホーム」、ニュースやゲーム/コマースなどを「タウン」と分ける従来の「TOWN構想」を繰り返すにとどまった。mixiがどこへ進むのか、明確な方針を示さなかった。
mixiの12年3月時点の月間ログインユーザーは約1500万人で、登録ユーザーが約2700万人、ページビュー(PV)は200億もあるなど、日本のSNSでは依然として大きな存在である。だが、ログインユーザー数は一年前とほぼ変わらず、PVは一年前から100億も減少している。ユーザーの利便性を優先しているためページビューが出にくくなっているとミクシィは説明しているが、過去1年で3分の1を失っている。
ネットレイティングスによる「ネット視聴率調査」でも、12年4月の国内の「訪問者」はフェイスブックが1483万人、「ツイッター」は1486万人で、mixiが691万人、「グーグル+(プラス)」は303万人。フェイスブックの数値はmixiの約2倍だが、もはやネットでは大きな騒ぎにならなかった。
ミクシィはどこで間違えたのか。同社の歴史を振り返ってみた。
機能変更のたびにユーザーと摩擦
mixiのサービス開始は04年で、フェイスブックやグリーの「GREE」のサービス開始と同じ年だった。一時、「国内3大SNS」といわれたディー・エヌー・エー(DeNA)の「モバゲー」は06年の開始である。ソーシャルゲームで業績を伸ばしているGREEだが、サービス開始当時はmixiと同様にユーザーの交流中心のSNSだった。
グリーは04年9月に「GREE Night 2.0」 というイベントを開き、登録者数で国内ナンバーワンのSNSになったことを祝った。しかしその後、mixiが急追し05年夏に100万IDを突破した。GREEの100万人突破は07年だから、SNSではmixiに完全に後塵を拝していた。追い抜かれたGREEはこの後、モバイルに活路を見出し、飛躍していく。
激動のなかでもmixiは順調にユーザーを増やし、様々な機能も追加していった。08年にはツイッターと同様な機能といえる「エコー」を用意し、これを09年には「mixiボイス」としてリニューアルしている。さらにフェイスブックの「ページ」と同様な「mixiページ」を11年に導入するなど、ライバルへの対策も打っている。
一方で、mixiでは大きな変更を行うたびに、ユーザーと摩擦が起こっていた。
例えば、07年10月の表示デザインのリニューアルや、08年3月発表の利用規約改定、09年3月のコミュニティの大量削除などでは、いずれもユーザーから反発があった。使い慣れたサービスを新しくする際には、ユーザーの反発があるものだが、毎年のようにユーザーの反対運動があるのも珍しい。最大のものは11年6月の「足あと」機能の廃止だろう。1万7000人分の実名署名が集まり、ミクシィへの陳情もあった。
「コミュニティ」へのアクセスを下げる方針に
反対運動の中核は、mixi内の「コミュニティ」だった。反対を議論するコミュニティが次々と立ち上がり、議論や署名活動が行われることになった。コミュニティには人が集まり、行動まで起こさせるパワーがあった。
その後のmixiは、コミュニティへのアクセスを下げる方針をとった。具体的には、ユーザーが利用する画面でコミュニティへのリンクを目立たない位置に変えた。その代わり、友達の書き込みなどを目立つ位置にした。ミクシィが「リアルグラフ」という言葉で表現する、現実における人と人のつながりを重視したためだという。
11年12月に開催されたベンチャー関連のイベント「Infinity Ventures Summit(IVS)」でミクシィの笠原健治社長は、フェイスブックやツイッターとmixiとの違いを明らかにする図を示した(写真)。
ツイッターは「ニュースグラフ」と呼べる存在で、有名人や影響力を持つ人が中心に利用しているが、片方向(受信中心)のつながりが多く、主なユーザーは30代以上の男性だという。フェイスブックは「パブリックグラフ」と呼べるという。中心となるのは仕事関係や友人関係。150~200人とのつながりがあり、完全実名の30代以上の男性が多いと分類していた。
これらに対し、mixiは「プライベートグラフ」であり、親しい友人が中心。平均40人ほどのつながりで、実名制(ニックネーム併用)、20~30代の女性が中心と位置づけた。このプライベートグラフもリアルグラフと同じような意味だ。ミクシィは言葉の定義についても熱心になり、時にライバルを「SNSではない」とした。
ライバルへの対抗意識が自らの強みを消し去る
フェイスブックが普及し始めた数年前、実名で出身大学や所属企業も明らかになるリアルなサービスは、匿名性が高い日本では流行らないとされた。その点、mixiはハンドルネームなど匿名も使えるなど、ゆるやかなサービスが特徴といえた。
そのゆるやかなつながりが、いつのまにか現実の「人と人」というつながりへと運営側に定義されていった。コミュニティがあるにもかかわらず、フェイスブックの機能に似たmixiページも導入した。
足あと機能の廃止や訪問者数減少の騒動のなかで、ミクシィの幹部は「反対しているのはヘビーユーザーの一部」「現在の利用者はライトユーザーが中心で、ヘビーユーザーは使ってもらわなくてもいい人たちだ」と反論した。しかしフェイスブックへの過剰な対抗意識こそが、自らの強みを消し去ったといえるのではないだろうか。コミュニティ機能は、ビジネスライクなフェイスブックには存在しないユニークな機能であり、足あとは「いいね!」を代替していたともいえる。
mixiに残った「ヘビーユーザー」たちは、いまでもコミュニティを利用して意見を交わす。足あとが廃止になって1年が経過しているにもかかわらず、足あと復活を呼びかけるコミュニティもある。5月末にはあるユーザーグループが、意見交換会をミクシィ側に提案した。提案にかかわったユーザーの一人は「mixiの事情を鑑みつつ、ユーザーの思いも反映させたくて続けています。笠原社長の目指す、居心地の良いSNSを実現する力になりたいのです」と参加の動機を答えてくれた。
果たしてユーザーの思いは届くのか。笠原社長を始めとする運営側がソーシャルメディアに登場することはまれだ。ユーザーへのメッセージは、会社の広報かマスメディアを通じたものが中心となり、SNS会社の幹部がSNSを利用しないという状況になっている。これはフェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏が自らの結婚式の写真までもフェイスブックで公開した姿勢とは、対照的とさえいえるのではないか。
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。