ソフトウェア開発が内製化やアジャイルの普及、クラウドネイティブ化など大きな転換期を迎える中で、「エンジニアチームはどう動くべきか」「組織とプロセスをいかに整備すればよいか」を俯瞰して学べる本として、本書は非常に充実しています。タイトルにもあるように“現場の視点”が随所に盛り込まれているため、読んだその日から活かせる具体的な実務アイデアが詰まっている印象でした。
まず、本書は二部構成になっており、第一部「開発プロセスと生産性」ではソフトウェア開発のプロセス改善手法が網羅的に解説されています。ドキュメントの意義やブランチ戦略、リリースサイクルの具体例、さらにはリアーキテクトに伴うテスト戦略など、幅広いトピックを扱っているのが特徴です。
特に私が「これを知れてよかった」と感じたのは、ブランチ戦略とリアーキテクト時のテスト戦略に関する章でした。ブランチ戦略のパートでは、GitFlowからGitLab Flow、GitHub Flow、そしてTrunk Based Development(TBD)まで、それぞれをCI/CDの観点でメリット・デメリットを比較検証。著者が「頻繁なマージこそ生産性を高める」と説得力を持って語っているのが印象的で、TBDの導入を迷っていた自分としては「なるほど」と大いに納得させられました。
リアーキテクトに関しては、既存システムをまとめて再構築する際に不可避な「仕様や背景が不透明なまま要件を詰める」問題をどのように乗り越えるかが具体的に示されています。優先度付けや探索的テスト、リグレッションテストの活用法を交え、「全部を完璧にテストするのは無理だからこそ、どこに絞るか」がわかりやすく解説されている点がリアルでした。リリース後のクローズドベータ的なアプローチなど、すぐに試したくなる手法も紹介されていて、多くの開発チームに役立つはずです。
第二部「開発チームと生産性」は、「実践エンジニア組織づくり」「エンジニアリングイネーブルメント」「開発基盤の改善」の3テーマに分かれています。エンジニアリング組織を活性化するための採用や育成、評価制度、開発基盤の改善などが語られており、エンジニアリングマネージャーやテックリードはもちろん、リーダークラスのエンジニアであればすべて興味をひかれる内容ではないでしょうか。
たとえば「エンジニアだけ増やしてもダメ。QAやデザイナーといったポジションも内製化しないと結局遅れる」という指摘には共感しましたし、エンジニアフレンドリーな会社をつくるための具体策――専門職向け等級の設計やスキルマップの活用、研修費補助など――が赤裸々に公開されているのはありがたいポイントです。「採用ページを充実させ、内製化の意義や評価制度を開示する」という提案も、実際の事例を知っているだけに説得力があり、自社に当てはめてすぐ行動できそうだと感じました。
また、「ブートキャンプチーム」「選書制度」など、実際に行われている育成施策も数多く紹介されています。多くの本では名称だけ出して終わりになりがちですが、本書では導入時の運用ポイントまで掘り下げられているのが頼もしいところ。目新しい用語としては「エンジニアリングイネーブルメント」があり、これはエンジニアのプロダクト開発とは別に、勉強会や研修、オンボーディング整備、プラットフォームチームの運用などを専門に行う活動を指しているそうです。大規模組織であればあるほど、こうした専任チームの存在意義は大きいと改めて感じました。
さらに最後の「開発基盤の改善と開発者生産性の向上」では、DevOpsやプラットフォームエンジニアリング、リポジトリ戦略(PolyrepoかMonorepoか)といったテーマが具体的に掘り下げられています。大規模サービスを運用する企業の例を基に、Monorepoのメリットやスケール時の問題、依存関係管理の難しさについても正直に書かれており、現実的な判断材料が得られました。Polyrepoの良さも認めながら、スピードを重視するならMonorepoが有効だと示唆している点も納得感があります。
唯一の注意点を挙げるなら、「全体的に中級者以上向け」の内容ということでしょう。ソフトウェア開発やエンジニアリング組織にまだ触れたことがないビジネス職の方などには、専門用語や概念がやや多めに感じられるかもしれません。しかし、エンジニア組織の在り方に興味がある人であれば、これまでどこかで聞いたことがあるキーワードが多いはず。そうした方々にはスムーズに読み進められるはずです。
総じて、本書は「現場で実行可能な具体策」がしっかり載っている実務的な一冊です。内製化の立ち上げや大規模アジャイル、技術負債の解消、テスト戦略の見直しなど、複数の課題に応用できるアイデアが満載。そして、単なるベストプラクティス集ではなく、現場で苦労しながら試行錯誤した結果のノウハウが詰まっているのが大きな魅力だと感じました。私自身、この本を読まなければ評価制度の設計にもっと時間がかかっていたと実感するほど、「自社に置き換えるならどう動くか」を具体的にイメージしやすい内容でした。
もしあなたが「エンジニアが増えてもすぐ定着しなくて困る」「再開発やリファクタリングをしたいがテスト戦略に不安がある」「ブランチモデルを変えたいがチームと齟齬が起きそうで踏み出せない」といった課題を抱えているなら、本書の事例が大いに参考になるはずです。エンジニアリングマネージャーだけでなく、PdMや人事、上層部の方々にも手渡しておきたい、そんな一冊と言えるでしょう。
これからのソフトウェア開発は、より一層のスピードと柔軟性が求められると同時に、組織文化や育成方針が成果を左右すると感じます。本書で取り上げられているようなブランチ戦略やリアーキテクト手法は、ますます高度化するクラウドやAIとの連携の中でアップデートされ、組織設計やリーダーシップについても今以上に注目が集まるでしょう。エンジニアリングイネーブルメントの視点で知識とノウハウを“共有・育成”する仕組みを整えることが、これからの大規模組織の標準となるかもしれません。
たとえば、近い将来「自動化やAIによるコードレビューや設計提案」が当たり前になった世界で、開発者たちはさらなる高みを目指して“人間ならではの創造力”に注力するようになるのではないでしょうか。CI/CDパイプラインは一瞬でテスト結果を返し、エンジニアリングイネーブルメントチームがわざわざ新人研修をしなくても、バーチャルアシスタントが自動的に学習プログラムを組み、開発基盤がリアルタイムで最適なブランチ戦略を提案してくれる……。そんな近未来であっても、最終的に価値を創造するのは人間同士の対話やチームワーク。そこにこそ、本書で紹介されている組織づくりやマネジメントのエッセンスが一層活きてくるはずです。スピードと変化が加速する中でも、現場目線の着実な実行が未来を切り拓いていく――そんな明るいビジョンを思い描かせてくれる一冊でした。
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