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絞り値、シャッター速度、被写界深度の関係を覚えよう!

2008年05月22日 カメラ・写真
今日から始めるデジカメ撮影術:第97回 一眼レフとボケの関係が人気になっていたので、もう少し詳しく「絞り値、シャッター速度、被写界深度の関係」を解説します。撮影の際、絞り値、シャッター速度を変えるとどのように被写界深度が変わり、どのようにボケ具合が変わるかは、実際に撮った写真を見てみるのが一番です。

というわけで、絞り値別に同じ被写体、同じ焦点距離で8枚の写真を撮りました。写真は「のだめカンタービレマングース」の口にピントを合わせて撮影しています。詳しい解説は後にするとして、まずは実写サンプルをどうぞ。(リサイズしたため、小さいサイズのままではわかりにくいので、各写真を画像クリックすることで大きな元画像が表示されます)

絞り値:F2.8
シャッター速度:1/160秒
絞り値:F4.0
シャッター速度:1/80秒
絞り値:F5.6
シャッター速度:1/40秒
絞り値:F8.0
シャッター速度:1/20秒
絞り値:F11.0
シャッター速度:1/10秒
絞り値:F16.0
シャッター速度:1/5秒
絞り値:F22.0
シャッター速度:1/2.5秒
絞り値:F32.0
シャッター速度:1/1.3秒

絞り(F値)とシャッター速度の関係について

絞り値とは、レンズ焦点距離をレンズの絞りの穴の直径で割った値のことで、F値で表します。
F値が小さいほど、取り込まれる光の量が多くなり、ピントの合う範囲が狭くなる
F値が大きいほど、つまり絞ると取り込まれる光の量が少なくなり、ピントの合う範囲が広くなる
F値、光量、被写界深度、シャッター速度の関係を簡単にまとめると下表のようになります。
F値 光量 被写界深度 シャッター速度
F値が小さい
(絞りを開ける)
取り込まれる光の量が多くなる 被写界深度が浅い
(ピントの合う範囲が狭い)
シャッター速度を速くできる
F値が大きい
(絞りを絞る)
取り込まれる光の量が少なくなる 被写界深度が深い
(ピントの合う範囲が広い)
シャッター速度を遅くできる

撮影の際、絞りシャッター速度を変えることで、適正な露出を得ることができます。絞りを絞ると、取り込まれる光の量が少なくなるため、その分シャッター速度を遅くしないと、適正な露出にはなりません(ISO感度を上げる方法もありますが、ノイズの影響などもあるため、ここでは割愛します)。

よくわからない場合は、水道の蛇口とコップをイメージすると覚えやすくなります。
蛇口をたくさん開くと、コップにはすぐに水がたまる
蛇口を少ししか開かないと、コップにはなかなか水がたまらない
カメラの場合も同様に、
絞りを開く(F値を小さくする)と、シャッター速度は速くできる(速くしないと光が多くなりすぎて、明るすぎる写真になる)
絞りを絞る(F値を大きくする)と、シャッター速度は遅くできる(遅くしないと光が足りなくって、暗すぎる写真になる)
わけです。

絞りを1段絞った場合、シャッター速度を2倍にすることで、同様の露出を得ることができます。例えば、上の実写サンプルの場合は、下表のような関係になっていることがわかります。
絞り値(F値) 2.8 4.0 5.6 8.0 11.0 16.0 22.0 32.0
シャッター速度 1/160秒 1/80秒 1/40秒 1/20秒 1/10秒 1/5秒 1/2.5秒 1/1.3秒

シャッター速度が2分の1になるように絞ることを「1段」絞ると呼びます。表を見ると、「2.8→4.0→5.6→8.0…」というわかりにくい数字が並んでいます。これは、レンズの明るさはレンズの面積に比例しますが、F値の決定はレンズの口径が元になってるためです。口径の直径を倍にすると面積は4倍になります。したがって、取り込む光の量を2倍にするなら、直径は2の平方根だけ増やすことになります。
言葉で説明してもわかりにくいので表にすると、1の倍数とルート2の倍数を交互に進むことで、F値が1段変化する課程が多少理解しやすくなります。

1の倍数 1   2   4   8   16   32
ルート2の倍数   1.4   2.8   5.6   11   22  

以上が、絞り(F値)とシャッター速度の関係です。
F値を小さくしシャッター速度を速くすることで、動きの速い被写体をピタッと止まった一瞬を写すことができるようになりますが、F値を変更することによって被写界深度も変わってきてしまいます。したがって、F値とシャッタースピードだけではなく、被写界深度とぼけ具合も理解しなければ、思ったような写真を撮ることができません。次は、被写界深度ぼけ具合について説明します。


