序 現在、西洋美術史を必要としているのは誰か。日本では洋楽離れや洋画離れが指摘されて久しいが、美術も同様の状況にあるように思われる。かつて社会現象を巻き起こすほどの影響力を持つロックバンドが姿を消したように、多くの美大生たちに強い影響を与えるような世界的なアーティストはもうない。映画や音楽などの文化・芸術の産業や市場でグローバリズムが進行している状況と解釈できる。 グローバリズムの浸透に伴い、西洋中心主義や植民地主義が強く批判されるなかで、文化多元主義や脱植民地主義の思想や運動が強まり、これまで学んできた西洋美術史がその前提から批判され、美術史の相対化が進行し、歴史を単線的な物語として語ることは難しくなってきている。しかし、西洋美術史を解体することで負の側面が解消され、問題は本当に解決するのだろうか。また、これまでの美術史が持っていた社会的意義を考えれば、単純な解体や忘却はむしろ悪影響をも
映画『ダーティハリー』(71年)は面白い映画なのかどうか。クリント・イーストウッドは魅力的な存在なのか。 それらは個々人の主観だろうが、この映画全篇にはさまざまな仕掛けや観る甲斐のあるものが配され、あるいは自然と発生し、映画の歴史において興味深いポイントにある作品でもあり、イーストウッドも個性的な俳優であると思われる。盲目的な崇拝ではなく、それらの事柄について記し、考えてみたい。 『ダーティハリー』の監督はドン・シーゲル。主演はクリント・イーストウッド。脚本ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク、ディーン・リーズナー、ジョン・ミリアス。 本来はジョン・ウェインの主演作として企画されていたそうで、それはこの同年と2年後のジョン・ウェイン西部劇『100万ドルの血斗』(71年)、『ビッグケーヒル』(73年)の脚本家であるハリーとリタのフィンク夫妻が本作のシナリオを書いているところにも表
現代日本を知るための映画や文学を特集した記事をスペイン紙「エル・パイス」が掲載した。記事によると、かつては遠い国と思われてきた日本だが、今日(こんにち)では文化的に近しく感じられるようになり、日本の作品のなかで扱われるテーマは「現代世界を解釈するために必須」とされるようになっているという。 紹介された作品はすべて英語やスペイン語、フランス語などの外国語に翻訳されたものだ。語学学習にはもちろん、海外の友人に日本に関する本や映画をおすすめする際にも役立つだろう。 かつての遠い国が文化的に近しく 日本はほんの20年前まで対極にある国とされていたが、今日(こんにち)では若者たちの想像力の一部を培いながら、文化的に近しくなった。これは娯楽産業、それも主にアニメのおかげだ。世界中の若者の間では食べ物や音楽、文学や映画といったあらゆる日本文化への興味・関心が高まっている。かつては奇妙なテーマやモチーフと
日本人観光客も多く訪れる米南部フロリダ州の巨大テーマパーク「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」。そのすぐ近くにある実在のモーテルを舞台にした映画「フロリダ・プロジェクト」は、2017年に米国で公開されると、貧困問題の現実を表した作品として批評家から称賛された。全米各地では住居を確保できず、路上生活一歩前の状態に陥った「隠れホームレス」は珍しくない。記者は今年8月、映画のロケ地や国道沿いのモーテルを訪ねると、インフレで苦しむ人たちの生活があった。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) ▽「夢の国」の裏で暮らすシングルマザーと6歳の少女 映画の主役は、夢の国ディズニー・ワールド近くの格安モーテル「マジック・キャッスル」で暮らす6歳の少女ムーニー。失業中のシングルマザーのヘイリーと2人暮らしで、お金に困り、たびたび週払いのモーテルから追い出されそうになる。そんな境遇でも、俳優ブルックリン
バレエライター・森菜穂美 主人公のエリーズ(手前)はコンテンポラリーダンスの魅力に取り付かれていく(c)2022/CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE-STUDIOCANAL-FRANCE 2 CINEMA Photo:EMMANUELLE JACOBSON-ROQUES 世界最高峰のバレエの殿堂、パリ・オペラ座でトップダンサーの地位を勝ち取ったバレリーナ。しかし、舞台上で大けがをしてしまい、キャリアを断たれてしまったと途方に暮れていた矢先、彼女は思いがけない出会いによって新しい扉を開くことに…セドリック・クラピッシュ監督の最新作『ダンサー イン Paris』で女優デビュー・映画初主演にして、セザール賞有望若手女優賞にノミネートされたのが、主人公と同じパリ・オペラ座バレエ団で現役ダンサーとして活躍するマリオン・バルボーさん。最高位エトワールの一つ下の階級で主要な役を踊
