地球外少年少女 漫画/谷垣岳 原作/磯光雄 舞台は、インターネットも、コンビニもある「2045年の宇宙」。日本の商業ステーション「あんしん」で少年少女たちは大きな災害に見舞われる。 大人とはぐれ、ネットや酸素供給が途絶した「あんしん」から、自力で脱出を目指す子供たち。ときに仲間の、ときにAIの力を借り、生きるための行動を採る彼らは、史上最高知能AIが語った恐るべき予言の「真意」にたどり着く。絶対絶命の状況下で、子どもたちは何に触れ、何に悩み、何を選択するのか--。
この文についてこの文は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の誤訳についてのものだ。 だから、未読の人はまずは本書を読んでみてほしい。 できれば原書を、それが難しいなら翻訳を。 「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は素晴らしい本だ。 原文はもちろん、そして訳文もある程度は。 翻訳がひどいとは言わない。 この本のAmazonのレビューは4.7だ。 ひどい翻訳なら決してこうはならない。 しかし、誤訳は誤訳であり、この翻訳はそれによってある程度損なわれている。 誤訳だらけの素晴らしく読みやすい翻訳と、誤訳のない読みにくい翻訳はどちらがいいか? これはもちろん程度問題なのだが、少なくともこの翻訳については、「誤訳のない読みにくい翻訳よりいい」と言える。 それぐらい読みやすい翻訳だ。 では、なぜぼくは世間にあふれる誤訳のない読みにくい翻訳について書くのではなく、この翻訳——誤訳だらけの素晴らしく読みやすい
少女漫画家・萩尾望都さんの代表作『11人いる!』は、なぜ高く評価されているのか。評論家の長山靖生さんは「舞台は遠未来の宇宙。発表当時は『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』などが流行し、SFがブームになっていたが、発表はそれより早く、時代を先駆けていた。しかも緻密な設定で、SFマニアをうならせるほどだった」という――。 ※本稿は、長山靖生『萩尾望都がいる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。 SFブームに先駆けた『11人いる!』 1970年代は、少女漫画におけるSF躍進期でした。もちろん漫画全体で見れば戦前からSF的な作品はあり、戦後すぐに手塚治虫が描き、石森章太郎、藤子不二雄らもSF物を描いていました。少女漫画誌でも当時の主たる描き手だった男性漫画家が、手塚「ロビンちゃん」(1954)、石森「みどりの目」(1957)などのSF少女漫画も描いています。 1960年代に入ると女性漫画家
ヨーロッパ・イン・オータム (竹書房文庫) 作者:デイヴ・ハッチンソン竹書房Amazonこの『ヨーロッパ・イン・オータム』は本邦初紹介のイギリス作家デイヴ・ハッチンソンによるSFスパイ長篇となる。本作は西安風邪の蔓延によってEUが崩壊し、みながみな好き勝手に小国を設立するようになったカオスなヨーロッパを舞台にしたその先見性のある内容と巧みな筆致も相まって(刊行は2014年)著者の出世作となり、〈分裂ヨーロッパ〉シリーズとしてその後も続篇・スピンオフが続いている作品である。 EUが崩壊し小国が乱立するようになったヨーロッパを舞台にしたスパイ小説、それもジョン・ル・カレ✗クリストファー・プリーストと評される──などと聞けばそれは期待も高まるが、読んでみればたしかにこれはおもしろいしプリースト感もある! 読み始めたばかりの頃は、運が悪く能力も微妙な新米スパイが、それこそル・カレなどを引き合いにだ
三体Ⅱ 黒暗森林(上) 作者:劉 慈欣早川書房Amazon早川書房の1500作品が最大50%割引という大型の電子書籍セールが来たので、僕が読了済みのものからオススメの作品を一部紹介してみよう。早川書房は定期的に電子書籍セールをやるが、前回の大規模なものは確か2020年3月頃の1000点セールだったので、セール対象は増えていることになる。なんと、先日完結したばかりの『三体』も、さすがに完結巻は対象ではないけれども第二部までがセール対象。 amzn.to まずはSFから紹介する。 三体 作者:劉 慈欣早川書房Amazonまずは早川といえばSFということで、SFから紹介してみよう。目を引くのはやっぱり『三体』である。先日三部作全体の紹介を書いたばかりだが、文化大革命からはじまり異種知性とのファースト・コンタクトが描かれる比較的現実路線の一巻。ファースト・コンタクト後、人類最高峰の知性が異種知性に
