レビュー
耳をふさがないイヤフォンの決定版! ソニー「SBH82D」で音楽&ラジオを自由に
2019年7月10日 08:00
数多くあるイヤフォンの中で、注目されている一つの個性が「耳をふさがない」モデル。音楽をじっくり聴くというよりは、“ながら聴き”を主に想定した製品だ。ソニーから6月に発売された、約1万円でワイヤレス、音質も向上したという「SBH82D」を日常生活で使ってみた。
一見するとよくあるネックバンド型Bluetoothイヤフォンだが、耳に入れる部分をよく見ると、中央に穴が開いていて、耳穴を完全にふさがない独特な形状。「こんな形でしっかり音が聴こえるの?」と疑問に思うかもしれないが、想像よりも良い音で音楽が聴けて、そのまま会話もできるという、一度着けると新鮮な驚きを感じるモデルだ。
しばらく使ってみると、この形が活きる場合とそうでない場合がだんだん分かってきたので、日常の様々なシーンでどんな時に便利なのかを中心に紹介したい。
軽い装着感の下掛けスタイル
SBH82Dが普通のBluetoothイヤフォンと異なるもう一つのポイントは、耳の下側に挟む“下掛け”で装着するスタイル。ソニーの完全ワイヤレスヘッドセット「Xperia Ear Duo」('18年発売)も同様の装着方法だが、今回のSBH82Dは首に掛けるネックバンド型という違いがある。カラーは今回使ったブルーのほか、ブラック、グレーも用意する。
スムーズに着けるには片手で耳たぶを持って、反対の手でイヤフォン部を下から差し込むように装着。慣れてくると片手でも着け外しできる。耳たぶをクリップのような部分で挟む形だが、強い力で圧迫されるのではなく、イヤーピース(リングサポーター)部分が耳に乗っかっているくらいの軽い装着感。また、ケーブルを耳の上に掛ける製品とも異なり、メガネと干渉しないのもポイントだ。
周りからはパッと見「普通にネックバンド型のイヤフォンを着けている人」だが、本人は周囲の音がしっかり聞こえるという状態。「イヤフォンで周りの音が全く聞こえなくなるのは不安」な人や、「カナル型(耳栓型)の圧迫感が苦手」という人も安心して使えるだろう。
ネックバンド部は短く軽量で、シャツの襟にも隠れるくらいの控えめな存在感。柔らかい素材のため、適当に曲げてカバンに突っ込んで持ち運べる気軽さもある。ケーブルを含む全体の重さは約25.5g。
耳をふさがないのに豊かな中低域が魅力
ワイヤレスイヤフォンとしての基本機能を説明すると、Bluetooth 4.2対応で、音声コーデックはSBCとAAC(iOS端末との接続のみ)。ソニーの高音質コーデックLDACや、aptXなどはサポートしない。プロファイルはA2DP、AVRCP、HFP、HSPでスマホのハンズフリー通話などにも利用可能。
周りから遮音して音楽に没頭するような製品ではないので、LDACなど高音質コーデックはあえて採用せず、接続の安定性を優先した仕様なのだろう。それでも、やはりソニーのイヤフォンとして音質へのこだわりがいくつもあり、実際聴くとその良さが分かる。この音の良さが、今までの「耳をふさがないイヤフォン」との違いでもある。
今回は、普段使っているウォークマンのNW-ZX300や、iPhone Xと接続して使用。ウォークマンはNFC対応なので、SBH82Dの電源ボタンがある部分(R側)をかざすと接続(ペアリング)が完了する。
iPhoneなどNFC非対応機器の場合は、SBH82Dの電源ボタン長押しでペアリング待機状態にして、iPhoneのBluetooth設定からSBH82Dを選ぶ。なお、2台同時接続のマルチポイント接続にも対応しているので、例えばスマホとウォークマンなどを同時に接続するといった使い方も可能。普段はウォークマンで音楽を聴き、iPhoneに着信があるとそのまま通話に使える。
