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電気自動車(EV)最大手の比亜迪(BYD)は中国の自動車市場を大きく変えた。技術革新で目覚ましい成果を上げてEVの普及を促進しただけではなく、低価格戦略を打ち出して業界全体を価格競争の渦に巻き込んでいった。そして今、中古車市場も価格競争のあおりを受け、かつてない逆風に直面している。
冷え込む中古車市場
ほんの少し前まで、中国の中古車市場は活況に沸いていた。2000年から2020年までの20年間で、販売台数は25万1700台から1434万1400台へ、取引額は95億1800万元(約1900億円)から8888億3700万元(約1兆8000億円)へと爆発的に拡大した。
北京市南西部にある花郷中古車市場は全国の中古車取引の中心地で、最盛期だった2010年には北京全体の9割以上の中古車が取引されていた。ところが、BYDをはじめとするEVメーカーが価格競争を始めると、状況は一変する。24年に入ってからは、客足が最盛期の10分の1に減っている。多くの中古車販売事業者が「今年に入ってからずっと赤字続きだ」と悲鳴を上げる。
花郷中古車市場は、業界全体の縮図でもある。広東省で中古車販売店を営むA氏によると、24年2月以降は単月の販売台数が2割以上減り、在庫は170台を超えたという。しかも、BMWやメルセデス・ベンツなどの高級外車がメーンのため、1000万元(約2億円)以上の資金が動かせなくなっている。
EV業界の値下げ合戦で中古車業界が苦境に
一部の中古車販売事業者は、現在の苦境の原因はEV業界の価格競争だと指摘する。
BYDは2024年2月、新型のプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売価格を初めて7万〜8万元(約140万〜160万円)引き下げた。これに追随し、自動車メーカー数十社が次々と新車価格の引き下げやオプション無料、キャッシュバック、ゼロ金利ローンなどを打ち出し、史上まれに見る価格競争が巻き起こった。
新車価格20万元(約400万円)以下の車種はもちろん、高級車でも価格を引き下げて販売台数を確保する必要に迫られた。A氏は、2024年に入ってからBMWなど高級外車の調達価格を1万〜2万元(約20万〜40万円)引き下げたという。
BYDは2024年5月28日、新型PHEVの「秦LDM-i」と「海豹06 DM-i」を発売した。いずれもガソリン3リットルで100キロメートル走れる燃費性能を持つにもかかわらず、9万9800元(約200万円)からという格安な新車価格で、業界のこれまでの常識を完全に覆した。
新車価格の大幅な引き下げで、中古車販売事業者はさらなる冷や水を浴びることになった。新車と中古車の価格にほとんど差がなくなり、中古車の購入を考えていた消費者が新車市場に向かってしまったのだ。中古車販売事業者は少しでも損失を減らすため、販売価格を引き下げて在庫の回転を速めざるを得なくなった。
業態転換を迫られる中古車販売事業者
かつて中古車販売事業者は、どれだけ多くの車を取り揃えられるかを競い合い、コネを使ったり調達価格を上乗せしたりしてでも人気車種を手に入れようとしていた。しかし、2024年に入ってからは新車価格の値下げ合戦の影響が大きい車の取引を避けるべく、調達する際の方針を改めたという。
中古車販売事業者は現在、ピュアEVやマイナーブランドの車を引き取るのをやめ、年式の新しい新古車の調達もできる限り避けている。代わりに、リスクの少ない発売後7年以上が経過した車種(新車価格の影響が小さく取引価格が安定している)で、かつ重要な部品を交換していない新古車を主に調達している。
一部の事業者はSNSなどのニューメディアを使ったマーケティングを導入し始めた。運営コストの低減を図るため、動画投稿アプリ「抖音(Douyin)」や「快手(Kuaishou)」などのライブ配信で集客したり、電子商取引(EC)プラットフォームとの提携を試みる事業者も現れている。一方、中古車販売から自動車修理や自動車リースなどに業態転換した事業者もいる。A氏も、2023年にニューメディアを利用した集客専門のチームを立ち上げた結果、来店者の3割がニューメディア経由になったという。
中国の中古車販売事業者は現在、企業としての生き残りをかけて闘っているが、新たに業界に参入する事業者は二度と現れないだろう。
*1元=約20円で計算しています。
作者:每人Auto(WeChat公式ID:meirenauto)
(編集・36Kr Japan編集部、翻訳・田村広子)
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