最終人類 上 (ハヤカワ文庫SF) 作者:ザック ジョーダン発売日: 2021/03/17メディア: Kindle版この『最終人類』は著者ザック・ジョーダンのデビュー作にして、最後の人類となった少女が同胞を求めて多様な種族が存在する宇宙を冒険していくスペース・オペラである。この世界にはネットワークと呼ばれる宇宙に飛び出した種属たちのコミュニティが存在するのだが、旧人類は何かをやらかして滅亡させられてしまったらしい。 理由は不明だが人類最後の生き残りであるサーヤは、ウィドウ類のシェンヤに偶然拾われ、その後養女として育てられることになる。この世界では人類は忌み嫌われていて、生き残りの存在を知られると危険なので、サーヤは別の種を偽装しているのだが、ある日彼女の生まれを知っていると接触してくるものが現れ、彼女は銀河中を巻き込んだ争いに巻き込まれていくことになる──。と、あらすじをまとめるといかにも
楽園とは探偵の不在なり 作者:斜線堂 有紀発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版本書は、メディアワークス文庫から『キネマ探偵カレイドミステリー』でデビューした斜線堂有紀による、二人以上の人間を殺すと天使によって地獄に引き摺りこまれるようになった世界の連続殺人事件を描き出す、特殊設定ミステリの長篇である。 特殊設定ミステリは大好物だが、本作の場合は単なる事件とその解決に関連した特殊設定というだけでなく、導入によって社会構造自体が大きく変わる「世界全体に波及するタイプの特殊設定」で、一番好きな部類だ。なので、そのへんをどう描き出してくれるのか、あるいはあまり描き出さないのかと戦々恐々としながら読み始めたのだけど、いやーこれが期待通りの逸品! きちんとこの事象が発生することによって社会がどのように変化したのかを描き出し、なおかつそうした社会構造の変容それ自体が、事件やテーマ部分
はじめに ヒューゴー賞についての基本 2013年――始まり 2014年――サッド・パピーズ2 2014年――ゲーマーゲートと「SJW」 2014年――「悪の同盟」とジョン・C・ライト 2015年――サッド・パピーズ3とラビッド・パピーズの登場 ヴォックス・デイについて 2013年――SFWA性差別論争とデイの除名 2015年――ヒューゴー賞最終候補への影響 2015年――「該当作なし」が続出した授賞式 2015年――アルフィー賞、木星賞、不時着賞 あるパピーの視点から 事件に対する評など その後のヒューゴー賞 ドラゴン賞 コミックスゲートとデイ キャンベル新人賞の改名 おわりに――SFF読者と作家の男女比など 謝辞 追記1 追記2 追記3 注釈に載せた以外の参照先 はじめに ケン・バーンサイド(Ken Burnside)によるエッセイ The Hot Equations: Thermody
たまたま、はてブに上がっていた記事 100lightyear.hatenadiary.jp たとえば日本で、普通に朝日・読売新聞やNHKニュースなどに出るような話ではないが、政治思想(ポリコレとかリバタリアニズムとか?)に絡んでサブカル方面で深刻な論争や対立を生んだ、そんなことがあったらしいと。実は自分は「ゲーマーズゲート」という言葉を…今書きながら、どういう事件だったか記憶にないんだけど(笑)そんな言葉をうろ覚えしていたので、その話かな?と思って読んだら、ちょと別のジャンルだった。 何しろ固有名詞や背景が分からないので、面白い雰囲気はあったが、全貌はよく分からない、ととりあえず言っておきたい。 だが、それとは別に…。新しい言葉を知りました。 過去15年間で、ファンダムは常にリベラルで変わっていないが、賞や候補に上がる作品は「文学的」SFに偏ってきていると書いている。同時に、それを揶揄する
SFグラフィックノベルの傑作。ドローン大戦争の後の人類を支配するセンター社が、集合意識から生みだされた新生命体を密かに絶滅させようと狙う、表に出ない闘いを、主人公の19才の少女ミシェルと、それを密かに追う謎の男が交互に語りながら展開するスケールが大きく緊迫感のある逃走・追跡の物語。しかし日本版は訳者が謎の男の語り部分を強引に少女の言葉として翻訳してしまったために、無駄に難解で、大事な部分が失われた本になってしまった。本来ならリコールものの欠陥だが、それでもまだ面白いところが、画力と言うかこの本の底力。 【ネタバレ+α】 本文中で、黒地に白抜き文字で文章が書かれているページの語り手は、主人公の少女ミシェルではなく、最後まで正体の明かされない謎の男だ。原作はそれを示すため、そのページの絵には常に語り手の男の乗っている赤い車や、男の姿をはっきり描いている(さらに英文版ではこの部分はイタリック体で
