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広島を愛する人たちが考える、魅力的な広島県を存続させるための3D都市データの使い方

「DoboX×PLATEAU Hack Challenge 2024 in 広島」レポート

特集
Project PLATEAU by MLIT

提供: PLATEAU/国土交通省

この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。

 2024年7月27日、28日に広島県において「DoboX×PLATEAU Hack Challenge 2024 in 広島」が開催された。広島県独自のインフラマネジメント基盤「DoboX(ドボックス)」とPLATEAUを掛け合わせて新たなソリューションのアイデアを生み出し、地域の課題を解決するアイデアを創出しようというコンセプトのハッカソンイベントだ。

熱気にあふれた2日間でアイデアを創出

 国土交通省が2020年度から実施している「Project PLATEAU 」は、3D都市モデルを用いて日本の都市をデジタルツイン化しようとする試みだ。現在、各自治体において実証、実装が進んでいるほか(公式ウェブサイトのUse Caseを参照)、ハッカソンやコンペティションなどの開催を通じ(同サイトのPLATEAU NEXT 2024を参照)、官民を問わないさらなる活用の探究が進んでいる。

 広島県が開催した「DoboX×PLATEAU Hack Challenge 2024 in 広島」もそのひとつ。「DoboX」は広島県における公共土木施設などに関する情報の一元化・オープンデータ化や官民でのデータ連携を行うために県が独自開発したインフラマネジメント基盤システム。この「DoboX」とPLATEAUを掛け合わせて新たなソリューションのアイデアを生み出し、地域課題の解決アイデアや新たなサービスを創出しようというコンセプトで開催された。

 本稿ではイベントの模様をレポートするとともに、参加した6組による成果を紹介していく。

広島県が抱えている課題とは?

 本イベントは2日間にわたって開催され、1日目が「学びと創発」の日、2日目が「実践とフィードバック」の日と位置づけられた。1日目は、広島県が抱える課題や、これまでのPLATEAUの活用事例を参加者が学んだうえでチームを編成、その後グループワークを実施。2日目はグループワークの後、午後に成果発表会が行われた。

1日目に行われたレクチャーの様子

 以下に、会場で紹介された広島県の課題と、今回のハッカソンで解決するべき課題として提示されたテーマを紹介する。

広島県は人口の減少と相次ぐ災害の発生を課題と捉えている

 広島県が大きな課題として捉えているのは2つ。「人口の減少」と「高頻度な災害の発生」だ。特に人口の減少については深刻。国土交通省による推定では、2050年時点で現在よりも人口が増えるのは、広島市付近と東広島市付近の2つのエリアに加えて、県内に点在する駅周辺の小さな都市部のみ。そのほかのすべてのエリアに関しては、人口が0〜100%未満減少、または非居住地化することが予想されているのである。

 人口の減少や非居住地化には、災害の発生も関わってくる。広島県は瀬戸内海と中国山地の両方に面し、県内で標高の高低差が大きく、災害発生時にリスクの高いエリアが存在している。平成26年8月に発生した土砂災害や、平成30年7月の豪雨災害など甚大な被害が生じた経緯を踏まえると、今後も災害リスクの高い土地を忌避する傾向が続くことも予想される。

「目指す都市像」として提示されたキーワード「魅力」、「活力」、「安心・安全」

 こうした課題を踏まえ、広島県が今後目指すべき姿として掲げるのが「魅力あふれる・活力が生まれる・安全/安心に暮らせる都市」という都市像だ。

今回求められた解決するべき課題は4つ

 今回のワークショップでは解決するべき課題をより具体化し、参加者は「都市の広がりの促進」、「市街地の低未利用地増加の抑制」、「災害リスクの高い区域での居住環境の整備」、「求心力の低い街に魅力を付加」の4つのテーマを意図したアイデアの創発を目指した。

デジタルツインで目指す都市活性!
参加者たちが生み出したアイデアを紹介

 ここからは、2日目のプレゼンテーションで発表された参加者たちの成果を紹介していく。

 なお今回のワークショップには、全国規模のデータコンテスト「アーバンデータチャレンジ」を開催する社会基盤情報流通推進協議会とPLATEAUを推進する国土交通省から、ITエンジニアらがメンター(指導者)として派遣されており、参加者たちはメンターの支援を受けながら開発を進めることができた。成果発表では、メンターや主催者がコメンテーターとして講評やアドバイスなどを行った。

