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ノンデスクワーカー市場にデジタル化を広げていくことの価値とは

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ビジネスチャンスが広がる市場、ノンデスクワーカーの可能性

今回、ノンデスクワーカー領域のデジタル化をテーマに、筆者が見てきた現場の実態や、これからの未来についてお伝えできればと思う。ノンデスクワーカーとはひと言で言えば、「オフィスの外で働いている人」のことを指している。オフィスワーカーがオフィスを出て帰るまでに目にする、エレベーターを点検している人、立ち寄った飲食店の店員さん、工場作業員の方、空港を守る警備員などもその一つだ。

そのような業界に携わる方は仕事する際に、PCを利用することが出来ないし、オフィスワーカーのように常にITが使える環境にもない。そのため、紙中心にオペレーションが組み立てられ、多くの非効率の中で仕事をしている。

日本にはそんな「ノンデスクワーカー」は3,100万人存在している。海外に目を向ければもっと多い。世界の就業人口の8割がノンデスクワーカーだ。しかし、投資家などから流れ込む、この領域に対するソフトウェア投資は未だ全体の1%しかない。いまだに大きな資金ギャップが存在している状態だ。

これは裏を返せばチャンスでもある。1年経つごとにスマホネイティブの割合が増加していき、リテラシー問題も解決されていく。近年、海外の著名VCも現場向けのサービスへの投資を加速させており、ビジネスとしても今後10年大きなチャンスがある領域なのは間違いない。

日本のノンデスクワーカーにIT技術を導入する場合、市場規模はどの程度になるのだろうか?試算してみたのが以下の図だ。士業やインターネット企業などは例外として、ほとんどの会社が「現場」というものを持っている。市場規模もかなり大きいことがわかる。

※市場規模の算出には、1社から獲得できる収益の平均単価を掛けたシミュレーションで算出した。

なぜITが広まらなかったのか?市場をゲームチェンジするヒントとは

では、なぜいままで現場でのIT活用が進まなかったのかについて考えてみたい。複合的な理由はいくつもある。一番言われるのがリテラシーの問題だ。現場で働く人達はデジタルに疎いから、使うことが出来ないという言説だ。

本当にそうだろうか?

彼らの仕事場は確かに20年前と変わらないアナログな環境で働いているかもしれない。しかし、一度制服を脱げば、現場で働いているスタッフのほとんどがスマートフォンを使って便利な生活を享受している。

実際に20代から50代で見てみれば、ほぼ9割弱の方がスマートフォンを利用している。もう「彼らはリテラシーがないから」とは言えないはずだ。

iPhoneが発売されて早13年、当時の45歳は既に58歳だ。1年経つごとに、スマホネイティブな就業者の数が加速度的に増えていくことを考えれば、リテラシーはほぼ問題にはならない。

では原因はどこにあるのだろうか?

一番大きい要因は、「現場で使いたいと思えるキラーアプリ」が存在しなかったことではないだろうか。導入時の思考としては、「このサービスを導入したい」→「デバイスも含めた環境構築」→「デジタル化の実現」という順序になる。

自分たちが業務で利用したいと強く思えるサービスがなければ、進みようがない。それが、直近3,4年のスタートアップ投資とSaaSの盛り上がりで多様なアプリケーションが生まれ、一気に選択肢が増えてきた。

特に業界に特化したバーティカルSaaS(業界特化型SaaS)が生まれ、各業界の人達にとって、より自分ごと化したメッセージが届くようになったことが大きいと思う。先日ある警備会社の人と商談している時に、「ANDPADって知ってます?」と言われて、驚いた。CMがあれだけ流れれば、どれだけ情報に疎い人でも興味を持つようになる。

デジタル化推進のパターン

現在、現場のデジタル化サービスはいくつかパターンがあるので紹介してみたい。

●バーティカル(業界特化パターン)

1つ目は、上記の通り業界に特化したサービスを展開するパターンだ。建築業界向けのANDPAD、より大手建設会社向けのPhotruction。幼稚園や保育園向けのコドモン、物流業界向けのロジレス、飲食店向けのToreta…など、挙げればきりがない程、多くのサービスが生まれている。

こうしたサービスは、ある業界に特化してアプリを開発したり、サポート体制を整えたりしている。利点としてはメッセージが対象者に伝わりやすい点だ。単に漠然と「デジタル化」と言われるよりも、「あなたのこういう課題を解決します」と言われたほうが、聞いている方も自分ごと化する。

中でもマニアックで、よくその課題に気づいたなと思うのがファンファーレ株式会社だ。

産業廃棄物業界に特化したサービスを展開している。業界からすれば、まさか自分たちのためのサービスが存在しているとは? と嬉しくなるのではないだろうか。

こうしたバーティカルSaaSの存在と盛り上がりは、間違いなくノンデスクワーカー業界のデジタル化推進に役に立つはずだ。

●ホリゾンタル(業界横断パターン)

もう一つのやり方として、業界を問わずにデジタル化推進するためのツールを提供するという方法がある。ホワイトカラー向けには多くのホリゾンタルSaaSがあり、営業ならSalesforce、経理ならFreeeやマネーフォワード、労務ならSmartHRなどだ。