Executive Summary ウィリアム・ギブスンの1990年代三部作と、2000年代三部作は、いずれの小説としての体をなしていない。ストーリーはどれもほぼ同じで、まったく必然性のない探索を、まったく必然性のないアート系女子が、大金持ちに依頼され、必然性のないところをうろうろして、最後に目的のものが見つかっても何も起きない。途中の必然性のない場所や出会う人々のスタイル、ファッションといった意匠をやたらに並べ立てるだけのファッションショーでしかない。1980年代の大傑作のおかげで万人の期待が大きく、駄作でも深読みしてもらえていたが、かつては鋭敏だったファッションアイテムへのセンスや社会観もすでに停滞し、作家としての価値はすでにないも同然ではないか。 はじめに:ギブスンの意義 ウィリアム・ギブスンはそれなりに特別な作家だし、ある時点では文化的にとても重要な役割を持っていた。ぼく個人にとっ
『愛国戦隊大日本』はDAICON FILMが自主制作した映像作品で、1982年8月に開催された「日本SF大会」(通称「TOKON8」)で上映されたものである。いわゆる「戦隊もの」のパロディではあるが、アマチュアの作品としてはクオリティはかなり高く、参加したスタッフの中に後にプロとして大成した人も何人かいたこともあり(赤井孝美、庵野秀明、岡田斗司夫といった面々)、今でも伝説的な作品として評価されているようだ。上映時には会場の観客から好評を博したようなのだが、その内容を問題視する向きもあり、また批判に対して制作者も反論したため、その一連の経緯は「『愛国戦隊大日本』論争」として記録ないし記憶されている、ということになっている(たとえば巽孝之『日本SF論争史』など)。 今回はその「『愛国戦隊大日本』論争」について考えてみよう、というわけなのだが、この論争については既に長山靖生氏が『戦後SF事件史』
三体 (ハヤカワ文庫SF) 作者:劉 慈欣早川書房Amazon『三体』とは! 中国の作家劉慈欣によって書かれたSF三部作の第一部目にして、中国国内だけで三部作累計2100万部を刊行し、さらに日本でも人気のケン・リュウによる翻訳によってアメリカの歴史あるヒューゴー賞を受賞した傑作である。ヒューゴー賞受賞の何が凄いかと言うと、翻訳書としてははじめてのの受賞になるのだ。 それぐらい作品の内容が圧倒していたともいえる。で、あまりSFとは縁のなさそうなオバマやザッカーバーグも絶賛していたりとか、アニメ化が決定したりとか話題は尽きないんだけれども、とにもかくにもこれだけは覚えて帰ってもらいたいのは、この『三体』は、話題先行の内容はまあおもしろいね、いうほどじゃないけど的な軟弱な態度で読み終わる作品ではなく、その肥大化しきっているともいえる話題性に劣らない、圧倒的なおもしろさのある、純粋におもしろいSF
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey 資料仕事のために、倉庫よりサンリオSF文庫を引っぱりだしてきた。ミカン箱で4つ弱なので、それほどの嵩じゃない。 牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey 数年前につくったサンリオSF文庫の私的ベスト 1.『悪魔は死んだ』R・A・ラファティ 2.『天の声』スタニスワフ・レム 3.『バケツ一杯の空気』フリッツ・ライバー 4.『ラーオ博士のサーカス』チャールズ・G・フィニー 5.『マラキア・タペストリ』ブライアン・W・オールディス 牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey サンリオSF文庫トリヴィア。『ノヴァ急報』の作者名、表紙と背表紙では「ウィリアム・
※後部に追記あり 1970年代に、アニメーターとして『宇宙戦艦ヤマト』『勇者ライディーン』などに携わり、『機動戦士ガンダム』ではアニメーションディレクターとキャラクターデザインに携わった安彦良和は、1989年から専業漫画家へと転身した。 80年代中期の『巨神ゴーグ』『アリオン』を経て、アニメ業界から身を引くタイミングを窺っていたという安彦だったが、結果的にアニメ監督の引退作となった『ヴイナス戦記』は、なぜ彼の中で封印作品になったのか? 2018年11月20日発売の『CONTINUE Vol.56』で、安彦は当時の状況についてこう振り返っている。 「当時、相手にしてくれるメディアが学研しかなかったから。徳間書店の『アニメージュ』からはそっぽを向かれ、角川書店の『ニュータイプ』は永野護あたりを盛り立てて自社ブランド志向を打ち出してた。アニメ誌を出している出版社を何とか頼りにしようと思ったら、あ
新作『そいねドリーマー』の発売を記念して、2018年5月のSFセミナーにて行われた伝説のインタビュー「百合との遭遇2018」採録を公開いたします。 (9/13追記:続篇を公開しました) 宮澤伊織『そいねドリーマー』 (2021年追記:現在は文庫版が刊行されています) ■覚悟宮澤 こんにちは、宮澤伊織と申します。昨年にハヤカワ文庫から『裏世界ピクニック』を出したことで、本日ここに呼んでいただきました。 ——『裏世界ピクニック』は、この世界の〈裏側〉に謎だらけの異世界が広がっていて、そこを女子ふたりが探検していくというSFサバイバルホラー小説です。SFやホラー要素はもちろん、この「女子ふたり」という部分も大変な好評をいただけて、シリーズ化して現在2巻まで刊行されています。 宮澤 百合好きの方々にも喜んでいただけて嬉しく思っています。 ——はい。ということで今回の「百合との遭遇」は、宮澤さんが小
