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Googleが東大院生を15万ドルで「青田買い」することについて

『グーグル:東大で「青田買い」 AI技術流出に日本危機感』という毎日新聞の記事を読んだ。

私はGoogleの人事・給与体系についてなにも知らないし、人工知能を研究する東大の院生に15万ドルの給与を提示したという話の真偽も分からない。ただ、私は事実であって欲しいと思うし、このような話がもっと増えて欲しいとさえ思う。幾つか感じるところがあったので書いておく。

人は買うものである

まず、Googleはバカではないし、院生相手に慈善事業をやっているわけではない。15万ドルの給与を出すということは、少なくともその人から40万ドル/年程度のリターンが中長期的に期待できると考えているのだろう。それだけ人工知能がGoogleにとって重要なトピックということであり、5万ドルの人間を3人集めても替わりにはならないということだ。やるべきことがあり、できる人がいるのであれば、それを買うのは当然である。

記事中にも、同じGoogleが米トヨタのメンバーを引き抜いた話や、アップルによる日産のマネージャー引き抜きの話が出てくる。Googleが日本に本格的な進出をしていたころ、日本の有名な自然言語研究者を次々と採用していたことを思い出す。

東大の院生は「青田」ではない

東大は日本における最高峰の大学であり、その院生はその他一般の「大学新卒」と安易に比較すべきではない。もし15万ドルの給与を提示された院生が実在するならば、おそらくその人は論文も書き、国際会議での発表も行い、あるいは企業との共同研究なども実施しているのであろう。そのような「学生」が普通の大学生のようにリクルートスーツを着て、SPIを受験して集団面接に挑まなければいけないとしたら、それこそ不幸ではないだろうか。

言い換えれば、院生を学部生とほぼ同等に扱ってきた日本の新卒採用という慣行、あるいは院生・ポスドクを含めた優れた若手研究者を安価に働かせてきた日本のアカデミアが、外圧によりひずみを見せているとも言える。

15万ドルは高くない

給与情報サイトGlassdoorによれば、GoogleのSoftware Engineer、4896人の平均年収は12万7000ドルである。Senior Software Engineer、371人の平均は16万2000ドル。人工知能研究者をソフトウェアエンジニアと比較していいのかは分からないが、ともあれGoogleにとって、一個人に対して支払う15万ドルという金額は決して高くない。そもそもサンフランシスコで1ベッドルームの部屋を借りるには、月3000ドルかかるのである。

ここに今回の記事のトリックが一つあるのではないか。つまり米国経済が色々な問題を孕みながらも順調に拡大し、年2-3%のインフレを伴っているのに対して、日本のインフレ率はこの20年ほぼゼロで、しかも近年は円安になっている。

結果、米国企業にとって日本の人材はかなり「お買い得」となっており、反対に米国企業が米国基準で日本の人材に値付けをしようとすると、日本人にはずいぶん「割高/高給」に見えるのである。15万ドルが「日本のサラリーマンの平均年収の4倍以上」というのは「日本のサラリーマン、安すぎ」という見方もできる。

もはやこうなってくると、話はGoogle対日本企業ではなく、米国経済対日本経済、ドル対円である。日本が円安の道を選んだ以上、日本の人材は今後も海外企業に買われていくのだろう。

追記:

忘れてた。米国では最低賃金を現在の7.25ドルから10ドルにしようという議論があり、一部の州(もちろんGoogle=シリコンバレーのあるカリフォルニア)や一部の企業(ウォルマート、マクドナルド)などは前倒しで10ドルに引き上げることを決めている。一方で、15ドルを求めるストなどが起きているようだ。

1ドル100円の肌感覚で10ドル=1000円が最低賃金となると、日本人的な感覚では「良い」だろう(日本の最低賃金は鳥取などで時給677円、東京は888円)。1ドル120円で10ドル=1200円であれば「高い」と思うかもしれないが、それでも納得できない、15ドル=1800円が最低であるべきというのが今の(少なくとも一部の)米国の金銭感覚なのである。

思考実験として、日本のデフレが始まった1995年以降のインフレ率を2014年までかけあわせると、1.5%のインフレとなる。米国で同じ計算をすると60%のインフレになる。日本では年収1000万円がいつまでも一つのハードルのように語られるが、1994年の年収1000万円と同じ価値は、2014年の日本では1015万円とほぼ変わらないのに対し、2014年の米国では1600万円が必要になる。そして1994年は1ドルがはじめて100円を割り込んだ時期で、今より円高なのだ。現在の日本では優秀な人材が引き抜かれるのはもちろん、米国から優秀な人材を招くのも極めて難しいと言える。

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