だが、ノンデスクワーカー向けでは?となると、まだ第一想起を取れるサービスがない。これは、営業や経理などのように、現場×業界横断で共通に行われている業務を定義することが難しいためだ。

ノンデスクワーカー向けに業界特化ではなく、横断的にサービスを作るとすればどのようなアプローチになるのかを解説してみたい。

まず、バーティカルSaaSであれば、ある業界特有の業務フローを切り取り、それを解決するためのアプリケーションを開発することなる。これは業務フローを業界共通のものとして見立てるやり方だ。あなたの業界は、皆この方法でやりましょう!とベストウェイを提示することになる。

それに対して、ホリゾンタルSaaSの場合は、「個社別の業務フロー」に対して解決策を提示する。実際に現場のオペレーションは、業界が同じならすべて同じフローになることはない。そこには、業界で括れるものと、個社別のものが存在している。

提供するアプリケーションの形は、100社あれば100通りのアプリケーションが生まれることになるだろう。だが、わざわざスクラッチで開発していてはSler(個社別に開発するベンダー)のビジネスモデルになってしまうため、難しい。

そこで、登場するのが「ノーコード」という考え方だ。

プログラミングに必要な「ソースコード」を書かないので「NoCode(ノーコード)」。(中略)

あらかじめ用意されたパーツをドラッグ&ドロップしていき組み立てていく特徴があります。レゴブロックにもよく例えられますので、そうするとイメージがわきやすいかもしれません。

※引用元:プログラミング不要のNoCode(ノーコード)とは?どうやって学習するの?

つまり、これまではプログラマーしか作れなかったアプリを、前述の通り、マウス操作や簡単な設定だけで誰でも作ることができるようになる。僕らカミナシがやっているのもまさにこのアプローチだ。

カミナシを使って現場アプリを作るユーザーはプログラマーと言えます。

※引用元:プログラミング言語「KAMINASHI」〜ノーコードで作る現場管理アプリ〜

個社ごとに全く異なる業務フローが存在し、それを最も理解してるのは現場のスタッフだ。彼ら自身、今の業務の非効率さを嘆く気持ちもあるし、頭の中には「もっとこうなったらいいのに」というアイデアも詰まっている。

あとは彼ら自身の手で、そのアイデアを実現するような仕組みを提供してあげれば、自らの手でデジタル化を推進することが出来る。

ある日、僕らのユーザーからメールが届いた。

『諸岡さん、今日の朝ひらめきました! 〜と◯◯を組み合わせて使えば、ずっとやりかった、……の業務フローがカミナシ上で実現できます!』

象徴的な瞬間だった。ノーコードはITの民主化と言われることがあるが、このメッセージをもらったときに、新しい扉が開いた気がした。

ITによって生まれる能力格差の問題

最後に、いちばん大事なことをお伝えしたい。

なぜ現場にITの活用を広げていくべきなのかについて、だ。
ビジネスチャンスがあるからというだけではない。社会的な意義があると考えている。少しだけ自分のことについて話をしたい。

もともと、僕自身は家業で食品工場や空港関連、清掃業など、ブルーカラーの領域で仕事をしてきた。アナログで前時代的で、すべてを安い労働力で解決しようとする世界だった。

そんな自分がホワイトカラーど真ん中のIT業界に飛び込んだ時(プログラミングスクールに入学した2016年頃)、元いた場所を振り返り最初に思ったのは、「なんて時代遅れの世界に生きてきたんだろうか?」」という、とてもネガティブな気持ちだった。

時間が経つにつれて、その気持ちが変わっていった。

たしかにエンジニアはスマートだし、マーケターはデータを使ってすぐに改善案を出せる。セールスだって常にCRMを使って的確な行動を起こす。それは凄いことだと思う。

でも、それは単に技術(=IT)を使える環境にあるかどうかの違いでしかないのではないか?元来の能力差にそこまでの差はないと思うようになってきた。

毎日不良品を出さずに生産活動を行う工場や、問題があってもすぐに修理してしまうメンテナンス業者などを見てきた。スマートじゃなくても、信念を持って作業をしている人たちがいる。純粋に凄いな、と思う。

いつからか、「ITも使えない残念な人たち」ではなく、「ITの助けを借りずにこれだけのことが出来る人たち」に変わっていった。

その結果思ったことは、ITを使えないと発揮できる能力に制限がかかるということ

2020年の現代においては、ITで自分の能力をブースト出来るかどうかで、仕事人生がまったく違うものになる。そんな時代に突入したと思う。今後この差はますます広がっていく。

もっと言えば、ITを限られたホワイトカラーのものだけにしておくのは、社会全体の損失だと思う。

人々の能力を解き放つためにITが存在しているというのが、自分の目を通じて見たデジタル化の価値だ。3,100万人の眠っている力が開放されれば、それは社会全体の生産性の向上、一人ひとりの豊かな人生につながる。

SaaSもDXも働き方改革もすべてはそのための手段に過ぎない。

ITを一部の人の特殊能力にするのではなく民主化していくため、これからもプロダクトを磨き、ミッション実現に向けて精進していきたい。

文:諸岡 裕人

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