Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

2013-05-12

女子高に通っていた頃、今で言うアラサー男性教諭が二人、同時期に赴任してきた。もちろんどちらも妻帯者だ

中高一貫だったのでその二人(とロマンスグレー校長)は私を含む多数の生徒達(と一部の独身女性教諭から)人気があった

しかし、この二人が校内で会話してる所を見た者はおらず、廊下ですれ違う時も互いに視線すら合わせずすれ違うだけだった

そのため、この二人が何かの理由で険悪な関係である事は生徒達の間で半ば常識となり、触れる事はタブーとなっていた

そしてそれぞれの先生のファンの間に派閥のような空気が生まれ始めていた

そんなある日、決定的な出来事が起きた。2月14日であるバレンタインデーである

何時限目かの授業が終わり、二人が廊下ですれ違う

それほど頻繁にあるわけではないが、この瞬間は周囲の生徒達の間にはいつも緊張が走る

そしていつも通り、二人は言葉を交わすこともなく、まるで互いが互いを存在していないかのように通り過ぎた、その瞬間であった

「あ、おい、○○!!」

すれ違った直後、男性教諭(こちらをA先生としよう)は思い出したようにもう一人(こちらをB先生とする)に声をかけたのである

しかも姓ではなく、ファーストネームの方を、呼び捨てで、口調は極めて自然に、まるで授業中に生徒を指名するかのように

今でも忘れない。二人がいた階全体が一瞬で静まりかえった。これから一体何が起こるというのか、周囲のおそらく百名近い女子高生が固唾をのん

A先生は教材入れ代わりに使っていた鞄のポケットから、赤い包装紙に包まれた、小綺麗な小箱を、数メートル離れたB先生に放り投げた

「ほれっ」

縦に回転しながら放物線を描いた小箱は、B先生の胸元へと飛び込んだ

B先生小箱を片手で受け止め、数秒まじまじと見つめ、A先生視線を移した

「何これ?」

B先生の問いに、A先生は少し照れくさそうに答えた

「××ちゃんから頼まれた」

B先生は少しあきれたような表情と口調でA先生に言った

「お前、自分の嫁さんをちゃん付けで呼んでんのかよ」

A先生が応酬する

「お前だって呼んでたじゃねえかよ」

B先生が渋い顔をしていると、A先生さらにたたみかけた

「言っとくけど、俺のより高えんだぞ、それ」

「へいへい」

B先生はそう吐き捨てて足早に去って行った

私はこの日ほど、次の授業の受け持ちがどちらの先生でもない事を恨めしく思った事はない

何のことはない。B先生には年の離れた妹さんがいて、この学校に赴任する少し前にA先生結婚していた、というのが事の真相である

A先生は奥さんであるB先生の妹さんから職場で兄にチョコを渡すよう頼まれていた、ただそれだけだったのだ

この1分足らずのやりとりは私が卒業するまで校内で半ば伝説、半ばネタとなった

私が知る同級生の中には、想像力暴走させて道を踏み外す(ある意味ではその道に踏み込む)者もいた

この二人が校内でまともに会話をしているのを直接見たのは、この件を含めて片手で数える程度だったが、

今もそろって元気に母校で教鞭を執っているという

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん