小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第936回
アクションカムで1型!? 画質に注目「Insta360 ONE R 1インチ版」を試す
2020年4月28日 08:45
合体だからできること
今年1月、米国ラスベガスにて毎年開催されているCESにて、Insta360から新しいカメラが発表された。Insta360 ONE Rは、これまでの360度カメラとはうって変わって、アクションカメラと呼ばれる製品である。ただしそこは後発だけあって、一風変わったカメラだった。
詳しくは1月のレビューを見ていただきたいが、GoProのようなスタイルでありながら、カメラ部、モニター部、バッテリー部が独立したモジュールとなっており、それらを合体することで1台のカメラになるというユニークなものだった。合体できると言うことは、別のモジュールと組み合わせられると言うことである。
1月発売時点では、4K広角モジュールセット「4K版」の39,600円(税込)、360度+4K広角カメラモジュールをセットにした「ツイン版」が59,400円(同)、1インチ広角モジュールセットの「1インチ版」が68,200円(同)であった。このうち1月のレビューでは、360度と4K広角カメラモジュールをテストしたが、1インチ広角モジュールは後日発売ということで、レビューできなかった。今回はこの1インチ広角モジュールをお借りすることができたので、早速テストしてみた。
1インチセンサーは高級コンパクトデジカメによく使われるが、アクションカムで1インチセンサーとは、まず聞いたことがないスペックである。当然レンズもそれ相応のものを用意しないと、センサーサイズに見合う画質が出ない。そんなところも含めて、非常に気になる製品である。
アクションカムのボディに1インチセンサーは妥当なのか、早速チェックしてみよう。
このサイズで1インチの衝撃
すでに1インチモジュール以外の部分は1月に詳しくレビューしているので、基本的なところはそちらをお読み頂くとして、1インチセンサーモジュールについて詳しく追っていこう。
まず全体のフォルムだが、レンズが大きいため、レンズ部がボディからはみ出す独特の形状となる。実際のレンズはモジュール内に収まっているのだが、レンズカバー部が大きいわけだ。なお固定のための専用フレームを付けたい場合は、いったんレンズカバーを外してフレームを装着したのち、レンズカバーを付け直す必要がある。
モジュール背面も、4Kモジュールに比べると約5mmほど後ろに出っ張っている。取り回しに不便があるわけではないが、若干“無茶しやがって”感があるフォルムとなる。
注目のレンズはLEICA Super Elmarで、35mm換算で14.4mm/F3.2の単焦点レンズ。単焦点の割にはF3.2は正直ちょっと暗いと思うが、何か事情があるのだろうか。
動画コーデックはH.264とH.265が選択可能で、動画フォーマットとしては独自のinsvという形式になる。専用スマホアプリでカメラから書き出すと、mov形式となる。ビットレートは100Mbpsで、使用可能解像度は以下の通り。
スポーツ用途として4Kで60pまで撮影できる点だけでもポイントが高いが、高解像度モードとして5.3Kモードがあるのもユニークだ。最終コンテンツとしては4Kに縮小するわけだが、その時点で解像度やSN比が上がるので、高画質が期待できる。
連続撮影時間に制限はなく、バッテリー容量としては5.3K/30p撮影でおよそ65分の連続撮影が可能。なお充電時間も65分だ。
静止画解像度は5,312×3,552(3:2)、5,312×2,988(16:9)となる。4Kモジュールでは最大4,000×3,000(4:3)だったので、より高解像度で撮影できる。
まさに「良く撮れる」カメラ
では早速撮影してみよう。本来の機能としてはアクションカメラなのだが、せっかく1インチセンサーが付いているので、5.3Kモードを使って風景を中心としたスナップ撮影を行なってみた。
レンズは14.4mmとかなり広角で、接近しても全体が入る。ただし周辺の湾曲は起こる。レンズ画角としては、超広角、広角、リニア、望遠の4タイプから選択できる。
【静止画】
【動画】
リニアは湾曲補正されているので使いやすいが、やはりレンズの性能をフルで楽しめるのは超広角だろう。今回のサンプルは超広角で撮影している。
発色は、スマホアプリに転送した際に「色彩鮮やか」のチェックを入れると、かなり強めに補正される。HDRでなくとも十分な色味ではあるが、発色の強い被写体では立体感がなくなる傾向がある。
アプリ補正の成果がわかりやすいのは静止画の方だろう。補正前の方がナチュラルで発色も悪くない。補正すると暗部のディテールははっきり出てくるが、色味がのっぺりした感じになる。
一方で、逆光でもまったく問題なく撮影できる強みはある。太陽が画角に入りやすい広角レンズでは、こうした補正機能に助けられるケースは多いだろう。
注意点としては、広角の割にはあまりレンズ前の被写体にはフォーカスが合わない事だろう。アップを撮ろうとしても、あまりうまくいかない。基本的にはスポーツカメラなので、接写することは想定されていないのだろうが、せっかくのライカレンズだし、クローズアップも撮影したいところである。
手ブレ補正は、元々強い方だが、アプリでの編集時にもう一段補正を加えることもできる。手持ちでの歩き撮影は、歩行感は若干残るが、かなり滑らかな移動ショットも撮影できる。
しかしながら、こんなに小さいカメラなのにディテールといい画質といい、ミラーレスに匹敵する画質を叩き出すのは正直驚いた。1インチモジュールはスポーツカメラというよりも、“ポケットに入る街撮りカメラ”としても十分使えるのではないだろうか。
アプリを経由して動画を書き出すと、デフォルトでは右下にウォーターマークが焼き込まれる。アプリの設定画面で「Insta360ロゴ」をOFFにするとウォーターマークが入らなくなるので、このカメラで作品を作りたいという場合は、設定をOFFにするといいだろう。
総論
アクションカメラに1インチセンサーは本格的すぎないかと思ったのだが、実際に撮影してみると相当いい絵を叩き出してくるカメラだ。しかもポケットに楽々入る程度のコンパクトカメラで、この画質である。これはアクションカメラに興味がない人でも、気になるところだろう。
実際の撮影では、ファインダーが小さいので細かいディテールまでは確認できないが、スマホのライブビューと組み合わせるとフレーミングしやすいだろう。ただし両手が塞がるので、機動性には欠けるのが残念だ。
もちろん、この1インチモジュールでスポーツシーンを撮れば高画質で撮影できることになるのだが、レンズカバー部が出っ張っていることから、この部分がひっかかりやすくなる。激しいアクションではレンズカバーがもげたり、カメラが吹っ飛んだりというアクシデントの元になるようにも思える。やはりこのモジュールは、じっくり腰を据えての、比較的大人しめの撮影で使いたいところである。
本機はサイズ感や形からアクションカムとして見られがちではあるが、1インチモジュールに関してはアクションカメラ文脈で語るにはもったいない。外部マイクアダプタ等も併用しつつ、普通のカメラとして使ったり、モジュールを反転させて自撮りしたりと、色々使えるカメラだ。
なお1インチモジュール単体は、39,600円で購入できる。すでに4K版やツイン版を購入した人でも、この画質は気になるところだろう。このシステムがどこまで成長するのか、楽しみの多いカメラだ。