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ペンは剣よりも強く

日常と世相の記

「#教師のバトン」再論

 2021年3月、文科省が人材確保目的で、現場の教員に教師という仕事の魅力を語り継いでもらおうとして始めたものの、結果的に、労働環境の改善を訴える声のリレーになったために、教師の苛酷な労働実態が明らかとなってしまった「#教師のバトン」――今も続いていますが、Twitterをのぞいてみると、相変わらず教職の「魅力」よりも学校現場の「嘆きの声」が溢れています。
#教師のバトン - Twitter Search / Twitter

 来年度の公立校の教員採用試験はあらかた終わり、今後は現職教員の人事異動が動き出し、年明けには新採用者の「配属先」がこれに組み合わされるという流れかと思います。おそらく、教職を志望する大学4年生たちには、教員不足の折から、採用試験の結果が芳しくなかった学生さんも含めて「新規採用」(臨時任用を含む)の声がかかっていると思います。中にはあえて「まな板の上の鯉」の心境で毎日過ごしている方もおられるでしょう。他方、大学3年生にとっては、1年後に教員採用試験を受けるか、それとも別の職種を考えるのか、まさに揺れ動いていることと思います。

 10月31日付毎日新聞の記事より。
「#教師のバトン」にため息 教職志望の若者が直面する現実とは | 毎日新聞

教壇に立ちたい。でも、本当にやっていけるだろうか――。国立大教育学部3年の石橋早織さん(仮名、20歳)は、過酷な労働環境について伝えるツイッターの投稿を目にする度に、中学校の教員を目指す思いが揺れる。
匿名の「証言」が続々
 「出産で休むことを責められた」「身内の通夜で早退することを渋られた」「労働基準法が通用しない」……。土日も部活動の指導に追われるなど、自分の時間などないに等しい長時間労働の様子が赤裸々に描かれる。スマートフォンに映し出される匿名の「証言」は、いずれも文末に「#教師のバトン」のハッシュタグ(検索目印)が付いている。
 ツイッターなどのSNS(ネット交流サービス)で広がる「#教師のバトン」は、学校現場の過酷な労働実態が広く知られるようになったきっかけの一つだ。もともとは人材確保につなげようと、仕事の魅力について「#教師のバトン」のハッシュタグを付けて投稿してもらうことを文部科学省が現場の教員らに呼びかけ、2021年3月に始まった。だが、労働環境の改善を訴える投稿が相次ぎ、文科省は開始から3日後に、「教員の皆さんの置かれている厳しい状況を再認識するとともに、改革を加速化させていく必要性を強く実感しています」とSNS上に記し、火消しに追われた。「#教師のバトン」の書き込みは、取り組み開始から1年半がたった今も絶え間なく続く。
 石橋さんが教職を志しているのは、ささいな疑問にも親身に答えてくれた高校時代の担任教諭らに憧れたからだ。大学には20年度に入学した。新型コロナウイルスの感染拡大で、大学の授業がオンライン中心となった頃だ。大学に足を運ぶ機会が限られる中、教員を目指す上での情報収集の助けになればとツイッターを頻繁に使うようになった。そこで目にした教員たちの悲痛な声は、教員が忙しい仕事であると覚悟していたつもりだった石橋さんの想像をはるかに超えていた。「こんなに働かされていたなんて、知りませんでした」
 来年度に教員採用試験を受けるかどうかは、まだ決められないでいる。仮に順応できたとしても、数年先に結婚や出産をする可能性があると考えると、長時間労働の現場に身を置くことは、どうしてもちゅうちょしてしまう。「今のところ気持ちは五分五分。たとえ教師になったとしても、ずっと続けていくのは難しいと思う」と本音を漏らす。
…………

