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ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

ホームドラマか少女漫画だと思わなければさすがに納得いかん……脚本編

しつこくスミマセン、篤姫の話はこれで最終回です。

たぶん、ドラマを見ていたほとんどの人は、天璋院という存在そのものを知らなかったと思うんですよね。おそらく小松帯刀のことはもっと知らないでしょう(こちらは私も長年名前しか知らず、今年になってようやく何をした人か知りました)。ドラマでは篤姫をずっと想い続ける人物として描かれる薩摩藩の若き家老・小松帯刀ですが、宮尾登美子の原作『天璋院篤姫』にはいっさい出てきません。作者のある意図のもと、ほぼ創作されたキャラクターだと考えていいと思います(お守りのエピソードなんかもちろんどこにも出てきません)。

で、もう一人、原作と全然違う描き方をされているのが将軍・徳川家定。ドラマではうつけ者のふりをしているだけで実は聡明な人物であり、篤姫のことを深く愛し徳川家の行く末を真剣に思っていた……という設定でしたが、家定については、非常に内気、人前に出るのを嫌がる性格で、身体が弱く、身体障害があっただろうというのが定説になっています。暗愚、まともな判断能力がなかったという意見も根強い人です。極めて聡明な篤姫と相思相愛の仲になったとは考えにくく、原作でも、夫婦とはとても呼べない間柄だったが(天璋院は生涯処女だったとも言われている)、家定は家定なりに篤姫を頼りにしていたようだ、という書き方をしています。

最初のうちは、あまりに原作と違いすぎるので、毎回「???」と思いながら観ていたのですが、あることに気が付いたらすっきりしました。主人公の女の子が二人の男性に愛される、しかも一人は片思いのまま想い続ける……これはもう、少女漫画/恋愛小説の王道じゃないか!と気付いたんですね。今回の脚本家は女性だし、「主人公が天璋院」という設定だけ使って、恋愛ドラマを描きたかったのだろう、と理解したわけです。これまで大河ドラマなど観なかった女性視聴者に支持されるというのも納得です。

原作を読んでいると篤姫がなにしろ気の毒で……。だって、島津本家の養女に望まれてからというもの教育係(強烈なオバアサンばっかり)にビシバシしごかれ、信頼する養父・島津斉彬に、家定がそういう人だと知らされずに輿入れし、2年かそこらであっさり夫に先立たれ、父が将軍に推せという一橋卿(後の徳川慶喜)のことを自分はどうしても好きになれず、やってきた嫁(和宮)は徳川の人間になる覚悟がない上に母親までつれて大奥に入ってくるような甘ちゃんで、しかも自分が非常に嫌っていた慶喜のせいで大奥を追い出され、姑(本寿院)を連れて余生を送ったわけですからね。

ドラマ化にあたって、脚本家が原作からある程度離れることはアリだと思うのです。だって上に書いたとおり原作では天璋院はあまりに気の毒な運命の人なので、視聴者もストーリーに入り込めないでしょう。堺雅人の演じる素敵な家定に、先立たれたとはいえ愛される、というストーリーのほうがよほど救いがあります。原作とは違うけれど、これはこれでまあアリだと思う。

でも、でもね……そう分かっていても「これはまずいだろう?」という箇所が、このドラマには多々ありました。何が悪いって? 大奥の中の話は描いていたけど、その外の歴史(いわば男の歴史)をまるで描いていなかったこと。さらにいうなら、その歴史を捏造しちゃまずいだろう?ということなのです。以下、ちょっと長いです。

このドラマを観て、どうして薩摩と長州の若い武士が中心となって倒幕運動がおこったのか、なぜ寺田屋事件で薩摩人同士が殺し合わなくてはならなかったのか、なぜ西郷は島流しにされたのか、なぜ慶喜は大政奉還をしたのに、その後王政復古の大号令ということになるのか、なぜ鳥羽伏見の戦いで慶喜は江戸に逃げ帰ってきたのか分かる人はまずいないと思います。とはいえ、このへんはまだ一応説明があったことはあったからマシかもしれない。そのあと、西郷と大久保がどう仲違いして西南戦争に突入したのかはいっさい描かれてないですもんね。これはヒドイ。江藤新平なんて名前も出てこなかったし。

