時事小説のコーナーです。時事問題に関連して妄想を綴るのって、わりと小説の王道だよなーと思ったので時々書きます。 - 二代前の店長が極度の恥ずかしがり屋で、歴史を示す資料のほとんどが焼却されたせいで、料亭「兆兆」の正確な起源は明らかではないのだが、少なくとも、渓斎英泉の風景画に登場していることから、それなりの老舗であると見なされていた。 もちろん、歴史を支えるにふさわしい味を備えてもいた。たとえば、数の子一本にしても、通常の料亭ならば、腹から取り出したものをそのまま塩水に漬けるだけだが、兆兆では、卵をひとつひとつ丁寧に剥がして、色や弾力を確認し、基準を満たす卵のみを選びだして、人魚型の、一口サイズの数の子へと仕立て上げた。 しかし、丹念に作られた数の子も、客の口に入る確率はわずか三割程度にすぎない。ほとんどの料理は手つかずのまま残される。なぜなら、接待で、すべてを食べきれる量しか提供しないの