被写界深度とぼけ具合について

被写界深度とは、ピントの合っている範囲(奥行き)のことです。一般的に、絞りを開く(F値が小さくする)と深度が浅くなり、絞る(F値が大きくする)と深度が深くなります。被写界深度が浅いと、背景をぼかして被写体を浮き上がらせるような表現がしやすくなり、被写界深度が深いと隅々までシャープに写す表現がしやすくなります。

また、被写界深度は絞り以外のパラメータも影響し、以下の要素で被写界深度が変わってきます。
1.絞りを絞るほど被写界深度が深くなる
2.焦点距離が短いレンズほど被写界深度が深くなる
3.撮影距離が長いほど被写界深度が深くなる

さらに、カメラの撮像素子のサイズによっても被写界深度が変わってきます。一般的に、コンパクトデジタルカメラの撮像素子はとても小さいために、被写界深度は深く、ぼけを活かした撮影はしにくくなっています。また撮像素子が小さいために、画質面でも撮像素子の大きなデジタル一眼レフカメラには劣っています。

では、デジタル一眼レフカメラなら全て撮像素子のサイズは同じかというと、実はフォーマットによって違っています。フォーサーズ、APS-C、フルサイズなどのフォーマットによって撮像素子の大きさが異なります(同じAPS-Cサイズでも、例えばニコンとキヤノンでは微妙にサイズが違います)。撮像素子の大きさが異なると、同じ焦点距離のレンズを装着した場合でも、画角が異なってきます。フォーマットごとに、50mmのレンズを装着した場合の35mmフィルム換算時の焦点距離とメリット、デメリットをまとめてみました(一般的な傾向ととらえてください。デジタル一眼レフカメラはまだまだ進化途中です)。

フォーマット 50mmのレンズを装着した場合の
35mmフィルム換算時の焦点距離
メリット デメリット
フォーサーズ 約100mm ・撮像素子が小さい分、コンパクトなボディにできる
・望遠側に有利になる(フルサイズの約2倍の焦点距離になる)
・撮像素子が小さい分、画質面で不利になる
・ボケを活かした撮影がしにくい
APS-C 約75mm ・デジタル一眼レフカメラの一般的なサイズ ・デジタル一眼レフカメラの一般的なサイズ
フルサイズ 50mm ・ボケを活かした撮影がしやすい
・広角側に有利になる
・撮像素子が大きい分、画質が良くなり、高感度にも強くなる
・撮像素子が大きい分、大きく重く高価になる

カメラによって撮像素子サイズが異なり、写真のぼけ具合が変わることもわかったと思います。その上、カメラに取り付けるレンズの特性によってもボケ具合が変わってきます。カメラやレンズが変われば、同じF値でもぼけ具合は異なり、撮影距離や焦点距離によっても被写界深度とぼけ具合は変わるわけです。

絞り値の違いによる実写サンプルの見方

以上を理解した上で、最初に載せた実写サンプルを詳しく見てみることにします。撮影は、APS-Cサイズ、焦点距離105mmのレンズで、撮影距離50cm程度で「のだめカンタービレマングース」の口にピントを合わせて行ったものです。

■絞り値:F2.8、シャッター速度:1/160秒の場合

ピントが合っているのは、口の周辺のごくごく狭い部分のみで、手やピアニカの奥側などはきれいにぼけているのがわかります。被写界深度がとても浅いため、ピントはとてもシビアです。もし、「目もシャープに写したい!」という理由で撮影していたとしたら、これはピンぼけ写真と呼ばなくてはいけません。F値を小さくする(絞りを開く)とシャッター速度は速くできますが、ピントがシビアになり、狙ったところだけしかシャープに写りません。背景をぼかしたい時などは、絞りを開放で撮影することで、被写体を浮き上がらせて撮影することができます。

■絞り値:F5.6、シャッター速度:1/40秒

絞り値F2.8から2段絞ったのが、このF5.6の写真です。鍵盤などを見れば、明らかにF2.8よりも被写界深度が深いことがわかります。ただし、前に出っ張っている鼻は、ピントが合っていません。この鼻は、実サイズで1cmにも満たない数mm程度のサイズです。たった数mmの差でこれだけぼけるのも、デジタル一眼レフカメラAPS-Cサイズで焦点距離105mmのレンズを使い近距離から撮影した効果と言えます。

