藤本健のDigital Audio Laboratory
第1014回
コンパクトで音もよし。話題のFIIOアクティブスピーカー「SP3 BT」使ってみた
2024年6月24日 07:30
先日、ニュース記事を眺めていて気になった製品が、中国メーカーのFIIO Electronics(FIIO)が発売したアクティブスピーカー「SP3 BT」だ。
型番からも想像できる通り、Bluetooth対応のスピーカーなのだが、記事の中で個人的に目に留まったのはデジタル入力に対応したスピーカー、という点だった。具体的にはUSBに加えて、S/PDIFコアキシャル、S/PDIFオプティカルのそれぞれにも対応しているところだ。
S/PDIFだけでなく、KEFやELACのアクティブスピーカーの中にはHDMIまで直接入力できるモデルも存在するそうだが、個人としては、しばらくデジタル入力に対応したスピーカーを触っていなかった。
そこで、デジタル入力に対応した最新スピーカーがどんなものか試してみたいと思い、編集部を通じてSP3 BTを借りることにした。実売価格64,900円前後という、そこそこの値段のスピーカーだが、結構使えそうな機材だったので、紹介してみよう。
S/PDIFの入力ができるスピーカーが好き
どんなスピーカーを選ぶかは人によって、違うところだし、それぞれの主義・主張があるところだ。アクティブスピーカーなんてものは許せない、という人もいるだろし、外部にアンプを置くなんて面倒すぎる、という人もいるだろう。もちろん設置する場所、使用目的によっても違ってくるので、ここでどれがいいとか悪いとかを述べるつもりは毛頭ない。
が、個人的に昔からいいな、と思っているのが、デジタル信号を直接入力できるスピーカーだ。今でこそBluetoothスピーカーはそこら中にあるし、さまざまなメーカーからUSBスピーカーが出ているので、デジタル入力なんて当たり前といえば当たり前なのだが、S/PDIFの入力ができるスピーカーが好きなのだ。
20年近く前はEDIROL(Roland)が「MA-10D」、「MA-15D」というDTM用途のモニタースピーカーを出していたり、ONKYOがWAVIOシリーズとして「GX-D90」、「GX-77M」といったものを出していて、個人的にも使っていた。
MA-10Dにおいては現在もときどき引っ張り出して使っているが、こうしたS/PDIF入力可能なスピーカーだと、基本的には配線でノイズが乗ったり、音質劣化する心配がないし、レベル設定さえ同じにすれば、いつでも同じ音が再現できるという部分が魅力だ。
もちろんデジタル入力といったって、このスピーカー内部にD/Aコンバーターが入っていて、それでアナログ化して、アナログのアンプを通して、スピーカーから音が出てくるので、デジタルのまま音が出るわけではないけれど、どんなプレイヤーでも基本的に同じ音が出るし、可変する要素がほとんどないのがいいのだ。
スピーカーがとってもコンパクト
あんまり細かなスペックも見ずに取り寄せたところ、届いた箱が想像していたより小さくてちょっと驚いた。中を開けてみると、ステレオペアのスピーカーとACアダプター、ケーブル類が出てきたのだが、スピーカーがとってもコンパクトなのだ。iPhone 15 Proと並べてみると大きさの雰囲気が分かるだろうか?