ドライバーユニットは13.6mm径と大型で音質にも有利。このドライバーは耳の下側の部分に収められているので装着中も目立たない。この部分から独自の音導管を通して鼓膜へ音を届ける仕組みだ。
ソニーからは耳をふさがない有線モデル「STH40D」も既に発売されているが、これに比べて低域の量感を向上したのが大きな進化点。ソニーによれば、Bluetoothチップに搭載しているDACアンプのイコライザーを調整したことによるものだという。これによって、オープンイヤーでも音楽もしっかりと楽しめるようになった。
着けてみると、確かに耳穴を密閉していないのに、シャカシャカした軽い音にはならず、ボーカルやバスドラムなども力強く耳に届き、音楽リスニングにも十分な実力を持っているのが分かる。特に中域部分の再生能力が高く、人の声の温もりもしっかり伝えてくれるので、ボーカルのしっとり感、ハスキー感といった個性も細かく描き分け、情感を損なわずに聴ける。
移動中も家の中も、ずっと使い続けられる
筆者が最も音楽を聴く通勤時に、ウォークマンZX300と接続して使ってみた。静かな住宅街を歩く程度では、ボリュームを抑えめにしても外で不満なく音楽を聴ける。曲がり角などで自動車が近づいた時なども、イヤフォンを外している時とそれほど変わらず分かるので、急に車に気付いて驚くこともなかった。
地下鉄の駅で電車がホームに近づいた時などは、さすがに騒音で音楽はほとんど聴こえない状態になる。ただ、駅構内や電車内のアナウンスなども聞き逃さないので、運行トラブルなどで乗り換えが必要な際もスムーズに移動できたのは良かった。
特に便利なのは、バスや普段使わない路線の利用時。初めて行く場所だと、車内アナウンスなどを聞き逃さないように、これまではイヤフォン/ヘッドフォンを使わないことも多かった。このSBH82Dなら音楽を聴きながらでも、アナウンスがちゃんと耳に入るため、スムーズに乗り換えや、目的の駅/停留所での下車ができた。
一方、密閉型ではないため音漏れは気になるところ。ソニーの説明によれば「鼓膜へ効率よく音を届けるため、会話も音楽も両方楽しめる音量であれば、音漏れの心配なく使える」という。試しに会社の隣の席で使ってもらうと「会話しながらでも音楽が聴ける音量」に設定した状態では、イヤフォンからの音漏れは全く気にならなかった。ただ、密閉型よりは音漏れしているので、電車などでは注意したい。
音の鳴り方で一つ特徴的だったのは、リモコンボタンで曲送りした直後や、接続が一瞬途切れた場合などに、元の音量ではなく小さめの音量からフェードインで徐々に上がる処理がされること。おそらく、接続が不安定な場所などで、鳴ったり止まったりのブツブツした不快な音が目立たないように配慮しているのだろう。曲によっては、最初の音量が抑えられると違和感があったので、これが気になってしまう人はいるかも知れない。
なお、楽曲の種類によっては、ボリュームを上げた時にシンバルなどの高域の先鋭さが際立って気になる場合もあった。ただ、このイヤフォンはあまり大音量で聴く製品ではない。全般的に、ジャンルを選ばず聴きやすい音で楽しめるのが分かった。何より、この開放的な装着感で、中低域までしっかり鳴らせるイヤフォンが約1万円というのは他にない良さだ。
バッテリーの持続時間は7.5時間で、充電時間は約2時間。LEDの色で残量が分かり、緑色は残量80%以上、オレンジ色は15%以上80%未満、赤色は15%未満。充電端子はUSB Type-Cで、充電しながらでも再生はできた。ただ、付属のUSBケーブルは15cm程度と短いので、充電しながら使うなら長めのケーブルを用意すると良いだろう。
ラジオ、通話などもいい声で。楽器練習にも?