映画『#つるばみ色のなぎ子たち 』 パイロット映像初公開! The Mourning Children: Nagiko and the Girls Wearing Tsurubami Black HP:https://tsurubami.contrail.tokyo/ RELEASE DATE: Coming Soon ----------------------------------------------- <イントロダクション> 死んだら人はどこへ行ってしまうのだろうか。消えてしまうのだろうか。 京都で死者数万人、死体は山に置かれ、町の外には野犬が蔓延る一。 ----------------------------------------------- 原作・監督・脚本/DIRECTOR・ORIGINAL SCREENPLAY 片渕 須直/KATABUCHI Sunao 監
ノーベル賞作家の癒えぬ痛みと悲しみ 主人公は大学生のアンヌ。教師を目指し学業に励む(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS-FRANCE 3 CINEMA-WILD BUNCH-SRAB FILM 2022年のノーベル文学賞に選ばれたフランスの作家、アニー・エルノーの自伝的作品「事件」を原作とする映画「あのこと」が、日本で12月2日から劇場公開される。同作は2021年のベネチア国際映画祭で、最高賞の金獅子賞を受賞している。(松原慶・著述業) 塚原久美「日本の中絶」(ちくま新書)【今月の一冊】 「あのこと」とは、闇中絶を指す。人工妊娠中絶が法律で禁止されていた1960年代のフランスが舞台で、中絶という単語は、口に出すのもはばかられるタブーだった。自由を謳歌(おうか)していた大学生のアンヌは、望まぬ妊娠に狼狽(ろうばい)し、教員や作家の夢を諦めないために、何としても中絶しよう
「政治とカネ問題の渦中にある広島にこそ届いてほしい」。地方政治や地域社会、家庭に潜む根強い「ムラ意識」を描いた映画「裸のムラ」の五百旗頭(いおきべ)幸男監督(44)は語る。北陸の保守王国といわれる石川県を舞台に「過剰な忖度(そんたく)の空気」を捉えたドキュメンタリー。横川シネマ(広島市西区)と呉ポポロ(呉市)で上映中だ。 2020年春、石川県庁の玄関から映画は始まる。そこには現職最長となる7期27年目の谷本正憲知事(当時)の姿が。新型コロナウイルス禍で「無症状の人は石川県に来てください」と発言し、少人数での会食を呼びかけながら自身は90人で会食。そんな言動が映し出される。 22年3月の知事選のさなか、五百旗頭監督は地域で暮らすイスラムのムスリム一家と、車中生活を送る「バンライファー」として生きる家族にカメラを向けた。
コラム 2021/6/13 19:00 津波が襲った漁港に「肉子ちゃん」がいた。西加奈子と編集者が紡いだ、あたたかな“偶然”を巡る旅 明石家さんまが西加奈子の小説に惚れ込み、5年もの歳月をかけて企画、プロデュースした劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』が、いよいよ公開中だ。大きな体を揺らしながら、どんなことが起きても笑って受け止める肉子ちゃんが、映画館を訪れた観客を温かく包んでいる。 肉子ちゃんみたいな人がそばにいたら、どんなに楽しいだろう…。そんな思いに駆られる人も多いように感じるが、西は、宮城県女川町の漁港で見かけた1軒の焼肉屋から想像を広げて原作を書いており、肉子ちゃんは特定の人をモデルにしたキャラクターではなかったという。しかしある日、西のもとに「その焼肉屋さんには実際、肉子ちゃんそっくりの女将さんがいた」という読者からの手紙が届いたというのだ。 『漁港の肉子ちゃん』が生まれた場所と