5インチのスピーカーであるYAMAHAの「MSP 5 Studio」と並べてみると、その小ささがよくわかるはず。また先日紹介したCearのスピーカー「pavé」と並べてみるとこんな具合だ。
さて、このSP3 BT。ステレオペアといっても片方が親機で各種入力や電源入力が搭載されていて、もう片方がそこにつながる子機という組み合わせになっている。親機と子機の間は専用の8ピンのDINケーブルで接続する形となっている。
ちなみにウーファーのサイズは3.5インチで、前述のRolandのMA-10Dと同じなのだが、並べてみると結構な大きさの差がある。それでいてMA-10Dは10W+10Wなのに対し、SP3 BTはウーファーが30W、ツイーターが10Wとなっていて、よりパワフルなスペックになっている。
またMA-10DやONKYOのGX-77Mなどは親機が右スピーカーで子機が左スピーカーと固定になっていたが、FIIOのSP3 BTは親機にL/R切り替えスイッチが搭載されているので、どちらに設置してもOKというのも便利なところ。もっとも基本は親機にRIGHTと書かれているので同じく右スピーカーであることが基本のようだ。
もう一ついいなと感じたのが、スピーカーの台座となるシリコン製のラバースタンドが2種類付属しているという点。
標準はスピーカーが水平に設置されるのだが、もうひとつのラバースタンドに取り換えると角度が付く形になっている。具体的には7度の傾斜とのこと。そのため、デスクトップ環境に設置する場合、リスニングポイントに指向性をつけることができ、より聴きやすくなるのだ。しかもこのスタンドはシリコン製インシュレーターとしても機能し、スピーカーが発する振動を吸収することで、音質への悪影響を抑制するとのことだ。
さっそく電源を入れてみて、またビックリ。スピーカーの下の部分が左右ともに光り、赤と青に点滅を始めたのだ。
中国メーカーということもあり、派手なのが好きなんだな、というのが率直な印象。マニュアルを見ると、これはBluetoothのペアリングモードを意味しているとのことで、iPhoneとペアリングしてみたところ、青緑でゆっくりと明るくなったり暗くなったりを繰り返す状態に。これがAAC接続を意味しているとのこと。
実はこのFIIO SP3 BTにはQualcommのQCC5124というBluetoothチップが搭載されており、AACやSBC接続はもちろんのこと、LDAC、aptX/atX LL、aptX HD、aptX Adaptive、LDACにも対応しており、どのコーデックに接続したかによって、LEDの色が変わる仕掛けになっているようだ。
では、一番気になっているS/PDIFとの接続はどうなっているのだろうか? 親機のリアにコアキシャル、オプティカル端子があるので、ここにそれぞれを接続し、信号を流してみたが音はBluetoothのまま。
そこでINPUT/PAIRボタンを押してみると、LEDが紫になるとともにオプティカルの音に切り替わった。さらにもう一度押してみると今度はLEDが黄色になるとともにコアキシャルに切り替わったのだ。
さらにボタンを押すとオレンジ=USB、水色=RCA、緑=3.5mmステレオミニ、そして元のBluetoothと繰り返す形になっている。確かにLEDがあるおかげでどの入力が来ているか一目瞭然ではあるけれど、ちょっと主張し過ぎなのでは……というのが個人的な感想ではある。
ちなみにRGBというボタンがあるので、これを押してみると、選択中の入力チャンネルのLEDの色を一時的に変更できるようになっており、各種色に設定できるほか、カラフルに色が変化するモードなども設定できる。ここに消灯というのがあるとよかったのだが、そうしたモードはないようだった。
すごくクッキリした解像度の高い音でよかった
で、肝心の音はどうなのか? 先ほどのラバースタンドで角度をつけてデスクトップ上に設置して聴いてみた。
これはあくまでも主観的な個人の感想だが、すごくクッキリした解像度の高い音でよかった。
モニタースピーカーという位置づけの製品ではないけれど、それに近い傾向で、変な色付けもなく、細部までしっかりと聴くことができるサウンド。強いて言うと3.5インチだからなのか、低音が物足りない感じだ。
が、リアを見るとVOLUMEというノブの隣にBASSというノブがある。最初聴いたときは、このBASSを中央あたり、つまり-4dBに設定していたのだが、これを0dBに上げると、結構いい感じになる。
マニュアルを確認したところ「BASSブーストは初期値では最大に設定されています。さまざまな使用シナリオやデスクトップの配置に応じて適切に調整することができます。比較的狭い部屋でスピーカーを壁に寄せて設置する場合は、低温を適切に下げることを推奨します。しかし、広い部屋で離れた場所に設置されている場合は、初期設定のままで問題ありません」とのこと。勝手に真ん中に設定していたのが間違いだったようだ。
なお、機材を返却してから気づいたのだが、FIIO ControlというBluetoothコントロールアプリがあり、これを使うことで10バンドのパラメトリックEQで好みの音に調整することが可能とのこと。まあ、下手な調整はしないほうがいいが、部屋の形状などによっては多少動かすことで、よりよいチューニングにすることもできそうだ。
最後にもう一つ試してみたのが、USBオーディオ。SP3 BTにはUSB Type-Cの端子があるのだが、ここにWindowsマシンを接続してみた。
特にドライバがあるわけではなく、USBクラスコンプライアントなデバイスとしてすぐに認識し、使うことが可能。ASIOには対応していないが標準のドライバで44.1kHz、48kHz、96kHzのサンプリングレート、16bitおよび24bitの分解能で利用することができるようになっていた。
以上、FIIOのデジタル入力対応のアクティブスピーカー「SP3 BT」について紹介してみたが、いかがだろうか? コンパクトだし、音はいいし、さまざまなソースに接続できるという意味で使い勝手がいい機材だった。ちょっぴり高いけど、悪くない選択だと思う。