音楽を聴くのも十分良いのだが、この製品に一番向いていそうなのはラジオなどの声のコンテンツ。家の中などでちょっと動いたりしながら、ラジコ(radiko)やオーディオブック、ポッドキャストなどを聞くのにはピッタリ。前述したように人の声の帯域(中域)も高音質で再現してくれるので、好きなパーソナリティや声優などの声も、スピーカーやイヤフォンなどで聴いた場合とそん色なく楽しめる。
軽い装着感なので夏場に長時間着けていても蒸れる感じはなく、周囲で音がした時などもいちいち外して確認する必要はない。
密閉型ヘッドフォンのように頭の中心で鳴るのとは違って、広い音場で、そばにいる人から話しかけられている感覚に近い。内容に集中したいときは密閉型もいいと思うが、ラジオなどはながら聴きに適したコンテンツでもあるし、このイヤフォンは相性が良い。
ちょっと歩き回ったり家事をしながらの場合なども、SBH82Dの良さが活きる。特に周囲の音も聞きたいケース、例えば電気ケトルで湯を沸かしている間や、電子レンジ/炊飯器などを動かすなど同時並行で何かをしている時は、周りの音がある程度聞こえたほうが便利。そうした場合もイヤフォンなどを外さず使えて、ラジオの内容なども聞き取りやすいのはうれしい。
スマホのハンズフリー通話にも使えるので、LINEなどの通話にも使ってみた。相手の声もしっかり聞こえるのはもちろん、耳をふさがないので自分の声がこもらず、スマホを耳に当てて話す時とほとんど変わらない感覚。屋外で話していても、変に自分の声が大きくなり過ぎる心配もなさそうだ。
軽い装着感で、周りの音も聞こえるので、ジョギングなどスポーツでも使えるかと思ったが、防水仕様ではないことは注意したい。また、ネックバンドが短いため、肩に浅くのる形になり、走るとバンド部がズレ落ちて首の後ろにダランとぶら下がってしまいやすい。早歩き程度なら問題なさそうだが、体を大きく上下する運動なら、ネックバンドを固定する工夫が要るかもしれない。
もう一つ試したかったのは、楽器の練習。昨年末ごろから始めたウインドシンセサイザーの「Aerophone GO」(ローランド)で、ウォークマンなどからお手本を再生しながら練習したい場合、これまではヘッドフォンの片側だけずらしてお手本と演奏音の両方を聴いていた。SBH82Dなら両耳着けたままでも楽器の音が聞こえて、お手本と自分の音の違いが分かりやすいのではと思って使ってみた。
実際に使うと、お手本と自分の音が同時に聞こえて、片耳装着のような不安定な姿勢ではなく、多少頭が動いても問題ない。楽器側のボリュームをあまり上げなくても出た音が聞こえるので、周囲へも配慮できる。まだ全然上手ではないが、練習のモチベーションは前よりも上がってきた。このように「2つの音を同時に聴いて比べる」という用途にも合っている。
常に音楽を身近に感じて、音質にも満足
ヘッドフォン/イヤフォンを使う場合、スピーカーで聴くのとは違って「音楽を聴く=周囲の音を遮断する」のが普通だ。音楽は耳元で聴こえていい音なのだが、着けたままでも、急なアナウンスや家のインターホンなど、外の音を聞き逃したくないケースは結構ある。
SBH82Dの場合は、「周囲の音を聞きたいから再生を止める」、「音楽を聴きたいから会話を終わらせる」と行動をハッキリ分けなくても、常に音楽が近くにある状態で生活できる。しかも、耳をふさがないタイプのイヤフォンとして、音質的にも価格以上の満足感が得られる。
「イヤフォンを着けながら会話する」のは一般的とは言えないので、着けたまま人と話すのは、理解が得られる相手、場所での利用が前提とはなるだろう。ただ、同様の製品はいくつか出てきたので、少しずつでも受け入れられるようになるのではと思う。
イヤフォンを着けながら会話する機会はあまりないという人も、音楽を聴きながら「このまま周りの音も聞けたら便利なのに」というケースはあると思う。そうした時にイヤフォンを着け外しせず、常に音楽やラジオなどを身近に楽しめる。そうして長く着けていられる快適さが、これからもSBH82Dを使っていきたいと思える大きな理由だ。