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2018年04月28日公開

なぜフェイスブックがここまで叩かれるのか

マル激トーク・オン・ディマンド マル激トーク・オン・ディマンド (第890回)

完全版視聴について

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完全版視聴期間 2020年01月01日00時00分
(終了しました)

ゲスト

1984年東京都生まれ。2007年東京経済大学経済学部卒業。09年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。14年同博士課程単位取得退学。同年、学習院大学非常勤講師、17年より現職。著書に『ハクティビズムとは何か』など。

著書

概要

 世界最大のSNSサイト、フェイスブック(Facebook)が激しい批判に晒されている。

 フェイスブックについては昨年来、トランプが勝利した2016年の大統領選挙でフェイクニュースの拡散に悪用されるのを防げなかったことなどが批判を招いていたが、ここに来て大量の個人情報の流出が発覚したことで、今やマスメディアを遙かにしのぐ世界最強の情報インフラの地位を獲得したフェイスブックのあり方が、ついに政治問題化するに至っている。4月10日、11日の両日、マーク・ザッカーバーグCEOが議会の公聴会に呼ばれ、上下両院議員から厳しい追及を受けた。

 著名人の間でもフェイスブックのアカウントを削除する動きが活発化しており、SNS上ではフェイスブックのアカウント削除を呼びかける「#DeleteFacebook」のハッシュタグが飛び交っている。

 こうした状況を受けて、個人情報流出が報道されて以降の同社の価値は一時株価にして15%、時価総額では800億ドル(8兆5千億円)あまり急落した。

 日本ではそれほど爆発的な支持を得ていないので今ひとつ実感が湧かないかもしれないが、世界で月間ユーザー数22億人、1日のユーザー数も12億人を超えるなど、もはや世界一の巨大な情報インフラとなったフェイスブックから個人情報が流出した事件は確かに深刻だ。しかも今回の情報流出が8700万人という膨大な量になった理由は、「This is your digital life」と呼ばれる心理テストのアプリを利用した30万人の個人情報に加え、そのユーザーが友達登録している人の個人情報まで一緒に流出していたためだった。ユーザー自身が全くうかがい知れないところで、フェイスブック上の友達が何かにひっかかれば、自分の個人情報まで流出してしまう。これは「お友達のネットワーク」というフェイスブックが最大のウリにしている機能が仇となったという意味で、フェイスブックのビジネスモデルの根幹に触れる問題でもあった。

 確かに、月間ユーザー数で世界の3人に一人が利用するフェイスブックは、類を見ない巨大なサービスに成長した。しかし、とは言え、所詮は数あるSNSサービスの一つに過ぎないフェイスブックの問題が、なぜワシントンで政治問題化するまで深刻に受け止められているのだろうか。

 SNSやハッキングなどネット社会の問題に詳しい社会学者の塚越健司氏は、今回の情報流出にはフェイスブック側の過失もあったことを指摘した上で、今フェイスブックへの風当たりがここまで強くなっている背景には、単なる情報流出とは別次元の要素があると指摘する。

 そもそも今回フェイスブックから流出した情報も、フェイスブックが集めている個人情報も、すべてユーザー自らがフェイスブック側に提供している情報だった。ユーザーはフェイスブックにアカウントを作成する際やアプリをダウンロードする際に、そうした項目に同意している。プライバシー・アグリーメントなどと呼ばれるものだ。また、お友達の情報を第三者に提供するかどうかについても、各ユーザーに選択肢は委ねられている。

 しかし、小さな字で事細かくさまざまな条件が書かれたプライバシー・アグリーメントや、フェイスブックのサイトの様々な機能や設定を各ユーザーが読み解き、完全に理解することはほとんど不可能だ。

 結果的に気がつけば膨大な量の自身の個人情報のみならず、友達の情報まで自覚のないままフェイスブックや第三者に提供している可能性があるが、ユーザーはどれだけの個人情報が事業者側に蓄積されているかを確認することもできない。

 議会公聴会で必ずしもSNSやインターネットに詳しくない高齢の議員が、ザッカーバーグCEOに対し「今後こういうことができるようにしてもらえますか」と問い質したのに対し、ザッカーバーグCEOが「それは最初からできるようになっています」と答えるようなやりとりが、何度も繰り返された。ユーザーが「その気になればできる」かどうかと、現実的に誰もがその機能を「使いこなせる」ようになっているどうかは、別次元の問題なのだ。

 しかし、今回のフェイスブックの情報流出を機に、SNSと個人情報の問題にあらためて社会の関心が集まったことで、新たに色々なことがわかってきた。どうやらフェイスブック問題は、単なる情報流出やユーザーが細かいプライバシー・アグリーメントを読み切れない問題よりも、ずっと深刻なことになっているようだ。

 例えば、ザッカーバーグCEOは議会公聴会の議員とのやりとりの中で、フェイスブックがフェイスブック・ユーザー以外の情報も集めていることを認めている。これは、フェイスブックの「いいね」ボタンが設置されているサイトを閲覧すると、「いいね」をクリックしなくても閲覧に使ったパソコンやスマホに残る履歴などがフェイスブックのサーバーに自動送信される仕組みのことだ。フェイスブックは無自覚に個人情報をあげているユーザーやユーザーの友達のみならず、フェイスブックを利用していない人の情報まで様々な形で収集していたのだ。

 今、アメリカではフェイスブックが顔認識ソフトを使って投稿された写真から個人名を特定し、それを集積した他の個人情報と合体させることで、更なるターゲッティング広告の有効化に結びつけようとする動きが問題視されている。仮にアカウントを匿名にしていても、顔写真は名前以上に個人を特定する有効な手段となり得る。「インスタ映え」などと言って無防備に顔写真をネットにあげていると、知らないうちに膨大な量の個人情報が蓄積されてしまっている可能性がある。ちなみに日本で人気のインスタグラムもフェイスブックが保有するサービスだ。

 そして、こうした問題は決してフェイスブックに限ったことではない。ネット上ではサイト運営者によってユーザー側の情報が集められ、それが広告目的で利用されていることはもはや常識となっている。この「シャドー・プロファイル」は5年以上前から問題として指摘されているが、今のところ何の規制もなく野放しになっている。そして、そこで集められた情報が単なる広告・宣伝目的にとどまらず、個人の政治信条や投票行動にまで影響を与えていたことが指摘されているのが、2016年の大統領選挙だった。

 今回のフェイスブックの情報流出によって、期せずして社会から再認識されるようになったネット事業者の個人情報の収集とその再利用を、このまま放置しておいていいのか。その一方で、それを法律などによって制限することによって、これまで通りの利便性が享受できなくなることに、われわれは果たして耐えられるのか。ユーザー側の無防備さと、フェイスブック、グーグル、アマゾンなどほんの一握りの事業者が世界の人口の大半の個人情報を握ることの危険性などについて、新進気鋭の社会学者の塚越氏とジャーナリスト神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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