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作家の読書道 第89回:平山夢明さん

夜眠れなくなるくらい怖い話、気持ち悪くなるほどグロテスクな話を書く作家、といったら真っ先に名前が挙がる平山夢明さん。ご自身も、幼少時代に相当な体験をされていることが判明。そんな平山さんが好んで読む作品はやはり、何か同じ匂いが感じられるものばかり。そのキテレツな体験の数々を、読書歴に沿ってお話してくださった平山さん、気さくな喋り口調もできるだけそのまま再現してあるので、合わせてお楽しみあれ。

その1「震撼の少年時代」 (1/6)

――幼い頃の読書の記憶はありますか。

平山 : 本当に古い記憶というと絵本になっちゃうなあ。強烈だったのは江戸川乱歩の『蜘蛛男』。小学校3年生の時に、熱を出して寝てたらお袋が買ってきて「これ読め」って言ったんだよね。挿絵がリアルでさ。石膏から埋めこまれた女の人の顔がのぞいているっていう絵でさ。そうしたらその夜に、学校の友達がどんどん死んでいくのに助けられない、っていう夢と、映画出演することになったのにシナリオを読ませてもらえないまま本番が迫ってドキドキしている、っていう夢を交互に見た。

――夢の内容まで覚えているんですか。

平山 : それほど嫌な夢だったんだよ。

――それにしてもお母さんはなぜ、乱歩を選んだんでしょうねえ。

平山 : たぶん、俺が怪奇なものが好きな子だったから、じゃないかな。水木しげるさんとかムロタニツネ像さんとかさ、ああいう漫画ばっかり読んでいたから。

――平山さんと吉野朔実さんとの共著『狂気な作家のつくり方』を拝読して知ったのですが、ものすごい少年時代を送っていたんですね。事件、事故に相当数遭遇されていますよね。

平山 : そうそう。川崎なんだけどさ、あの近所に住んでいる奴はみんな見ているんだよ。外の世界を知らないうちは、それが当たり前だと思っててさ。みんな目の前で人が死ぬのを見ているものだと思っていたから、高校生になって周りに「そんなの見たことない」って言われた時には、なんて箱入り息子ばっかりなんだって幻滅した覚えがある(笑)。

――友達のおじいちゃんが飛び降りるのを見たりとか。

平山 : ああいうのはあんまりないね。飛び降りは3回しか見たことがない。

――3回も! あと、腕が落ちているのを見たりとか。

平山 : 腕もあるし足も見たことがある。中学生の時に信号待ちしていたらさ、バイクが走ってきて何かにゴンってぶつかってウィリーしちゃって、走り去っていった後に、後ろに乗ってた女の子のブーツが落ちてたの。何かに挟んじゃってもげちゃったんだろうね、ブーツに、中身、入ってたよ。

――ひえー! そういう体験って、今の自分に影響を与えていると思いますか。

平山 : 影響だらけだよ。町に作られちゃった、みたいなところがあるよ。

――どういう子供でしたか。ワルガキでしたか。

平山 : 悪いことには悪かった。ヘンないたずらばかりしてた。インドアも強いしアウトドアも強い派だったね。ヘンないたずらっていうのはさ、ねずみに火をつけたりとかさ。

――カエルの胃に空気をいれて膨らませたりとかですか。

平山 : そうそう! でもね、カエルに空気をいれるくらいじゃモノを作る人にはなれない。モノを作る人はね、それを吸うんだよ。

――うわー! 吸ったんですかっ。

平山 : 古い池の味がするんだよ。洗ってない水槽の藻の味がする。

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プロフィール

プロフィール: 作家。1961年、神奈川県生まれ。映画・ビデオ批評から執筆活動をスタートし、1996年、『SINKER―沈むもの』で小説家としてデビュー。 2006年、短編「独白するユニバーサル横メルカトル」で第59回日本推理作家協会賞を受賞。