優秀な高校生が医学部ばかりに行ってしまってよいのだろうか
将来が不透明で安定志向が高まっていることもあり、近年は医学部人気が極めて高まっている。
18歳人口が減少する一方で、医学部は志願者が増えているし、特に私立大学に関してはすさまじい勢いで志願者が増えている。
偏差値の上昇を見ても、医学部の人気はすさまじい。
Aoki Lab. 教育関連コラム: 大学⑤医学部の偏差値推移(1985年と2012年比較 他)
一応、医学部の入学定員はやや増加しているのだが、志願者の増加に入学定員の増加が追いついていないため、競争が激化しており、その分各大学の医学部の偏差値が上昇している。
今や東大の他学部並、京大の他学部並のレベルのところはかなり多くなっている。
しかし、医学部に人気が集まるということはその分他の学部(特に理系学部)の人気が下がっているということである。有名大学であっても、志願者・偏差値ともに減少傾向がみられることが多い。
要するに、平たく言うと、優秀な高校生がみんな医学部に行きがちになっているということである。
医療の充実という点では良いところもあるだろうが、優秀な高校生が医学部ばかりに行ってしまうのは果たしてよいことなのだろうか。
個人的には問題も大きいと思っているので、そのことについて語りたいと思う。
○本来なら工学などで凄い実績を残せた人が普通の医者になりかねない
優秀な学生の中には、工学や理学の分野などですさまじい才能を持っている人も当然いるだろう。
しかし、今の時代だと無難な人生を送ろうと思って、医学部に行ける学力のある人は医学部に行きがちである。
昔なら東大の理科一類や二類、京大の工学部や理学部に入っていた人が、他の大学の医学部に行ったりしてしまうおそれがつよいのである。
工学や理学などの世界で超一流になるはずだった人間が、医学部に奪われてつまらない医者にされてしまう。そんなおそれが強まっているのである。
実際、私の弟も明らかに工学向きの人間であり、すさまじい才能があると感じさせるような人間だったのに、医学部に行きつまらない医者になっているし、今や東大京大より医学部という流れなので、すさまじい才能を埋もれさせたまま医者になってしまう人は後を絶たないだろう。
医者にも高い知能は必要であるが、他の分野ですさまじい才能を発揮できるポテンシャルを持っている人まで医者にしてしまうのは果たしてよいのだろうか。
ノーベル賞とまでは行かなくともすごい発見をし、技術革新を生み出してくれるような人になる可能性も十分にある優秀な人は、適材適所として、医学部以外の道を選ばせる方がよいのではないだろうか。
そちらのほうが個人にとっても社会にとってもベターなのではないだろうか。
○他学部(特に理系)が人材難になるおそれ
また、いくら教育熱が上がり優れた教育が実施されるようになったとしても、優秀な人材が無限に出てくるわけではない。
当然、優秀な人材が医学部に流れてしまうと、他の学部の生徒のクオリティーは下がるおそれがある。
医学の分野だけは良いかもしれないが、他の分野については、本来ならすごい実績を挙げられたはずの人がいなくなって、その代わりに言葉は悪いが凡庸な人間が入ってしまうおそれがあるわけである。
そうすると、それだけその分野は弱体化してしまわないだろうか。さすがに、医学部だけ丸儲けで、後の学部は壊滅とまではいかないだろうが、他の学部の実力、国際競争力なんかはこぞって落ちてしまうおそれが高まるだろう。
こういうことを考えると、理系学部は医学部人気にもっと危機感を感じるべきでないかと強く感じる。
だいたい、理系を中心に、有名大学というのは、何十年、大学によっては100年ほどの間、ほっといても勝手に優秀な人材が集まっていてくれていたので、その環境に慣れすぎて高校生やそれ以下の世代に向けてのアピールが上手くないものだ。
一応、推薦入試を実施したり、その枠を拡大したりするなど工夫はしているが、いかに優秀な人材を奪い取るかという熱意は足りないし、優秀な人材を奪い取る戦術がしっかり練られていないし、広報活動も上手くないこともまだ多い。
別に昔はそれでよかったが、もうそれで通用しないこと、このままでは医学部に欲しい人材が奪われてしまうことを大学関係者は良く意識すべきだと思う。
受験業界の情報はそれほど耳に入っていないのか、はたまた優秀な人材などいくらでもいると高をくくっているのかはわからないが、とにかく優秀な人材が奪われるという意識を他の学部は強く持たないといけないだろう。自分たちの学部が衰退し、国際競争力を減らしてしまうような事態を避けようと意識しないといけない。