藤本健のDigital Audio Laboratory
第1012回
ビンテージ風から“モンスター”シンセサイザまで登場。KORGの注目新製品見てきた
2024年5月27日 10:58
5月16日から18日の3日間、ドイツ・ベルリンにてシンセサイザやデジタル系楽器の展示会「SUPERBOOTH 2024」が開催されたが、それに合わせる形で5月17日にコルグ(KORG)が国内で2024年春の新製品発表会を行なった。コルグ製品とともに、コルグの輸入事業部であるKIDが扱う製品も発表され、かなりの数の機材がお披露目された。
中にはアコースティックギターやストンプエフェクト、ギターアンプなど完全なアコースティック、アナログ機器もあったが、今回は主にデジタル関連機器で気になった機材をピックアップして紹介してみよう。
KORG PS-3300 FS
“主にデジタル関連機器を”と言いつつ、まずは発表会会場で目立っていたレトロな見た目のアナログシンセサイザ「PS-3300 FS」から紹介しよう。
これは1977~1981年にわずか50台のみ限定生産され、現存するものはほとんど残っていないといわれるビンテージシンセサイザ「PS-3300」を今の時代にフルスケールで復刻させたもの。
正式発表ではなく、まだ参考出品という形だったが、すでに1月に米国アナハイムで開催された「NAMM SHOW 2024」でも展示されていたものでもある。専用のアナログキーボードがセットとなっていて、全鍵盤発音の49音ポリフォニックという仕様だ。ちなみにオリジナルのPS-3300は48鍵だった、という。
非常に多くのノブが並んでいて、すごく複雑なシンセサイザのようにも見えるが「PSU-3301」というシンセサイザユニットが3つ並ぶとともに、ユーティリティセクションである「PSU-3302」で構成された、比較的シンプルな構造になっている。
3つの独立したオシレータに加え、キーボード上のすべてのノートに対応する複数のフィルター、エンベロープジェネレータ、アンプを搭載。これにより完全アナログ音源で軽147シンセボイスを発音できるものとなっている。
もっとも、単に昔の機材を復刻させたというわけではなく、もちろんデジタル機能も搭載されている。
まずは各パラメータをメモリに記憶できる機能を装備。16プログラム×16バンク=256スロットでの音色記録が可能。またMIDIの入出力およびUSB端子を装備しており、外部のシンセサイザやシーケンサ、コンピュータとの接続が可能で、これを通じて演奏をコントロールできるとともに、記憶させたメモリ音色を専用ライブラリアン・アプリを使って外部から管理することも可能だ。
オリジナルのPS-3300は、現在もコルグの監査役を務める三枝文夫氏が設計したもので、今回のPS-3300 FSは三枝氏監修のもと開発されたという。気になる発売時期や価格は現時点においては未定となっている。
ただ話を聞いてみると、現在生産に向けた準備を進めており、9月以降になってしまいそうだが年内には発売を予定しているという。またアメリカで13,000ドル程度での発売をするとのことなので、1ドル=156円で換算すると税抜きで200万円超と、結構な価格になりそうだ。
Arturia AstroLab
続いてはKID取り扱いのフランスのメーカー・Arturiaが先日発売したシンセサイザ「AstroLab」(349,800円)だ。
Arturiaは今年25周年を迎えるメーカーで、もともとはソフトからスタートし、現在はアナログシンセサイザ、オーディオインターフェイス、プラグインシンセ、プラグインエフェクト……などなど数多くの機材を手掛ける企業。そのArturia初のステージキーボードとなるのが、このAstroLabだ。
PS-3300 FSを見た後だからなのか、パッと見がかなりシンプルなデザインとなっている。中央のノブを回すと、その内側にある丸いディスプレイに音色名とそれを表す画像が表示されるのがユニークなところ。
