10cc「I'm Not In Love」の曲中には、女性が「Be quiet, Big boys don't cry...(静かに、大人の男は泣いたりしちゃだめよ)」とささやく部分があります。このナレーションはこの曲がレコーディングされたストロベリー・スタジオの受付係兼秘書のキャシー・レッドファーンが担当しました。当時19歳だったキャシーがどういう経緯でこのナレーションを担当したのか? この曲の50周年にあわせ、英BBCがインタビューしています。
すべては、キャシーがストロベリー・スタジオで電話に出たときに始まりました。この時、バンドは「I'm Not In Love」のレコーディング中で、この曲に、重ね録りしたヴォーカルとインストゥルメンタルのレイヤーを加えていました。
ケヴィン・ゴドレイが「Be quiet, Big boys don't cry」とささやいていると、キャシーがメッセージを伝えるためにコントロールルームにやって来ました。この時、ゴドレイは、この部分に何かが欠けていると感じていたという。
当時19歳だったキャシーはスタジオで働いてまだ1年ほどで、バンドの邪魔をしたくなかったのですが、彼女はメッセージを伝えなければなりませんでした。キャシーはこう振り返っています。
「彼らがとても忙しそうだったので、私はドアのところに行ってエリックにささやきました。“お電話です”と。すると彼らは“それだ”とだけ言いました」
キャシーの話し方のトーンに感銘を受けたバンドは、すぐに彼女にゴドレイの代わりに録音してほしいと頼みました。しかしキャシーは「私はすぐに断りました」と語り、「私は歌えない」と思ったことを覚えていると振り返っています。
バンドはあきらめず、キャシーによると「(ロル・クレームが)私を背負い、スタジオまで運んだ」という。キャシーはこう続けています。
「ケヴィン・ゴドレイも一緒にスタジオに入ってくれて、私が話すタイミングで肩を叩いて合図してくれました。私はなんとか3~4テイクでやり遂げました」
当時、彼女はこのレコーディングを単なる仕事中のちょっとした気晴らし程度にしか考えていませんでした。
しかし、この曲が1位を獲得し、10ccが英BBCのTV番組『Top Of The Pops』で披露したことで、すべてが変わりました。
振り返って、彼女はBBCに次のように語っています。
「素晴らしい曲です。今でも聴いていて飽きることがありません。本当に聴く人を立ち止まらせる力があります。でも、まさか50年後にも、この曲を聴くことになるとは思ってもみませんでした。この曲はどこへ行ってもついてきます。ギリシャでの家族旅行から帰る際に飛行機に乗り込んだら、この曲が流れ始めたこともありました」
キャシーの子供たちは母親の活躍に特に感銘を受けていないそうですが、孫は違うという。
「孫はすごく感動していたわよ。彼の担任の先生が10ccの大ファンなのよ」
10ccのメンバーたちはキャシーを妹のように見ていたそうで、「彼らは本当に私の面倒をみてくれました。素晴らしい時代でした」と振り返っています。
バンドは、重要な役割を果たした彼女に感謝してシルバー・ディスクをキャシーに贈ったという。「あれは彼ららしい優しさだったわ」と彼女は言っています。