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036) 作者: 郝景芳,ケンリュウ,牧野千穂,中原尚哉,大谷真弓,鳴庭真人,古沢嘉通 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/02/20 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を見る 『紙の動物園』『母の記憶に』の両方がとんでもなく面白かったケン・リュウが選出したSF短編集。で、これもまた全作品ハズレなしの最高の短編集だった。 そもそも中国SFとはなんぞやと。SFの世界に中国風のドラゴンや拳法とかが出てくんのかななんて安易な発想してたんだが、こんな想像に対して本書冒頭においてケン・リュウ自身が「序文」として、 “100人のさまざまなアメリカ人作家や批評家に、"アメリカSF"の特徴を挙げるよう頼むところを想像してみてください──100の異なる回答を耳にするでしょう。おなじこと
接触 (角川文庫) 作者: クレア・ノース,雨海弘美出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2018/05/25メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る『ハリー・オーガスト、15回目の人生』で”ループ物”の新境地を切り開いてみせたクレア・ノースによる第二作目のSFサスペンスである。今回もまたよくあるアイディアを抜群にうまく新しい形で調理している。本作の場合でいえば、よくあるアイディアにあたるのは「触れることで他者の意識を乗っ取る」ゴーストの存在である。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp 「よくあるアイディア」ってたとえばどんな作品で使われているのかといえば、鏡明さんによる解説でも触れられているが(しかし一作目のハリー・オーガストの解説が大森望で、二作目が鏡明って凄い布陣だよね)グレッグ・イーガンの『貸金庫』は毎日目が覚めると違う男性になっている状
(2018/4/10 記事の最後に補足の説明を追記しました。) 先日、非常に面白い記事を読みましたので簡単にご紹介します。 www.washingtonpost.com この記事によると、これまでは「人は身の危険を感じると政治的に保守になる」ということが分かっていたそうなんですが*1、今回は逆に「人は安全だと感じると政治的にリベラルになる」ということが実験で再現できたそうです。 さっそく本題に入りましょう。 「人は安全だと感じると政治的にリベラルになる」という結果を示す研究事例は3つ。 研究事例1 研究事例2 研究事例3 研究事例1 まずは最新の研究から。この研究は「妖精のイメージ」を用いたもの。調査はオンラインで行われ、対象は300人のアメリカ国民。調査では政治的な問題・社会変化についての意見を聞く。ここではあらかじめ被験者が民主党・共和党支持者かを把握してある。要は誰がどのように答える
スターシップ・イレヴン〈上〉 (創元SF文庫) 作者: S・K・ダンストール,Kanehira K,三角和代出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/02/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見るスターシップ・イレヴン〈下〉 (創元SF文庫) 作者: S・K・ダンストール,Kanehira K,三角和代出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2018/02/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る何者かによりもたらされた謎のエネルギィ源である”ライン”。人類はそれが何なのかといったことを理解はせずとも宇宙船の動力源とすることに成功し、”ライン”のお世話をすることのできる特殊な才能を持った一部の人々を”ラインズマン”と呼びあらわし、銀河系全域へと広がっていった。そんな世界を舞台とした本作は、ラインに対し歌で語りかけ、それを生き物のように捉えてコミュ
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