意外に気がつかない継続技術
10月30日に発表されたAppleの新MacBook Air、Mac mini、iPad Pro。新機能や価格、スペックなどは多く報道されている通りです。そのラインナップから、どれにしようかと悩まれている方も多いのではないでしょうか。
これまで、AppleはiPhoneのホームボタンを廃止したり、ファンクションキーをTouch Barに変更するなど、レガシー(旧規格)をすぐに捨ててしまう会社だと思われがちです。2年ほど前にも、iPhone 7/ 7 Plusからイヤホンジャックを廃止。激しい賛否があったのは記憶に新しいところでしょう。同様に今回の新iPad Proでは、iPhone 5から採用されたLightning端子をなくし、USB Cが採用されました。
一方で、今回のAppleの新製品群では、近年に採用されたR&D(研究開発技術、以下RD)が見える部分、見えない部分で継承されていることに気が付いた人もいるかもしれません。
たとえば、新iPadで採用されたFace ID。前モデルでのTouch IDは新MacBook Airに受け継がれました。アルミニウムによる躯体を一体化したユニボディは、アップルのほぼ全て製品に採用されました。また、iPhone Xで搭載され、ブラッシュアップされたバイオニックチップとニューロエンジンをiPad Proに搭載。ほぼフルスペックのiOS版PhotoshopとARのデモンストレーションに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
整理され、継続される目立つRDと目立たないRD
Face IDとTouch IDの住み分け
iPhone Xシリーズと同様、新iPad Proからホームボタンをなくし、Face ID用のセンサー群を新規に搭載。ホームボタンがなくなったことで、指紋を使った本人確認用のセキュリティ機能、Touch IDがはぶかれました。しかし、指紋によるTouch IDがアップルのレガシーになるわけではなく、新MacBook Airに導入されています。
バイオニックチップとニューロエンジン
いままでタブレットやスマホの利用目的とされていたのは、画像や動画などネットコンテンツの閲覧や短いテキストでのコミュニケーション。iPad Proでは、バイオニックチップとニューロエンジンにより、高度なクリエイティブな作業、グラフィカルなゲームなどにも対応できるようなりました。冒頭でも触れましたが、発表会では12000ピクセル×12000ピクセル、157レイヤーのPSD(Adobe Photoshop)ファイルをタイムラグなしにiPadで編集するデモンストレーションが披露。さらに、「Project Aero」と呼ばれる、画像が空間に配置された様子をARで疑似体験できるパワフルぶりも紹介されました。
ユニボディ
アップルで採用されているユニボディは一体成型されたアルミニウム製の外装のこと。パーツごとにネジで留めるなど、重ね合わせや隙間がないため、全体を強く薄くできるのが特徴です。いままでもMacBookファミリーやMac mini、iMacでも使われ、iPhoneではiPhone 5(2012年)から採用されました。構造が堅牢になるため、筆者がApple製品を選ぶ理由の一つになっています。今回の発表会では、iPadやMacBook Airが「100%再生アルミニウム製ユニボディ」であることが告知され、来場したプレス関係者から大きく長い拍手があったことが印象的でした。
TOYOTAの新戦略との共通点
先月、TOYOTAとソフトバンクが提携したことが発表されたのはご存知の方もいらっしゃるでしょう。AppleとTOYOTA、業種はまったく異なりますが、今年の6月にフルモデルチェンジした新しいクラウンを見るとAppleの新製品群との共通点を見出すことができます。
たとえば新アーキテクチャー「TNGA」(トヨタ ニューグローバル アーキテクチャー)は、自動車の骨格やパワートレインを見直し、新しい金属加工技術を採用して剛性を強化しながらデザインの自由度を高めています。2015年に4代目プリウスで採用され、車両の剛性を65%も向上させました。
プリウスなどでブラッシュアップしたエンジンとモーター、トランスミッションなどはパワートレインと呼ばれ、新クラウンのハイブリッド版にも継承されました。
乗用車の最先端の技術は「自動運転」ばかりが注目されがち。しかし、新クラウンでは、高速道路で先行車を追従したり、車線からはみださないようサポートする機能、車や歩行者への追突の被害を回避したり被害軽減することなど、テクノロジーを使った安全装備に注力をそそいでいます。
そうしたこともあり、新クラウンは発売1ヶ月で約3万台を受注。月販目標の約7倍の好調な立ち上がりを見せています。
AppleとTOYOTAの共通点とは、「売るための華やかな新機能」というよりは、自社R&Dを継承しながらブラッシュアップし、ブランドイメージやスタイリッシュさを守りつつ「良い製品を作る」「社会に受け入れられる」といった企業のコンセプトをより明確にした結果だと筆者は思っています。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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