メンターを務めた6名。
(上段左から)株式会社Eukarya 代表取締役CEO 田村 賢哉氏、一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会主催 アーバンデータチャレンジ実行委員会 榎本 真美氏、一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会主催 アーバンデータチャレンジ実行委員会 新井 千乃氏、
(下段左から)株式会社エル・ティー・エス Consulting事業本部 Social&Public事業部 イノベーション・ハブ・ひろしま Camps コミュニティマネージャー 武村 達也氏、広島工業大学 情報学部情報コミュニケーション学科 教授 松本 慎平氏、Code for Hiroshima 代表 石崎 浩太郎氏

「浸水シミュレーションのための3Dモデルの作成」(発表チーム名:コータローさん)

 1組目の発表は、チーム「コータローさん」による「浸水シミュレーションのための3Dモデルの作成」。

発表するチーム「コータローさん」

 同チームが着目したのは「河川の氾濫や土石流発生の危険がある際の、十分な避難所の数や安全なルートの確保」だ。同チームが引用した国勢調査による250mメッシュによれば、避難が予想される地域と非難対象者の人数、それに対する避難所の数は最適化されているとはいえないという。

 そこで同チームはDoboXの地形データ、避難経路のデータ、PLATEAUの建築物モデルを利用し、災害時のシミュレーション(浸水、避難経路の可視化、通行止めなど)を実施したうえで、避難ルートや最適な避難所の位置を算出した。

 今回は避難所までの経路を検討できる資料を作成するまでとなったが、最適人流制御を導入した避難所・避難ルートを提示するアプリの開発や、子どもたちへの防災教育に応用するアイデアも発表した。

講評:

災害時のシミュレーションはPLATEAUの事例でも多く、ニーズも高い。今後シミュレーションの手法をさらに深く考えていったらいいだろう。たとえば、建物一軒一軒の居住人数を、建物の高さや戸数から推定したりできるかも。そうした細かいデータを作ったうえで、避難という行動を考えるためにシミュレーションしていくことになる。今回はまずいろんな情報を調べ集めたところだと思うので、次の段階ではミクロなデータセットを作っていくことを進めたらいいと思う。(田村 賢哉氏)

実際の現場がどのような環境になっているのかをしっかりと調べているのがすごいと思った。自分の住んでいる地域にある課題や、本当に必要なニーズを、3次元データや写真を用いて可視化すると、使いやすいものになることがよくわかった。人流の最適化は、社会実験が進んでいる分野。今後、国内のさまざまな場所で必要になるテーマなので、引き続きがんばってほしい。(榎本 真美氏)

「若者の意見をまちに」(発表チーム名:チーム若人)

 2組目の「チーム若人」による「若者の意見をまちに」は、若者の声を集める、まちづくりマップアプリを作成しようとするアイデアだ。

発表する「チーム若人」

 同チームは、統計局による人口移動報告を引用し、2022年の広島の転出超過数が9207人で、2年連続で全国ワースト1位であることを指摘。まちづくりを課題としていながら若者の転出が続いているため、若者の意見が少ないという現状を述べた。

 発表された「まちづくりアプリ(仮)」はAR技術を活用したアプリ。建物にスマートフォンをかざし「いいね」を押したり、コメントを投稿したりすることで、3Dデータ上に投稿データが蓄積され、街に対する若年層の意見を視覚的に把握するとともに、気軽にまちづくりに参加できるというコンセプトを持つ。

 今回の発表ではアプリの大枠を企画するまでとなったが、PLATEAU以外のデータを掛け合わせたり、外部のSNSと連携させたりするアイデアも語られた。

講評:

まちづくりのアイデアを集めるということで大変興味深かった。こういったデータはあまり出回っていないので、データを流通させるところまでできたら、いろんなことができそうだ。このアプリを通じて集まったデータを誰もが利活用できるようにすることで、他の人が別のデータと組み合わせてまた別のアプリを作成するとか、可能性が広がっていき楽しい。研究者としてもいろんな研究に活用できそうで興味がある。今後もぜひ取り組んでもらいたい。(松本 慎平氏)

アイデアがおもしろい。私は企業でも行政でも仕事をしてきたが、企業にしても行政にしても消費者や住民に参加してもらうことはなかなか難しい。若者が自分たちのスマホをつかって気軽に直接投稿できるというシステムの発想がすばらしいと思った。(武村 達也氏)