スペック的にいうと61鍵盤で1,300以上の音色を扱える、というところまでは、よくあるデジタルシンセサイザ……のように思える。が、実は内部にCPU、DSPおよび膨大なメモリ、ストレージを搭載したコンピュータというかスーパーモンスターマシンなのだ。
Arturiaは25年の集大成ともいえるソフトシンセをまとめた製品「V-Collection」というものを出しているが、これらがすべてこのAstroLab内で動作させることが可能になっているのだ。
権利の問題などもあってV-Collection全部ではなく、現時点ではその中のAnalog Labという音源集とPigmanetsという音源が動く形にしてある。
その結果、サウンドエンジンとしては……
1:バーチャルアナログ
2:サンプル
3:ウェーブテーブル
4:FM
5:グラニュラー
6:フィジカルモデリング
7:ベクターシンセシス
8:ハーモニック
9:フェイズディストーション
10:ボコーダー
……の計10種類を動かすことが可能となっているほか、12個のインサートFXがあったり、アルペジエーター、MIDIルーパー、Bluetoothオーディオ機能など、さまざまな機能を備えている。
もちろんWindowsやMac上のAnalogLabやPigmentsとの音色データのやり取りが可能となっており、これを転送すればコンピュータ不要でAstroLab単体で、さまざまな音を演奏できるわけだ。内部のCPU、DSP、メモリ、ストレージには余裕が持たされているので、今後のファームウェアアップデートでどんどん機能拡張されていく予定という。
KORG microKORG 2
2002年に発売されて世界的に大ヒットとなったバーチャル・アナログ・シンセサイザのmicroKORGの新モデル「microKORG 2」が誕生した。これも1月のNAMMのタイミングで発売時期、価格未定という形で発表されていたものだが、7月の発売が決まったようで、価格は6万円程度になりそう、とのこと。
microKORG 2も旧モデルと同様、HOUSE/DISCO、HIPHOP/R&B、FUNK/SOUL……など音楽ジャンルを選ぶダイヤルと、音色を選んだり保存する8つのボタン、音をエディットする5つのツマミから構成される37ミニ鍵盤のバーチャル・アナログ・シンセサイザ。microKORGで象徴的だった中央から伸びるグースネックマイクも従来通り踏襲されつつも、今っぽいデザインへと変更された。
また旧モデルには無かった2.8インチのカラーディスプレイが搭載されたことで(13)、非常に使いやすくなっているとともに、バンク・セレクトにクラシック、モダン、フューチャーというコンセプトが新たに加わり、思い描くサウンドをすぐに実現できるUIへと一新されている。
一方、グースマイクを使ってすぐに実現できるボコーダー機能がこれまでmicroKORGの大きなウリのポイントとなっていたが、その部分を大きく進化させて、新開発のボーカルプロセッサが搭載された形になっている。
これによりボコーダーはもちろんのこと、ボーカル・エフェクトとして今や定番となったボーカルのピッチを補正するハード・チューン、元の声のピッチをシフトした声を重ねられるハーモナイザーも搭載。ボーカル・プロセッサーからの出力に、リバーブやディレイなどのエフェクトをかけられるなど、多彩な使い方が可能になった。
Blackstar ID:CORE V4
KIDが扱うギターアンプメーカー・Blackstarからプログラマブル・ギターアンプの第4世代機となる「ID:CORE V4」シリーズ3機種も登場した。
10Wモデルの「ID:CORE V4 Stereo 10」(28,600円)、20Wモデルの「ID:CORE V4 Stereo 20」(37,400円)、40Wモデルの「ID:CORE V4 Stereo 40」(42,350円)の3機種で、一見普通のアナログのギターアンプのようにも見えるが、実はUSB-Cの端子が搭載されており、WindowsやMacに接続するとオーディオインターフェイスのように見え、アンプの音をダイレクトにUSBレコーディングできるようになっている。