連載開始直後からトレンド入り連発。 大反響を呼んだ衝撃コミック、映画化。 2020年に発表されるや、単行本は即重版、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞をはじめ、各賞を総なめにした傑作漫画「マイ・ブロークン・マリコ」(著:平庫ワカ)。圧倒的な熱量と疾走感、「親友の遺骨と旅に出る」という心に刺さるドラマを備えた話題作が、原作をこよなく愛する最高のスタッフ・キャストで実写映画化。 監督は、人間の芯を鋭くとらえた力作を次々に発表してきたタナダユキ。主人公・シイノ役を務めるのは永野芽郁。天真爛漫なこれまでのイメージを覆す泥臭くも必死な雄姿を、スクリーンに刻み付けている。その親友・マリコ役には、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で永野と共演した奈緒。さらに、『ふがいない僕は空を見た』『ロマンス』に続きタナダ作品出演となる窪田正孝が、キーキャラクターのマキオに扮した。物語の余韻に寄り沿うエン
ヘルプレスな場面が延々とスクリーンに映し出される。 永野芽郁演じるOL・シイノトモヨがこれでもかという日常にもてあそばれ、その日常に埋もれていく。 そんなシイノは当然やさぐれている。 子供の頃から吸っているたばこは本数が増え、酒をあおり、会社のパワハラ上司には無視を決め込む。 そんな日常からの脱出のきっかけが中華料理店でラーメンをすすっているときに見たテレビから流れてきた、親友マリコの自死のニュースだった。 自分の不幸をすべて受け入れ、だんだんと崩れていったマリコ。 そんなマリコの唯一無二の友達シイノは、彼女が虐待にあっていた父の元から遺骨を奪い返す作戦を思いつきで計画する。 そして、無理やり奪取した遺骨と、マリコが行きたがっていたまりがおか岬への旅に出るのだった。 生と死、善と悪、それぞれが放つエネルギーに触れた永野芽郁の汚れっぷりに心がときめいた。 泣くわ、わめくわ、毒づくわ。 こんな
2020年冬。幡ヶ谷のバス停で寝泊まりする、あるひとりのホームレスの女性が、突然襲われてしまう悲劇があった。非正規雇用や 自身の就労年齢により、いつ自分に仕事がなくなるか分からない中、コロナ禍によって更に不安定な就労状況。そして自らが置かれている危機的状況にもかかわらず、人間の「自尊心」がゆえに生じてしまう、助けを求められない人々。本作は、もしかしたら明日、誰しもが置かれるかもしれない「社会的孤立」を描く。『痛くない死に方』の名匠・高橋伴明監督の、「今、これを世の中に発信しなければ」という想いに、日本映画が誇るスタッフとキャストが集結。バス停で寝泊まりするホームレスに転落してしまう主人公・三知子役に『欲望』(2005)以来の映画主演となる板谷由夏、三知子の働く居酒屋の店長に大西礼芳、マネージャーに三浦貴大。石を振り上げる男・工藤武彦役に松浦祐也、居酒屋の同僚役にルビーモレノ、片岡礼子、土居
無名の子役を主役に抜擢した『サバカン SABAKAN』は、「子供が主役」の青春映画だ。 80年代の長崎を舞台に、“イルカを見るため”に冒険にでる二人の少年の《ひと夏》を描く。 演技初挑戦の番家一路(子役)を主演に、原田琥之佑(子役)、尾野真千子、竹原ピストル、貫地谷しほり、岩松了、そして草彅剛が出演する。 第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた『ミッドナイトスワン』に続く新たな愛は、すべての大人たちの魂を揺さぶる「あの頃の僕たちに背中を押される」あたたかな物語となった。 監督は、映画初監督・脚本の金沢知樹(萩森淳と共同脚本)が手掛ける。 TBSドラマ「半沢直樹」(20年)など主にテレビ・舞台の脚本や演出を手掛けてきた俊英だ。 主題歌はORANGE RANGEの「キズナ」をANCHORが編曲、りりあ。が歌唱し、音楽は大島ミチルが手掛ける。空と海に囲まれた長崎の美しいロケーションが、観る
アニエスベーにとって映画は音楽と同様、重要なものです。アニエスベーショップに入ると、1番に目に入ってくるのは映画のポスターです!映画のポスターは初期の頃からアニエスベーショップを飾り、アニエスベーのオリジナルの映画ポスターのコレクションは希少なものです。モノクロフィルムへの愛情、ヌーヴェルバーグの気取りのないエレガンス。アニエスベーがデザインするグラフィカルなラインや自身が監督するコレクションフィルムはアニエスベーの映画に対するオマージュです。映画はアニエスベーにとって直感的なインスピレーションの源なのです。 アニエスベーによる映画衣装 60年代半ば、ウィリアム・クラインはアニエスベーに映画『ポリー・マグー、お前は誰だ?』の衣装デザインを依頼しました。「黒と白のボーダーの好み」が一致していたからです。またあるときアニエスベーは、フランソワ・トリュフォー監督の『日曜日が待ち遠しい!』の中でフ
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