ウクライナ派兵論が欧州で拡大…ロシアとの直接対決のリスクとは?

 トランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会談が決裂し、欧州では英国やフランスなどを中心にウクライナへの派兵論が広がっている。仮にそういった事態となれば、どういったリスクが考えられるのか。

 まず、最も顕著なリスクはロシアとの直接的な軍事衝突の可能性であろう。フランスと英国はNATO(北大西洋条約機構)の主要メンバーであり、ウクライナへの派兵はロシアにとってNATOの東方拡大とみなされうる。ロシアはすでにウクライナ紛争を自国の安全保障に対する脅威と位置づけており、NATO加盟国の軍が現地に展開すれば「レッドライン」を超える行為と解釈されるだろう。結果、限定的な戦闘から全面戦争へと発展するリスクが高まる。特に、ロシアが核戦力を保有していることを考慮すると、紛争のエスカレーションが核抑止の均衡を崩し、最悪の場合、核兵器の使用に至る可能性も否定できない。これは欧州全体の安全保障を根本から揺るがす事態となる。

 また、経済的なリスクも肥大化する。フランスと英国がウクライナに軍を派遣すれば、ロシアは報復としてエネルギー供給の制限や経済制裁を強化する可能性が高い。欧州は従来、ロシアからの天然ガスや石油に依存してきたが、ウクライナ紛争の長期化で既にその依存度は低下しているとはいえ、ロシアがエネルギー輸出を完全に停止すれば欧州経済に深刻な打撃を与える。

 特に、フランスは原子力依存度が高いとはいえ、産業部門でのエネルギーコスト増大が予想され、英国も北海油田の生産能力を超える需要増に対応しきれなくなるだろう。さらに、ロシアとの貿易関係が途絶えれば、グローバルサプライチェーンの混乱が加速し、インフレ圧力が高まる。これにより、市民生活への影響が拡大し、両国政府への不満が募る可能性がある。

 一方、社会的なリスクも無視できない。派兵に伴う人的損失は、国内での反戦運動や政治的不安定さを引き起こすだろう。フランスでは歴史的に反戦感情が強く、イラク戦争時の反米デモを彷彿とさせる抗議行動が起こりうる。英国でも、ブレグジット後の経済的疲弊感が残る中、ウクライナへの軍事介入が国民の支持を失い、政府への信頼が低下する恐れがある。さらに、長期間の軍事関与は、両国に流入するウクライナ難民の増加を招き、社会統合やリソース配分の問題が顕在化する。極右勢力やポピュリストがこの状況を利用し、反移民感情を煽る可能性も高く、国内の分断が深まるリスクがある。

 英国やフランスなど欧州軍によるウクライナ派兵は、上述のようなリスクを現実のものとし、欧州が第3次世界大戦の開戦場所となるリスクを飛躍的に向上させるだろう。

(北島豊)

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