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作家の読書道 第180回:住野よるさん

ネットで評判となり、書籍化されて大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』。その後『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と話題作を発表し続ける住野よるさん。詳しいプロフィールやお顔は非公表ですが、読書遍歴や小説に対する思いを、真摯に語ってくださいました。

その1「『星の王子さま』を繰り返し読む」 (1/5)

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  • 『星の王子さま (新潮文庫)』
    サン=テグジュペリ
    新潮社
    518円(税込)
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  • エルマーのぼうけん (世界傑作童話シリーズ)
  • 『エルマーのぼうけん (世界傑作童話シリーズ)』
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    福音館書店
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  • 『十五少年漂流記 (新潮文庫)』
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  • 『ぼくらの七日間戦争 (角川つばさ文庫)』
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――住野さんは年齢や経歴などを非公表にされていますが、その理由は。

住野:小説家は裏方で、本より目立つべきじゃないと思っているんです。本が一番前に出るべきだと思っているので、自分が表に出るようなお仕事は全部お断りしています。

――このインタビューは引き受けていただけてよかったです(笑)。

住野:文字のお仕事は受けていますね。

――さて、いつも幼い頃からの読書遍歴をおうかがいしているのですが、一番古い読書の記憶といいますと。

住野:絵本なども読んでいましたが、小説は母がくれた『星の王子さま』がはじめてでした。小学校低学年の頃だったと思いますが、それがずっと自分の中に残っていたので、自分が書いた最初の2作品にも出てくるんです。でも最初読んだ時は、意味がよく分からなくて。その後、今に至るまで何年かに1回、定期的に読んでいるんですけれど、年齢によって感想が違うんです。前は分かっていたはずだったのに分からなくなってしまった部分もあるかもしれません。そういう本が理想なのかな、とも思います。自分が今、読む時期や年齢によって抱く思いが変わるものを書けたらと思っているのは、この最初の本に影響されているんでしょうね。

――本を読むのが好きな子どもでしたか。

住野:そうですね。自分はいろんなところに住んできましたが、土地への愛着が一切ないんです。影響を受けたものというと土地でも人でもなくて、本とか音楽なんです。尊敬している音楽家の志磨遼平さんが「自分の故郷は自分の家の中にすべてある」とおっしゃっているんですが、自分もそうだなと思います。

――本はどう選んでいたのですか。

住野:学校の図書室が好きで、小学校の頃からよくいました。『また、同じ夢を見ていた』の主人公の奈ノ花もそうですが、朝登校したらまず図書室に行っていました。好きだったのは『エルマーのぼうけん』のシリーズ。3部作でしたよね。それと、国語の教科書が好きで。授業で取り上げない話も全部読んでいました。課題図書も楽しく読んでいて、確かそれで『十五少年漂流記』を読んだと思います。

――自分でも物語を空想したり書いたりしていましたか。

住野:小学校低学年の頃、国語の教科書に載っているお話を元にして自分なりのエッセンスを加えて物語を書くという授業があったんです。それで書いて出したら、先生がみんなの前で読み上げてくれて。たぶんそれが、一番最初の「書いたものを読んでもらって嬉しい」という体験だったんです。内容は動物が出てきたことしか憶えていないんですけれど。

――作文は好きでしたか。

住野:作文は好きでしたが、読書感想文だけがめちゃくちゃ苦手で。わーっと書いて出すと先生が「長すぎるから」「こういうことだよね」とまとめてくれるんですけれど、それだと言いたいことと全然違うんです。その頃から、「感想」というのは言葉ひとつでは伝わらないと感じていました。今でも、誰かと同じものを読んだり食べたりした時の「面白い」「美味しい」といった褒め言葉も、本当に同じ理由で褒めているのかなと思うんですよね。ステーキを食べて「美味しい」と言っても、香ばしさが美味しいのかもしれないし、ジューシーさを美味しいと言っているのかもしれない。それを確かめ合わなくてもいいのかなと思います。

――読書感想文によって、人と人との分かり合えなさみたいなものを学んだというわけですね。でも作文は好きだった、と。

住野:作文は自由にさせてもらえますから。でも作文より詩とかを作っているほうが好きでした。これも授業であったんです。クラス全員に詩を書かせて、一人一人の詩を朗読させるという、地獄のような時間がありました(笑)。
何かを書くのが好きでした。小学校高学年くらいからは人の真似事で小説の冒頭だけ書いて飽きて途中でやめるというのを何回もやっていました。

――高学年の頃に読んでいた本といいますと。

住野:宗田理さんの『ぼくらの七日間戦争』。「ぼくらの」シリーズがすごく好きで、すごく長く続いていたのでそれをずっと読んでいました。なんでしょうか、世の中への反発が好きだったのかな。でも、「ぼくら」のシリーズにはそれだけじゃなくていろんな要素があるんですよね。友情も恋愛もあって、どうやって相手をやっつけるかの計略的な部分もあって、その頃読みたかったものが詰まっていたんだと思います。
シリーズを読み終わってずいぶん経ってから、「ぼくらの」シリーズの主人公が教師になった『ぼくらの悪魔教師』という話が出たんですよ。「ぼくらの」シリーズの主人公が、自分たちが反発していた教師たちが、自分たちを受け止めてくれたように、今の子どもたちの敵になってあげよう、みたいな感じの話なんです。そこまで書き続けるなんて、宗田さんすごいなって思いました。

――さきほど影響を受けたのは「本と音楽」というお話がありましたが、ほかに漫画とかアニメとかゲームとか...。

住野:漫画もよく読みました。「少年ジャンプ」で『ワンピース』を第一話から読んでいるんですよね。それが20年前だと知って衝撃を受けたんですけれど(笑)。それと、うちの母が「まんがタウン」を購読していたので、それでずっと『クレヨンしんちゃん』を読んでいました。『クレヨンしんちゃん』はアニメも好きで、めちゃくちゃ影響を受けていると思います。子ども視点の漫画で、子どもだから知らないこともたくさんあるけれど、一方で子どもが大人より知っていることがたくさんあって、ハッとするような台詞を言ったりする。特に映画版でそう思います。『また、同じ夢を見ていた』の奈ノ花も露骨に影響を受けているだろうなと思います。『よるのばけもの』に緑川双葉という子が出てくるんですが、双葉という名前をつけたのは、『クレヨンしんちゃん』って会社の名前に「双葉商事」とか出てくるので、それのオマージュというかリスペクトで、双葉社の名前を入れようと思って。
世の中で一番好きな漫画は『ハチワンダイバー』です。将棋の漫画ですけれど、将棋のルールを1ミリも知らなくても大丈夫だと思います。僕の友達もエモーションだけで読んでて。「地球を81マスに沈めてやる」って作中の言葉があるんですけれど、何かを作っている自分たちとか、何かを大好きな自分たちは、そういうことを願ってやっているんだろうなと思うんです。

  • クレヨンしんちゃん (Volume1) (Action comics)
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プロフィール

住野よる(すみのよる)
高校時代より執筆活動を開始。2015年『君の膵臓をたべたい』でデビュー。同作は75万部を超えるベストセラーとなり、2016年「本屋大賞」第2位、Yahoo!検索大賞【小説部門賞】を受賞した。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』がある。