■絞り値:F11.0、シャッター速度:1/10秒

絞り値F5.6からさらに2段絞ったのが、このF11.0の写真です。鍵盤にも広くピントが合っているのが確認できます。また、前に出っ張っている鼻にもある程度ピントが合ってきています。絞り値F2.8の場合と見比べれば、被写界深度がどのように変わっているかもよくわかりますね。

絞り値を変化させることで…

このように、絞り値を変化させることで、シャッター速度、被写界深度、ボケ具合を調節し、自分の撮りたい写真が撮れるようになります。絞りを絞るとピントの合う範囲が広くなり、その分シャッター速度が遅くなると覚えておけばわかりやすいでしょう。ただし、シャッター速度が遅くなると、手ブレの危険性が高くなります。一般的に、手ブレの限界は「1/35mmフィルム換算時の焦点距離」と言われています。105mmレンズにAPS-Cサイズなら、最低でも1/160秒程度のシャッター速度を確保できないと手ブレの危険性が高まります。手ブレを防ぐには、ブレない安定した取り方をマスターする、ISO感度を上げる、三脚を使う、絞りを開ける、フラッシュを焚くなどの方法があります。これらを複合的に組み合わせ、「絞り値、シャッター速度、被写界深度の関係」を理解することで、自分の撮りたい写真が思ったように撮れるようになります(多分)。

まとめると、 このようになります。
  メリット デメリット
絞りを開けたとき
(F値が小さい)
・シャッター速度を速くできる
・ピントを合わせる部分を狭くできる
・背景をぼかすことができる
・明るくないところでも光量を得やすい
・被写界深度が浅く、ピントの合う範囲が狭くなる
・レンズによっては、絞り開放の描写が甘いことがある
・レンズによっては、絞り開放時に周辺減光が酷い場合がある
絞りを絞ったとき
(F値が大きい)
・シャッター速度を遅くできる
・広い範囲にピントを合わせることができる
・レンズによっては、絞ることで描写がシャープになることがある
・シャッター速度を稼げないため、手ブレや被写体ブレが起きやすくなる
・レンズによっては、絞りすぎると描写が悪くなることがある
・ぼけを活かした撮影がしにくくなる

最後に

あるおばさんは、念願のデジタル一眼レフカメラで撮影したあと、このように発言しました。
せっかく高価な一眼で撮影したのに、隅々までピントの合っていない最低な写真しか撮れない!これなら使い捨てカメラの方が全然マシだった!
と。
この発言は、明らかに「絞り値、シャッター速度、被写界深度の関係」を理解していなかったのが原因です。これらを理解すれば、使い捨てカメラよりもはるかに表現力、解像度は上になるはずでした。

ただし、このおばさんにとっての「きれいな写真」とは、「全体的になんとなくピントが合っている」写真のことであり、「ピントの合っている部分のみ解像力が高く、背景がぼけて被写体が浮き出て見える」写真がきれいだという判断でないことは、覚えておかないといけないかもしれません。人によって、どんな写真がきれいと思うかは違うわけで、撮りやすいカメラで自分の思ったように写真が撮れるのなら、わざわざデジタル一眼レフカメラは必要ありません。コンパクトデジタルカメラやケータイカメラや使い捨てフィルムカメラでも十分です。わざわざ難しい知識を必要とせず、手軽に撮れるカメラの方が上だとも言えるわけです。

デジタル一眼レフカメラの市場はまだまだ伸びていますが、全ての層に受け入れられるのは難しいことだと思います。それでも、デジタル一眼レフカメラに入門する人が後を絶たないのは、デジタル一眼レフカメラの表現力に興味を持ったからでしょう。もしデジタル一眼レフカメラで写真を撮影するならば、「絞り値、シャッター速度、被写界深度の関係」を理解しておくと、より楽しい写真撮影ができます。「オート撮影モード」なら、絞りやシャッター速度などの露出について深く考える必要はなく、カメラが自動的に判断してくれます。でも、もう少し手を加えて、「絞り優先モード」や「シャッター速度優先モード」や「マニュアルモード」を使いこなすことによって、より撮りたい写真が撮れるようになるはずです。絞りやシャッター速度をいろいろ変化させて、写真がどのように変わるか試してみてください。デジタルカメラの利点は撮ったらすぐに写真を確認して、ダメならすぐ消去できることです。使っているカメラ、レンズに合わせて、とにかくたくさん撮ってみることが大切です。


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