さらにヒドイのは、歴史を捏造しちゃってること。このドラマ、なにしろ天璋院が大活躍なわけです。幕末の歴史のすべてに彼女が関わっているかのような描きぶり。井伊直弼天璋院が理解し合えてしまうのも驚きだったけど、江戸城無血開城の立役者が天璋院ということになっていたのにはさすがに唖然としました。だーめーだーよー、そんなことしたら、それが史実だと信じてしまう人が続出するじゃないか……(号泣)。


江戸城攻撃の総大将である西郷隆盛のところに幾島が説得しにいったものの、涙を流してそれでも江戸城を攻めなくてはいけないんだと西郷が答えた回までは良かったんですけどね。翌週、天璋院の機転で江戸城無血開城が決まったという展開には開いた口がふさがらなかったですよ……。

他にも「捏造じゃね?」としか言いようのないシーンはいろいろあります。鳥羽伏見の戦いから江戸に戻ってきた徳川慶喜天璋院が抱き寄せ「徳川の家を守るために、私があなたを守ります」みたいなことを言ってたシーンがあったと記憶していますが、いくらなんでもこれはひどい。あり得ない。

上にも書いたとおり、天璋院にとって慶喜は最初から最後まで非常に嫌な存在だったのです(そのため、原作の「天璋院篤姫」では徹底的に慶喜は悪役として描かれます)。彼女が徳川家に嫁いだのはそもそも養父斉彬が望む「慶喜を将軍にする」作戦を大奥の中から支援するためだったのに、会う人によって立場を変え(女の篤姫に対してはまともな受け答えもしなかった)、天下を背負って立つ覚悟が見えない慶喜のことを篤姫はどうしても好きになれず、父に逆らって慶喜ではなく慶福(後の徳川家茂)を推す覚悟を決めるわけです。しかも慶喜は大政奉還し、鳥羽伏見の戦いに敗れるとあっさりと家臣達を見捨てて江戸に逃げ帰り、勝手に寛永寺に謹慎すると後の処理をすべて勝海舟に任せます。その結果江戸城を明け渡すことが決まり、天璋院は大奥を出ることになるわけですが、彼女は生涯慶喜を許さず、自分の子孫にも「慶喜の子孫と交際しないように」と厳命していたほどです(たしかこの話は原作にも出てきた)。その大嫌いな慶喜に対して「私があなたを守ります」はいくらなんでもないだろう……(苦笑)。

江戸城開城後にまだ2話あったのに、西南戦争の説明がほとんどなかったのにも驚きましたが、新政府樹立後に対立する西郷と大久保を天璋院の機転で仲直りさせたことになってたのもビックリしましたね。それはないだろう……。しかも最終的になぜ西郷は鹿児島で自決し、大久保は紀尾井坂で襲われたのかもまったく描かれておらず、「えーーー!」と思ってる間に終わってしまいました。なんだかなあ……。“男の歴史”を書かないなら書かないで、天璋院が大奥を出たあとのエピソード(東京の町を散歩することもあったとか、ミシンを最初に使った日本女性だったとか、写真を撮るのが好きだったとか)を描けばいいのにね、なんて思いながら観てました。

まあ、脚本家の人が描きたかったのは幕末の歴史じゃないってことなんだろうなあ。天璋院という才気あふれる女性がこのころの日本にいたということを描きたくて、しかもどうせなら少女漫画としてのハッピーエンド(二人の男性に想われ、女性ながら政治にガンガン介入して激動の時代を生きる)なドラマにしたかったんだろうなあ、と、腹が立つたびに自分に言い聞かせて観ていました。

ドラマ「篤姫」が面白かった人は、ぜひ宮尾登美子の原作『天璋院篤姫』を読んでみて……と書きたいところだけど微妙だなあ……。あまりに違う話だし、天璋院のつらい人生は結構追っているだけでも疲れるし(これだけ賢い姫なのに、女だからというだけでまったく政治に関われないというストレスがビンビン伝わってくるのです)。原作は「歴史ロマン」と呼ぶにはあまりに律儀に(大奥から見た)幕末の歴史を追っているので、歴史モノを読み慣れていない人にはキツイかもしれないし。原作よりもむしろ、「篤姫」が面白かった人はぜひ、NHK大河ドラマ総集編 翔ぶが如く [DVD]を観てみてください、としておきます。じっくり見るなら完全版DVD BOXをオススメ♪