打開策を模索する動きも
 労働者の心身の健康を損ねる長時間労働を避け、従業員のワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)の実現を目指す「働き方改革」は、ここ数年で急速に社会に浸透している。だが、学校現場では過労死ラインとされる「月80時間以上」の残業が珍しくなく、学生を教職から遠ざける一因とされている。文科省の調査によると、21年度実施の全国の公立校の教員採用倍率は全体で3・7倍となり、過去最低だった1991年度と同水準にまで落ち込んだ。
 学校現場は教員不足にもさらされている。文科省の調査によると、21年度の始業日時点で、全国の公立校で2500人以上の教員が不足していた。学校によっては校長や教頭などの管理職が学級担任となることもある。若者の「教職離れ」が、教員不足に拍車をかけるのではないかと懸念する学校関係者は少なくない。
…………

2割が「志望をやめた」
 若者の「教職離れ」はことのほか深刻だ。若者の意見を政治に反映させることを目指す「日本若者協議会」が学生らを対象に今春実施したアンケート調査によると、教員志望に関する質問に対し、21%が「志望していたが、志望をやめた」、37%が「志望していたが、迷っている」を選択した。調査はSNSなどを通して211人が回答。志望をやめたり迷ったりしている理由について尋ねると、労働環境を挙げる声が多く、「民間の待遇の方が良く働きがいがある」「自分の体を壊してまで働きたくない」といった意見が目立った。
 なぜ教員志望の学生が減っていると考えるかを複数回答可で尋ねたところ、「過酷な労働環境」(199人)が最多で、「部活など本業以外の業務が多い」(163人)、「待遇が良くない」(141人)などが続いた。選択肢のうち「教員の魅力が伝わっていない」は最少の31人だった。
 協議会代表理事の室橋祐貴さんは「SNSで情報を得る今の学生にとっては、現場の教員がツイッターなどで過酷な労働環境を訴える影響は大きい」と指摘する。「学校側が教員の専門性を評価する仕組みなどを取り入れ、教員自身は現場で取り組んでいる工夫を発信することが望ましい」と話す。……

 超過勤務だけが問題だとは思いませんが、「教員 残業」という語で検索しただけで、教員の残業月90時間や123時間などといった見出しの記事が幾つか引っかかります。これではますます超勤を理由に教職が敬遠されかねません。
残業月90時間 学校がもう回らない… 教員不足全国2800人の現実 | NHK | 教育
教員の残業、月123時間 「働き方改革」の効果薄く 7年変化なし | 毎日新聞
卒業式の計画は「ver.10」 公立中教諭、残業は月100時間 | 毎日新聞

 まず、教員は「学校サービス業」ではなく「授業をするのが仕事」という当たり前の認識が必要です。このことが共有されないかぎり、個々の教員の「善意」に寄りかかり、本務と異なる仕事を強要するシステムは変わらない(変えられない)でしょう。この点、元文部科学省事務次官前川喜平さんが文春のインタヴューで述べているとおりだと思います。
「1万円で無限に働かせる“聖職者”論」「部活大好き“BDK”」…元文科次官・前川喜平氏が語る《#教師のバトン》の真実 | 文春オンライン

 今進められている教員の「働き方改革」は、かりに超過勤務を(統計上)削減できても、形だけになる可能性が非常に高いと思います。むしろ、それでは、世間から忘れられたら、元に戻っていくのがおちでしょう。

 むかしのこととはいえ、教職を務めた者としては、社会や教職志望者に教員の仕事の魅力をもっと伝えたい気持ちはありますが、自分が採用になった時代と今の時代では隔世の感がありますし、「いい仕事だから、是非やった方がいい」と気楽に言うのは憚られます。でも、教職には、ブラック労働で全否定するには惜しい側面が確かにあります。家族や親とはちがうかたちで、子どもの真っ直ぐな気持ちに向き合う(こともある)仕事、子どもと悲喜や苦楽を共にして何かを創り上げる(こともある)仕事というのは、そうはないと思うので、子ども好きな人には、それが魅力と言えば魅力のひとつだと思います。あとは、「(気持ちだけは)年をとらない」というのもありますが、教職を目指すかどうか真剣に思い悩んでいる人には、軽薄な年寄りの戯言との誹りは免れません。



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