また、Windows/Macで利用できる「Blackstar Architect」というソフトが付属しており、これを利用することで活用の範囲が大きく広がるのも大きなポイント。
まずは、ID:CORE V4内部のDSPを含めたパッチにアクセスし、これを視覚的に確認できるとともに、細かくエディットすることができる。これによりゲインやボリューム、さらにはEQ設定やトーン設定はもちろん、チューナー、ノイズゲート、モジュレーション、ディレイ、リバーブといったエフェクトにもアクセスして、これらを自由に使うことが可能だ。
さらにArchitectを使うことで、ID:CORE V4内部にあるDSPスピーカーシミュレータであるCabRig Liteへのアクセスできる。これはキャビネットをシミュレーションするもので、オンアクシスとオフアクシスのさまざまなキャビネットとマイクから選択することで、レイテンシーゼロでのシミュレーションが行なえる。
なお、参考出品という形で、Blackstarの人気アンプ、ST.JAMES EL34およびST.JAMES 6L6をシミュレーションするプラグイン「ST.JAMES SUITE」も展示されていた。
KORG ST1K - Synthesizer Tuner
コルグは、さまざまな楽器向けのチューナーを開発・販売しているが、そんな中、同社初となるアナログ・シンセサイザ専用のチューナー「ST1K」を発表、9月に発売する。国内価格は現時点未定だが1万円前後になる模様。
単4電池2本で駆動するこのST1Kだが、そもそもギター/ベース用のチューナーなどと何が違うのか?
そもそもアナログ・シンセは、電源を入れてから回路がある一定の温度に温まるまでチューニングが安定しなかったり、その後も温度変化によってチューニングが不安定になるなど、ほかの楽器とは異なる特性がある。また、ギターやベースのペグを回してチューニングするのとシンセサイザのオシレーターをチューニングとではピッチの動きが異なるため、シンセサイザで使いやすいようにしている、とのこと。
±0.1セントの超高精度チューニングが可能で、プロフェッショナルなニーズにも対応。大画面CMD液晶ディスプレイを搭載し、光の立体表現と多彩なディスプレイ・モードにより、モジュラー・シンセやアナログ・シンセのLEDに負けない視認性を実現しているようだ。ライン入力があると同時に、高感度マイクも内蔵しているので、シンセサイザ以外の楽器にもマルチに使用できる。
KORG Berlin Acoustic Synthesis_phase8
国内での発表会での展示はなかったが、ドイツ・ベルリンのSUPERBOOTHの会場ではベルリンのコルグが開発した小さなアナログシンセサイザ「Acoustic Synthesis_phase8」が参考出品されていた。
このAcoustic Synthesis_phase8は、アコースティック・シンセシス・テクノロジーなるものを搭載したシンセのプロトタイプの8番目を意味するもの。アコースティック・シンセシス・テクノロジーは物理的に振動する本体が持つ豊な響きを電子制御と一体化させたもので、以下の特徴を備えているという。
・メロディックシンセサイザーかつドラムマシンでもあるアコースティック楽器
・8つの独立したエレクトロメカニカルボイス
・ポリリズム・シフト機能付きシーケンサー
・ウェーブシェイピング、トレモロ、EGコントロール搭載
・交換およびチューニング可能なレゾネーター
・あらゆる可能性を秘めたメカニカルサウンド
ピアノを鳴らすようにハンマーで叩いて共鳴体を振動させる仕組みとなっており、そのハンマーは電磁石でできており、これにより正確な制御ができるようになっているそう。まだ発売までは時間がかかりそうだが、どんなものが出てくるのか楽しみにしたいところだ。
ほかにもArturiaのシンセサイザやコルグのステージピアノ、VOXのギターアンプ……などなどさまざまなものが発表されていたが、筆者がとくに気になったものだけをいくつかピックアップしてみたが、いかがだったろうか? ソフトシンセが幅を利かせている昨今ではあるが、ハードウェアの新たな可能性がさまざまな方向にあることを改めて実感した発表内容だった。