「食い倒れマップ『仮』」(発表チーム名:食いしん坊)

 3組目のチーム「食いしん坊」による「食い倒れマップ『仮』」は、公共交通機関の利用を意図した食にまつわる観光情報サイトだ。

発表するチーム「食いしん坊」

「食い倒れマップ『仮』」で食にまつわる情報を発信して広島県内の周遊きっぷなどの利用を促進し、新型コロナウイルスのパンデミック後の世界における旅客事業者の収入減を解消する助けになることを目指したものだ。

 サイト利用者は、公共交通機関にひもづけたかたちで自分のおすすめ店を投稿することができる。投稿はサイト来訪者の潜在的な需要を喚起でき、やがて公共交通機関の利用を促進する好循環を起こし得るというのが、「食い倒れマップ『仮』」のコンセプトだ。

 またアイデアを発展させれば、「アクティビティ」や「ファッション」といった食以外の要素を追加し、サイト利用者 が「オリジナルの旅プラン」を作成して楽しむといった使い方も可能になるとした。

講評:

利用者が好きなことをマップに落とし込んで共有するというアイデアが良かった。今後さらにエンタメ性やテクノロジーを盛り込むこともできるかもしれない。たとえば、「食い倒れ」と銘打っているので、自分の身長や体重などを入力して、とことん食べたい人には総カロリーの表示やカロリーの高いものからレコメンドを提示したり、逆にダイエットしたい人には移動距離や消費カロリーを提示したりといった仕様を入れることもできるだろう。テクノロジーや話題性を取り込んでいくことが次のステップになるといい。(田村 賢哉氏)

交通と食という身近な話題から切り込んで深掘りしていくというのは、とても楽しい。こうした「楽しい」を追求していくと、社会の問題にぶつかることもある。例えば、「ここのラーメン屋さんに行こうと思ったけど、通行止めで想定していたルートで行けなかった」とか。そういった身近な利用シーンもイメージして、「こういったデータもあったら便利だな」というところも考えていくと、さらに良いものに発展していきそう。(新井 千乃氏)

「聖地巡礼×交通」(発表チーム名:先生、バスケがしたいです)

 4組目の「先生、バスケがしたいです」による「聖地巡礼×交通」は、映像作品のいわゆる「聖地巡礼」にまつわる手間を最小化し、快適な聖地巡礼の旅を実現しようとするアプリだ。

発表するチーム「先生、バスケがしたいです」

 従来の聖地巡礼では、作品の舞台を探して、マップを用いて具体的な場所を検索、さらに経路を検討するという手間がかかっていた。訪れたい場所が多ければ、訪れたい場所の分だけ検索と検討を繰り返す必要があり、特定の作品の「聖地」に短時間で一気に訪れたいときなどには、大きな手間がかかる。

 同チームが考えたアプリを用いれば、キーワード(作品名など)を入力することで、キーワードにまつわる聖地が一覧表示され、聖地巡礼にかかる手間が大幅に軽減される。

 発表では井上雄彦氏による人気バスケットボール漫画『スラムダンク』を例に挙げ、試合の場所や、登場人物が食事をした場所などが一覧で表示されるといったアイデアを披露した。さらにAR技術を組み合わせることで、漫画のコマと現実の写真を重ね合わせて表示でき、没入感のある体験が可能になるとした。

講評:

10年ほど前に県から江田島市に出向していた。その際、地元にゆかりのあるアーティストがかつて使っていたバス停が、ファンにとってはすごい聖地になっていて、バス停を見るためだけに江田島市を訪ね、そのまわりで食事をとる人が多いことを知った。それもあって、聖地巡礼というアイデアはおもしろいと思う。広島に関係する著名人にまつわる場所、県内全域に公共交通機関を使って訪ねていくような動きにつながるといい。(野浜 慎介氏)

漫画で見られた景色は、いまはなくなりつつある。その意味でも、ARが使えると「実際にはすでにない景色だけど、アプリ上では見られる」といった体験ができておもしろい。聖地巡礼を生かしたまちづくりは関東で成功例が多く、その際に重要になるのはやはり交通。聖地巡礼のおかげで交通が発達することもあるので、このキーワードで今後も進めてほしい。(新井 千乃氏)

「世界の野菜メイドイン広島 ~世界の野菜(果物)を食卓に~」(発表チーム名:4armers)

