全世界で話題になっているフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が著した「21世紀の資本」。資本主義経済では、格差社会が拡大していることをデータで示し、経済書としては異例の150万部を超えるベストセラーになっているが、ピケティ氏もびっくりするかもしれない格差のデータが、お隣・韓国から発表された。
それによると、大企業と中小企業との平均賃金の格差が最大10対4に拡大。さらに、10人に1人が法律で定められた最低賃金未満で働いているというのだ。先進国で最低賃金未満で働く人の割合が1~3%にとどまることを考慮に入れると、いかに格差が大きいかがうかがえる。国際通貨基金(IMF)は昨年発表した調査報告で、所得格差が大きいと経済成長を鈍らせる恐れがあると指摘している。韓国は昨年10月に追加利下げを実施するなど、景気浮揚に躍起になっているが、賃金格差を野放しにしておけば、手痛いしっぺ返しを食らう可能性がある。
大企業と中小企業の賃金格差は10対4
韓国労働研究院が統計庁の資料に基づき分析した賃金格差の報告書によると、大企業と中小企業、正社員と非正規社員の賃金格差が11年間で拡大したことが分かった。朝鮮日報(電子版)やハンギョレ(電子版)など韓国の複数メディアが伝えた。
それによると、14年の中小企業(300人未満の事業所)の従業員の平均賃金は、大企業(300人以上)のそれの56.7%にとどまった。04年は59.8%だった。
また、中小企業の非正規社員の平均賃金は大企業の正社員の40.7%にとどまり、04年(41.6%)よりも拡大したと指摘。労働組合の有無を考慮すると、格差はさらに拡大し、労組のない中小企業の非正規社員の平均賃金は、労組がある大企業正社員のわずか38.6%(04年は44%)にすぎなかった。
一方、日本の場合を見てみると、2月に発表された平成26年賃金構造基本統計調査によると、中企業(100~999人)の平均賃金は大企業(1000人以上)の82%、小企業(10~99人)は75%だった。いずれも非正規社員を含んでおり、韓国の賃金格差が極めて大きいことが分かる。
ハンギョレ(電子版)によると、韓国の中小企業の正社員が大企業の非正規社員よりも賃金が少ない事実も目をひくという。企業の規模と労働形態別に時給が高い方から並べると、昨年は(1)大企業正社員(1時間当たり2万1568ウォン、約2315円)(2)大企業の非正規社員(1万4257ウォン、約1530円)(3)中小企業の正社員(1万2828ウォン、約1377円)(4)中小企業の非正規社員(8779ウォン、約942円)の順だった。
新入社員に535万円出す大企業
また、朝鮮日報(電子版)の社説によると、最近の大企業の中には大卒新入社員の年間給与を5000万ウォン(535万3000円)以上に設定するところがある一方、中小企業は半分以下の2000万ウォン(約214万1000円)にとどまっている。さらに会社を辞めるときに退職金をもらう割合も大企業は94.5%なのに対し、中小企業はわずか35.4%という。
格差の大きさから、中小企業の労働者は良い条件に転職しようと辞めてしまい、経験、知識、熟練度が蓄積されない。こうなると当然、最高水準の商品・サービスを生み出せず、その結果競争力が下がり、ますます低賃金の非正規職に依存する悪循環に陥ると、論じている。
昨年の韓国の就業者数は前年に比べ53万3000人増えたが、うち中小企業が41万6000人を占めた。ハンギョレ(電子版)によると、報告書をまとめたキム・ボクスン責任研究員は「格差が拡大する中で、中小企業を中心とした雇用増加は必ずしも望ましいとはいえない」とコメントしている。
一方、最低賃金未満で働く人が多すぎるのも問題になっている。韓国の今年の最低時給は5580ウォン(約600円)で昨年に比べ7.1%上昇したが、朝鮮日報(電子版)によると、労働問題の専門家は「アルバイト、高齢者、零細企業の労働者など、最低賃金を受け取れない労働者は全国で170万人(労働者全体の9.6%)に達する」と話している。
韓国労働研究院・賃金職務センターのイ・ジャンウォン所長は「主な先進国では最低賃金未満で働く割合は1~3%ほどにとどまっている」とし、最低賃金を引き上げるだけでなく、最低賃金未満で働く人を減らす努力が重要だと指摘している。