 5組目の「4armers(ファーマーズ)」による「世界の野菜メイドイン広島~世界の野菜(果物)を食卓に~」は、県内の耕作放棄地の情報を発信することで、農耕用地を探している生産者や、農産物を育ててみたいと考えている移住希望者にアプローチしようとするアイデアだ。

発表するチーム「4armers(ファーマーズ)」

 利用するデータは気候情報、土壌データ、農地の有無に関するデータ、収穫できる野菜のマッピングなど。利用者は、雨量や日照時間、気温、周辺施設情報などのパラメーターから選出された農耕地や、育成に適した品種などを確認でき、希望する品種に最適な土地をインターネット上で見つけることができるようになる。

 同チームが着目したのは県内でも農耕地が多く点在することで知られる安芸高田市。同市の1980年と2020年の人口調査を比較すると、1980年に比べて老年人口が24%も高まっている一方で、生産年齢人口は12.8%も低下しているのだという。

 有効に使われていない耕作放棄地の活用を推進することで地域活性化に貢献し、地域のブランディングにもつなげようとするのが、チームの意図だ。

講評:

たくさんのデータを集め、かつ説得力のあるデータの使い方をしていて感心した。目的に対してポイントをおさえたプレゼンテーションで、政策を考えているかのようだった。広島に移住したり、Iターンしたいと思った人が目的を見つけるためにも活用できそう。さまざまなコラボレーションも生まれそうな、とても素敵なアイデアだと思う。(榎本 真美氏 )

おもしろいアイデアだった。ビジネスにつなげていくことを考えると、作物によって、流通させられる範囲は変わってくるので、その要素を入れてみてはどうか。たとえばベビーリーフはすぐにしおれてしまうので、周辺で消費するしかない。作物の種類に応じて、どこまで出荷していけるのかも、選出できるとさらにいいかもしれない。(田村 賢哉氏)

「属性情報体操」(発表チーム名:河野研究所)

 6組目の「河野研究所」は「属性情報体操」というアイデアを発表した。

発表するチーム「河野研究所」

 着目したのはつい最近も話題になった南海トラフ地震。同チームは「地震は急に訪れ、災害発生時にビルの安全性を調べる余裕はない」という発想から、「ビルの築年数を体で覚える」というコンセプトを提唱。

 形態としてはエクササイズ&リズムアプリの形をとる。ビルの築年度ごとにポーズが決まっており、指定されたポーズを取れば、その年度に建築されたビルが伸び、誤ったポーズをすると、その年度に建築されたビルは縮む。ポーズをとりながらビルの築年数を知り、同時に運動量を増加させ、災害発生時の住民の生存率を高めようというのが、企画の意図だ。

 遊び心に溢れたアイデアだが、3Dデータ化したCityGML、属性情報(建築年度)データ、Kinectを利用した点群描写データ、Kinectを利用した体の測位、音楽のBPM検出など、バックグラウンドでは複数のデータを参照している。今後の展望としては、PLATEAUを用いて「こどもが楽しめるもの」を作りたいとした。

講評

この短時間でここまで作り上げて、DoboXも活用してくれていてすばらしい。(広島県の)土木関係では、人手不足も課題になっており、災害が起きた際に街を守れなくなるのではないかという課題意識もある。こういうコンテンツを使いながら、土木に関連した課題解決をしていけないかと、ハッカソン中にも話していた。若い人を中心に巻き込んでいって、課題解決につながる使い方を一緒に生み出せていけたらと思う。(野浜 慎介氏)

課題解決につながるアイデアが出た2日間
今後の展開にも期待

 イベントの最後には、広島県 土木建築局 建設DX 担当課長の野浜慎介氏が登壇。2日間の感想と、今回の成果やデータ利活用に関する展望、参加者たちの今後のさらなる活躍への期待を述べ、今回のイベントを締めくくった。

「昨年は学生さんの参加が4名だったところ、今年は10名で、しかも8割はハッカソンが初めてという幅広いメンバーが集ってくれました。この2日間でできたつながりやアイデアをこれからも大切にして、さまざまなコンテストにもぜひ挑戦してほしいと思います。今回のワークショップを通じて、広島県の課題解決につながるアイデアもたくさんいただいたので、今日の成果を持ち帰って、関係者にもしっかりと伝えていきます。今後も、広島県に根付いたみなさんの活躍を期待しています」

広島県 土木建築局 建設DX 担当課長 野浜 慎介氏

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